地域みんなで支える学校 みんなで育てる子ども
「学校支援地域本部事業」の推進について〜
平成21年12月16日
益城町立益城中央小学校
  女性の顔が見えます。年齢はいくつくらいだと思いますか?
  お年寄りに見える人?     
  若い人に見える人?
  両方見える人?


 この絵はだまし絵いといます。見ようによってはお年寄りにも若い人にも見えます。しかし、お年寄りとばかり思い込むと若い人にはなかなか見えません。その逆もあります。
 先生方が担任している子どもたちのことも、担任の先生には見えなかったものが、他の人には見えることが良くあります。だから、「子どもを語る」会などでは、ある子に関して先生方どうしで「自分に見えたこと」を意見交換しておられますね。これを先生方ばかりでなく地域の人にまで拡げると、これまで教育に関わったことのない人の目にはもっと違うことが見えてくることがあります。それを交換することで思わぬ効果をもたらすことがあります。
 学校支援地域本部事業は、このような効果もねらっていると私は思っています。「地域みんなで支える学校 みんなで育てる子ども」が学校支援地域本部事業そのものなのです。
 本日は、校内研修の貴重な時間をいただきました。これから私が思う「学校支援地域本部事業の効果」について話をします。
 私は教員1級、今は1種と言いますね。免許状を持っていましたが、全教科を指導することに自信がありませんでした。
 新任時のことです。2年生を担任しました。学年主任の先生が「中川さん。失礼だけど、あなたが音楽の授業をするより、私が教えた方が子どもは力がつくと思う。逆に、私が体育の授業をするよりあなたが指導した方が力がつく。そこで、音楽と体育の授業を交換して教えませんか?」と提案がありました。渡りに船とはこのこと、即座にお願いしました。これが私の教員としてのスタートでした。
 2年目から音楽専科が始まり、苦手な音楽の指導を専科の先生に頼むことができました。
 3年目、高学年を担任しました。学年主任は、中学から転勤してきた美術が専門の先生です。その先生が、「5年・6年で、ミニ教科担任制をやろう」と提案されました。国語、算数、社会、道徳、学級会を学級担任が指導する、理科、家庭、図工、体育、音楽を教科担任制とするというものです。
 指導時間数が違うので時間割編成には頭を悩ましましたが、スタートすると、とても効果的でした。全教科の教材研究をするのではなく、自分が担当する教科のみの教材研究でしたから教材研究が深まり多様な授業ができました。また、子どもたちを5人で指導しましたから、子どもの良いところ、指導すべきところがよく見えました。5人で共通理解して、指導に当たりました。子どもたちに力がつきました。
 私にとってのプラスは、体育、国語、算数など自分で指導する教科指導に自信が持てたことです。特に、体育は同じ内容を2回指導できましたから。1組で指導したように2組で指導してもうまくいかないことがあります。どうしたらできるようになるかを研究しました。また、5年と6年でしたから教材の系統が分かりました。5年生のこの教材が6年のこの教材につながる、5年でここはできるようにしておかなければ6年生ではできないということがよく分かりました。中学校を経験した先生はこのことは良くおわかりと思います。逆に指導しなかった、音楽、家庭、図工は指導力を付けることができませんでした。
 これはマイナスでしたが、私が保護者や地域の人の知識や技術を借りて学習指導を始めた原点でした。
 牛深小学校では、体育の授業で隣の組の先生と組んで合同体育、あるいはTTの授業を進めました。これもとても効果が上がりました。特に、跳び箱や鉄棒、マット運動では効果的でした。等質グループ、異質グループに分けて子どもを指導します。例えば、跳び箱が跳べる等質グループでは、より安全に、より美しいフォームで演技することの指導ができます。また、苦手な子どもを指導するときは、できない原因に共通するところがありますからその共通点を子ども達に発見させ、自分達で矯正させることができます。異質グル−プでは、互いに教えたり学んだりすることができます。
 子どもたちを等質、異質に分けて指導をするのが現在の少人数指導ですね。
 より多様な指導形態を求めて次第にTTの相手方が、教員から地域人材へと広がりました。これがゲストティーチャーあるいはアシスタントティーチャーとよばれるものです。
 私は家庭科の指導が苦手でした。料理も裁縫もできないからです。そこで、保護者にこのことを話し、保護者に手伝ってもらいました。卵焼きの調理実習では、ハムエッグを調理したり、ご飯と味噌汁では、家で漬けた漬け物を持ってきての会食になったりと発展しました。
 図工の指導がなかなかできません。校内写生大会の時、私のクラスからは一人も入選者が出ません。とてもショックでした。たまたま、作品選考の様子を見ていた卒業アルバムの写真撮影にきていた人が、「構図や彩色は、写真と共通点がありますね。」と私に語りかけました。それで、その写真家から構図の取り方などを教えて貰いました。図工の時間に、厚紙で作ったフレームを通して風景を眺めての構図の決め方などを教えてもらいました。
