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◆第16章 外国人受け入れの政策転換について◆

みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。前回は在留資格の「日本人の配偶者等」についてお話しました。今回は、直接は国際結婚と関係していませんが、日本で暮らす外国人全般にとって大変重要な、日本国としての今後の外国人受け入れの在り方という政策的問題についてお話します。

法務省は、今後の外国人受け入れの在り方について、昨年12月にプロジェクトチームを発足させて検討してきましたが、5月30日に記者会見を行ない、今後の方針案を公表しました。東京新聞のサイト等によると、法務省が発表した外国人受け入れの方針は次のようなものです。

  • 1 今後、中長期的な外国人(特別永住者を除く)受け入れの上限を総人口の3パーセントと設定する。
  • 2 日系人に、無条件に「定住者」の在留資格を与えていた優遇制度を見直す。
  • 3 実質的に単純労働者の受け皿となっている現行の研修・技能実習制度を廃止する。
  • 4 在留期間を更新する際に、日本語能力や技能が向上しているか、定職についているかどうかを要件とする。

法務省では、関係省庁と調整し、経済界などの意見も聞いた上で法整備を進めていくとのことです。

今回の法務省の方針は、少子高齢化社会が進み、労働構造の転換を迫られている日本の将来における労働者不足に対応するための外国人の受け入れの在り方を決定するとともに、今後も単純労働者は受け容れないことを確認し、受け入れの上限を示すことで単純労働者の流入に対する一定の歯止めを示すものとなっています。

外国人(特別永住者を除く)受け入れの上限の3パーセントという数字をどう考えればいいでしょうか。3パーセントを現在の人口で換算すれば360万人です。5月26日に発表された入国管理局の統計では、平成17年末現在の外国人登録者数は201万1555人で、初めて200万人を突破しています。総人口に占める割合は1.57パーセントで、3パーセントの360万人まではまだかなりの余裕があります。現在の外国人登録者の内訳は、国籍別では韓国・朝鮮が一番多く、次いで中国、ブラジルとなっており、この3ヶ国で7割を占めています。特別永住者を除く、いわゆるニューカマーだけ見れば1.2パーセントだそうですから、特別永住者を除く外国人数を3パーセントに換算すれば、現在の約2.5倍の外国人を見込んでいることとなります。3パーセント枠は決して現時点での外国人の締め出しを図ろうとするものでないことがわかります。

今回見直しが図られている定住者の在留資格とは、(一部難民なども含んでいますが)基本的には日系人のための在留資格です。日本は方針として外国人単純労働者を受け入れていませんが、定住者の在留資格は、バブル期の労働力不足を解消するため日系人に限り単純労働も可能な在留資格として90年に導入されたもので、これにより日系ブラジル人や日系ペルー人が急速に増えました。群馬県の大泉町は日系ブラジル人の町として有名ですが、大泉町ほどではありませんが、他にも日系ブラジル人や日系ペルー人の集住地区がいくつかあります。現在、定住者の資格で外国人登録しているのは約26万5000人です。

定住者の在留資格に関しては、昨年11月の広島女児殺人事件で日系ペルー人が逮捕されたことを受けて、3月29日に「出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の規定に基づき同法別表第二の定住者の項の下欄に掲げる地位を定める件」(定住者告示)が一部改正され、日系人およびその家族が定住者の在留資格を取得する要件として「素行が善良であること」が追加され、4月29日から施行されています。日系ブラジル人や日系ペルー人の犯罪率が高いと言えるかどうかはわかりませんが、日系人だからとして受け入れた外国人単純労働者の増加が、未就学児童の問題など、日本社会のメンバーとしての共生という点から見て社会問題を生んでいる側面があることは否めません。

今回の方針は、3月の改正に止まらず抜本的に見直しを図ったもので、日系人という理由だけで新たな受け入れはせず、また国内で生活する日系人についても日本語能力などを欠く場合は在留資格を更新しないという内容で、プロジェクトチームの座長である河野太郎法務副大臣は、日系人を優遇した定住者の在留資格について、「受け入れ準備をしないまま、血のつながりのみで受け入れたのは失敗だった。日本社会として、彼らを受け入れる態勢も意思も欠け、労働力としてしか見ていなかった。社会への統合が進まないと、犯罪が生まれることにもなりかねない。失敗を素直に認め、やり直す必要がある」と述べています。

不法残留者に対する取り締まりも厳しくなっていくことが予想されます。ちなみに平成18年1月1日現在の不法残留者数は19万3745人で、平成5年以来減少しているとされています。また平成17年中に入管法違反により退去強制となった外国人は5万7172人で、平成16年より1821人増で、そのうち中国(台湾、香港等を除く)が1万7252人だそうです。

単純労働者に関しては厳しく対応する一方、5月15日のasahi.comによると、これまで外国料理のコック、語学教師など外国人特有の技能を持つものにだけ認められていた「技能」の在留資格を、一般製造業などに拡大する「高度技能者」という在留資格を導入する方向で検討を始めていると報道されています。日本で職業を(言い換えれば安定した生活を)確保できる外国人については在留資格の要件を緩和するという方針に転換するようです。

5月24日にはテロ防止を目的として入管法が改正され、特別永住者を除いて、日本に滞在する外国人は入国する際に個人識別情報(指紋等)を提供することが定められています。この改正の施行は1年半以内となっています。日本人と外国人との法律関係を定める法例も改正される運びですし、国際化の進展と日本社会の将来像を見据え、入管行政がほぼ20年ぶりの転換点にさしかかっているようです。入管業務に携る行政書士として、今後の経過を注目していきたいと思います。

平成18(2006)年6月1日

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