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 クロの尻尾は細くてしゅるっと長くて、歩く度に、まっすぐ上に伸びた尻尾が左右前後に華麗に揺れて、とても格好がいい。
 自分の尻尾がクネクネ動くのが視界に入って、興を引かれたクロが、自分で自分の尻尾を追いかけてグルグル廻る。徒労の挙句、やっと「逃げる獲物」を捕まえてガブリと噛みつく、そこで初めて痛みに気付いて尻尾をペロペロ舐めている。そういう可笑しな「ひとり遊び」を何度も繰り返していた。

 何をやっても可愛くてしようがないクロだったが、ひとつ不満があるとすれば「なかなか抱かせてくれない」ということだった。こっちは暇があれば膝の上に乗せて撫でていたいのだが、一分もじっとしていてくれない。すぐ嫌々をして体をくねらせて逃げようとする。(でもその「嫌々」の様子も可愛いと思っているのだから大した親馬鹿であろう)。

 体を丸めて寝入っている様子も実に可愛らしい。もう何度も絵に描いたから、今は何も見なくてもその姿をスラスラ描けるだろうと思う。時々小さな口を眼一杯開けて欠伸をする。真っ黒な体だから、ぱっくり開いた桃色の口と舌はとても鮮烈で綺麗だ。ちょっとしたエロスさえ感じる。咽を撫でてやると夢見心地のまま「もっと撫でて」と顔をぼくの手に摺り寄せてくる。「グルル、グルル」とかすかに咽を鳴らせている。思わず頬擦りをする。

 たぶんクロは、家に来た日、まだ生後一ヶ月かそこらしか経っていなかったのだろうと思う。胴回りは、ぼくの人差し指と親指をまるめたぐらいの太さしかなかった。歩き方もひょこひょこして頼りなかったが、食住足りて、みるみる肥ってきた。半年もすると両手の平を輪にしたぐらいの立派な胴回りになってきた。

 体を仰向けにさせて、ポチャポチャしたお腹を撫でさすってやると、最初は嫌がっていたが、次第に観念して、されるがままになってきた。まだ子供で体が柔らかいから、お腹の肉が横にビローンと広がってモモンガみたいな体型になる。その仰向けの体勢のまま寝入ってしまうこともあった。猫にあるまじき無防備な寝姿だったが、この家の中では何の心配もない。やすらかに眠っていた。・・・・

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