日本消化器内視鏡学会甲信越支部

26.閉塞性大腸炎により多臓器不全を呈し大量腸管切除を余儀なくされた大腸癌の1例

新潟市民病院
小川 光平、古川 浩一、倉岡 直亮、五十嵐 俊三、佐藤 宗広、相場 恒男、米山 靖、和栗 暢生、杉村 一仁、五十嵐 健太郎
新潟市民病院 外科
登内 晶子、山崎 俊幸
新潟市民病院 病理科
橋立 英樹、渋谷 宏行

症例は76歳男性。8月7日21時頃より腹痛・嘔吐が出現した。8日に前医内科を受診しCTにて直腸癌+腸閉塞の診断で同院外科にて入院精査となる。同日午後にCFを施行しRsに2型腫瘍を認めた。検査終了4時間後ショック状態になり気管挿管および昇圧剤投与を開始。腸閉塞進行に伴う腸管内圧上昇、bacterialtranslocation(BT)からの敗血性ショックが疑われた。集中治療管理目的に9日17時に当院救急搬送された。すでに肝障害、腎障害、DIC、循環不全を呈し、多臓器不全の状態であった。カテコラミンによる反応も徐々に低下傾向を示していた。外科的介入には全身状態が不安定であり排便、排ガスは認められていたもののBT対策として一段の腸閉塞解除、腸管減圧処置が求められた。術前に経肛門的イレウス管挿入による腸管減圧処置を試みることとし18時にCF施行。腸閉塞は解除されていたが観察範囲の結腸は蠕動消失し粘膜は黒変し粘膜の融解脱落を認めた。広範囲腸管壊死に至っており救命には壊死腸管切除が必要と判断。20時より緊急手術に踏み切ることとなった。開腹所見では壊死腸管は広範囲にわたり結腸全切除、小腸大量切除、空腸人工肛門増設術を施行。術後ICU管理としDIC、肝腎機能障害などの多臓器不全に対して集中治療を行い奇跡的に救命され状態は改善し第32病日に紹介元に転院した。Oncologyemergencyの中でも大腸癌による腸閉塞、閉塞性大腸炎は遭遇する可能性が高い病態といえる。しかし腸管内圧の上昇に伴うBTや粘膜血流の低下をきたすことで急速に全身状態の悪化を招き本来の癌治療とは異なる救命対応を余儀なくされる危険性もはらんでいる。本症例の経過は示唆に富むと考えられ報告する。