日本消化器内視鏡学会甲信越支部

86.当院で経験した血栓性血小板減少性紫斑病疑いの3例

新潟県立十日町病院外科
吉田  剛、福成 博幸、馬場 裕信、松永 浩子、設楽 兼司、林 哲二

臨床症状や経過より血栓性血小板減少性紫斑病(以下TTP)が疑われた3例を経験したので文献的考察を加えて報告する。症例1、83歳男性。特発性S状結腸穿孔による汎発性腹膜炎に対してハルトマン手術を施行。術後に敗血症、DICを発症し呼吸器管理を含む集中治療を行い全身状態は改善し、経口摂取開始していた。術後6週目に38℃台の発熱、Hb 5.4 g/dl、血小板0.8×104/mm3と著明な低下を認めた。PT比1.13、FDP6.4μg/ml、フィブリノーゲン250mg/dlと凝固系に異常はみとめないものの、感染症によるDICを疑い血小板輸注を含む治療を開始した。症状の改善を認めず、四肢麻痺、紫斑が出現し9日後に死亡した。症例2、67歳男性。胃癌術後腹膜播種、食欲不振にて入院。入院10日後、動揺性意識障害が出現し、Hb5.5 g/dlの貧血、血小板は3.1×104/mm3と著明な減少を認めた。輸血(MAP計14U/3日間)行うもHb8.2 g/dlと上昇は得られず、また血小板も3.0×104/mm3低値のままであり、TTPが疑われた。ADAMTS13活性も35.9%と低下していた。ステロイドパルス療法、FFP輸注を開始するも、全身状態の改善は得られず3日後に死亡した。症例3、78歳男性。大腸癌術後、骨転移に対して化学療法施行中。意識障害を認め入院。血小板は2.4×104/mm3と著明に減少、また腎機能障害を認めた。FDPは29.0μg/mlと上昇していたものの、 PT比0.98、フィブリノーゲン626mg/dlであり、TTPが疑われ、ステロイドパルス療法、FFP輸注、血漿交換を行った。ADAMTS13活性も15.7%と低下していた。意識状態、腎機能、血小板数は徐々に改善されTTPからの離脱を得た。TTPは血小板減少・貧血・腎機能障害・動揺性精神神経障害・発熱を古典的五徴候とし、発生頻度は1〜4人/100万とまれな疾患である。先天性と後天性のものに分かれ、後者はさらに特発性のものと基礎疾患(妊娠、膠原病、悪性腫瘍、造血幹細胞・臓器移植、HIV感染など)や薬剤投与を契機に発症する2次性のものに分けられる。治療は血漿交換が有効とされている。DICとの鑑別が困難であるが、血小板輸注は原則的に禁忌と治療法も異なってくるため、血小板減少症をきたす病態として、臨床上TTPを念頭におく必要があると考えられた。