子どもは社会の宝 21世紀の担い手
平成18年8月
多良木町家庭教育講演会

1 はじめに
 ただいまご紹介いただきました中川です。「ありとし」と読みます。これまで私の名前を読めた人はいません。「ゆき」「ゆうき」「ありき」「ありのり」などと読まれます。
 「紀」は21世紀の「紀」で、年月が続いていることをあらわしています。これから「とし」と読ませたのです。「有」は、「たもつ(保)」とくっつけて「保有」という熟語があります。このことから、「年を重ねるごとにそれ相応の人間になれ」という親の願いから付けられた名前です。現在、63歳ですが、親の願いのようにはなれませんが、世界に一つしかない名前を付けてくれた親に感謝しています。親を尊敬しています。皆さんもお子さんにはいろんな願いを込めて名前を付けられたことだろうと思います。その願いを子どもさんに語ってください。
 私には、2人の男の子がいます。もう30を過ぎ、独立していますが小学校、中学校の頃は子育てに悩み、体当たりで妻と育ててきました。
 これからえらそうに家庭教育について話をしますが、決して私は子育てのエキスパートではありません。いつも悩みながら2人の男の子を育ててきました。
 私は、親が子を躾けるとき、子が悪さ、例えば反社会的行為、ルールを破る、弱い者をいじめるなどをしたとき、殴ってもわからせる場合があると思っています。
 私の二人の子はいろんなことをしでかしました。長男が高校生のときです。2階の自分の部屋に行ってなかなか下りてこないときがありました。私は気になって長男の部屋に行きますと、真っ暗な部屋にぼーっと赤いものが見えます。息子がたばこを吸っていたのです。それに気づいた私は夢中で息子を殴りました。ほっぺたがはれるほど殴りました。2階での騒動を何事かと思って妻があがってきました。簡単に訳(わけ)を話すと、妻は自分より大きな息子に向かって「私はあんたをそんな人間に育てた覚えはなか」と体当たりしました。鬼のような形相です。息子は私と妻の態度から自分の心の弱さを反省したようでした。
 次男は高校生のとき、部活動の試合後の打ち上げを食堂でしました。アルコールも飲んだようです。解散するとき、校歌を歌い、高校名を大声で名乗り万歳三唱をしたらしいのです。それを聞いていたお客さんが学校に通報し、翌日から自宅謹慎です。
 親子で学校に喚ばれました。そのとき、校長先生は「天網恢々疎にして漏らさず」という言葉で子どもたちを諭されました。老子の言葉で、天の張る網は、広くて一見目が粗いようであるが、悪人を網の目から漏らすことはない。悪事を行えば必ず捕らえられ、天罰をこうむるという意味です。
まさにこの言葉通りでした。義母は「今時、高校生でも少しくらいアルコールも良かろうに。自宅謹慎とは」と言います。私は「その考えがこういう結果になった。社会でしてはいけないことは家庭でもしてはならないことを私たち大人が反省しなければどうしますか」と義母をたしなめました。ふり返ると、夕ご飯を食べるとき、ビールを飲みながらおまえも1杯どぎゃんや」と言っておりました。これがいけなかったのです。本当に反省しました。
 ちょうど今頃は、親子でクワガタ捕りに行く人もいると思います。そのクワガタ捕りのことについて友達から次のようなことを聞いたことがあります。
 明け方早く、クワガタを捕っていると親子連れが来た。私が10匹ほど捕る間にその親子は1匹も捕ることができなかった。父親は私に「そのクワガタを売ってください」と言う。私は即座に断った。クワガタの捕り方を教えて欲しいというのなら、教えようと思っていたが、売ってくれとは今頃の親は何を考えているのだろうかと思った。と。この話を聞いて考えさせられました。
 先日電車に乗っていると、小さな女の子が靴を履いたまま椅子に乗り外を見ようとしました。若い母親はすぐに注意をしました。「椅子の上に靴のままのったら運転手さんから怒られると言っているでしょう」と。「椅子の上に靴のままのったらだめ。みんなが座る所よ。汚してはいけません」と注意するのが子育てと私は思います。
 他から叱られるから、咎められるからダメと躾けるのか。社会生活を安全に、安心して、気持ちよく送る上で自分の行動を自己規制するために躾けるのか。どちらでしょうか。
 店の人に捕まるから、警察に捕まるから「万引きをしてはいけない」のでしょうか。そうではないはずです。

