初春を迎えて年の速さ知る (2007)
高遠の桜吹雪は貝の色
江戸追われ桜の城に囲い有り
雨あがり藤の香漂う池の端
藤の木の下でくつろぐ家族連れ
小雨降る八十八夜は茶の香り
夏場所に技を極めた白い鵬(とり)
日の本の魂つたえる異国人 (白鵬の横綱昇進に際して)
あじさいを尋ねて歩く他人の庭
紫陽花の葉陰に宿るあまがえる
竹の先願いを綴る天の川
崩れたる我が家を前に髪白む (2007,7,16 新潟中越沖地震の映像より)
灼熱の我が家逃れて草津の湯
夏空に煙たなびく浅間山
清涼の空に伸び行く志賀の峰
白桃が軒先飾る志賀の里
蕎麦の香や祓いを受ける善光寺
松風がつわもの語る川中島
台風の一過の空はいわし雲
彼岸入り猛暑のなかの墓前かな
真夏日や夜は虫の音月冴える
赤茶けた山肌あらわ銅の害
草木生え足尾の山は生きかえる
茅葺と蕎麦で味わう大内宿
山間の光に遊ぶあきあかね
名月や小嵐吹いて冴えわたる
男体と赤城が戦う戦場ヶ原
人よりも猿が行き交ういろは坂
朝日うけ凍てつく滝は翡翠色
木犀の香りとともに衣更え
秋高し越後平野は黄金色
山間のやさしき光やはざの稲
空青くススキの向こう山近し
秋日和浅き流れにサギ一羽
ウォーキングいなご飛び立つ草もみじ
山の端に残る茜や十三夜
櫓田やスズメと遊ぶ童かな
豪雨明け紅葉もかすむ吹割の滝
吹割の激しい流れに散るもみじ
木洩れ日や紅葉ひらひら蝶もひらひら
高津戸とながめを競う菊祭り
立冬に残る簾や音もなし
縁側の猫と童の菊日和
四十五年今でも身に沁む師の言葉
空高く大根干すや白い風
巴波川(うずま)蔵を映すや風の花
山もみじ夕日も赤く染めにけり
木枯らしに一つ灯るや防犯灯
初春や青海に浮かぶ白き富士
初日の出黄金に映える富士の嶺
ことことと野菜きざむや冬の朝
くつくつと鍋に湯気たつ冬の宵
大寒や流れる雲に光る風
足音を忍ばせ愛でる冬ぼたん
冬空に澄み渡り来るケーナの音
しんしんと墨絵のごとし雪明り
枯れ枝の先のふくらみ春を待つ
紅梅の香りに遊ぶ小鳥かな
風止みて香り漂うしだれ梅
春一番蕾膨らむ枝の先
せせらぎの音も軽やか春の風
水ぬるむ川面に遊ぶ鴨親子
小ぬか雨新緑映えて神輿かな
曇天の浜辺にピーヒョロ鳶が舞う
六十五歳皆の笑顔は高校生
新緑や句帖片手に寺めぐり
小鳥鳴き若葉萌えたつ山の里
秩父路にSL走るや初夏の風
立夏とは思えぬ朝の寒さかな
山の陰目に鮮やかな白き紫陽花
梅雨の朝肌に爽やかホーホケキョ
昼食をスズメと共にとるテラス
背伸びして短冊結ぶ浴衣の子
七夕や五色の短冊願多し
そら暗く強風電光雨にひょう
野良猫や朝顔の陰伸びをする
プーンプーンと耳元うるさい真夏の夜
立秋や夜風うれしいビールかな
波騒ぎわれらのボートは三段跳び
墓の前蚊の襲いくるや手を合わす
猛暑去り夕風に乗るあきあかね
雨上がり茜の空に十三夜
あさぼらけ闇にささやく虫の声
山近く大地を染める彼岸花
虫の音や山の端白む糸の月
茜雲薄の向こう童おり
暗き秋四筋の光やノーベル賞
釣り糸に寄り添う紅葉魚を待つ
秋高し白き煙や浅間山
白糸の滝を愛で合う秋日和
秋風や謡が冴える能楽堂
おち葉掃き野菜もちよる茹釜かな
雨あがり岩肌険し清津峡
錦なす山肌淡い冬桜
紅葉散る谷底青い石の波
手を休め見やる赤城や雪化粧
冬日和笑顔はじける乳母車
青き空雪像そびゆる北の大地
