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第3章 一方的要件と双方的要件

みなさん、こんにちは。行政書士の高坂大樹です。前回は法律婚と事実婚との違い、婚姻要件とは何か、国際結婚ではそれがどのように適用されるかなど、婚姻要件について一般的な説明を行ないました。今回は婚姻要件における一方的要件と双方的要件についてお話しましょう。

国際結婚では、当事者それぞれに自国の婚姻要件が適用されるということは、前回述べました。たとえば日本人と韓国人が結婚する場合は、日本人は日本の、韓国人は韓国の婚姻要件を充たしている必要があるということです。日本から出たことのない在日韓国人であっても、日本の婚姻要件ではなく韓国の婚姻要件が適用されます。

どの国でも婚姻要件を充たしていなければ正式な婚姻(法律婚)とは認めてもらえないわけですが、世界各国の婚姻要件はそれぞれの法律や慣習で決められていて、日本の婚姻要件とは異なっています。そのため、国際結婚において双方の国の婚姻要件はしばしば食い違います。それでは、そうした場合はどのように取り扱われるのでしょうか。

たとえば、中国の婚姻適齢は男22歳、女20歳で、日本の婚姻適齢とされる男18歳、女16歳とは異なっています。このような場合、婚姻適齢については双方の国の婚姻要件が異なっていても、当事者それぞれが自国の要件のみに合致していれば婚姻が成立します。つまり、日本人の男性と中国人の女性が結婚する場合ならば、日本人の男性は18歳以上で中国人の女性は20歳以上、日本人の女性と中国人の男性が結婚する場合ならば、日本人の女性は16歳以上で中国人の男性は22歳以上であれば、婚姻できます。

父母の同意についても、婚姻適齢と同じく、本人それぞれが自国の要件のみに合致していれば婚姻が成立します。このように、婚姻適齢や父母の同意のような自国の要件のみに合致していればよい規定を、一方的要件と言います。

一方的要件に対して、相手の国の要件にも合致していなければならない規定を、双方的要件と言います。国際結婚では当事者それぞれに自国の婚姻要件が適用されるのですが、世界各国の婚姻要件は異なっているので、相手が自国の法律や慣習を破ることになってはいけないという常識的な配慮に基づいた運用がされており、これを双方的要件と言っています。当事者それぞれが自国の婚姻要件を充たさなければならないのは当然ですが、双方的要件は、相手が自身の国の婚姻要件に抵触しないようにするために、お互いに相手の国の婚姻要件をも充たして、問題のない結婚を成立させることを目的としているわけです。

双方的要件の例として、イスラム教国の人と日本人との結婚を例に考えてみましょう。ご存じのように日本人は重婚が許されていません。そのため、日本人の男性は相手の女性が一夫多妻を認めているイスラム教徒であっても、奥さんは一人しか持てません。この場合は両国の婚姻要件に触れないので、特に問題は生じません。しかし、イスラム教徒の男性と日本人の女性との結婚の場合は、イスラム教では重婚が認められているので問題が生じる可能性があります。

結論を言えば、女性が日本国籍を有する限り、たとえ相手がイスラム教徒の男性であったとしても、相手の男性がすでに妻を持っている場合には婚姻は認められません。日本人の女性が複数の夫を持っているわけではなくても、相手が複数の妻を持てば、日本の法律では重婚になるからです。つまり、日本では絶対的に一夫一婦制の結婚しか認めていないということです。本来四人まで妻を持つことが認められているイスラム教徒の男性が、日本人の女性と結婚する場合に重婚が認められないのは、重婚が双方的要件であるからです。

重婚以外の双方的要件としては、近親婚の禁止の範囲、再婚禁止期間の日数などがあります。国際結婚で近親婚に触れる場合はあまりないと思われますが、再婚禁止期間については問題になることがあります。日本の再婚禁止期間は6ヶ月ですが、たとえばタイでは310日です。従って、日本人とタイ人が結婚する場合、両国ともに問題を生じない再婚禁止期間の日数の長い方のタイの婚姻要件が適用されることになりますので、日本人の女性であっても、婚姻解消後310日の間は婚姻することができません。

婚姻要件において、一方的要件なのか双方的要件なのかということは、重要なポイントです。双方的要件とは両国の婚姻要件に配慮が必要な規定であり(実際には双方的要件と言っても、それぞれの国の法律や習慣によってそれを充たせない場合も起こり得ます)、それに対して、一方的要件は相手国の婚姻要件に配慮しなくても差し支えないレベルの規定と考えておけばいいでしょう。