 最近では、一つの道に秀でた先輩から、数時間まるまる指導してもらう授業も出てきましたね。
 このような多様な授業形態が生まれた背景の第1は、子どもたちに確かな学力を付けさせよう、豊かな学習体験をさせようという先生方の思いからです。
 第2は、社会の変化に応じて指導内容や対応すべきことが増え、先生方が多忙を極めるようになったことなどから、先生方の時間的・精神的な負担を軽減しようとの動きからです。
 第3は、地域社会で学習している人がで学校支援活動に参加することによりこれまで培ってきた知識や経験を生かす場が広がり、自己実現や生きがいづくりにつなげようとの思いからです。
 第4は、地域の人が学校に出入りすることが増えることで、子どもの様子が分かり、地域で子どもを育てようとの思いが広がり、地域の教育力を活性化させようとの思いからです。
 また、社会の変化とともに学習内容も拡がりを見せています。人権教育、平和教育、環境教育、福祉教育、国際化教育、郷土学習など、指導する内容が増えています。これらの指導は先生方の力だけでは限界があります。そこで、学校外の教育力に支援を求める場面が多くなりました。専門的な知識や経験を持つ人とのTTで、多様な学習活動が展開できますから。また、地域の大人とふれ合う機会が増え、学習をより身近なものに感じることができますから。
 さらには、児童生徒の暴力行為等に対する指導や対応、一頃社会を騒がせましたモンスターペアレンツなどと呼ばれる保護者の自己中心的内要求への対応、さらには地域への対応など、学校だけでは処しきれないことも出てきました。
 学校だけで子どもを教える時代は終わりました。
 そこで、釈迦に説法というより、大変失礼なことを申し上げますが、先生方の教育指導に関する考え方についての意識改革をお願いする話をします。子どもにより豊かな学習活動を体験させたり、確かな学力を身につけさせるために地域の力を借りたいとの思いを持っていただきたいのです。
 地域人材を活用することにより、子どもたちが地域の大人とふれ合う機会が増えます。学校だけでは経験できないような経験の機会や学習活動が展開できます。学校の環境整備が図られます。多くの大人の目で子どもたちを見守ることで、子どもたちにとって安心・安全な居場所を作ることができます。よりきめ細かな教育にもつながります。子どもの地域に対する理解やボランティアへの関心も高まります。これらは、子どもの「生きる力」の育成に大きく資するものです。
 地域人材を活用することは、結果的には先生方が教育活動に専念でき、子どもと向き合う時間を確保でき、授業準備等に充てることができます。先生方の時間的、精神的ゆとりを生み出すことにつながります。
 先生方に気配りしていただくことはありませんが、社会教育の世界では、「生涯学習ボランティア」という言葉があります。学んだことを生かして社会参加・社会貢献することです。4年生の社会見学で、通潤橋を見学に行くでしょう?通潤橋では、案内ボランティアと記した腕章を付けた高齢の方が案内されたでしょう。山都町では矢部町の時代から、老人大学で地域のことを学んだ方が通潤橋の案内をしておられます。案内していると、子どもたちは、老人大学で学んだこと以外のことまで案内ボランティアの方に質問します。そのとき、案内ボランティアの方は、「はっきりしたことは分かりませんので、調べてから後日手紙でお知らせします」と言っておられます。案内することによって、新たな学習課題が見つかるのです。その課題解決のために学習されます。それが学習の活性化につながり、生き甲斐となっています。つまり、地域住民の自己実現の場となり、地域教育力の向上につながるのです。
 先生方は、地域人材と一緒に学習指導することの必要性やメリットは理解されても、どこにどのような人材がいるのか、どうやってコンタクトをとるのかなど不安なことが多かろうと思います。しかも、毎日の授業をしながらですので時間的ゆとりもありません。
 そこで、学校支援地域本部授業をスムーズに進めるために、地域コーディネーターとして本校には○○さんが配置されています。先生方ご存じの通りです。私は教育委員会にいます。
 今、二人で地域人材の発掘、人材バンク作成、情報提供、そして先生方と地域人材との架け橋の役割を果たしています。
 先生方、○○さんが「そんなにたくさんのことを言われても」と悲鳴を上げるくらい彼女を活用してください。○○さんは、「私にはそんなにできません」と悲鳴を上げるような方ではありませんから。
 本校では、中央小フェスタの午後、地域の方の協力で「昔遊びの店」を出店して、昔遊びを体験しているでしょう。もう、今年で4年くらいになりますか?初年度は、人材を捜し、実施するのに大変なご苦労があったと思います。年を経るにつれ、規模もふくらみました。今年は60人近くの地域の方が昔遊びや郷土料理などを指導されましたね。資料が残り、人材バンクがあるから企画するのにそんなに大変ではなかったでしょう?
