◆富士重工製レールバス(LEカー)


<概要>
 地方閑散鉄道路線用に1980年代に富士重工が開発した内燃動車である。
その多くは、鉄道車両用の台枠に富士重工R15系バスをベースにした車体を持ち、機関もバス用のものを使用しているので、ここで紹介したい。

(1)第1号試作車
 1号試作車は1982年に製造された。全長11610mmの車両である。
この車両は量産車とは多くの点が異なる。
車体は一世代前のR13系ボディーが基になっており、側面は3E、前面は3Bのものを採用している。
また機関はいすゞの6BD1である。バスではK-CCM ※が採用しているものである。

(2)第2号試作車と樽見鉄道ハイモ180
 続いて1984年に誕生した第2号試作車は、車体長が12mになった。
車体もR15系ボディーを基本となる。
側面の窓ガラスは屋根の肩にまである、カーブドガラスを採用した。 また、妻面は片方は5Bタイプのものが取りつけられた。もう1方は貫通路付となり、この部分は鉄道車輛の工法を採用している。
 機関は日産ディーゼルのPE6Hになり、これは以降のレールバスタイプの車両の殆どで採用された。バスではK-UA31系またはP-UA32系で採用されているものと同じだが、出力は180馬力に絞られている。
なお、当時5Eボディーはパネルボディー化されているが、こちらはリベットボディーである。

 この第2号試作車をプロトタイプとして、樽見鉄道(岐阜県)ハイモ180型が誕生し、1984年10月から営業開始した(ハイモ=ハイ モーターカーの意)。両妻面とも非貫通である以外は、第2号試作車に準じている。3両存在したが、うちクロスシートだった1両は和歌山県の有田鉄道に譲渡された。残る2両も稼働率は低く、2006年に廃車になった。
樽見鉄道ハイモ180-201
1999-4-3 大垣
有田鉄道ハイモ180-101
1995-2-22 金屋口

(3)名古屋鉄道キハ10(11〜16)
 樽見とほぼ同時の1984年9月に運用を開始したのが、実用第1号の名古屋鉄道のキハ10であった。投入されたの路線は、八百津線(明智〜八百津)・三河線末端区間(猿投〜西中金)で電化路線であるが、閑散時にはレールバスの方が効率が良いと判断され購入されるに至った。
 この車輛は第2号試作車と同形態の貫通路付妻面が採用された。側面は5Eタイプのサッシ窓となっている。また11〜14は非冷房車であったが、1985年に増備された15・16は冷房車であった。
 1995年に老朽化から、軽快型のキハ30型に代替され、この車輛は引退した。
うち2両は宮城県のくりはら田園鉄道に譲渡されている。

名古屋鉄道キハ16  91-3-28 御嵩

(3)三木鉄道ミキ180と北条鉄道フラワ1985
 実用第3号になったのは、いずれも兵庫県の国鉄転換線である三木鉄道と北条鉄道の車輛で、1985年4月に営業開始した。
 これらの車両は前面が非貫通であるが、樽見と異なり5Eがベースで、フロントガラスも運転台を位置を除けばほぼそのままである。特に三木の車輛は側面も名鉄・近江と同じ5Eタイプのサッシ窓で、正に「線路を走るP-U32*」である。しかし、北条の方は側面はR3のカーブドガラスタイプなので、やや5Eの面影は薄らぐ。
 北条鉄道の車両は、後に紀州鉄道(和歌山県)に譲渡されている。
三木鉄道 ミキ180-101
1999-4-17 三木
北条鉄道 フラワ1985-3
1999-4-17 粟生

(5)近江鉄道LE10(11〜15)
 2軸車を最後に採用したのは滋賀県の近江鉄道で、1986年のことである。名鉄と同じく電化路線であるが、やはり閑散時にはレールバスの方が効率が良いと判断されて投入された。
 なお、既に1985年11〜12月には、このLEカーのボギー車版が樽見鉄道と明智鉄道に登場した。

 車体は名鉄とほぼ同じであるが、妻面のデザインは明知鉄道と同タイプの平面窓構成になった。
 八日市〜日野〜貴生川に投入された。当初はコスト削減に期待されたが、結局はロードピークの輸送に耐えられないということで、1996年以降電車に戻された。そのため、当形式は廃車となり彦根駅構内に留置されている。


近江鉄道 LE13  1993-8-10 八日市

(5)それ以降
 その後は、2軸車の増備はなく、樽見鉄道・明知鉄道と同タイプのボギー車ばかりになった。車体幅は2軸車がバスと同じ2440mmであるのに対し、こちらは鉄道車輌として標準的な2800mmになっている。これは、バス用の屋根の垂木を2つ切り継いで実現したものである。このため、妻面は非貫通であってもバスタイプのものではなく独自の形態になった。側面窓は逆T字窓を採用している。こうしてバスの面影は少なくなって行く。
 なお、エンジンは出力を絞るのを止め、250PS(PE6HT)のままになっている。

 このボギー車は、1986年に甘木鉄道(福岡県)、長良川鉄道(岐阜県)、1987年に天竜浜名湖鉄道(静岡県)、名古屋鉄道、信楽高原鉄道(滋賀県)、1988年に真岡鉄道(栃木県)、1989年に伊勢鉄道(三重県)に納入されている。このうち信楽の車両はリベットではなく溶接構造になり、真岡の車両は機関がコマツ製(S6D125H-1)である点が特筆される。 
 そして、このバス構造の車輛は1990年にわたらせ渓谷鉄道(栃木県・群馬県)に納入された車両を最後に製造はストップした。丁度5Eボディーの架装が終了した時期と一致する。


甘木鉄道 AR106  1995-8-11 甘木


※2022.11.3 訂正

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