プロローグ

「奥の細道」を歩くことになったきっかけと出発までの経緯


上越市高田城極楽橋大賀ハスx王子ハス 「奥の細道」を歩くことになったきっかけは、58歳で早期退職をし、失業保険の給付を受けながら、人生の第二ステージは何をしようかと思案をめぐらせていたころ、たまたま本棚にあった小学館の「松尾芭蕉集」を手に取ったことにあった。


「58年生きてきて自分自身、何か納得できるものをやってきたか?」・・「否」と自問自答。第二ステージに踏み出す前に何かやっておこう。今がチャンスだ。何でも良い、小さな事でも良い。自分で決め、自分を納得させられるものが良い。
時間はある、ただ経済的に負担になることは「NO」である。目標を達成するために勉強したり訓練するのでは時間がかかりすぎる。今すぐにはじめられるものがよい。
しかし人生怠けてきたため これといった特技は何も持ち合わせていない。
以前どこかで聞いたことがある。「50年、60年と生きてくれば何もないということはない。今までやってきたことをすべて書き出してみると、必ず何か見つかる」と。
もともと車と旅行が好きで、女房を連れ、青森の下北半島から沖縄の石垣・西表島まで北海道を除いて、車で全県走破した。足掛け10年ほどかかっている。北海道は、それぞれ行っているため後回しになり、未だに夫婦では行っていない。
走破したといっても、女房をナビゲーターにして日本全県走破しようと目標を持って走ったのではなく、車で女房と一緒に旅行をしていたら、北海道を除いて全県を走っていたということである。
矢吹郊外の道端の蝶 ある時、ふと本棚を見ると、立派な小学館の「松尾芭蕉集」が目に入った。2〜3年前購入した記憶はある。なぜ買ったかは定かではない。ただ以前から「月日は、百代の過客にして、行きかふ年も又旅人なり」というフレーズが常に頭の中にあったことは確かである。
「そうだ、歩いて旅をしてみよう!」
歩くだけだったら特技はいらない。すぐに始められる。また「奥の細道」だったらわかりやすいと即決定。
「人生の節目、奥の細道を歩いてみよう。」
全行程の距離、地形などまったく分からないままテーマだけを決定。
「奥の細道」を歩くにあたって俳句を理解しようとは考えなかった。俳句を理解できるようになってからなどと考えていたら、一生歩けなくなってしまう。芭蕉たちの足跡を歩くだけでよい。
できる限り忠実に歩こうと考え、芭蕉集の中の「奥の細道」を読む。しかし詳しい行程はほとんどわからない。
それから図書館、本屋通いが始まった。
芭蕉、また芭蕉の俳句についての研究はいくらでもあるが行程を専門に研究した本はない。
岩波文庫の「おくのほそ道」を買う。この本には本文、曾良日記、宿泊地、天候、行程図等が掲載されており、また文庫本のため携帯にも便利と思われた。
芭蕉の歩いた行程、宿泊地をチェックし、現代の「関東・東北・中部」の道路地図で確認をした。
芭蕉の訪れた地は今の地名とほとんど変わらない。しかし歩いた道は現地に行ってみないと分からない。
芭蕉の歩いた道を探しながら歩くことになりそうだ。それも今回の歩いての旅の楽しみでもある。
能生 道の駅 「奥の細道」の行程をを中心に、周辺のできる限り多くの史跡を観、情報に接し、人々との出会いをし、楽しみながら歩こう。日程は180日という長期のスケジュールになってしまう。
正確なところは分からないが芭蕉は140日程で歩いている。数日間同じ場所に滞在もしている。
費用の計算をする。一日のコストは1万円以内(できれば7〜8千円以内)。単純に計算しても180万円必要と算出。
この費用を捻出するため、今年は海外旅行を中止、社会的な義理を欠かせてもらい、夏の帰省もしない、毎月の小遣いを充当、これで費用の半分ほど捻出出来る。全体の費用の目途もたてる。
一日の歩く距離は25〜30km。何の根拠もないが、たぶんこのくらいの距離は歩けるだろうと思った距離である。
肝心の体力は大丈夫か。退職してから毎朝4時に起きて、1時間50分、距離にしておよそ10km程(30分のストレッチ含む)パワー・ウォーキングをしている。
生活用品を詰めたリュックを背負って歩かねばならない。
小学校の遠足以来50年この方リュックなど背負った事がない。リュックを背負って歩く練習をしなければいけない。
また血圧が高いため治療を受けている。ホームドクターにはいつ話そうか、止められはしないかと気になる。
西村家の犬 この「奥の細道一人旅」の主旨は、まず第一に自分の足で、芭蕉の歩いた「奥の細道」の足跡を出来る限り忠実に歩くこと。第二に俳句は解らないが芭蕉が句を読んだ場所に立ってみよう。その雰囲気を感じることができれば感激だ。第三に周辺部の史跡も訪れ観光もしてみよう。この3点であった。
この40年程は車 中心の生活をしており、1km歩くなどとは大変なことであった。退職をして一年余り、毎朝10kmほどのパワー・ウォーキングで少しは体力がついている。そのため今回の歩いて旅をすることには、ほとんど不安は感じなかった。と言うよりも歩いて旅をしてみようとの決心ができたと思う。
人生の第二ステージに向け、改めて体力、精神力を試してみようと思ったのである。
「奥の細道」の行程にある場所の多くは車で旅行をしている。歩いて訪れるとどんな感じだろうか楽しみでもある。
5月28日自宅のある桐生市から東京・深川まで移動し、翌5月29日朝、深川を出発することに決定。