2 孟母三遷の教えから学ぶ
 昔、孟子という人がいました。紀元前3百年ぐらいの中国の学者です。亜聖といわれて尊敬されていました。だれでもよく知っている孔子様がナンバーワンの聖人で、その孔子に亜ぐ(つぐ)聖人という意味です。「人間は生れながら善である」という性善説を説えた人です。
 孟子はたいへん貧しい家庭に生れたらしく、父母の名もわかっていません。しかし、この孟子の母、略して孟母は、世にいう良妻賢母だったという話です。わが子のために3回も家を住み変えたといいます。
 孟子が子どものころ、その家はお寺の近くにあったといいます。墓地の近くに住んでいて、孟子はその遊び仲間と、いつも墓場で遊んでいたのです。墓場で遊んでいると、そこへやってくる墓掘りや・埋葬・葬式をみることになりますから、孟子たちの遊びも、自然にそれをまねするようになったのです。葬礼の旗をなびかせ葬式行列のまねをしたり、墓掘りのまねをしたわけです。
 それをみた孟子の母は唖然としました。「ああ、情けなや」と思ったのでしょう。そこで、こんなところにいつまでも住んでいたら、わが子の将来にさしつかえる。わが子の出世にさしつかえる。つまり、ここは教育環境によくない、と考えたのです。
 そこで市場の近くに引っ越しました。孟子は、今度は遊び仲間といっしょに、商人のまねをして、商品を秤ではかったり、せり売りのまね、つまり、お店屋さんごっこをして遊んだわけです。
 「ここも教育環境はよくなかった」と孟子の母親は考え、今度は、教育環境をよく考えて、学校の近くに引っ越しました。すると、孟子は当時の中国の学問である礼楽のまねをして遊びました。御先祖を祭る道具をならべ、お行儀の練習をして遊んだのです。今でいう勉強ごっこをするようになり、孟子は学問に励み、後に中国第2の聖人として仰がれるように出世したというのです。
 墓場から市場、そして学校の近くへと3ケ所も住むところをとりかえたので、三遷といい、このエピソードを「孟母三遷の教え」というようになったのです。孟子が成長してりっぱな学者になったのは、このような賢い教育熱心な母親がいたからだ、という話です。
 私は、孟子の母親が考えたように教育環境は子育てでとても大事な要素であると思います。これは、家の周りばかりでなく家の中も同じです。家の中にいかがわしい本が散乱しているより、童話や辞書が整えられている方が良いでしょう。家族がテレビばかり見ているよりも、新聞を読んだり、本を読んだりしている時間が多い方がよいでしょう。
 教育環境はとても大事なことですが、孟母のように移転によって環境を変えるのではなく、大人の努力で環境を変えていくことが大切だと思います。皆さんは、どう思われますか。
 また、子どもを遊び仲間から引き離すことは子育てでは良くないことです。子どもにとって友人ほど大切なものはありません。友人から引き離そうとすればするほど、子どもの心は、親から離れていってしまいます。

