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◆第26章 イスラム教の結婚(2)一夫多妻制◆

みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。前回は、イスラム教につい ての簡単な説明をしました。今回は、イスラム教の一夫多妻制についてお話し ます。

イスラム教は一夫多妻制であるというのは大変有名で、シャリーア(イスラム法)では、1人の男性が4人の妻を持つことができる、とされています。ただし、二号や妾などシャリーアに基づかない婚姻は認められていませんし、不倫などは大変厳しく禁止されていて、それを犯した者には刑罰が課せられます。ちなみに、マホメットは10人以上の妻があり、同時に9人と結婚していたそうですが、これは預言者としての特例だそうです。

イスラムの一夫多妻の制度は、コーランの記述に基づいています。コーラン第四章(婦人章)第3節には、

「あなたがたがもし孤児に対し、公正にしてやれそうにもないならば、あなたがたがよいと思う2人、3人または4人の女を娶れ」

という章句があります。原文の直訳なので意味を取るのは難しいのですが、この章句は4人まで妻を持てる根拠になっています。

しかし、イスラム教徒だからと言って、誰でもが簡単に4人の妻を持てるわけではありません。先の章句には、

「だが公平にしてやれそうにもないならば、只1人だけ(娶るか)、またはあなたがたの右手が所有する者(奴隷の女)で我慢しておきなさい。このことは不公正を避けるため、もっとも公正である」

という続きがあり、2人以上の妻を持った場合には、生活費や小遣い、プレゼントなどは均等に配分しなければならないと決められています。シャリーアでは、妻子を養うことは夫の義務ですが、妻には家庭に対する金銭的・物質的な義務はなく、自分の財産も自由に使えるとされています。このように決められているため、それなりの金持ちでないと、複数の妻を持つことは難しいのです。

公平に扱わなければならないというのは、物質的な事柄だけではなく、それぞれに割く時間も均等に配分しなければならず、愛情の示し方さえもあまり不公平であってはいけないとされています。これはなかなかできるものではありません。1人の奥さんを相手することさえ大変なのに、もし4人もの奥さんに公平に接するとすれば、その大変さは容易に想像がつくでしょう。実際には普通のイスラム教徒は一夫一妻であることが多く、一夫多妻しているのは一部の人々で、王族や大金持ちなどの富裕層が中心であるようです。日本でもかつては一夫一妻制とは決められておらず、側室や妾を持つことができましたが、支配階級には後宮や大奥が存在したものの、当時も庶民の多くは一夫一妻だったのに似ています。

複数(2人〜4人)の妻の間には、序列はありません。たとえばテレビでおなじみのデヴィ夫人はインドネシアの故スカルノ大統領の第三夫人ですが、このように第一夫人・第二夫人・第三夫人・第四夫人とあれば、第一夫人が偉く、順番に下がっていくように捉えられることも多いのですが、便宜的に結婚した順番を表しているだけで、序列はありません。結婚した以上、公平平等に扱わなければならないからです。生まれてくる子供も、第一夫人の子どもだからと言って偉いわけではなく、遺産も平等に分けられます。

ところで、イスラム教は一夫多妻を認めてはいますが、決して推奨しているわけではありません。最初に紹介した章句ができたのは、歴史的事情によるものであるようです。イスラム教が成立した7世紀前半のアラビア半島は騒乱が続いていて、戦死者が多く、その寡婦(未亡人)や孤児(遺児)をどう処遇するかが大きな社会問題となっていたためだと言われています。それだけではなく、それまでは何らの規制なしに一夫多妻が行なわれていたのを、妻にできるのは4人までとし、しかもそれぞれを公平に扱うことという条件をつけて、むしろ一夫多妻を制限したものだと考えられています。

コーランの第四章(婦人章)第129節には、すでに、

「あなたがたは妻たちに対して公平にしようとしても、到底出来ないであろう。あなたがたは(そう)望んでも。偏愛に傾き、妻の一人をあいまいに放って置いてはならない」

とあります。北アフリカのチュニジアはイスラム教の国であるにも関わらず、法律で一夫多妻を禁じていますが、その理由は、コーランは一夫多妻制ではなく一夫一婦制を勧めていると解釈しているからだそうです。

一夫多妻を明確に禁止しているチュニジアのようなイスラム国はユニークですが、イスラム圏全体でも一夫多妻に対しては制限される傾向にあるようです。トルコも民法では一夫多妻を禁止しているそうですし、イランの法律では、2人以上と結婚する場合は最初の奥さんの同意が必要だそうです。法律がなくても、イスラム教徒が結婚する際には、あらかじめアクド・ニカー(婚姻契約)というものを結び(詳しくは、次回のメルマガで取り上げます)、持参金や離婚の際の慰謝料などを取り決めておくのですが、それに「自分の同意なく別の妻を娶らぬこと」という条項を設けておけば同意なしに結婚することはできなくなり、実質的に一夫一婦制の性格が強い制度になっています。

以上に述べたような一夫多妻制のあり方(複数の妻や子供たちを平等に扱うこと)は、あくまで原理であって、現実は必ずしもそうはなっておらず、複数の妻や子供たちの間には不平等があることも少なくないようです。また、イスラム国は世界各国にありますから、それぞれの歴史的背景や事情によっても一夫多妻制の内実に違いがあるようです。

※コーランについては『イスラムのホームページ』というサイトから引用させて貰いました。

平成18(2006)年11月1日

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