公民館講座で脳を若返らせましょう
平成18年4月
益城町公民館講座 開講式



1 はじめに
 もう、葉桜の季節となりました。今年の桜もとてもきれいでしたね。
 私たちは、桜が咲いたと喜び、桜が散ってしまったと言ってはわびしさを覚えます。この心境は今に始まったことではないですね。平安時代に、在原業平が詠んだ和歌が古今和歌集にあります。
 「世の中に絶えて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」という和歌です。皆さんご存じの和歌ですね。梅が咲いた、桃の花が咲いた、桜が咲いた、花が散った、このような自然の営みに心を弾ませることは、日本人の心でしょう。 
 自然の織りなす光景に心を和ませ、公民館講座で学び、脳を活性化させ、若返らせ心豊かに生きていきましょう。

2 人は老いる
 平成16年度のいきがい教室で、「老いと生涯学習」の話を聞きました。
 人は加齢とともに脳の活動も鈍くなるということです。人は、40歳代から脳が老化すると言われました。その老化が「ぼけ」です。
 この「ぼけ」には5つの特徴があるそうです。それは、もの忘れが多くなる、物覚えが悪くなる、動作が遅くなる、がんこになる、そして「脳の視野狭窄」と表現されましたが、新しい友だちをつくりにくくなることだそうです。
 私は、今年で63歳です。この5つの特徴がすべて当てはまります。人の名前が直ぐに出てこないのです。先日、ある人と話をしている時のことです。話題が共通の知人の話になりました。ところが、二人とも、その知人の特徴は良く覚えていて話が出来るのに、その人の名前が出てこないのです。「確か、た、何とか言いよったな」とか、「菊池の人で体育畑だったもんな」などです。そしてしまいには「そん人がどうした、こうだった」などと話をしました。終いには「ここまで名前が出かかっとるとに、出てこんてなさけなかなぁ」と互いになぐさめ合っているのです。
 最近は、こんなことが良くあります。家での妻との会話です。
 「おい、あら、どけあるや」「あ、あるな。あら、あすこにあるたい」こんな調子です。おもしろいものでこんな会話でも意外と心は通じ合うものです。
 また、だんだん気が短くなり、頑固になってきました。皆さんも家族や友達からそう言われたことはありませんか?
 このような「ぼけの進行にブレーキをかけるのが生涯学習ですよ。公民館講座ですよ」という話を聞きました。
 最近は、本屋さんに行くと脳を若返らせる本、脳を活性化させる本などのタイトルのついた本がいっぱいですね。

3 今、健康ブーム
 今、健康ブームです。笑い話ですが、「健康のためなら命は要らぬ」と言う人もいるやに聞いたことがあります。ジョギングやウォーキングをする人が大変多くなりました。私も我流ですが、ウォーキングを楽しんでいます。人と会話が出来る程度の運動量での有酸素運動が体に良いそうです。体脂肪を燃やし、健康な体作りに適しているそうです。
 毎年5月、テクノパークで行われる益城町ジョギングフェスタには、県の内外から3000人近くの人が参加します。参加者の走りを見ていると、マイペースでジョギングやウォーキングを楽しんでいます。このように、無理をせずに自分の体にあった方法で継続して行うことが体を若返らせるコツですね。
 脳の働きは食生活とも大いに関係があるそうです。
 皆さん、DHA ドコサヘキサエン酸という言葉を聞いたことがあるでしょう。このDHAは、脳や神経組織の発育、機能維持になくてはならない成分で、人間のからだでは脳細胞に多く存在しているそうです。脳細胞内のDHAの量が減ると、脳の機能が低下して情報伝達がスムーズにいかなくなり、乳幼児の脳や神経の発達が悪くなったり、老化による学習能力や視力の低下を招いたりすることがわかっているそうです。
 そこで、食事でドコサヘキサエン酸を補い、情報の送受信アンテナとも言える神経細胞先端のシナプスの膜にドコサヘキサエン酸を取り込むことによって脳を活性化させる健脳効果は、すでに実証されているそうです。
 このドコサヘキサエン酸は、あじやさんま、いわし、鯖などの青魚に多く含まれているそうです。幼児などのお孫さんに多く食べさせるばかりでなく私たちもこれら青魚を多く食べましょう。
 今はタケノコが旬です。私が七滝小学校にいるこの時期、子どもがタケノコを給食室に持ってきます。そして「給食の先生、今日はタケノコご飯を作ってください」と言っていました。今ではできないことですが、当時は調理員がタケノコご飯を作って給食に出していました。
 そのタケノコにチロシンというものが多く含まれているそうです。チロシンとは、脳を活性化させる神経物質をつくり出すタンパク質に含まれるアミノ酸の一種で神経伝達物質の原料となるものだそうです。神経細胞や、神経細胞間の情報伝達物質の材料となる重要な物質だそうです。
 今が旬のタケノコを大いに食べようではありませんか。
 また、カルシウムが不足すると脳の機能低下を招くそうですよ。
 食生活にも気を配りましょう。詳しいことは、男の料理教室で指導されます栄養士の先生にお尋ねください。