3 人は家庭で育ち、学校で学び、地域で伸びる
 この言葉は、私の持論です。昔から3者連携とか融合とか言われています。人はこの連携の上に成長していくと言うことです。
 人の子は未熟な状態で生まれます。子どもが独り立ちできるようになるまで私たち親が保護することが必要です。その保護の仕方、在り方に問題があると言われています。
 保護の形には、「世話」「指示」「授与」「受容」があります。世話が過ぎると子どもは何もしなくなり、基本的生活習慣の定着ができなくなります。みんな周りがやってくれるのですから自分でする必要がありません。指示が過ぎると子どもは自己決定力が身に付きません。進むべき道やすることをみんな周りが指示してくれるからそれに従っていればよいのです。ものは本来自分で準備するものですが子どもはそれができないから授与、つまり子どもにものを与えます。これが過ぎると、ものを粗末に扱うようになります。自己管理能力が育ちません。また、感謝の心が育ちません。我慢する力も育ちません。子どもの言うことをなんでも受け入れていけば、わがままで自分勝手な子どもになります。
 このようなことから、「世話」「指示」「授与」「受容」の4つの在り方が問われます。子どもは保護しなければ生きていけません。しかし、保護をしすぎると良くない結果が表れます。
 人は学習する力を持っています。おもちゃ屋さんの店先で「これが欲しい」とだだをこねたとき、欲しいものを一度買ってやると次にもそうすることがあるでしょう。
 家庭教育は、子どもが独り立ちできる力をはぐくむことだということを肝に銘じたいと思います。
今、独り立ちする力のことを「生きる力」と言っています。この生きる力にはどんなものがあるかを考えて欲しいと思います。あとで一緒に考える時間を取りたいと思います。
○担任との協力・情報の共有
 教育は、信頼関係の上に成り立っています。親が学校や園を信頼しないで子どもが信頼するはずがありません。先ずは、親が学校や園を信頼して欲しいと思います。しかし、教育活動の中で、不信に思うことやフィーリングが合わないことがあります。このときどうするかが問題です。
 上益城の中学校で中体連に向けて生徒に丸刈りを強制したとして問題になったことがありました。家から持ってきたバリカンで髪を切るなど人権侵害も甚だしく、人権感覚を疑います。しかし、マスコミがあのように騒ぎ立てるのは子どもの教育にプラスかどうか。皆さんの子どもさんが当事者だったら皆さんはどう対応されますか。
 保護者が学校や担任にクレームを付けた例をいくつか紹介します。
 1年生の保護者の言葉です。「字は読めればいい。字体もいろいろある。はねなかったり、止めなかったりでバツとするのはいかがなものか。子どもはもっとおおらかに育てて欲しい」。 
 3年生の保護者「隣の組とは進度も違う。宿題の量も違う。学級の雰囲気も違う。とても心配」。
 5年生の保護者 子どもの言うことを真に受けて「うちの子は部活動が好きで部活動を休むことはない。そんな子が部活を休んだ。わけを聞くと先生が部活動には行くなと言ったと言う。そんなことをなぜ言うのか」。
 こんなときには、直接担任の先生と話し合うことです。そして、先生の考えなり指導方針を理解することです。子どもの前では先生の悪口は言わないことです。
 「ピグリマリオン効果」という言葉を聞いたことはありませんか。
 昔、キプロス島の「ピグマリオン」という若い王が、大理石を手に入れ、全身全霊を込めて「理想の女性像」を彫ったのです。その像のあまりの美しさに恋をしてしまい、この像が生命の通う人間であることを願い、信じ続けたです。愛と美の女神であるアフロディテが女性像に命を吹き込むと像に命が宿り、ガラテアと名づけ、二人は結婚。幸福に暮らしたというギリシャ神話からとったもので、信じていることが現実になることをいっています。
 あることを一般的に早くできると思っている母親の子どもは、やはりそのことを成長過程の早い時期にできている、という傾向があるそうです。   
 いつも自分がついていないと何もできないと思っている母親の子どもは、いつまでも自立心が芽生えないそうです。
 俗に相思相愛という言葉があるでしょう。自分が「好き」と好感を持っていると相手も「好き」という好感を持つようになります。自分が「嫌い」「どうもなじめない」「どうもあわない」と思っている相手が、自分に好感を持ったりいろいろと世話してくれるはずありません。教育は指導者を信頼することから始まります。
 社会情勢の変化、家庭環境の変化によって家庭だけではどうしてもできない子育てがあります。ですから地域ぐるみの子育てが今見直されています。さらに、豊かな活動を体験した子は道徳観や正義感が充実しているという調査結果も出ています。
 地域で、「人とかかわる力」「自分の未来を切り開く力」「命を大切にする心」「感動する心」「ふるさとを愛する心」などを育てようではありませんか。
 そのために、「人の役に立てることを実感できる活動」「触れ合い活動」「自然や文化を体感できる活動」「地域を伝える活動」などを作り上げたらどうでしょう。
 以前は、「誰々はどこの子」とほとんどの人が知っていたでしょう。そして、我が子ばかりでなくどの子も分け隔てなく叱ったり、褒めたりしていたでしょう。このようなことが地域での子どもの行動を規制していました。当時は、窮屈で「要らん世話やいてもらわんでもよか」と思っていましたがこれが地域のつながりになっていたのです。

