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高坂行政書士事務所

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国籍確認訴訟について

平成18年04月04日(火)

 平成18年3月29日に、国際カップルの間に生まれた非嫡出子の国籍取得に関する重要な判決が下されました。

 この裁判は、通称「国籍確認訴訟」と呼ばれています。日本人男性とフィリピン人女性との間に生まれ、出生当時父母が結婚しておらず胎児認知もされていなかったため日本国籍が取得できなかった9人の日比ハーフの子供たちが、出生後に父から認知を受け国籍取得届を提出したところ、国籍法3条1項の準正要件を備えていないという理由で、日本国籍の取得が認められませんでした。そこで、両親が結婚していないからと言って日本国籍を認めないのは憲法14条の法の下の平等に反するなどとして、昨年4月12日に東京地裁に訴えていたものです。そして3月29日の判決では、原告の子供たちが勝訴し、子供たちの日本国籍が認められました。

 判決によると、準正による嫡出子や、同じ非嫡出子でも母親が日本人である子供や日本人の父親から胎児認知された子供には国籍取得を認め、父親が日本人であるが、準正されていない非嫡出子には国籍取得を認めていない国籍法3条1項には合理性は認められず、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反している。従って、国籍法3条1項の準正要件を定める部分は違憲無効であり、原告の子供たちは有効な届け出を行なったものと言えるから、原告の子供たちには日本国籍があることを確認する、となっています。

 この裁判の意味を理解するには、関連法規や日本人と外国人との間に生まれた子供が増えている社会的背景を知る必要があります。

 国籍確認訴訟で最も問題となる法律は国籍法です。「日本国民たる要件」、つまり誰が日本人であるかということは、国籍法によって定められています。この国籍法はわずか19条しかない法律で、帰化や国籍の取得、喪失などについて規定しており、普通の日本人は気にする必要がないものですが、国際結婚の当事者にとっては大変重要な法律です。

 国籍法2条1項で、子供は生まれた時に父親か母親のどちらかが日本人ならば日本国籍を取得することと定められています(かつては父親が日本人の場合でなければ日本国籍を取得できませんでしたが、昭和59年に改正されました)。つまり日本人と外国人との国際結婚の場合、父親が日本人の場合でも母親が日本人の場合でも、その子供は日本国籍を取得するということです(結婚相手の国の法律で子供はその国籍を取得するとされている場合は、子供は日本国籍を取得するだけではなく二重国籍になります)。

 しかし、日本人の子として生まれれば日本国籍を取得するというこの国籍法の規定にも関わらず、父親が日本人で母親が外国人で正式に結婚していないケースのカップルは、子供が日本国籍を取得できない場合があります。と言うのは、両親が結婚していない場合、戸籍(法律)の上では父親がいないものとして扱われるので(出生届の父親欄は空欄のままにしておかなければ受理して貰えません)、子供は生まれた時点では日本国籍を取得できません。たとえ事実上の父親が日本人だったとしても、戸籍上は父親がいないことになっているために、子供が生まれた時の父親は日本人ではないと法律的に処理されるのです。この場合、子供は母親の国籍だけを取得するか、母親の国が父系主義(子供は父親の国籍を取得する法律)をとっている場合は、母親の国籍も取得できずに無国籍になってしまいます。

 このように両親が結婚していないために生まれてきた子供が日本国籍を取得できないという事態を避けるには、母親の妊娠中に日本人の父親が認知しておくことが必要です。これを胎児認知と言います。胎児認知しておけば、結婚していなくても子供が生まれた時に父親が日本人であると認められますので、国籍法の規定に従って子供は出生と同時に日本国籍を取得することができます。しかし、胎児認知という方法が知られていないためか、現在、結婚していない日本人と外国人のカップルの子供の相当数が胎児認知をしなかったために日本国籍を取得できないという状態になっているという現実があります。

