山鹿中2年道徳の学習 熊本の心推進アドバイザー派遣事業 

熊本の心「1足の古たび」


               
ねらい
 ものを大事にする生活習慣を身につける大切さを知り、節度ある生活をしようとする意欲を育てる。


 山鹿市出身の河口愛子の生き方を通して、ものを大切にして慎ましく生きることの大切さは、愛子が生きた明治・大正・昭和の時代背景や当時の庶民の暮らしをある程度理解した上でなければ、理解は難しいと思います。
 河口愛子は1871年、明治4年の生まれです。この年、廃藩置県が行われました。愛子が12歳の年は、1883年 明治16年です。この頃は、板垣退助や大隈重信が自由民権運動を行っている時代です。当時は、ものが少なく、貧しい時代でした。物価が上がり庶民の生活は苦しかったそうです。愛子が郷里の山鹿市で講演した65歳は、1936年 昭和11年でした。この年は、「2・26事件」が起きた年で、政情不安定な時でした。
 私は、1943年 昭和18年生まれの73歳です。私の幼少の頃と愛子の生きた時代とを比較することはできませんが、私の幼少の頃の生活の様子を少し話しますので、私の話から愛子の時代を推し量ってみてください。
 私が幼少の頃は、ものが少なく、人々は貧乏で、生活はとても苦しい時代でした。
 愛子の逸話に、大根の葉を捨てたことを母親から「もったいないことをするもんではない」と厳しくしかられたことが記してあります。指先の破れを繕った古たびをはいて修学旅行へ行ったことがあります。一張羅の着物という言葉があります。
 これらを私の幼少の頃の思い出と重ねてみます。
 私は先ほど言いましたように、昭和18年に農家の長男として生まれました。私が幼少の頃は、どこも貧しくて、ものがなかった時代です。
 愛子が、大根の葉を捨ててお母さんから叱責されたことに似た私の思い出です。
 皆さんは「ばっかり食」という言葉を聞いたことがありますか?保護者の方は聞かれたことはありませんか?(生徒も保護者も初めて聞く言葉)「ばっかり食」というのは、大根の季節は、おかずは大根ばっかり、芋の季節は芋ばっかりということから「ばっかり食」と言っていたのです。大根が芽吹き、少し伸びてくると、間引きします。間引いた大根の葉を朝漬けにしたり、味噌汁の具にしたりしてたべていました。もちろん大根は、葉も調理して食べていました。ものがなかったので食材をうまく調理していたのです。今では、スーパーなどで大根を買うと、葉は切ってありますよね。もったいないことです。でも、貧しい中にも、このように工夫して心豊かに暮らしていました。
 また、「よそ行き着物」という言葉を聞いたことがありますか?私が小さい頃は、普段着とよそ行き着物とは区別していました。普段着はふせだらけです。破れると、母が布の切れ端を継ぎ足して繕っていました。ぼろぼろになるまで着ました。愛子は新調してもらった足袋が焼けて履けなかったので古い足袋を履いた修学旅行に行ったのですが、当時は当たり前のことでした。
 私が小さい頃は、新しい履き物や洋服を買ってもらうのは、盆と正月だけでした。私が11歳か12歳の頃、日照りで米が不作の年がありました。私はそんなことは頭になく、「もうすぐ正月、今年はどんな服を買ってもらえるかな」と楽しみにしていました。ある日、父は目にいっぱい涙をため、絞り出すような声で私に言いました。「小さい弟たちは正月ば楽しみにしとる。小さい子には服ば買うてやろうと思うとる。ばってん、今年は米のとれんだったけんお金の無か。有紀、おまえは去年の服がまだ着らるる。長男だけん、きつかばってんがまんせ。」と。そんな時代でした。
 お客に行くと、母は、ほとんど自分のお膳には手をつけませんでした。私や弟たちが食べきれなくて残したものを食べていました。自分のお膳は、お土産に持って帰っていました。このようなことから、「もったいない」を学びました。
 皆さんは弁当を食べるとき、どこから先に食べますか。私は、というより私と同世代の人のほとんどは、弁当のふたについている米粒から先に食べました。ご飯一粒でも残すのはもったいないから蓋についた米粒を食べるのが最初でした。今でもこうしています。
 今日、着ている上着は私が初めて社会教育主事となった昭和63年の冬、買ったものです。ズボンは、膝や尻、裾の部分はすり切れてはけなくなりました。上着はまで着られます。愛用しています。
 「もったいない」は、日本の貧しさが生んだ文化だと私は思っています。
 現在は、豊かさの中での生活です。スーパーでは葉が切ってある大根を売っています。ものが故障すれば修理するより新しく買い換えた方が安いこともあります。ものがなくなればすぐに買ってもらえます。
 このような時代、難しいことだとは思いますが、それぞれが自分にできる範囲で日本がはぐくんできた文化「もったいない」を常に意識して、ものを大事にする生活習慣を身につけて欲しいと思います。
 このことが、「自分を大切にする」「友達を大切にする」「命を大切にする」など、自他の人権を大切にする心をはぐくむことに繋がると思います。
 先ずは、給食の残さいを無くしましょう。配膳されたものは全部食べましょう。持ち物に名前を書き、落とし物を無くしましょう。ものをすぐに買い換えるのではなく、できるだけ使い切りましょう。
できることから始め、ものを大事にする生活習慣を身につけましょう。
 本日は、私自身が勉強しました。ありがとうございました。