日本消化器内視鏡学会甲信越支部

36.非典型的な画像所見を呈した膵管内乳頭粘液性腫瘍由来浸潤癌(膵IPMC)の一例

長野市民病院 消化器内科
多田井 敏治、長谷部 修、原 悦雄、越知 泰英、関 亜矢子、伊藤 哲也、岩谷 勇吾
長野市民病院 病理診断科
保坂  典子
長野市民病院 消化器外科
成本  壮一

症例は66歳、男性。既往歴・家族歴は特記事項なし。飲酒歴なし。2013年2月、人間ドックの腹部超音波検査で膵体尾部の嚢胞性腫瘤を指摘され当科に紹介となった。同部は、腹部造影CT、MRI検査では56×60mmの薄い被膜で覆われた単房性嚢胞性腫瘤であり、内部に30×10mm程度の早期濃染を伴う充実性結節を認めた。EUSでは嚢胞性腫瘤内部に40×27mmの低~高エコーが混在した充実性結節を認め、厚い被膜様構造やcyst in cyst、cyst by cyst様所見は認めなかった。ERPでは主膵管の拡張は認めず、嚢胞性腫瘤は膵尾部で圧排された分枝膵管と交通していた。膵液細胞診はClass 3であった。各種画像所見より、非典型的ではあるが、分枝型IPMNと診断し、鑑別診断としてリンパ上皮嚢胞、仮性嚢胞、貯留嚢胞、MCN、SPN、嚢胞変性を伴うNETを考え、5月27日当院外科にて膵体部切除を施行した。切除標本では6×5×4cmの表面平滑な嚢胞性腫瘤であり、内腔に35×20mmの充実性部分を認め、表面に白色調の柔らかい物質の付着を認めた。嚢胞壁は繊維性間質で被われており、嚢胞内腔の上皮は脱落した部分が多かったが、非脱落部には乳頭状増殖を伴う腺腫成分を認めた。その一部に核形不整、核の大小不同を伴う癌成分を認め、繊維性間質へわずかに浸潤していた。腫瘍部(癌、腺腫)は粘液産生を伴っていた。同時に切除された膵組織には分枝膵管が確認されたが、正常上皮で、腫瘍や粘液による閉塞は認めなかった。白色調の柔らかい部分に関しては、フィブリンと壊死物質からなっており、壊死物質の一部に癌が混在していた。TS3(60mm)、i-TS(6mm)、T1、n0 pStage1であった。本症例は、比較的大きな分枝型IPMNでありながら、単房性腫瘤を呈していた。非典型的な画像所見を呈した要因について、病理組織所見と対比して報告する。