相続・遺言の基礎知識
相続人の順位
相続人の順位は、次のとおり定められています。
■第1順位 子
- 実子と養子、嫡出子と非嫡出子の区分は問いません。
- 第1順位で相続人となるべき子が被相続人の相続開始以前に死亡するなどした場合は、その子(被相続人からみれば孫)が相続人となります(これを代襲相続といいます)。
■第2順位 直系尊属(親など)
- 被相続人に最も「親等」が近い親が相続人となります。実父母と養父母の区分は問いません。
■第3順位 兄弟姉妹
- 第3順位で相続人となるべき兄弟姉妹が被相続人の相続開始以前に死亡するなどした場合は、その子(被相続人からみれば甥または姪)が相続人となります。
■配偶者(夫または妻)
- 配偶者が存命の場合、上記順位の相続人と並び、同順位で常に相続人となります。
相続人から除外される場合
相続人から除外される場合として、次のような場合があります。
■相続放棄した場合
- 詳しくは「相続放棄」の項をご覧下さい。
■相続欠格にあたる場合
- 欠格事由は民法891条に定められています
■被相続人によって廃除された場合
- 廃除とは、推定相続人(相続人となる予定の者)が被相続人に対して虐待や重大な侮辱などを行った場合に、被相続人が生前に家庭裁判所にて手続きをし,または遺言において意思表示して行うものです。
相続放棄とは
相続が開始した後、被相続人が過大な債務を負っていることが判明した場合、相続人は相続放棄手続きをとることにより、債務を含めた相続財産のすべてについて、相続による承継をしなかったことになります。法的には「初めから相続人とならなかったもの」として取り扱われます。
相続放棄手続きは、家庭裁判所での手続きを経て行う要式行為です。遺産分割協議の中で相続財産の相続を受けないことにする意思表示とは異なるため注意が必要です。
相続放棄申述手続きの流れ
相続放棄は、以下の要件をクリアしていることを確認した上で家庭裁判所に対して申述する必要があります。
- 相続人が自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に行うこと。
- 単純承認事由(民法921条)に該当していないこと。
法定相続分
相続が開始した場合、遺言書に別段の指定(指定相続分)がない限り、相続財産全体について、いったん相続人全員の共有状態となります。
その割合は、次のように定められています。
■配偶者と第1順位(子)が相続人の場合
- 配偶者:2分の1
- 子:2分の1(子が複数あるときは、その間では均等の割合)
■配偶者と第2順位(直系尊属)が相続人の場合
- 配偶者:3分の2
- 直系尊属:3分の1(直系尊属が複数あるときは、その間では均等の割合)
- 実親・養親の区別による相続分の相違はありません。
■配偶者と第3順位(兄弟姉妹)が相続人の場合
- 配偶者:4分の3
- 兄弟姉妹:4分の1(兄弟姉妹が複数あるときは、その間では均等の割合)
- 兄弟姉妹のうちに、父母の一方のみを同じくする兄弟がある場合、その法定相続分は父母の双方を同じくする兄弟の相続分の2分の1となります。
特別受益
相続人のうちに、遺言による贈与(これを「遺贈」といいます)や、婚姻もしくは養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与(生前贈与など)を受けた者がある場合(これを「特別受益」といいます)、これらの生前贈与や遺贈を相続分の前渡しとみて、相続分の計算上、相続財産に加算します(これを「みなし相続財産」といいます)。
この場合、特別受益者の具体的相続分は、みなし相続財産を基礎にして算出された相続分から特別受益を引いた残額となります。
寄与分
相続人のうちに、被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護などにより被相続人の財産の維持または増加について特別に寄与した者がある場合(これを「寄与分」といいます)、これら寄与分を、相続分の計算上、相続財産から控除します(これを「みなし相続財産」といいます)。
この場合、寄与者の具体的相続分は、みなし相続財産を基礎にして算出された相続分に寄与分を加算した額となります。
積極財産(プラス財産)
相続の対象となる積極財産(プラス財産)として、次のようなものが考えられます。
■現金
■預貯金
■不動産
- 土地・建物
■有価証券等
- 株式
- 社債・投資信託
- ゴルフ会員権