 それでは、日本国籍を取得できなかった子供はもう日本国籍を取得できないのかというと、そうではなく、日本国籍を取得する方法はあります。

 日本国籍取得の方法は二つあります。その一つは帰化です。一般の外国人が帰化するためには幾つかの条件をクリアして、法務大臣の許可を得る必要がありますが、このケースのように、日本人の子であったり、日本で生まれた場合は条件が緩和されており、簡易帰化と言われる手続きで比較的簡単に帰化することができます。

 もう一つの方法は、国籍法3条1項で規定されている「準正による国籍取得」です。父母の結婚と認知によって嫡出子の身分を取得した子(準正嫡出子)は、二十歳になるまでに法務大臣に届ければ、届け出のみで日本国籍が取得できます。嫡出子とは結婚している夫婦から生まれた子供のことで、結婚していないカップルから生まれた子供は非嫡出子(嫡出でない子)と言います。非嫡出子でも、出生後に父母が婚姻し、認知されれば嫡出子の身分を取得することができ、これを「準正」と言います(民法789条)。婚姻と認知はどちらが先でもよく、子の認知後に父母が婚姻した場合は婚姻の時から嫡出子の身分を取得し、父母が婚姻してから子を認知した場合は、法文上は認知の時からとなっていますが、運用上婚姻の時に遡って嫡出子の身分を取得することになっています。帰化の場合は法務大臣の許可を得なければなりませんが、準正嫡出子になれば届け出るだけで必ず日本国籍を取得できますので、準正による国籍取得の方が身分が保証されています。

 国籍確認訴訟では、この準正による国籍取得が最大の争点となっています。原告側の主張を簡単に言うと、父母が結婚せずに準正嫡出子にならなかったとしても、認知があればそれだけで日本人の子なのだから、日本人の子として日本国籍が認められるべきだ、認められないのは法の下の平等に反するというものです。これに対して、被告の国側の主張は、出生後に認知されたとしてもそれだけで日本国籍を取得できるという法律の規定はないので、国籍取得届けを出したとしても日本国籍は認められない、というものです。たしかに、法文にないものを裁量によって認めていくことは問題があるとする国の主張は理解できますので、認知のみでも日本人の子として日本国籍を認めるとすれば、法改正が必要になるでしょう。

 この裁判に関連して、同じようなケースで日本国籍が取得できなかったフィリピン国籍で日比ハーフの子供が日本国籍の確認を求めていた裁判が、現在並行して行われています。これについては、昨年、このコーナーでも取り上げました。詳しくは拙論「非嫡出子の国籍取得に関する判例」をご覧になって頂くといいのですが、この裁判では、平成17年4月13日に東京地裁で原告勝訴の判決があり、その後国が控訴していましたが、平成18年2月28日に東京高裁で原告の日本国籍を認めないという逆転敗訴の判決が下り、現在、原告が上告しています。

 原告逆転敗訴の高裁判断のひと月後に、冒頭に述べたように、これとは別の裁判で東京地裁が今回再び原告勝訴、国籍法違憲の判断を下したわけですが、これは父親に認知されているにも関わらず日本国籍を取得できない子供が増えている現状を踏まえ、準正による嫡出子や同じ非嫡出子でも母親が日本人である子供や日本人の父親から胎児認知された子供には国籍取得を認めて、父親が日本人である非嫡出子には国籍取得を認めないのは不公平と考えたものであり、地裁の判断は実情に沿った対応を求めているものと言えます。付け加えれば、平成17年4月の判決では結婚していなくても内縁関係で事実上の婚姻関係にあるカップルの子供の場合に日本国籍を認めたものでしたが、今回の判決は家族の態様(あり方)を問わず日本人の子であるということのみにより日本国籍を認めるという、より踏み込んだ判決になっています。

 今後の展開としては、国側は控訴するものと思われます。通常は至近に最高裁の判例になったものが覆ることはあまりありませんが、果たしてどのような結論が出されるでしょうか。国際カップルの当事者や行政書士も含めた関係者は、出される判決(判例)によって現実的に対処していくことになりますので、今後の経緯が注目されます。

※国側は4月7日に控訴しました。

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入管法について―その現状

平成17年07月19日(火)

