日本消化器内視鏡学会甲信越支部

2.S1肝細胞癌の診断で肝切除を施行した肝血管筋脂肪腫の一例

新潟市民病院 消化器内科
小川 光平、和栗 暢生、倉岡 直亮、五十嵐 俊三、佐藤 里映、佐藤 宗広、相場 恒男、米山 靖、古川 浩一、杉村 一仁、五十嵐 健太郎
新潟市民病院 消化器外科
眞部 祥一、横山 直行、大谷 哲也、片柳 憲雄
新潟市民病院 病理科
橋立 英樹、渋谷 宏行

【症例】70歳代男性。4年前、前医腹部エコーでS1領域に15mm大の高エコー腫瘤を指摘され肝血管腫を疑われた。造影CTにて早期濃染を認めていたが、この時点では経過観察とされた。他院から精査を依頼され腹部CTを再度撮影したところ腫瘤の増大を認めた。MRIで早期濃染、wash outおよび肝細胞相での低吸収を認め、肝細胞癌を疑われ精査目的に当院に紹介され入院した。【経過】入院時の血液検査では腫瘍マーカーおよびウィルスマーカーは陰性で、その他、特記すべき異常所見は認めなかった。肝動脈造影でS1単発の20mm大の腫瘍濃染を認めた。CTHAで腫瘍は早期濃染しコロナ様濃染を呈しながらwash outした。肝細胞癌の原因となる肝疾患はなかったが、画像所見よりS1単発の肝細胞癌と診断し、肝部分切除術を施行した。病理結果で腫瘍内部は筋性血管、成熟脂肪組織に富み、免疫染色でHMB-45陽性、Melan A陽性、SMA陽性の類上皮様腫瘍細胞を主体とする肝血管筋脂肪腫と診断した。Ki67およびp53陽性細胞は低頻度であったが、腫瘍の肝細胞への浸潤性発育および門脈内浸潤を認めた。【考察】一般的に血管筋脂肪腫は良性腫瘍であるが、脈管侵襲や異型上皮細胞、凝固壊死、遠隔転移などが悪性化を示唆する所見である。またKi67 index 3%以上の増殖能や多中心性発育様式は再発傾向が強いという報告例がある。さらに門脈浸潤を伴う血管筋脂肪腫の報告例もあり腫瘍悪性度との関連が示唆されている。本症例では周囲肝細胞組織への浸潤性発育および門脈内浸潤を認めたことよりmalignant potentialを持つ腫瘍と考えられた。しかし悪性の指標とされているKi67およびp53陽性細胞の頻度は低いことから、現時点でただちに悪性とは言い難い。本症例の今後の経過が本腫瘍の悪性度評価へ与えるインパクトは大きいものと考え報告する。