■自動車
■貸付金
- 被相続人から他人に対する貸付金など
■宝石・書画・骨董品等
消極財産(マイナス財産)
相続の対象となる消極財産(マイナス財産)として、次のようなものが考えられます。
■債務(借金)
- 銀行・信販会社・消費者金融その他からの借金
■保証債務
- 他人の債務(借金)について、被相続人名義で保証人となった場合の債務
相続財産とならないもの
民法上、相続の対象とならない財産として、次のようなものがあります。
■一身専属権
- その性質上、被相続人その人だけに帰属されるべきであり、相続されることがふさわしくない権利
- 身元保証人たる地位や雇用契約上の使用人たる地位、扶養請求権など
■生命保険金(死亡保険金)
- 原則として相続財産に含まれませんが、受取人の定め方によっては例外もあります
- 相続税を計算する上では相続財産に含まれます
相続のあり方は、遺言書が「ある場合」と「ない場合」とで異なります。
■遺言書がある場合
- 被相続人の意思に従い、遺言書に記載されたとおりに相続されます。
- あらかじめ遺言書に定められまたは家庭裁判所によって選任された遺言執行者が、遺言書の内容の実現を図るべく、相続や遺贈の手続きを行います。
■遺言書がない場合
- 遺言書がない場合、あるいは、遺言書はあるが法的有効要件を欠くなどにより無効である場合、相続財産全体は、いったん相続人全員の共有状態になります。
- 共有割合は、法定相続分による相続の項に記載のとおりです。
- いったん共有状態となった後、相続人全員で協議して、各相続財産(不動産・預貯金・有価証券など)の個別具体的な帰属先を決定します。これを遺産分割といいます。
- 遺産分割が成立すると、個々の具体的相続財産は、相続開始の時にさかのぼり、協議内容のとおりに各相続人に相続されます。
相続財産に含まれる個々の財産について、その具体的な帰属先を決定する手続きが遺産分割です。
遺産分割は、およそ以下の流れで進みます。
1. 相続人の確定
- 戸籍謄本等を収集し、相続人を特定します。
- 相続放棄・相続欠格・推定相続人廃除の有無を確認します。
- 遺産分割に参加すべき当事者を確定します。
- 相続分の譲渡がある場合:相続分の譲渡を受けた者が遺産分割に参加します。
- 制限能力者(被後見人等)がある場合:法定代理人(後見人等)が遺産分割に参加します。
- 行方不明者(不在者)がある場合:家庭裁判所へ不在者財産管理人選任申立てを行い、選任された不在者財産管理人が遺産分割に参加します。
- 利益相反がある場合:家庭裁判所へ特別代理人選任申立てを行い、選任された特別代理人が遺産分割に参加します。
2. 相続財産の範囲の確定
- 積極財産・消極財産の双方について調査します。
3. 相続財産の評価
- 相続財産の分配を公平かつ適正に行うため、相続財産の価値を個々の財産ごとに評価します。
- 相続財産を評価するための主な資料は次のとおりです。
- 不動産:固定資産税評価証明書・路線価など
- 預貯金:残高証明書など
- 上場株式:有価証券残高証明書など
4. 相続分の算定
- 特別受益・寄与分の有無を確認し、具体的相続分率を算定します。
5. 遺産分割手続き
- 共同相続人全員の協議により個々の財産の具体的な帰属先を決定し、遺産分割の合意をします。
- 合意の結果は、遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名押印(実印)します。
- 協議による合意が整わない場合は、次のような手続きを選択します。
- 遺産分割調停:家庭裁判所において、調停委員による調整のもと合意の形成を図ります。
- 遺産分割審判:家事審判事件として、家庭裁判所に遺産分割の審判を申立てます。
6. 個々の財産についての遺産承継手続き
- 遺産分割の内容に基づき、個々の財産の名義変更などの遺産承継手続きを行います。
- 主な財産の遺産承継手続きは次のとおりです。
- 不動産:相続登記手続き(法務局)
- 預貯金:払戻または名義書換手続き(金融機関)
- 有価証券など:相続移管手続き(証券会社)
相続が開始した場合、次のような事項について、届出・変更・廃止などの手続きが必要となります(典型的なもののみを挙げており、これで網羅されているわけではありませんのでご注意下さい)。
7日以内 | 死亡届 |
---|---|
