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クロが大きくなって元気になると、家の外に出たがるようになった。
ぼくの家の前の道路は、結構自動車の通りがはげしい。車に轢かれることを一番心配していたから、なるべく外には出さないように気をつけていた。
けれども一度外で遊ぶ楽しさを覚えると、もう、外に出たくて出たくてたまらないらしい。遊びたいさかりだ。窓や扉を閉め切ったつもりでも、ちょっとした隙間からスルリと外に逃げ出してしまう。一旦外に出ていってしまうと、帰ってくるまで心配で心配で堪らなかった。無理に追っかけるとサーッと逃げ出してしまって、かえって危ないから、外に出たら、もう放っておくしかなかった。
クロの首輪には小さな鈴をつけていたから、家の近くまでくると「チリ・・チリ・・・」と音がする。それで「あっ、帰ってきた」と窓を薄目に開けておく。お腹が空いた夜になると、必ずその窓から家の中に入ってくる。それでやっと安心する。
「やっと戻ってきたかい。でも危ないから、あまりオンモに出てはいけないよ。」
いつもそう言い聞かせていた。
「おまえがいつまでも戻ってこなくて、それで表を車が通る音がするたびに、ぼくらは心の中で、身の縮むような思いをしているのだよ。あんまり心配させないでくれ。外でいくらでも遊んで来ていいけれど、必ず家に帰ってきておくれ。・・・」
いったいに、行儀のいいクロだったが、「そそう」をするときも、たまにあった。
ちょっと眼を離したすきに、ぼくの画室に入り込んで、寝かせていた生乾きの絵の上を歩かれたことがある。絵の上にマンガで描いたような猫の足跡が点々とついている。
ぼくは怒るより笑い出した。その絵には黒猫が歩いている姿を、点景のように描きこんでいたからだ。その上を実物のクロが歩いていった。・・・・
もう可笑しくて可笑しくて、家族中で笑った。
それが今ではなつかしい。