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◆第5章 フィリピン人との国際結婚(1)◆

みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。前回は婚姻要件具備証明書についてお話しました。今回からは具体的な外国の人との国際結婚の手続きについて解説して行きます。まずはフィリピン人との国際結婚から始めましょう。

フィリピン(フィリピン共和国)は、大小7000以上の島々からなる国で、日本からは飛行機で約4時間、北は台湾、西はベトナム、南はマレーシアとインドネシアという位置にあります。首都はマニラ。人口は約8600万人(2004年)で、これは世界12位の人口です(ちなみに日本は10位)。16世紀半ばから三百年以上にわたってスペインの植民地でした。この植民地時代にキリスト教が普及し、キリスト教国(特にカトリック)となっています(イスラム教徒や非キリスト教の少数民族もいます)。その後、アメリカの植民地になり、現在にいたるまでアメリカの強い影響下にあり、タガログ語(フィリピノ語)の他に英語が公用語になっています。

日本との関係を見てみましょう。日本とは古くから交流があり、フィリピンがルソンと言われてスペインに統治されるようになった戦国時代〜近世初頭には日本との間で盛んに貿易が行なわれていました。ルソン貿易では堺の豪商呂宋助左衛門が有名です。江戸時代は鎖国のために交流はほとんどなくなりました。その後、フィリピンは長く欧米の植民地でしたが、第二次世界大戦では東南アジアにも進出した日本軍がマッカーサー指揮下のフィリピンのアメリカ軍を破り、フィリピンを数年間統治するという時期もありました。アメリカが日本に勝利して再びアメリカに統治されましたが、1946年にフィリピン共和国として独立、日本とは1952年のサンフランシスコ講和条約で国交を樹立し、現在に続く交流が始まりました。1970年代以降は日本との経済関係が深まるとともに相互の往来も盛んになり、国際結婚カップルも増えて行きました。現地妻との間に生まれた子供の責任を日本人ビジネスマンが取らずに放置したまま帰国するというような社会問題も発生しました。

平成16年現在、フィリピン人の外国人登録者数は199394人で、日本在住外国人の約10人に1人がフィリピン人です。ちなみにフィリピンに3ヶ月以上在留する日本人は12498人です。日本人とフィリピン人との国際結婚は、平成16年度で8517組、これは国別の国際結婚数において中国に次いで第2位です。フィリピン人との国際結婚は、日本人同士の結婚も含めた日本の結婚総数720417組の約1.2%に当たり、100組に1組以上がフィリピン人との国際結婚という計算になります。日比の国際結婚8517組の内訳を見ると、フィリピン人男性との結婚が120組、フィリピン人女性との結婚が8397組で、日本人男性とフィリピーナとのカップルが圧倒的に多いことがわかります。これは1980年代から嫁の来てが少ない農家に農村花嫁としてフィリピン人女性を迎えるということが行われてきたことも大きいのですが、日本に働きに来ているフィリピーナとの恋愛も増えてきています。ここ10年ぐらいは年間6000組以上の日本人男性とフィリピン人女性が結婚するという状況になっています。

さて、日本人とフィリピン人が、何らかのきっかけ(お見合い、留学中、海外赴任先、フィリピンパブなど)で出会い、交際を始めて愛し合うようになったとします。家族の同意も取り付け(ビザの問題はひとまず置いておきます)、いよいよ結婚ということになりましたが、法律上認められる正式な婚姻をするためには婚姻要件を備えていることが必要です。日本人とフィリピン人が結婚する場合、婚姻要件はそれぞれの出身国の規定が適用されますので、日本人は日本の婚姻要件を、フィリピン人はフィリピンの婚姻要件を備えていなければ、結婚は認められません。

フィリピン人の婚姻要件は、イスラム教徒や少数民族についてはそれぞれの慣習に則った婚姻要件(たとえばイスラム教徒は2人以上の妻を持てます)が適用されますが、ここでは一般的なフィリピン人の婚姻要件について解説しましょう。

まず、フィリピンの婚姻適齢は男女とも18歳以上となっています。日本人の場合なら女子が16歳になれば結婚できますが、16歳、17歳のフィリピーナとの結婚はできないということです。

日本では未成年者の結婚には父母の同意が必要ですが、フィリピンでは21歳未満は父母等の同意が必要です。日本人の成年年齢は20歳ですが、フィリピン人の成年年齢は18歳なので、18歳になれば単独で財産が動かせるようになり、選挙権も行使できます。しかし、かつて21歳が成年年齢とされていた名残りで、成年となっていても結婚に関しては21歳までは父母等の同意が必要とされています。年齢だけではなく父母等の同意の中身についても、日本とフィリピンでは異なっています。日本では父母の一方が同意すればもう一方が反対していても結婚できますし、後見人(親権者がいない時に選任される)がいる場合にもその同意は必要ありません。しかし、フィリピンでは父親がいる時は第一に父親の同意が必要で、母親が賛成していても父親が反対ならば結婚できず、父親の同意があれば母親が反対していても結婚できます。父親がいない時には母親の同意が必要になり、また後見人がいる場合はその同意が必要です。

