日本消化器内視鏡学会甲信越支部

36.多発する小腸血管腫からの出血に対し内視鏡下のポリドカノール局注が有効で あった1例

信州大学 医学部 附属病院 消化器内科
山崎 智生、菅  智明、藤森 尚之、日原  優、長野有紀子、中村  晃、齊藤 博美、小林 惇一、岡村 卓磨、小林  聡、大工原誠一、野沢 祐一、福澤 慎哉、中村真一郎、奥原 禎久、山田 重徳、岩谷 勇吾、横澤 秀一、田中 榮司
信州大学 医学部 附属病院 内視鏡センター
新倉 則和

症例は40歳代の女性。生後7ヶ月に軟口蓋の血管腫の摘出術を施行され、20歳頃には胃の血管腫を指摘された。30歳時に貧血と大腸の血管腫を指摘され、当科に初診となった。胃・十二指腸にも血管腫を認め、同部からの出血が貧血の原因と考えられた。同病変に対して結紮術やクリッピングが行われ、鉄剤、トラネキサム酸、カルバゾクロムの投与継続により貧血は小康状態となった。その後も、貧血の増悪時には胃・十二指腸・大腸の血管腫に対し、同様の処置を繰り返していた。また、経過中に咽頭・上顎・鼻腔・肺・肝にも血管腫を認めていた。40歳時には再び貧血症状が出現し、Hb5.7g/dlまで低下したため輸血を行い入院となった。貧血の原因と思われる胃・十二指腸・大腸の血管腫に対しては、結紮術とクリッピングを行い一旦は退院となったが、間もなく貧血の再増悪を認めた。小腸カプセル内視鏡検査では小腸全域に多発する血管腫と、複数箇所からの活動性出血を認めた。小腸血管腫からの出血が貧血の原因と考え、同病変に対してダブルバルーン小腸内視鏡下にポリドカノールを用いた硬化療法を行う方針とした。まずは経口的ダブルバルーン小腸内視鏡を行い、25G局注針にて1カ所につき2ml程度の局注を行った。術後は特に腹部症状や血液データの悪化は認めず、2日後に退院となった。4週間後には再び貧血の進行を認めたため、経肛門的ダブルバルーン小腸内視鏡下に同様に下部小腸血管腫の硬化療法を行い、2日後に無事退院となった。その後、貧血は劇的に改善し、2ヶ月後の現在も貧血は落ち着いている。全身の血管腫症は非常に稀な疾患であり、消化管出血の原因になった場合には治療に難渋することが多い。小腸の病変に対してポリドカノールによる硬化療法が有効であった症例を経験したので、文献的考察を含め報告する。