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やはり猫は元々は狩猟動物なのだろうか、次第にクロは、その潜在的な本能を発揮するようになってきた。
部屋の中に何かうごめくものを発見すると(TVの動物番組とかでチーター等がよくするように)身を伏せて跳びかかる姿勢を整える。眼は爛々と光っている、真剣そのものだ。小さい体だが、その風貌は「ハンター」そのものである。
最初は見当違いのものによく跳びかかっていた。ぼくはTVを観てるときや本を読んでいるとき、膝やつま先を貧乏揺すりで揺らしているときがあるのだが、その膝やつま先に跳びかかってきたり、チョンチョンとこづいたりする。
やがて、暑くなってゴキブリが出てくるようになると、よくゴキブリを捕まえていた。別に食べるわけでもない(食べられたらキモチ悪いのだが)。さんざんもて遊んで、死んでしまうと、もう興味をなくす。朝、居間に降りていくと、そこらへんにゴキブリの屍骸がニ三転がっていることがよくあった。しかし「手柄」をたてたことには違いないのだから、そういうときは必ず褒めてやることにした。
「そのうち鼠を捕ってくるかもしれないね」と、家族でよく話しあっていた。
そうなればそうなったで、たぶんキモチ悪いだろうと思ったが、しかし、もう、クロがその「手柄」をたてる日は永遠に来ない。
クロよ、おまえが鼠を捕ってきたら、どんなにキモチ悪くても、思う存分褒めてやるつもりだったのに。・・・
どんな事をしても、もう可愛くてしようがないので、家族中で、クロを毎日毎日可愛がっていた。というより、いじくり回していた、と言ったほうがいいかもしれない。
彼女にしてみれば、くる日もくる日も人間に触られっぱなしで、迷惑だったことだろう。だから、人間に触れられることのない屋外で、のびのびとしたい、と思っていたのかも。そう考えると切ない。
ぼくはクロに頬擦りして「クロ、クロ、お前はなんて可愛いんだ。このまま永遠に死なないでくれ」と、よく話しかけていた。
なぜこんなことを言っていたのだろう。
死ぬことだけが心配だった。ただ生きて居るだけで良かった。
それ以上は何も望まなかった。