 昔から「うったち半分」と言います。うったちが大変で、あとは、流れます。その取りかかりのお世話や地域の人とのコンタクトを森田さんがとります。先生方は、地域の方と授業づくりについて話し合いをすればよいのです。いつもどのクラスかに地域の人が来ているという状況になればいいなと思います。
 これまでに私が見聞きした実践例を紹介します。学校支援本部事業の推進、先生方にとりましての地域人材活用の参考になればと思います。
@「魚はこれ(漁船に装備された魚群探知機)で探すのですか?」
 山間部にある小学校で、海との交わりがあまりない子どもたちにとって、5年生社会科の日本の水産業を理解させるのは難しい学習です。担任の先生は、どうやって理解させようかとかなり悩んでいました。丁度、芦北青少年の家がオープンしました。先生は、5年生の子どもを引率して芦北青少年の家での宿泊体験に行きました。近くに、芦北漁協の魚市場がありました。そこを見学しているとき、偶然にもそこに居合わせていた漁師さんが、「以前七滝の近くに住んでいたことがある」と言い、子どもたちを自分の漁船に乗船させ、漁場を案内しました。漁船の装備や漁の仕方を説明されました。海の貴婦人とも呼ばれる「うたせ船」を間近に見ることもできました。漁の現場で、水産業の一端に触れることができた子どもたちは、日本の水産業についての理解を深めました。先生はこのことを社会科の研究会で発表し、評価を得ました。現在の△△教頭の実践です。
A「今日の授業まで待ちきれませんでした。昨日行ってきました。」
 「校区探検をするときは、地域の方に校区の特徴などを話をしてもらうと子どもはよく理解できますよ」と低学年の先生にアドバイスをしたことがありました。2年生が校区探検をしたときのことです。七滝小学校の周りには見事な竹林があります。あるおじいさんとおばあさんは、「子どもたちがせっかく来るなら、タケノコ掘りをさせよう」と考えられました。2月のことです。竹山には、タケノコはどこにも見あたりません。ところが、おじいさんが地下足袋で歩きながら、「ここを掘ってごらん」と印を付けたところを掘ると、タケノコがあるのです。子どもたちはびっくりしました。そして、おじいさんのタケノコを発見する力に驚きました。
 また、七滝小学校は、以前は「けものみち」だったのではなかろうかと思うような山道を通学していました。その通学路に、昼でも薄暗いほど樹木に囲まれた割と広い所がありました。通学する子どもたちは「暗やみ公園」と名付けていました。担任の先生は、そこの写真を撮って、子どもたちに見せ、「○○ちゃん達が通学しているところです。明日行ってみましょう」と予告したのです。写真を見た一人の子どもは、大変興味を覚えたのです。翌日、校区探検の授業が始まると、「今日の授業まで待ちきれませんでした。昨日行ってきました。」と言ったのです。樹木や葛で遊ぶことができる写真が子どもの興味を沸き立たせ、授業まで待ちきれずに暗やみ公園まで行かせたのです。このときも、子どもたちがここで勉強するならと、地区の方が枝きりや除草をしていました。このことを生活科の研究会で発表し、参加者から評価を得たのが◇◇先生です。
B「これでは地域の人には見せられません」
 七滝小学校は、当時、児童数が60人くらいだったと思います。運動会は地区の運動会と合同でした。体育主任は、地区の代表、消防団や婦人会、体育協会の人たちと何回も打ち合わせて、運動会に臨みました。運動会の全体練習をしているときのことです。私が「もうこれくらいでよかでしょう」と言うと、「今のような子どもの状態では、恥ずかしくて地区の人に見せられません。もう少し、ぴしっとさせます」と入場行進や開会式、閉会式の全体指導をしていました。先生は、「地域の人に子どもが成長した姿を見せたい」との思いから厳しく指導しました。運動会にお出でた教育長は、「あなたの挨拶は短くはなかった。開会式もかなり長かった。にもかかわらず、子どもたちは身動きもしないでいた。指導が行き届いていますね」と私におっしゃいました。体育主任が団体行動の在り方を熱心に指導しました」と応えました。その体育主任が、▽▽先生です。
 これまでの話は、授業時間に地域の人とティームを組んで行った授業実践ではありません。授業づくりで地域の力を借りた実践例です。
