門脈ガス血症は腸管壊死で認められる重篤かつ予後不良の徴候とされ、緊急手術適応の一つの指標とされてきた。しかし近年、腸管壊死に起因しない門脈ガス血症に対して保存的加療にて軽快した報告が散見されるようになり、必ずしも緊急手術の適応の指標ではなくなっている。今回我々は、門脈ガス血症と診断し保存的に加療を行い軽快した1症例を経験し、死亡例との比較をふまえ報告する。【症例】82歳女性【既往歴】心房細動、骨粗鬆症【現病歴】20XX年8月22日に下腹部痛を生じ、当院を受診した。その際の理学所見、バイタルサイン、末梢血液検査や動脈血液ガス検査では明らかな異常所見は認められなかった。腹部造影CT検査では、腸管壊死や上腸間膜動脈血栓塞栓などの明らかな所見はなかったが、門脈ガスと腸管壁内ガスを認めた。門脈ガス血症を認めるも明らかな虚血を疑う所見はないため、保存的加療目的に入院となった。【経過】入院第2病日には下腹部痛は残存し、採血検査では高度の炎症を認めた。CT検査で上行結腸の浮腫状変化と腹水を認めるも、腸管の虚血性変化はなく、門脈ガスは消失したため保存的加療を継続した。第5病日には腹痛が消失し、炎症反応も軽快傾向となり、第15病日には経口摂取が開始可能となった。その後、腹痛の再発もなく退院となった。【結語】門脈ガス血症は腸管壊死や腹腔内膿瘍など重篤な疾患を診断する際の手がかりとなり、本症を見たときはその原因疾患の特定に努めるべきである。本症例での門脈ガス血症の原因としては、下部消化管内視鏡検査での上行結腸生検にて一部に虚血性変化があったことから、心房細動による一過性の血栓が原因として考えられる。バイタルサインが安定しており、腹膜刺激症状がなく、CT等の検査で腸管壊死を示唆する所見がない場合は、今回の症例の様に緊急手術を視野に入れながら注意深く経過観察することで保存的治療が可能な症例が存在すると考えられる。