4 あなたは我が子をどんな子に育てたいと思いますか
 話を聞くだけでは退屈ですから、皆さんに考えてもらいたいと思います。隣近所の方同士で6人程度のグループを作ってグループで活動してもらいます。
 先ずは、付箋紙を配りますのでそれに「こんな子に育って欲しい」と自分の思いを書いてください。たとえば、「勉強ができる子」「根性のある子」などです。時間は3分間です。
 次にグループで話し合います。そのやり方は後で説明します。では、始めましょう。どうぞ。

 ・豊かな知識を持った子 ・正しい判断力を持った子 ・やり抜く根性を持った子 ・思いやりを持った子 ・感謝の心を持った子 ・がまんづよい子 ・恥ずべきことをしない子 ・卑怯を憎む子 ・協力できる子 ・自分のことは自分でする子 ・実践力のある子 ・ルールを守ることができる子 ・善悪の判断ができる子 ・人を敬うことができる子 ・挫折からはい上がることができる子 ・命を大切にする子 などが挙がる。

 いろいろと書かれたことでしょう。では、配付してある用紙にどなたか自分が書いた付箋紙を貼ってください。次の人は、私のはよく似ているなと思ったらそのそばに、違うなと思ったら少し離れたところに張ってください。次の人も同じようにして自分が書いた付箋紙を貼ってみてください。
これも3分間です。では、どうぞ。

 いろんな「こんな子」が出てきたでしょう。
 そのかたまりごとに丸でくくって、「こんな子」に育って欲しいために、毎日どんなことに気をつけていますか。どんなことをさせていますか。話し合ってください。

 今考えられた力は、「こうしなさい」「こんな事はしてはいけません」などと一度言って聞かせればできるものではありません。毎日の生活の中で身につくものです。また、毎日の親の生活態度で自然と身につくものです。
 このことをアメリカ人 ドロシー・ロー・ノルトは、子は親の鏡として次のようなことを言っています。


                    子は親の鏡
                                           ドロシー・ロー・ノルト
 けなされて育つと、子どもは、人をけなすようになる