4 公民館講座で脳と体を若返らせる
 東北大学の川嶋教授は、簡単な計算を早くすること、読書をすること、できれば声に出して読むこと、そして、他人とのコミュニケーションをとるによって前頭前野を若返らせることができると言っています。
 お手元に「蜘蛛の糸」の一節をコピーしたものをお配りしています。蜘蛛の糸は皆さんご存じの芥川龍之介の作品です。次のような物語です。
 極楽の蓮池のふちを歩いておられたお釈迦様が、蓮の葉の間から下をご覧になると、地獄の底の様子がよく分かります。そこにカンダタという一人の罪人がいました。カンダタは人を殺したり、放火をしたりの大罪人でしたが、一つだけいいことをしたことがありました。それは、路を這っていく一匹の蜘蛛を見て、「これも小さいながら命のあるもの。その命をむやみにとるのはかわいそうだ」と助けてやったことです。お釈迦様はこのことを思い出され、カンダタを助けてやろうと考えられました。極楽の蜘蛛が一匹美しい銀色の糸をかけているのを手にとられ、蓮の葉の間から地獄の底へそれをおろされました。その蜘蛛の糸を見つけたカンダタは、この糸をのぼっていくと地獄からぬけ出せるに違いないと思い、糸を手にすると一生懸命のぼりました。疲れて一休みし、下を見ると数限りない罪人が自分の後からのぼってきます。自分一人でさえもその重みで糸が切れるかもしれないのに、こんなにたくさんの罪人がのぼってはすぐに糸は切れてしまう。そう思ったカンダタは「こら、罪人ども、この蜘蛛の糸はおれのものだぞ。下りろ。下りろ。」と喚きました。その瞬間、カンダタがぶら下がっているところから糸が切れ、カンダタをはじめ罪人達は地獄の底へ真っ逆さまに落ちてしまいました。あとには、ただ極楽の蜘蛛の糸が、キラキラと細く光りながら月も星もない空の中途に短く垂れているばかりです。お釈迦様はこの一部始終をご覧になって悲しそうな顔をされました。
 と言うお話ですね。昔読まれた方も多いことでしょう。
 皆さん、声を出して読んでみましょうか。
       蜘蛛の糸                  芥川龍之介
 ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。
 やがて御釈迦様はその池のふちに御佇みになって、水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の容子を御覧になりました。この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、水晶のような水を透き徹して、三途の河や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。
 するとその地獄の底に、カンダタと云う男が一人、ほかの罪人と一しょに蠢いている姿が、御眼に止まりました。この陀多と云う男は、人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥坊でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。そこで陀多は早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない。その命を無暗にとると云う事は、いくら何でも可哀そうだ。」と、こう急に思い返して、とうとうその蜘蛛を殺さずに助けてやったからでございます。
 御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、この陀多には蜘蛛を助けた事があるのを御思い出しになりました。そうしてそれだけの善い事をした報には、出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えになりました。幸い、側を見ますと、翡翠のような色をした蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけて居ります。御釈迦様はその蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下しなさいました。