 立命館大学の末川記念会館で、毎週土曜日に立命館土曜講座が行なわれています。7月の特集は「国際組織犯罪と人間の安全保障」というテーマで五人の先生方が講演されるのですが、7月16日(土)は私たちには『わかりやすい入管法』(有斐閣、第六版は平成16年)の共著者として親しい元東京入国管理局長の黒木忠正氏がお話をされるということで、立命館大学に行って来ました。黒木氏は日本が外国人労働者を大量に受け入れ、国際化が叫ばれた時期に東京入国管理局長を務めていた方です。

 講演は「入管法について―その現状」と題し、出入国管理及び難民認定法の解説でした。内容は入管法の基本部分の概説という一般向けのもので、未知の事柄はありませんでしたが、難民の話、偽装結婚の話、アラブゲリラと言った時代のテロ対策の話など、実際に現場に当たっていた当事者ならではのエピソードの数々が伺えたことは有益でした。

 お話の中で印象に残ったのは、「入管の任務は国益に基づく」という発言でした。行政書士の仕事は、クライアントの依頼を合法的な範囲内で最大限実現することです。法律違反であるオーバーステイの外国人の依頼を受けることもありますが、行政書士の業務には、その外国人がかくかくの理由によって日本に引き続き在留することを希望しており、引き続き在留することに現に違法状態にあるという以外の問題点はないという情理を申し述べて、在留特別許可を与えるように法務大臣に願い出る際のサポートをすることも含まれます。これは、外国人が置かれている違法状態を解消して、安定した法的地位を得られるようにすることです。黒木氏の講演を聴き、行政書士の国際業務は外国人の人権と日本の法律(国益)を調整することであると、仕事の意義を再確認することができました。

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新会社法について

平成17年07月12日(火)

 6月29日、新会社法が参議院本会議で可決成立しました。主な改正点は以下の通りです。

 新会社法は来年4月1日(一部平成19年)施行予定です。新会社法については現在研究中です。まだ関連法の整備が整っておらず、運用面での細部も現時点では不明な点が多いのですが、骨子を纏めてありますので、御覧下さい。

新会社法のポイント

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刑法等の一部を改正する法律

平成17年07月01日(金)

 6月16日、昨年12月に策定された人身取引対策行動計画に基づき、刑法等の一部を改正する法律案が、衆議院本会議の全会一致で可決成立しました。6月22日に交付され、7月12日に施行されます(一部の施行は遅れます)。

 今回の改正では、刑法・刑事訴訟法・出入国管理及び難民認定法・旅券法・組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律が改正されました。主な改正点は以下の通り。

 この改正は、人身売買の加害者の処罰を強化し、被害者を保護を図る内容になっています。日本では人身売買についてはこれまで運用によって対処していましたが、今回の改正によってようやく人身売買を規制する法整備が整いました。

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非嫡出子の国籍取得に関する判例

平成17年06月01日(水)

 日本人の父と外国人の母との間に生まれた子は、生まれた時に父母が婚姻していなかった場合は、非嫡出子であるために日本国籍を取得できず、外国人の母と同じ国籍の外国人となります。その後、父母が結婚し、父が子を認知すれば、準正により、嫡出子の身分を取得します。準正により嫡出子の身分を取得した子は、20歳未満で、父が現在も日本国籍(父がすでに死亡している場合は死亡した時点に日本国籍であったこと)の場合は、国籍取得届を提出することによって日本国籍を取得できます。(国籍法3条1項)

 この国籍法3条1項に関して、平成17年4月13日、東京地方裁判所で大変重要な判決が出されました。婚姻関係のない日本人の父とフィリピン人の母の間に生まれた後、父から認知されたフィリピン国籍の子が、「両親が結婚していないために日本国籍を認めないのは不当」として日本国籍の確認を求めた裁判で、国籍法3条1項は法の下の平等を定める憲法14条1項に違反するもので無効と主張して訴えたものです。

