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みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。前回は国際結婚した場合の名前の扱いについてお話しました。今回は文化の問題を論じることにしましょう。国際結婚では当然のように文化摩擦が生じるものです。国際結婚した場合に生じる文化摩擦の中でも、もっとも身近で基本的なものと言えば食(食習慣)の摩擦でしょう。今回は国際結婚における食の文化摩擦についてお話します。
食の文化摩擦は、何も国際結婚だけに生じるものではありません。日本国内においてもしばしばこのことが問題になることは、私たちが日常経験するところです。代表的なものでは関西圏と関東圏の食文化の違いがあります。たとえば関西人にとってうどんやそばのつゆは透明であることが常識ですから、関東の真っ黒なつゆには心穏やかではいられません。もちろん人間は自分の文化の味が美味しく感じるものなので、そこに優劣をつけることは無意味なのですが、美味しいと感じる感覚を捨て去ることもできません。聞くところによると、カップ麺や菓子、コンビニのおでんなどでも関西圏と関東圏では味付けが変えてあるそうです。
食に限らず出身地による文化摩擦は日本人同士でも夫婦喧嘩や離婚の原因になることもありますが、国際結婚の場合は、食の文化摩擦は嗜好での問題としてだけはなく、妥協することが難しい宗教上の禁忌(タブー、禁止事項)としてあるので、注意が必要になります。宗教上の食の禁忌について、以下に簡単に紹介しましょう。
ハラムとかハラルという言葉をご存じでしょうか。これはイスラム教の用語で、ハラムとは「禁じられた、違法の」という意味、ハラルとは「許された、合法の」という意味です。日本人の国際結婚で、国際結婚の多さから見て食事に関して一番問題になりやすいのは、イスラム圏の人との結婚の場合でしょう。イスラム教には食事に関して多くのタブーがあります。ハラル食品はアッラーにより食べることを許されたもの、ハラム食品はアッラーにより禁じられたものとされていて、ハラム食品を食べることはイスラム教徒には許されていません。イスラム移民の多い国ではハラルに対応しているレストランやハラルフードの小売店がたくさんありますが、日本でもそうした店は徐々に増えてきています。
「ハラールフードストア」イスラミックセンター・ジャパン
ハラム(禁止)食品の代表的なものが豚肉とアルコール類です。牛肉・鶏肉・羊肉などを食べることは許可されていますが、許可された肉であっても正規の方法(イスラム教徒がアッラーの名を唱えて、刃物で頸動脈を切り血液を抜く)で処理した肉(ハラルミート)でないと食べることはできません。それ以外にも、何がハラム食品で何がハラル食品であるかは細かく決められているようです。
イスラム教徒も近代化・国際化するにつれ、豚肉でなければハラルでなくても食べるという方もいるようですが、豚肉に少しでも触れた食器や調理器具を使った料理は食べられないという人もいます。2000年に国民の約9割がイスラム教徒のインドネシアで、味の素に豚が使われているとして大事件になり、逮捕者まで出しています。原料ではなく製造過程で豚から抽出された酵素が使われていたということなのですが(この後、酵素は変更されています)、このようなこともあるので企業としても宗教の禁忌には注意が必要です。
豚肉を食べないというのはユダヤ教も同じです。ユダヤ教は、代表的な宗教の中でもっとも細かく食に関する規定がある宗教です。ユダヤ教の食事規定をカシュルートと言いますが、カシュルートでは、食べられる四足動物はひづめが割れていて反芻するものとされていて、牛や羊、山羊などは大丈夫ですが、ひづめが割れておらず反芻しない豚は禁止されています。食鳥では鶏肉・鴨肉などは食べられますが、ダチョウは禁止です。また屠殺する方法も定められています。魚介類で食べられるのは、ひれと鱗のあるものだけで、エビ・カニ・イカ・タコ・貝類などは禁止されています。
牛肉を食べない宗教でもっとも代表的なものはヒンドゥー教です。イスラム教徒が豚肉を食べないのは穢れた食べ物だという考え方からですが、ヒンドゥー教徒が牛肉を食べないのは逆に牛が聖なる動物とされているからです。ちなみにヒンドゥー教には食材の禁忌だけではなく、カースト制度に基づく禁忌もあります。ヒンドゥー教徒はカーストが異なる階級の人とは一緒に食事をしません。また、食事の内容もカーストによって様々な規制があるようです。
同じくインドの宗教であるシーク教(シク教)も牛肉は食べません。シーク教徒と聞いてもなじみがないと思われるかもしれませんが、私たちがインド人のイメージとして抱いている髭を生やしてターバンを巻いているインド人像がありますが、実はこれはシーク教徒のものです。髭を生やしてターバンを巻いているインド人はシーク教徒と思って間違いありません。シーク教はイスラムの影響を受けていて、イスラム教と同じ方法で屠殺するそうですが、豚肉は食べ、牛肉は禁止されているのはヒンドゥー教と同じです。
仏教は、厳密に言えば肉食全般を禁止しており、僧侶は菜食を守っていますが(日本の坊さんの多くは歴史的経緯から肉食を許容しています)、一般の仏教徒は結構何でも食べます。タイでは観音様を信仰している仏教徒は牛肉を食べてはいけないそうですが、仏教徒でもそれ以外なら大丈夫だそうです。その他、仏教徒でも国や宗派によって色々違うかもしれません。仏教や東洋思想の影響を受けた菜食主義者(ヴェジタリアン)も欧米を中心に増えてきています。
キリスト教は比較的食に関するタブーが少なく、特にカトリックにはほとんどありません。ただし、色々な儀式の時には様々な決まりがあるようです。キリスト教徒の中では、モルモン教徒はアルコールやカフェインを摂らないそうですし、原理主義的なセクトによっては厳格な食事規定を持っているところもあるようです。
ちなみに、宗教による食の文化の違いという点では、断食というものもあります。断食には宗教によって様々な理由ややり方があります。イスラム教のラマダンは有名ですが、仏教やユダヤ教、キリスト教などでも断食は行なわれます。
日本を含む東アジアは比較的食の禁忌が少ない地域で、特に中国人が何でも食べることは有名です。中国ではイスラム教徒ですら豚肉を食べているそうです(ただしその場合は豚肉を羊肉と言い換えて食べるそうです)。
宗教的禁忌とは異なりますが、文化による食の禁忌意識にも触れておきましょう。これは日頃慣れ親しんでいる文化とは別の文化に対する感覚的な違和感によるもので、しばしば摩擦を生みます。たとえば虫食があります。虫食は世界各国のいわゆる原住民や少数民族に見られる食文化ですが、中国や韓国では一般的に食べられています。韓国ではポンテギという蚕のさなぎは日常食で、女子高生などもおやつとして普通に食べています。日本にも虫食はあり、主にイナゴ・蜂の子を食べます(特に信州地方)。犬や猫を食べる文化と食べない文化の摩擦もよく取り上げられます。韓国の犬食は有名ですが、中国では犬も猫も食べます。また、クジラを食べることをめぐって文化摩擦が発生することもあります。
平成18(2006)年7月1日
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