雪の上餌さがしゆく小さき足跡
老夫婦春さがしゆく丘の上
枝差しや小鳥よろこぶ春の雪
啓蟄や猫ねむり居る籠の中
小鳥鳴く竹林の向こう梅ばやし
地に這いて若木に負けじと梅の老木
梅ひとひら歴史を綴る西山荘
春浅し蕾を揺らす水の音
紙コップ桜舞い降り色添える
潮騒にうぐいすの声つきささる
朝凪やエンジンの音すべり来る
潮騒や夜明けの浜に竿ならぶ
年の差や八十歳の歩こう会
あま上がり朝日きらめく山あじさい
雨上がり小鳥騒ぐや山帽子の花
湿原や綿菅ゆらす夏の雲
蔵の店そっと寄り添う花菖蒲
山つつじ白き蜘蛛の巣小ぬか雨
客去りて百合の香ただよう店の前
梅雨の間や夜空に清し月の影
コマクサや霧の向こうに人の声
夜明け前最初の色や月見草
朝の庭子猫が見つめるカブトムシ
たもかつぎ童走るや草いきれ
夏の子ら午後の暑さ吹き飛ばす
草刈られ日陰さがすや山かがし
初登山友が導く岩の上
念願の男体山の頂雲多し
雲の間やはるか麓に中禅寺湖
電車去り朝の静けさ虫の声
夜明け前うさぎ餅つく十三夜
秋うらら黄金にかがやく棚田かな
すすき原妙高岳浮かべる銀の波
嵐去り二度目の香りや金木犀
秋深し鼓響くや能楽堂
並木道落ち葉をかざす童かな
夕映えや紅葉のじゅうたん遊ぶ子ら
山深しもみじの陰に滝ひとすじ
風走りかさこそかさこそ冬が来る
寝床抜け女房と拝む初日の出
待ちかねし屠蘇より前のビールかな
不況なり年金話題の新年会
遊水池枯れ芦悲し村の跡
遊水池悲しみ刻む墓標かな
愛宕山石段の上梅一輪
ローカル線雪に埋もれる駅舎かな
軒先と雪嵩競う北の街
煙立つ屋根のみ見ゆる雪の里
さくさくと足音沈む雪の夕暮れ
豪雪や7.85メートルの半ばなり
雪しきり夜空に浮かぶ善光寺
枯れ枝や花一輪の暖かさ
雛並ぶ店先賑わう古き町
梅林父の背中で寝る子かな
ウォーキング水仙の香や歩を休む
一両目ニ両目と車窓賑わす梅の花
権現堂桜と菜の花ニ重奏
屋形船桜愛でるやスカイツリー
隅田川桜の帯やスカイツリー
なつかしき暖簾の向こう友の声
青空を黄色に染める春嵐
嵐去り夕日が沈む春の海
かたくりの花古代を語る住居跡
桜散り花びら宿る竹箒
立夏過ぎ野良猫居座る軒の下
庭園の隅緑の桜人恋し
穀雨すぎ新芽ふるえる寒さかな
つつじ咲き九十九夜の泣き霜かな
五月晴れ赤城の山や雪化粧
八ヶ岳我胸を打つシルクロード
新緑や鹿が芽を食む峠道
緑萌え岩肌荒き大本営
バス連ねはるかな峠水芭蕉
花菖蒲笑顔乗せるや車椅子
万緑や湖水に浸る一老木
暑き朝野良猫寝そべる石の上
曙や水玉光る蓮の花
打ち水や虹を浮かべる熱暑かな
夏山や齢重ねた人の波
八ヶ岳夏の頂き富士近し
夏の山三百六十度雲の上
夏空や白き帆を張る海王丸
夕凪や黄金に舞いし童かな
朝もやに車連なる紅葉山
何も無き我人生や紅葉狩り
チリの秋地底の勇者生還す
晩秋やハウスの中にトマトかな
秋雨や一点赤いトマトかな
城の前剣の舞や紅葉燃え
薄ゆれ遥かな稜線白きかな
柿ひとつ白和え思う青い空
御柱霜さくさくと社行く
雨上がり瓦に映る冬の月
鴨遊ぶ渓谷の秋人もなし
冬木立光まばゆい谷の底
空青くバルーンが競う刈田かな
除夜の鐘鳥居をくぐる人の波
大晦日一年巡るそばの味
初春や穏やかなりし駿河湾
合掌の屋根まで届く雪の山
雪吊りが切れんばかりの重さかな
武家屋敷下駄音沈む雪の朝
神前に柏手を打つ春日和
紅白の梅咲きそろう社かな