▼映画の中の国際結婚 第2回

マイ・ビッグ・ファット・ウェディング
  • 製作2002年、アメリカ
  • 監督ジョエル・ズウィック
  • 出演ニア・ヴァルダロス、ジョン・コーベット、マイケル・コンスタンティン、レイニー・カザン、アンドレア・マーティン

『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』は、ギリシャ系アメリカ人の女性と非ギリシャ系アメリカ人の男性(イギリス系でしょうか?)との結婚をテーマにしたラブコメディーです。国籍的にはアメリカ人同士の結婚なので、厳密には国際結婚ではなくIntercultural Marriage(異文化間結婚)ということになりますが、結婚における異文化の衝突を扱ったもので、大きくは国際結婚と見做して差し支えないでしょう。

ギリシャ系である主演女優のニア・ヴァルダロスが自伝的ストーリーを一人芝居にしていたのを、同じくギリシャ系の女優リタ・ウィルソンが観て共感し、夫のトム・ハンクスにこの芝居を紹介したのをきっかけに、映画化が実現したそうです。最初はミニシアター系のマイナーな興行でしたが、徐々に評判が広がって、全米で大ヒットを記録しました。映画の脚本もニア・ヴァルダロスが書いていて、アカデミー賞の脚本賞を受賞しています。

ストーリーは、ギリシャ料理店を営むギリシャ系の家庭に育った女性トゥーラが、オールドミスと言われる年齢になっています。結婚が遅れている原因には、ギリシャ民族至上主義者で、娘の結婚相手がギリシャ人であることを絶対条件とする父親の存在がありました。ある日、実家のレストランで働いていたトゥーラは、客として店に来た大学教師のイアンに一目惚れします。周囲の面白みのない女たちに飽き飽きしていたイアンの方も、個性的なトゥーラのことを好きになります。しかし、ギリシャ民族至上主義者の父親は当然結婚には反対です。イアンは愛するトゥーラのために、父親を説得し、結婚を認める条件としてギリシャ正教会の洗礼(洗礼機密)を受けることを受け入れ、正教徒に改宗するのでした。

国際結婚カップルが家族から結婚を反対されるという場合、マイノリティ側への民族差別ということはしばしば語られますが、マイノリティ側が自民族を優越視、絶対視する価値観を持っている場合のことは案外語られることがありません。どの民族も大なり小なり自民族を優越視する価値観を持っているものですが、ギリシャ人がそうしたエスノセントリズムを強烈に持っているということは、私はこの映画で初めて知りました。もちろんこれは映画であり、表現が誇張されているということは考慮しなければいけませんが、脚本も手がけた主演女優の自伝的ストーリーであることから、ギリシャ系コミュニティの実態を反映していると言えるでしょう。

この映画では、核家族化しているリベラルなアメリカ人家庭という民族文化的アイデンティティが稀薄な環境に生まれ育った男性が、それとは正反対に、民族文化的アイデンティティを色濃く保持している、多産型で大家族のエスニックグループに取り込まれるという構造になっていて、そこがユーモラスに描かれています。この映画のスタンスが面白くて、主人公の父親に象徴されるエスノセントリズムに反発するというよりも、娘の立場からそうした頑固な考え方に苦笑しつつも、民族文化的アイデンティティを保持しているマイノリティの方が生命を謳歌し、人生を濃く生きているというメッセージも籠められているように見えます。

ちなみに原題は『My Big Fat Greek Wedding』で、直訳すれば『私の大仰なギリシャ式結婚』というところでしょうか。

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映画の中に登場する正教会は、コンスタンチノープルを中心に東ヨーロッパで発展したキリスト教の教派で、カトリックよりも古い歴史を持ち、全世界に2億人の信者がいます。ギリシャ正教あるいは東方正教会とも言います。日本の正教会は日本ハリストス正教会と言い、本部は東京神田のニコライ堂(東京復活大聖堂)で、日本にも2〜3万人の信者がいます。

正教会では、結婚は婚配機密と言います。機密はカトリックでは秘蹟、プロテスタントでは礼典と訳されるキリスト教上の特別な儀式です。婚配機密もその一つで、正教会で結婚式ができるのは正教徒だけです。正教徒であれば国籍は関係なく挙式できますが、正教徒以外は、同じキリスト教であってもできません。映画の中でも、正教徒ではない男性が正教会で結婚式を行なうために、洗礼(洗礼機密)を受け、正教徒に改宗していました。

ギリシャ正教会では、いとこ同士では結婚できないなど独自の婚姻要件も定められているそうです。なお、正教会ではカトリックとは異なり、やむをえない理由のある場合は離婚を認めています。教会で離婚が認められた場合は、教会で再婚もできます。ただし、正教会が認めている結婚は三回までです。

平成17(2005)年11月15日

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