日本消化器内視鏡学会甲信越支部

62.鑑別困難な回腸輪状潰瘍の1例

済生会新潟第二病院 消化器内科
山田 沙季、井上 良介、本間 照、岩永 明人、阿部 聡司、石川 達、渡邉 雄介、菅野 智之、吉田 俊明
済生会新潟第二病院 病理診断科
石原 法子、西倉 健
新潟大学第一病理
味岡 洋一

小腸腸間膜付着側の縦走潰瘍あるいは小潰瘍の縦走配列はクローン病に特異性の高い所見である。小腸輪状潰瘍の鑑別にはクローン病の他に結核、虚血、NSAIDsなどが挙げられる。今回われわれは、イレウスを来たした小腸癌と診断し、外科切除の結果、終末回腸に高度狭窄を来たした輪状潰瘍と、その口側回腸腸間膜付着側に不整型小潰瘍が縦走配列を示す症例を経験した。症例は40歳代、男性。介護職で高齢者との接触多い。家族内に結核患者はいない。20歳代後半から下痢、腹痛を繰り返していたが自然消退していた。再発性あるいは多発口腔内アフタはなく、痔瘻などの肛門部病変の既往もない。NSAIDsを含む薬剤服用歴なし。5年前、腹痛が2カ月続き食べられなくなり当科受診したが、自然軽快した。当時の腹部Xpを見直すと腸管の一部が径5cmと著明に拡張しガス貯留像を認めた。3月前から再び食後腹部膨満感強くなり食事量も減少し6kg/3月の体重減少あり、当科受診した。腸蠕動音は金属音、腹部Xpで小腸鏡面像を認めイレウスと診断した。CRP 4.05mg/dl、貧血Hb 12.9g/dl、低蛋白TP 4.8g/dl、低アルブミンAlb 2.0g/dlの状態であった。CTで、終末回腸付近に高度の管腔狭小化を伴う全周性壁肥厚と口側小腸の広範な拡張を認め、回結腸動脈リンパ節腫大も見られた。EGDでは竹の節様所見を含め異常所見は見られなかった。回結腸動脈リンパ節転移を伴う小腸癌によるイレウスと診断し緊急手術となった。術中所見では、回盲部から20cmに狭窄部があり、同部で回腸は折れ返るように癒着し、腫瘍は認めなかった。切除標本では狭窄部はピンホール状となり裂溝形成を伴う潰瘍を認めた。口側腸管には腸間膜付着側に浅い不整型~縦長の潰瘍が縦走傾向を示し散在していた。残存小腸に大きさ3cm、5cmの糞石を認め摘出した。クローン病を疑い、術後消化器内科へ転科となった。ツ反陰性。切除標本の病理組織では類上皮肉芽腫は認めずクローン病とは確定できず、鑑別困難な回腸輪状潰瘍として経過観察中である。