日本消化器内視鏡学会甲信越支部

25.診断に苦慮した膵嚢胞性病変の1例

山梨大学 医学部 第一内科
高岡 慎弥、高橋 英、横田 雄大、進藤 浩子、高野 伸一、深澤 光晴、佐藤 公、榎本 信幸
市立甲府病院
加藤 亮、門倉 信

症例は72歳、男性、大酒家。既往歴は気管支喘息。2012年1月中旬より心窩部痛が出現。2月下旬に前医受診、血液検査では膵酵素上昇、炎症反応上昇のいずれも認めなかった。腹部超音波検査、腹部造影CTでは膵頭部腫大と頭部背側に14mm大の嚢胞性病変を認めた。主膵管拡張は認めなかった。慢性膵炎に伴う仮性嚢胞を疑いERPを行うと主膵管に狭窄は認めず、頭部の主膵管から嚢胞が造影された。膵管が破綻して仮性嚢胞を形成したと考え,主膵管に膵管ステントを留置した。EUSでは嚢胞周囲に低エコー領域を認め、慢性膵炎と膵癌の鑑別が困難であり、EUS-FNAを行ったがclassIIであった。その後の経過で嚢胞の縮小を認めないことから,膵管ステントは留置2カ月後に抜去した。8月に再度膵炎を起こし入院となった。CTで嚢胞は著変なかったが、周囲に25mm大の低吸収域を認めた。再度ERPを行い、ENPD留置による連続細胞診は最高でclassIIIであった。画像所見より膵癌を否定できないため、嚢胞周囲の低エコー領域に対してEUS-FNA再検の方針となった。25G針で穿刺を行い、細胞診で不規則な重積を示す細胞集団が見られ、クロマチンの増量および大型核小体も認めたため、腺癌が疑われた。膵頭部癌cStageIIIの術前診断で膵頭十二指腸切除術を施行した。病理標本では分枝膵管から嚢胞壁の一部まで上皮内癌が広範に進展し(35mm)、数カ所で微小な浸潤を認めた。CTでの低吸収領域は慢性膵炎像であった。Invasive ductal carcinoma,StageIと最終診断した。分枝膵管内に上皮内癌が広範に進展したことで膵液の流出障害がおこり、限局性膵炎、貯留嚢胞をきたしたと考えられた。