日本消化器内視鏡学会甲信越支部

67.赤芽球癆を合併した自己免疫性膵炎の一例

信州大学病院医学部附属病院 消化器内科
金井 圭太、日原  優、小口 貴也、岡村  卓、丸山 真弘、渡邉 貴之、岩谷 勇吾、小松 通治、村木  崇、田中 榮司
信州大学医学部附属病院 内視鏡センター
新倉 則和
信州大学医学部附属病院 血液内科
仁科さやか

症例は60歳代、男性。2003年に食後の上腹部痛にて当科受診。閉塞性黄疸を認め、精査にて自己免疫性膵炎(硬化性胆管炎、両側肺門部リンパ節腫脹合併)と診断した。なお、診断時Hb 13 g/dLと貧血を認めなかった。PSL 40mg/日よりステロイド治療を開始し、改善後減量したが9mg/日にて硬化性胆管炎で再燃しPSL  13mg/日にて維持していた。2012年3月労作時呼吸困難を認め、5.8 g/dL(MCV 116.4, MCH 39.7)と貧血の増悪を認めた為、同日当科入院となった。白血球 6670 /μl、血小板 39.1万 /μlは保たれていた。貧血の原因として、葉酸は正常値であったがVitB12 185 pg/mlと軽度低値もA型胃炎なく抗胃壁抗体や抗内因子抗体も陰性であり、VitB12の補充も貧血の改善を認めなかった。EPO  1190  mIU/mlと腎性貧血も否定的であり、上下部消化管内視鏡検査でも貧血の原因となりうる所見は認めなかった。また、溶血を疑う所見も認めなかった。網状赤血球 2  ‰であり、骨髄液検査にて骨髄は低形成で赤芽球系細胞の高度な減少を認めたことから赤芽球癆と診断した。なお、経過で新たに追加した薬剤はなかった。赤芽球癆に対する治療方針としてシクロスポリン導入も検討したがCr  1.71  mg/dlであり腎機能障害の悪化が懸念されたため、ステロイド増量の方針とした。濃厚赤血球輸血を2単位/3週間必要としていたがPSLを60mg/日(1mg/kg/day)に増量したところ、輸血依存から離脱し、11週目にはHb  9.5  g/dLまで改善を認めた。現在、PSLを減量中であるが貧血の増悪を認めていない。赤芽球癆は網赤血球および骨髄赤芽球の著減を特徴とする症候群であり、病因として先天性と後天性がある。自己免疫疾患は本邦における後天性慢性赤芽球癆の病因として、約10%を占める。また、自己免疫性膵炎はIgG4関連疾患の膵病変と位置付けられている。IgG4関連疾患は全身疾患であり、血液疾患を合併することもある。これまで自己免疫性膵炎と自己免疫性溶血性貧血・特発性血小板減少性紫斑病との合併例は報告されているが、赤芽球癆の合併は極めてまれである。貴重な症例と考え報告する。