フィリピンでは父母等の同意が必要でない21歳になっていても、25歳未満の場合は、結婚に当たって父母または後見人に助言を求めることとされています。助言は同意とは異なり、父母それぞれの助言が必要です。助言が得られなかったり、助言を求めた結果結婚に反対されたりした場合でも結婚は可能ですが、その場合は多少手続きが面倒になります。

フィリピンにはシティホール(市町村役場)に地方身分登録官事務所という役所が置かれていて、結婚する場合はそこに結婚許可証を申請します。地方身分登録官は、申請があれば結婚許可証の発行に先立って当事者の名前や年齢、国籍などを10日間公示(婚姻告知)します。10日間公示して問題がなければ結婚許可証が発行されるのですが、父母または後見人から助言が得られなかったり、結婚に反対されたりした場合は、公示から3ヶ月間は結婚許可証を出してくれません。しかし、その期間が経過すれば結婚許可証が出され、結婚できるようになります。

さらに、25歳未満の場合は、父母または後見人からの助言以外に、結婚カウンセリングも受けなければなりません。結婚カウンセリングは、挙式をつかさどる資格のある神父などの宗教家、または政府から許可を受けたカウンセラーが行ないます。カウンセリングは片方だけが25歳未満でも当事者の両方ともが受けることになっています。カウンセリングを受けると結婚カウンセラーが証明書を発行してくれるので、婚姻許可証の申請にはこの証明書を添付します。添付しない場合は公示から3ヶ月間結婚許可証を出さないことになっていますが、その期間が経過すれば結婚できます。

その他の婚姻要件としては、重婚の禁止、親子・兄弟などとの近親婚の禁止、直系姻族間や養子と養父母との結婚の禁止などがあります。日本の婚姻要件との違いとしては、結婚を禁止されている血族の範囲が、日本の3親等以内に対してフィリピンは4親等以内であることで、日本では4親等の関係であるいとこ同士の結婚が認められていますが、フィリピンではいとこ同士は結婚できません。また、血のつながりのない実子と養子(養子同士)の間の結婚も認められていません。

再婚禁止期間についてはフィリピン家族法では定められていませんので、日本人の男性とフィリピン人の女性が結婚する場合は、配偶者の死亡など(離婚は原則として認められていません)で前婚(それまでの結婚)が解消した場合、家族法上ではすぐに結婚できます。しかし、刑法で前婚解消後301日以内に結婚した女性は罰せられることになっていますので、実質的にこれが再婚禁止期間の規定に相当すると考えられます。結婚歴があるフィリピーナと結婚する場合は、前婚解消後301日間は待った方がいいでしょう。実務上も在日フィリピン総領事館は301日以内の再婚については婚姻要件具備証明書を発行しない取扱いをしているようです。なお、日本人女性とフィリピン人男性が結婚する場合は、日本法に従って、配偶者の死亡や離婚などで前婚が解消してから6ヶ月間待たなければなりません。

参考文献
フィリピン家族法』J・N・ノリエド著/奥田安弘・高畑幸訳 明石書店

フィリピンの法律については以下のウェブサイトを参照しました。
CHAN ROBLES & ASSOCIATES LAW FIRM


▼フィリピンの家族観

カトリックの国フィリピンでは、結婚は神聖なものであり、家族の大切さについては憲法の条文においても謳われているほどで、離婚も原則として認められていません。本文で述べた25歳未満の者が結婚する場合の父母等の助言やカウンセラーによる結婚カウンセリングの規定も失敗のない幸福な結婚をするためのもので、父母または後見人から助言が得られなかったり結婚に反対されたりした場合や、カウンセリング証明書を添付しない場合に、結婚許可証が発行されるまでに3ヶ月の期間が置かれるのも、その間に当事者が結婚についてもう一度熟慮するためと考えられます。

フィリピン人は伝統的に家族を大切にし、一族の絆が強く、子供も多いのが良いとされています。両親を大切にすることは当たり前のことであり、余裕のある者が余裕のない兄弟の子供を援助することなども当然のこととされていて、しない方が異常というのが一般的なフィリピン人の感覚です。

このように、フィリピン人の家族についての考え方は、核家族で個人主義的で少子化が進む日本とはかなり異なっています。たとえば、実家や親族に仕送りすることはフィリピンでは当然のことであり、フィリピン人の奥さんは日本人の夫に対しても協力を期待するかもしれません。フィリピン人と国際結婚する場合は、そういう文化的な違いを忘れないようにして下さい。

平成17(2005)年12月15日

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