 とげとげした家庭で育つと、子どもは乱暴になる

 不安げな気持ちで育てると、子どもも不安になる

 「かわいそうな子だ」といって育てると、子どもは、みじめな気持ちになる
 
 子どもを馬鹿にすると、引っ込みじあんな子になる

 親が他人を羨んでばかりいると、子どもも人を羨むようになる

 叱りつけてばかりいると、子どもは「自分は悪い子なんだ」と思ってしまう

 励ましてやれば、子どもは、自信を持つようになる

 広い心で接すれば、キレる子にはならない

 ほめてあげれば、子どもは明るい子に育つ

 愛してあげれば、子どもは、人を愛することを学ぶ

 認めてあげれば、子どもは、自分が好きになる

 見つめてあげれば、子どもは、頑張り屋になる

 分かち合うことを教えれば、子どもは、思いやりを学ぶ

 親が正直であれば、子どもは、正直であることの大切さを学ぶ

 子どもに公平であれば、子どもは、正義感のある子に育つ

 やさしく思いやり持って育てれば、子どもは、やさしい子に育つ

 守ってあげれば、子どもは、強い子に育つ

 和気あいあいとした家庭で育てば、子どもは、この世の中はいいところだと思えるようになる

 資料に付けています。帰ってからじっくりと読み直してください。そして、なるほどと感銘されるところがあれば実践してください。
 でも、このようなことは私たち親の心がおだやかでなければできるものではありません。
 昨日のことです。朝食の後片付けをしたとき、私が少し急いだものですから食器からおかずを床にこぼしてしまいました。おもわず「しまった」と声が出ました。それを聞いた妻が「どうしたつね」と聞きます。「おかずをこぼしてしまった」と言いますと、妻は虫の居所が良かったのでしょう。「よかよか、片付ければ済むことたい」と言います。私は救われた思いがしました。今度からは、こぼさないように一度に無理しないで運ぼうと思いました。虫の居所が良かったのだろうと言いました。救われた思いと言いました。いつものことなら「あたが無理して一度に持ってくるけんたい。この急がしか朝に要らん仕事ば作って」と鬼の形相で叱りつけます。そういわれると自分では反省していても反発したくなるものですね。「しまった」と言って大いに反省しているときは、「けがはなかった?」とか「今度から気をつけようね」などと言葉を掛けて欲しいと思います。これには、「虫の居所」ではなく心をおおらかに持つことです。そのためには、先ずは自分自身毎日の生活を楽しみましょう。一家団欒の場を数多く持ちましょう。

