国際結婚WEB

日本人の配偶者等・婚姻要件具備証明書・ビザ(査証)・在留資格・在留資格認定証明書・帰化・永住・在留特別許可・国籍・戸籍・外国人登録・渉外戸籍・etc.

これより本文

◆◆◆メールマガジン国際結婚◆◆◆

複雑な法律手続きから、文化摩擦、生活設計、結婚生活の悩みまで、国際結婚に関するあらゆる情報をお届けします。

◆第21章 映画で見るイギリスの移民たち◆

残暑お見舞い申し上げます。行政書士の高坂大樹です。お盆休みはいかがお過ごしでしたでしょうか。今回は夏休み企画として、イギリスの移民を描いた映画をご紹介します。

「映画で見るイギリスの移民たち」というテーマで書こうと思っていた矢先の8月10日、イギリスで大規模テロ未遂事件が摘発されました。アメリカ行きの航空機を爆破しようとする計画で、容疑者はパキスタン系移民たちと報道されています。今回、テロは未然に防がれましたが、昨年7月7日にはロンドンの地下鉄とバスでテロ事件が起こり、こちらは多数の死傷者が出ています。実行犯はこちらもパキスタン系移民二世の3人(1人はジャマイカ出身)でした。

イギリスは、第2次世界大戦後の労働力不足を補うために、旧植民地からの移住を中心に、移民を積極的に受け入れました。現在では人口約6000万人(日本の半分)の1割近くがマイノリティです。マイノリティの中では、パキスタンやインドなどの南アジア出身者が一番多く(半数近い)、200万人以上います。その次がアフリカやカリブ海周辺からの黒人系です。

ご存じのように、現代世界ではキリスト教・イスラム教・ユダヤ教の国々の対立が戦争にまで発展しています。国内にイスラム系コミュニティを抱えるアメリカやイギリスを始めとする欧米社会では、イスラム系移民が問題視されています。文化摩擦だけではなく、イスラム系コミュニティからテロ実行犯が生まれているという現実もあり、ホスト社会とイスラム系移民社会との間の緊張が高まっています。


▼映画で見るイギリスの移民たち

今回はイギリスの移民をテーマにした映画を5本紹介します。これらは、日本の国際結婚、異文化接触、マイノリティ問題を考える際のヒントにもなるでしょう。

★ ★ ★

まずは、移民・難民・不法滞在者の現実や悲惨さを描いた映画を2本。

イン・ディス・ワールド
  • 製作2002年、イギリス
  • 監督マイケル・ウィンターボトム
  • 出演ジャマール・ウディン・トラビ

アフガン難民の孤児がパキスタンからイギリスに密入国する旅の過程を、ドキュメンタリータッチで撮った作品です。2000年にイギリスで起きた中国人密入国者58人がコンテナ内で死亡した事件に監督が触発されて撮った映画です。主演に実際にパキスタンの難民キャンプにいたアフガン難民の少年を起用しているのも、この作品の大きな特徴です。

この映画ではイギリスはほとんど出てこず、戦乱や貧困から脱出し、生き残るために先進国に行こうとする少年がロンドンに辿りつくまでの過程が克明に描かれています。

堕天使のパスポート
  • 製作2002年、イギリス
  • 監督スティーヴン・フリアーズ
  • 出演オドレイ・トトゥ、キウェテル・イジョフォー

ヨーロッパやアフリカ大陸からパスポートを持たずに密入国した不法滞在者や難民がひしめき合うロンドンを舞台に、中東・アフリカ・アジアなどからの移民や不法入国者たちがアンダーグラウンドに生きている絶望的な状況を描いています。移民や不法入国者が関わる臓器売買という暗いテーマを扱ったサスペンスでもあります。

『アメリ』のオドレイ・トトゥがトルコから政治亡命した女性(クルド人?)を演じています。その他、ナイジェリア人不法滞在者、中国難民などが登場します。

世界的に難民の受け入れが厳しくなってきている傾向がありますが、イギリスでも難民申請のハードルが高くなってきているようです。

★ ★ ★

パキスタン系住民との恋愛・結婚を描いた映画を2本。

イギリスではパキスタン系の住民はパキと呼ばれています。このパキという言葉は、インド人も含めて南アジア人一般の蔑称にもなっています。この2本は、そうしたパキの暮らしを描いたもので、作中にもパキという蔑称が使われています。

やさしくキスをして
  • 製作2004年、イギリス・イタリア・ドイツ・スペイン
  • 監督ケン・ローチ
  • 出演エヴァ・バーシッスル、アッタ・ヤクブ、シャバナ・バクーシ、アーマッド・リアス、スンナ・ミルザ

スコットランドのグラスゴーを舞台に、カトリックの高校の女性教師とパキスタン移民二世の青年の恋愛を描いた作品です。カトリック教徒のイギリス人とイスラム教徒のパキスタン移民という民族・宗教・文化の異なる人々の交流、恋愛、文化摩擦をリアルに描いています。

最先端のクラブのDJをしているパキスタン二世の青年は、息子の嫁はイスラム教徒でなければならないとする両親と、西欧流の自由恋愛の狭間で苦悩します。そして、パキスタン社会(世間)の規範と、異国の現実の中でその規範が守り切れず崩壊していくパキスタン家庭の姿が描かれています。

青年の恋愛対象がイギリスの白人の中では少数派のアイルランド系カトリックというのも、この映画に複雑な陰翳を与えています。

大人の恋愛映画としてもおすすめです。

ぼくの国、パパの国
  • 製作1999年、イギリス
  • 監督ダミアン・オドネル
  • 出演オム・プリ、リンダ・バセット、ジョーダン・ルートリッジ

1971年のイギリスの田舎町を舞台に、伝統を頑迷固陋に守ろうとするパキスタン移民一世の頑固オヤジと、イギリス人女性との間に生まれたビートルズ世代のハーフの二世の息子・娘たちとの世代間断絶を描いた作品です。

イギリス社会に定住するパキスタン家庭をユーモアたっぷりに描いています。パキスタン移民一世の男性とイスラム教に改宗したイギリス人妻との微妙な関係。父に従う者、父に反抗する者など、それぞれの生き方をしている7人の子供たち。男女同権のイギリス社会と男権主義のイスラム教を体現した父親という対極的な関係が、自由社会で人格形成をした子供たちとの葛藤の中で徐々に変容していく過程は、ある種の痛ましさすら感じさせます。

★ ★ ★

最後に南アジアでもインド系移民を描いた映画1本。

ベッカムに恋して
  • 製作2002年、イギリス・アメリカ・ドイツ
  • 監督グリンダ・チャーダ
  • 出演パーミンダ・ナーグラ、キーラ・ナイトレイ

インド系移民二世の少女が、保守的なインド人コミュニティの圧力を跳ね返して、サッカーと恋に情熱を燃やす姿を描いた青春映画です。

かつて宗主国であったイギリスの青年との恋愛には民族問題が立ちはだかるのですが、宗主国と植民地の関係であることや、差別が解消しつつあると同時に葛藤も残っている状態が、現在の日本人と在日コリアンの関係にそっくりです。

平成18(2006)年8月15日

← 前のページリストに戻る次のページ →

Copyright(c) H17〜 K-office. All rights reserved.