3ヶ月以内 | 相続放棄の申述 正確には「自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内」 |
4ヶ月以内 | 所得税に関する準確定申告 |
10ヶ月以内 | 相続税の申告・納付 |
速やかに | 国民年金・厚生年金・共済年金等 国民健康保険・(勤務先)健康保険等 電気・ガス・水道等の公共料金 生命保険・簡易保険等の保険金請求 相続方法の確定後 不動産の相続登記 預貯金の名義変更 有価証券類の名義変更 自動車の名義変更 その他相続財産(積極財産)の引継ぎ |
遺言とは
遺言は、遺言者の死亡とともに一定の法的効果を発生させることを目的とした遺言者の単独でなしうる法律行為です。
遺言には、正確性と明確性が求められることから、遺言能力に一定の要件があるほか、その方式についても、次のように限定されています。
これらの方式に反する遺言は無効となりますので、十分注意が必要です。
遺言の方式(普通方式)
遺言の方式には普通方式と特別方式の合計7種類ありますが、ここでは、通常なされるであろう普通方式の遺言の方式を取り上げます。
■自筆証書遺言
- 遺言者が、遺言の全文・日付・氏名を自書し、これに押印する方式です。
- どれかひとつの要素が欠けてしまっても無効となります。
- 作成しやすい反面、方式の遵守や遺言の改変・変造等の危険の観点から不確実性が残る方式です。
■公正証書遺言
- 二人の証人の立会いを経て、公証役場の公証人の公証を得て作成する方式です。
- 手続きがやや面倒ではありますが、法律専門家である公証人の公証を得る方式であり、その内容が公証役場にて保管されるなど等,自筆証書遺言よりも確実性が高い方法です。
■秘密証書遺言
- 遺言者自身で作成した遺言を、その内容を秘密にするために封印・押印した上で、その封書を二人の証人と公証人の面前に提出し、公証人がその旨公証して作成する方式です。
遺言の撤回
遺言は、自由に撤回することができます。
ただし、その内容を明確にする趣旨から、遺言作成と同様、方式を遵守することが必要です。
このとき、作成した時と同じ方式である必要はなく、たとえば、公正証書遺言を自筆証書遺言の形式で撤回することも可能です。
子供がいない夫婦の場合
- 子供がいない夫婦の場合、一方の配偶者に相続が開始すると、その第2順位相続人たる親または第3順位相続人たる兄弟姉妹に相続する権利が生まれ、他方の配偶者にスムーズに財産が承継されないおそれがあります。
- よって、他方配偶者に全ての財産を承継させたい場合などは、ご夫婦がお互いに遺言しあうなどの対策が考えられます。
再婚の場合
- 前婚中のお子様と再婚後のお子様がいる場合、遺言を遺さずに相続が開始すると、その子供たち全員で遺産分割協議する必要が生まれるため、協議成立が困難となるケースがあります。
- よって、遺産分割協議を回避して相続させるべく、お子様への財産承継の方法を予め遺言で定めておくなどの対策が考えられます。
法定相続分と異なる相続割合で承継させたい場合
- 民法では、遺言により相続分を指定することができるとされています。
- 相続人に財産を承継させたい場合で、相続人間の相続分の割合を民法の定める法定相続分とは異ならせたい場合は、遺言にてこれを指定しておくことができます。
個別財産について、遺産分割の方法を具体的に定めておきたい場合
- 遺言がない場合、個別の財産(不動産・預貯金・有価証券といった具体的な個別財産)が誰に帰属するかは、相続人の間で遺産分割して定めることになります。
- しかし、ときに協議成立が困難な場合もあり、場合によっては現金に換価して分割せざるを得ない場合もあります。
- こうしたリスクを回避するため、遺言をもって、相続開始後の個別財産の帰属を具体的に定めておくことができます。
法定相続人以外の人に財産を遺贈したい場合
- お世話になった第三者に財産を承継させたいなど、法定相続人以外の第三者に財産を承継させたいケースなどでは、遺言によって遺贈することができます。
遺留分とは
個人の財産は、遺言によって自由に処分することができるのが原則です。
よって、遺言によって相続人以外の第三者にすべての財産を譲渡する(遺贈といいます)こともできます。
しかし、この原則を貫くと、その方と生計を共にしている家族などの相続人が、相続開始によって経済的苦境に立たされるケースも考えられます。
そこで民法は、一定範囲の相続人に対して、遺言の内容にかかわらずに保護されるべき一定割合を定めています。これを遺留分といいます。