 はい、ありがとうございました。黙読と違って声に出して読むと、意外と読めない漢字に気づいたり、意味が分からなかったりするでしょう。そんなとき、直ぐに漢和辞典や国語事典を引っ張り出して読みや意味を確かめる、これも大事な学習です。
 お釈迦様は、カンダタがいる地獄には、銀色の1本の蜘蛛の糸しかおろされなかったのですが、お釈迦様は私たちには無数の糸を垂らしてくださっているに違いありません。無数におろされた糸を発見し、自分の力でそれを選択し、のぼりましょう。
 今年の公民館講座では、ペン習字をはじめ18の主催講座があります。また、自主講座もたくさんあります。自分にあった蜘蛛の糸(学習内容)を探し、独り占めしないでみんなでのぼっていきましょう

5 助け合い、励まし合い、志高く
 18世紀のフランスの哲学者ジャン・ジャック・ルソーは著書「エミール」のなかで、「生きるということは、ただ息をすることではなくて活動することである。最も長生きしたというのは、最も長い年月を生き延びた人というのではなくて、最も強く生命を感じ取った人のことである。世の中には100年も長生きをして葬られた人もいるが、それだけでは生まれてすぐ死んだ人と同じではないか」と述べています。
 人間にとって一番大切なことは、たとえ寿命は短くても、あの人は立派に、充実感や生きがいを持って生きた人だといわれるような人生を送ることにあったと思われます。人生は長さだけではなく、幅や深さ、そして質もあるのです。そこで重要なことは「生涯青春」という気力を持って生き生きと生き、美しく生きるために、何か情熱を燃やし続けること、心を燃やし生きることです。心が燃えると言うことは何歳になってもすばらしいことです。
 生活の中に緊張と燃えるものを持っている人は、常に生き生きとしていて美しい人生を送っていらっしゃいます。若さの秘訣は自分に適当な負荷をかけ、精神的な張りを持つことと思います。
 また、熊本には「助け合い、励まし合い、志高く」という熊本の心があります。この言葉は、老いも若きも、男も女も、家庭でも、学校でも、地域でも、全ての人が持ってほしい言葉です。
 今とかく、地域の連帯感が薄れていると言われます。公民館講座で学ぶ人たちが、同じ地域に住む人たちが、「助け合い、励まし合う」生き方をすれば、地域の連帯感も生まれます。

6 受講生の皆さんに望むこと
 公民館講座や個人的な学習で学んだことをもとに、地域で助け合い、励まし合うことが共に生き、共に学び、共に育つことだと思います。そこから生きがいが生まれます。「生きがいは、自分という存在がだれかのためになり、だれかの役に立ち、だれかに必要とされ、だれかから尊敬され、だれかから愛され、だれかを愛するという出会いや人間関係の中に見いだすことができる」というまさに自己実現です。公民館講座で学んだことを、地域作りに活かしましょう。
 医学的な取り組みでは、高齢者に学校に来てもらい、学校で読み書き計算に取り組んでもらう試みが行われています。この取り組みで、高齢者が子どもと触れ合うことで高齢者の脳の働きがよくなることが分かっています。
 私たちの脳を鍛えることは地域づくりに役立つと思っています。昔は、高齢者が地域で子どもが悪いことをすれば注意する社会ができていたでしょう。私たちが子どもに分かるように指導すれば、子どもは言うことをきくしルールも身につけます。
 学校では、総合的な学習の時間で地域学習などに取り組んでいます。地域の人材の一人として学校教育のお手伝いをしようではありませんか。