 東京地裁は、これまでの最高裁判決とは異なり、国籍法を違憲と判断しました。判決は、国籍取得について、準正嫡出子と非嫡出子との間で、父母の法律上の婚姻関係が成立しているかどうかによって区別することに合理性は認められず、国籍法3条1項は法の下の平等を定める憲法14条1項に違反している。従って、国籍法3条1項は一部無効であり、嫡出子または非嫡出子たる身分を取得した子について、一定の要件の下で国籍取得を認めた規定と理解すべき、と判断しました。国籍法を違憲とした判決は初めてのことです。

 この判決に対して法務省民事局は「判決文を検討したうえで今後の対応を考えたい」という談話を発表、その後4月25日に控訴しています。この判決はこれまでの最高裁判決を覆すもので、国籍法の一部に違憲判断を下し、法律の改正を迫る内容になっていますので、高裁でも結審せず、最高裁まで上告されていくものと思われますが、今後の経過が注目されます。

※参考〜これまでの判例

(判例1)婚姻関係のない日本人の父とフィリピン人の母の間に生まれた非嫡出子が、出生後に日本人の父から認知を受けただけでは日本国籍の取得が認められず、帰化の手続きを取らなければ日本国籍を取得できないという国籍法2条1号は、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反するとして訴えた裁判の場合。

 判決では、日本国籍の生来的な取得はできる限り子の出生時に確定的に決定されることが望ましい。従って、子が日本人の父から出生後に認知されたことだけでは出生時に遡って法律上の父子関係が存在するものとは認めず、日本国籍の生来的な取得を認めない国籍法2条1号は合理的根拠があり、憲法に違反していないとしています。(平成14年11月22日第二小法廷判決平成10年(オ)第2190号、国籍確認等請求事件)

 この最高裁の判決は、上に紹介した今回の地裁の判決とは正反対のものです。地裁判決より最高裁判決の方が権威があるので、控訴上告されれば最高裁では再び覆されて、国籍法が合憲とされる可能性が高いと思われます。

(判例2)韓国人である母が日本人である夫と離婚した翌日に、婚姻関係のない日本人を父として生まれた子について、母の元夫との親子関係の不存在確認を求める訴えが提起されて親子関係不存在を確認する判決確定した後に、父が子を認知したという事案において、子が日本国籍を有することの確認を求めた裁判の場合。

 判決では、子は外国人の母に夫がいることから親子関係がないと明らかな場合でも戸籍の記載上は夫の嫡出子と推定されるため、実の父による胎児認知の届け出があったとしても不適法なものとして受理されずに胎児認知できなかっただろうケースにおいて、そのような事情がなければ父による胎児認知がされただろうと認められる特段の事情がある時は、胎児認知がされた場合に準じて国籍法2条1号の適用を認め、子は生来的に日本国籍を取得すると解するのが相当だとしています。

 ここに言う特段の事情がある時とは、戸籍の記載上の嫡出推定がされるので胎児認知届が不適法なものとして受理されない場合に、親子関係のない夫と子との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続を子の出生後に遅滞なくとり、親子関係の不存在が確定し認知の届出を適法にすることが可能になった後はすみやかに認知の届出をした場合などを指します。(平成09年10月17日第二小法廷判決平成08年(行ツ)第0060号、国籍確認請求事件。同様の判決に、平成15年06月12日第一小法廷判決平成13年(行ツ)第39号、平成13年(行ヒ)第37号、国籍確認請求事件)

 少し難しいかもしれませんので、わかりやすく言えば、やむを得ない事情があって胎児認知しなかったが、出生後でも認知可能な状態になった時にすみやかに認知の届出をしたなどの行動から、もし可能だったとしたら胎児認知していただろうと判断できる場合には、胎児認知に準じて子の日本国籍を認めて差し支えないということです。これに対して最初に紹介した地裁の判決は、出生後の認知をすれば、胎児認知の有無(胎児認知に準じるものも含む)を問わずに非嫡出子でも日本国籍を認めるというもので、いかにこれまでの法解釈と異なるものであるかがわかります。

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