6 私の提案(子育ては、生涯学習の視点と人権尊重の視点で)
 私は子育てとは、「時間をかけて丁寧に、大事に育てること」だと思います。「大事に育てる」という意味は、長い期間子育てをすることです。社会性が身に付くような教育をすることです。子育ての究極の目的は、「複雑な社会の中で、その子どもをきちんとした成人にまで育て上げること」です。
 そこで、生涯学習の視点と人権尊重の視点からいくつか提案します。
 先ず、「自尊感情(セルフエスティーム)を高めましょう」ということです。
 自尊感情とは、自分の弱さや欠点なども否定することなく、「自分が好ましい」と思う感情のことで、自己肯定感と言ったりもします。詳しくは、資料2益城町の人権啓発シリーズ「子どもを褒め、自尊感情を育てましょう」を後で見てください。
 テストの結果の親子の会話を聞いてください。
 1年生のありちゃんは、初めてのテストで「40点」を取りました。○を4つももらったのです。うれしくてルンルン気分で急いで家に帰りました。
 「お母さーん、テストで○を4つももらったよー」お母さんもその声を聞いてうれしくなって「どーら見せてご覧」「何ね、これは!たった40点じゃなかね。こんな点でどうするね」と怒りました。
 ありちゃんは、がんばって次のテストでは80点取りました。「今日はお母さんから喜んでもらえるぞ」と急いで帰りました。胸を張ってテストを見せると、「なんね、80点ね。100点取りきらんとね」。
 「よーし、こんどは100点取ってやるぞ」とまたがんばりました。次のテストは100点です。今日こそはとスキップで帰りました。お母さんに見せると「うわー、100点とったね。よく頑張ったね。100点はあんた一人だったの?」「ううん、みんな100点だったよ」「なんて、そぎゃん100点取った人がおるとならいばられんタイ」これにはさすがのありちゃんもがっくりしました。
 こんな親子では、自分を大切にする心など育ちません。子どもの努力を認め、褒め、励まし、伸ばしましょう。充実感・満足感、自己存在感、自己有用感などを体感させましょう。毎日の生活の中で、自己存在感、自己有用感、信頼されている、やればできるなどの思いを数多く実感することで育ってくると思います。資料4熊日読者の広場から拾い上げたものを後でお読みください。
 小話を一つ。
 1学期の終業式の日、お父さんが6年生のありちゃんに聞きました。
 「おーい、ありとし、今日は終業式だったけん通知票ばもろうちきたろう。どう、見せんか」
 ありちゃんはあまり見せたくありませんが、お父さんが何度も見せなさいと言うので渋々見せました。
 「なんや、この通知票はえらい冷たかね。どぎゃんしたつか」
 「おるが通知票ばもろうち来るたんびに父ちゃんが『おまえの通知票は悪なるばかるね』て言うけんこれ以上悪うならんごつ冷蔵庫に入れといた」。
 こんなユーモアのある子だったら素晴らしいですね。
 次は、「豊かな感性(心)をはぐくみましょう」ということです。
 体験の中でも強く心を揺り動かされるような体験、これを情動体験と言います。この情動体験を豊かにしましょう。
 夏の夜空を彩る花火大会、感動しますね。ある年、熊本市の花火大会で目にした光景です。小学1年生くらいの親子連れでした。「うわー、きれい。うわー、音が大きい」と母子で手を取り合って喜んでしました。同じ感動でも2人が共感しあうと、それが増幅するのです。少し移動して人混みの中に来ました。やはり小さな子どもとお母さん。子どもが「うわー、きれい。」「うわー、大きな音」と言うと、「せからしか、静かに見切らんとね」とお母さんが言っています。
 花火を見るという体験でも、どちらが強く心を揺り動かされ、いつまでも心に残るでしょうか。
朝日の出を見て厳かな気持ちになる、夕日を見てきれいと思う、自分が育てた生き物を見て喜ぶ、悲しむ、このような「心を揺り動かす体験」数多くさせてください。それが豊かな感性を育てるのです。人権感覚豊かな人とは、豊かな感性を持った人です。
 3番目は、「コミュニケーション力をはぐくみましょう」ということです。
 社会性を育てるということです。父親がいて、母親がいて、兄妹姉妹がいて、近所のおじさん、おばさんがたくさんいる。たくさんの人に囲まれている環境が社会性を育てます。個室でいくら勉強しても人間関係は学べません。自我や社会性を司る前頭連合野が成熟できないのです。小学生に個室を与えることは進化に逆行する行為だと言う人もいます。前頭連合野が成熟しないからいつまでも自立できないのです。今、社会問題化しているニートや引きこもりなどの要因の一つではないでしょうか。
 社会の変化によって、コミュニケーション力をはぐくむことを阻害するような指導をしなければならないときがあります。本当に残念なことです。私は校長時代「知らない人の声掛けについて行かないようにしましょうよりも、地域で知っている人を増やしましょう」と言い続けてきました。今の若者が話す大人は学校の先生と家族だけというショッキングな調査結果もあります。親自身が新しい友達をたくさん作って豊かに生きていきましょう。
 「人間らしさ」をつくる知性、すなわち、自我、社会的知性、感情的知性の発達は、25歳までが適齢期だと心理学の先生は言っています。地域ぐるみで子育てにあたりましょう。
 4番目は「アサーティブな自己表現力をはぐくみましょう」ということです。
 聞き慣れない言葉かも知れませんが、相手を傷つけないようにしながら自分の気持ちを素直に伝えていく方法のことです。具体的にはどんなことかは資料2益城町の人権啓発記事をご覧ください。
 表現力をはぐくむとか、相手の気持ちを考えるなどは幼い頃からはぐくんでいくものです。そのためにも「読み聞かせをしましょう」。読み聞かせはどこの学校でもPTAやボランティアグループにより行われていますが、基本は親が子どもに読み聞かせることです。昔、寝る前におばあちゃんが子どもに昔話を語っていたでしょう。「かちかちやま」や「あかずきんちゃん」などは子どもの心に残りますよね。
 5番目は、「基礎学力(体力)を身につけさせましょう」ということです。
 「無知は偏見を生み、偏見は差別につながる」と言われています。物事を正しく知り、理解するには基礎学力がなければなりません。
 以上のようなことをお父さんも一緒に子育てにあたって欲しいと思います。しかし、子どもに母親2人は不要です。父親は父親としての接し方をして欲しいと思います。いろんな事情により、両親一緒に子育てにあたることができない家庭もあるでしょう。父親と言うより「父性」と言う方が良いでしょう。「父性で」強さを子どもにはぐくんで欲しいのです。「母性」で優しさをはぐくんで欲しいのです。父親とのコミュニケーションがとれている子ほど「弱い者いじめは許せない」「電車の中でお年寄りに席をゆずる」「小さい子の面倒を見る」などの強さを身につけていると調査もあります。

