症例は40歳代の女性。生後7ヶ月に軟口蓋の血管腫の摘出術を施行され、20歳頃には胃の血管腫を指摘された。30歳時に貧血と大腸の血管腫を指摘され、当科に初診となった。胃・十二指腸にも血管腫を認め、同部からの出血が貧血の原因と考えられた。同病変に対して結紮術やクリッピングが行われ、鉄剤、トラネキサム酸、カルバゾクロムの投与継続により貧血は小康状態となった。その後も、貧血の増悪時には胃・十二指腸・大腸の血管腫に対し、同様の処置を繰り返していた。また、経過中に咽頭・上顎・鼻腔・肺・肝にも血管腫を認めていた。40歳時には再び貧血症状が出現し、Hb5.7g/dlまで低下したため輸血を行い入院となった。貧血の原因と思われる胃・十二指腸・大腸の血管腫に対しては、結紮術とクリッピングを行い一旦は退院となったが、間もなく貧血の再増悪を認めた。小腸カプセル内視鏡検査では小腸全域に多発する血管腫と、複数箇所からの活動性出血を認めた。小腸血管腫からの出血が貧血の原因と考え、同病変に対してダブルバルーン小腸内視鏡下にポリドカノールを用いた硬化療法を行う方針とした。まずは経口的ダブルバルーン小腸内視鏡を行い、25G局注針にて1カ所につき2ml程度の局注を行った。術後は特に腹部症状や血液データの悪化は認めず、2日後に退院となった。4週間後には再び貧血の進行を認めたため、経肛門的ダブルバルーン小腸内視鏡下に同様に下部小腸血管腫の硬化療法を行い、2日後に無事退院となった。その後、貧血は劇的に改善し、2ヶ月後の現在も貧血は落ち着いている。全身の血管腫症は非常に稀な疾患であり、消化管出血の原因になった場合には治療に難渋することが多い。小腸の病変に対してポリドカノールによる硬化療法が有効であった症例を経験したので、文献的考察を含め報告する。