日本消化器内視鏡学会甲信越支部

52.門脈ガス血症を伴った壊死型腸管虚血症の1例

長野県立木曽病院 外科
小山 佳紀、西川 明宏、秋田 眞吾、河西  秀、久米田茂喜
信州大学病理学教室
小林 基弘、下条 久志

症例は74歳女性。既往に狭心症に対するステント挿入治療歴あり。嘔吐・腹痛を主訴に夜間の救急外来を受診。右下腹部に限局し反跳痛を認めた。BT  36.3℃、WBC  10900/μl、CRP  0.08mg/dl。CTでは終末回腸から肓腸~上行結腸の一部に顕著な壁の肥厚・浮腫像を認めた。明らかな憩室の存在は伺われず、何らかの腸炎であると判断し、保存的治療を開始した。肝内後区域の一部のみに門脈ガス像を認めたが、緊急手術を要する絶対的な所見ではないと判断した。翌朝、腹部の症状・所見は変化なく、腹膜刺激症状を依然認め、血液検査の再検ではWBC  16640/μl、CRP  10.48mg/dlと受診時よりも増悪傾向を呈していた。血液ガス分析はPH  7.436、HCO3-  21.1、BE  -1.9。CTの読影では、終末回腸から肓腸~上行結腸の腫大を認め、粘膜の造影効果が不良であり、一部に壁内ガスと思われる所見を認め、門脈内ガスを伴っており、腸管壊死を来たしている可能性があるとの結果であり、この時点で緊急手術を決定、施行した。開腹時、肓腸~上行結腸壁は発赤、浮腫を呈しており、漿膜面の一部が暗紫色調を呈しているのみであったが、結腸右半切除術を施行し切除組織を確認すると、肓腸~上行結腸の一部まで境界明瞭に粘膜面が黒色調に壊死変化を来たしている状況であった。病理所見では粘膜の壊死、筋層の菲薄化、壁内への出血が認められ、循環障害による変化が考えられる組織像であったが、血管炎や血栓などは認められなかった。第4術後病日より経口摂取を再開し、第13術後病日に退院となった。本症例は、主として動脈硬化を背景に生じた循環障害による腸管粘膜壊死と考えられた。門脈ガス血症はしばしば腸管壁の壊死・損傷などに伴い認められる所見である。若干の文献的考察を含め報告する。