日本消化器内視鏡学会甲信越支部

1.佐藤式彎曲型咽喉頭直達鏡を用いてendoscopic incisional therapyを行った食道webの1例

山梨大学 第1内科
松田 秀哉、大高 雅彦、石田 泰章、進藤 浩子、小馬瀬 一樹、佐藤 公、榎本 信幸
山梨大学 耳鼻咽喉科
林 亮、金井 真理、石井 裕貴、山本 卓典、初鹿 恭介、増山 敬祐

症例は58歳,女性.既往歴;子宮筋腫と貧血(鉄剤の投薬歴).現病歴;2005年頃より徐々に増悪する通過障害を自覚し,近医より紹介受診.流動物は少量ずつ摂取できるが固形物は飲み込めなかった.身体所見は舌乳頭の萎縮を見る他に異常所見なし.RBC3.44x106,Hb13.3,Ht38.0,Fe191,TIBC314,ferritin72.1と鉄欠乏性貧血はなかった. 内視鏡はXQ260NSを経鼻ルートで挿入。Valsalva法を施行したが喉頭の挙上はできなった.食道入口部近傍で膜様狭窄を認め,深部挿入はできなかった.食道造影では側面像で第6頸椎下縁の高さで全周性狭窄を認めた.CTで腫瘤影はなかった.以上からPlummer-Vinson syndromeに伴う食道webと診断.治療は内視鏡的バルーン拡張術が主であるが,本例は内視鏡先端にフードを付けても観察が不十分と想像され,かつバルーンカテ―テルをpin hole状の狭窄部に挿入することは困難と考えた.耳鼻咽喉科の協力で全身麻酔下に彎曲型咽喉頭直達鏡を用いて広く下咽頭を展開すると食道入口部が確認された.先端フードを装着してさらに進めると膜様狭窄部が出現.Insulated tip knifeを用いて切開波で切開.弓状の粘膜を十数か所放射状に粘膜切開を加えると食道内腔が観察できた.最終的にQ260Jの通過が可能で,全周性に3mmほどの長さで粘膜下層が露出した。穿孔や出血はなかった.術後は食道造影で狭窄の改善を認め,全粥を嚥下することができた.endoscopic incisionは術後狭窄に対する手技として報告され,食道webへの応用は1例の報告を見るのみであった.本例は彎曲型咽喉頭直達鏡を用いることで視野を確保しendoscopic incisionを安全に施行しえたので報告する.