日本消化器内視鏡学会甲信越支部

38.食道アカラシアに対してPer-oral endoscopic myotomyを施行した1例

佐久総合病院 胃腸科
高橋 亜紀子、小山 恒男、友利 彰寿、篠原 知明、岸埜 高明、久保 俊之、森主 達夫、山田 崇裕

症例は60歳代男性。20数年間前に食道アカラシアと診断され、近位にて合計100回以上の拡張術が施行された。しかし最近では通過障害が改善せず、嘔吐や体重減少を認めたため紹介受診となった。

EGDでは食道内に残渣を認め、食道内腔は拡張し、多発性のびらんを認めた。食道透視では内腔は約3cmに拡張し、異常蠕動波を認めた。以上より、食道アカラシア(紡錘型、grade I)と診断した。

バルーン拡張術無効例に対する標準的治療法は外科的治療であること、保険適応外であるがPOEMという新しい治療法が開発されたことをご説明したところ、POEMを希望された。そこで、倫理委員会の承認後に十分なインフォームドコンセントの上、自費診療にてPOEMを施行した。

挿管全身麻酔下に、切歯より30cmの食道右壁側にグリセオールを局注し、フックナイフにて約2cmの粘膜縦切開を施行した。その後、フックナイフとSpray 凝固effect 2, 60Wを用いて粘膜下層をトンネル状に剥離した。切歯より43cmの部位にEGJが存在し、さらに2cm胃側まで全長約15cmの粘膜下層トンネルを作成した。

その後、粘膜下層入口部から約3cm肛門側より内輪筋切開を開始した。フックナイフを内腔側へ向け、背側を固有筋層に接触させた状態でSpray凝固、effect 2, 60Wで短時間通電すると、内輪筋のみが切開された。この後、Water jetを用いて内輪筋と外縦筋の隙間に生理食塩水を注入し、内輪外縦筋間にスペースを確保しつつ筋層切開を継続した。最後に粘膜切開部をクリップ8本にて閉鎖した。出血はほとんどなく、手術時間は48分であった。

術後疼痛や発熱はなく、翌日のEGDにて出血やクリップに脱落が無いことを確認した。また、食道造影にて造影剤の通過は極めて良好で異常蠕動波は消失していた。同日から経口摂取を再開したが、嚥下は極めて良好で第5病日に退院した。

POEMでは腹腔鏡下筋層切開術に比べ、より長い食道筋層切開ができるため、高い効果が期待されている。現時点では自費診療だが、患者のためには先進医療適応が望まれ、申請に必要な10例以上の手術経験を積むためにもセンター化が必要と思われる。