7 おわりに
 お手元に「熊本家庭教育10箇条」を配付しています。1年ほど前に教育委員会や学校から配付されましたのでご存じと思います。
 第10条を考えたり、「我が家の家庭教育10箇条」を作っていただきたいと思います。
 そして、それを家族全員で共通理解して子育てに当たっていただきたいと思っています。
 時にはお笑いのようなことまで話しましたが、長時間のご静聴ありがとうございました。私が話しましたことが一つでも二つでも皆様の家庭教育10箇条つくりにお役に立つことがありましたら幸いに存じます。
 社会の宝物であります子どもたちが、心豊かに育ちますことを念じて話を終わります。ありがとうございました。

 参加者の感想から

○中川先生の実体験を交えながらとても興味深い講話を聞くことができました。沢山、共感できることがあって楽しみながら充実した時間を過ごすことができました。また、是非参加させていただきたいと思います。ありがとうございました。(20歳代女性)


○保育士として参加させていただきました。「自尊感情」の大切さを改めて感じました。保育の場でも重要なことだと思いました。お話を聞きながら、今までの保育を反省することが多く、見直すことができました。ありがとうございました。(20歳代女性)


○母親・父親が願う子ども像、教師が願う子ども像が一緒でありたいと強く思いました。学校・家庭・地域が連携することの大切さ、また、子どものがんばりを認めることのできる人間でありたいと思う。私自身は自分のことがとても好きです。そのように自分が好きと思える子、向上心のある子が育成できればなあと感じました。考えさせられた講演でありました。ありがとうございました。(20歳代女性)


○子どもに何を望むか、初めて文字に表してみました。楽しかったし、自分の気持ちに驚きました。懇談会などでやってみたいと思います。「子どもが育つ魔法の言葉」はとても興味深かったです。やはり、親の存在、親の在り方は大切なんですね。(20歳代女性)


○あっという間の90分でした。
「こうしてください」「こうしたらいいですよ」という押しつけではなく、失敗談を交えて話されたところにとても共感が持てました。話の中でうなずけるところがずいぶんあり、とても考えさせられました。最後の父性と母性は、本当にその通りだと思います。我が家の家庭教育10箇条は是非話し合ってみたいと思います。(30歳代女性)


○グループ討議などを取り入れられ、メリハリがあり、引き込まれました。小6、小4、小3の子育て中で、最近行き詰まりかけていましたが、先生のお話を聞いてどこの家庭も失敗しながら前に進んでいかれているのだと安心しました。
 読み聞かせも十分にしてやれず、今更反省しても遅いのですが、「情動体験」を積ませてあげようと思います。(30歳代女性)


○担任の先生が変わり、親も不安だった4月、お会いして話し、それを重ねていくことで先生に対する信頼感が持てたとき、子どもも変わったのを思い出しました。「ピグマリオン効果」実感してます。私の言っていることで、子どもは縛り付けられ、心安らぐ時がないように思っています。一人でがんばらなければという気持ちがマイナスに動いてしまって、改めて反省です。
「子は親の鏡」今までの自分を見直し、プラスにしていけたらと思います。(30歳代女性)


○付箋紙を使った考え方はとても分かりやすかった。
 「しまった」と言っているときは既に反省している、このことは心に刻んでおきます。
 生活の積み重ねがとても大切だと言うことがわかった。(30歳代女性)


○演題に興味があり仕事を早退して参加いたしました。その甲斐があり、非常に心に残るお話しでした。まだまだ、沢山お話を聞きたかったです。他の保護者の方にも聞いてもらいたかったですね。ありがとうございました。(40歳代女性)