 ティームティーチングの形態は、一緒に教材研究をして指導計画を立てる、授業で役割分担して指導する、一緒に評価する、この3つの過程があると思います。この3つの過程で一緒に行うことが一番良いことでしょうが、時間的な制約もありすべてそうはできません。地域の人が持っている知識や技能を活用して、より多様でしかも学校だけでは経験できないような授業づくりをして欲しいと思います。
 次からは、本校での実践です。
C「益城育ち」を運動会の全校ダンスに
 運動会午前の部の終わりに、全校児童・地域の人総出でダンスをして昼の弁当にしようとの思いから、婦人会の方に「益城育ち」の指導をお願いしました。先生も子どもも大勢が体育館で練習しました。学校の運動会では、地域の方が大勢ダンスに参加されました。地区の運動会では、たくさんの子どもたちがダンスに参加したと区長さんや体育協会の方から喜ばれました。
Dからいも植え
 プールの横の空き地にからいもを植えていました。苗の手配、畝づくり、ビニルでの覆いなどを指導をされた方が、泥が流れてしまわないようにと、ブロックでりっぱな実習園を作っていただきました。畑らしくなりました。
E苗床づくりから餅つきまで
 5年生は、米作りの学習をします。当時は、バケツ栽培をしていました。田植えは、水を張った田圃に素足で入り、あのぬるぬるとした感触を味わい、どろんこになりながら農家の人の苦労と喜びを肌で実感することも大事な学習です。学校近くの休耕田を借りての稲作りを勧めました。ある保護者から田圃の提供がありました。ところが、休耕田に稲作りをすると、たとえそれが子どもたちの実習であろうと休耕田の補償が受けられないということが分かりました。そこで、農協の青壮年部の方に相談すると、「休耕田の調整は農協がするので、他の田圃と入れ替えて補償を受けられるようにします」とのことでした。運動場の川向こうの田圃を借りることができました。苗床づくりから、田植え、水の管理、除草、消毒、かかしづくり、稲刈り、脱穀、精米、餅つきと地域の方、農協の方の支援で稲作についての学習ができました。
 苗床の管理中に、台風が来ました。一人の子が苗床の様子を見に来ました。子どもをそうさせたのは、地域ぐるみで学習を展開した効果でしょう。また、運動会では、ダンスに「花笠音頭」、技巧走では、田植えをイメージした走りを演出しました。
 学校だけでは体験できない稲作学習を進めることができました。
Fそろばん学習
 3年生が学習しますそろばん学習を益城町公民館講座でそろばんを学習している人が手伝っています。5珠・1珠を入れるのに、親指を使うか、人差し指を使うか、子どもたちは簡単には身につきません。また、繰り上がりのある足し算・引き算をするのに苦労します。担任の先生一人で、30人から40人の子どもたちをきめ細かく指導するのは至難の業です。そこで、個別学習に入った段階で、一つのグループに一人の講座生が入り、指導を手伝いました。「できたときの子どもの喜ぶ顔を見ると手伝って良かったと思う」と講座生は言います。
 先生は、配慮を要する子の個別指導ができます。子どもは分からないところをすぐに教えてもらえます。地域の人は手伝うことによって喜びやいきがいを感じます。正に学校支援本部事業がねらっているものそのものです。
G「私の顔」を描いてみましょう。
 7月、1年生の図工を手伝いました。「大きく、伸びやかに描こう」と着眼点を示し、授業の進め方の打ち合わせをしました。授業は担任が指導をされました。私は子どもたちに描き方のヒントを与えました。とてもすばらしい絵ができあがりました。
 子どもたちは何と言っていましたか?
 (「これまで描いた絵を全然違う。顔を大きく描くことは楽しい。」などと言っていました。)
H毛筆指導
 習字指導で、先生方は、筆の持ち方から、始筆、運筆、終筆、とめ、はね、はらいなど丁寧に指導されます。しかし、毛筆は自分で書いたものを朱書指導してもらったり、手を取って筆の運びを指導してもらって初めて筆使いが分かります。それで、机間巡視しながら、手を取り筆の運びを指導されます。また、朱書で書いて見せながら指導されます。子どもたちはそれを望んで、先生の机の前に並びます。一人ひとり丁寧に朱書指導されますので、子どもたちは10分、20分並ぶこともざらです。習字の練習に充てる時間より指導してもらおうと並んでいる時間が長いことがよくあります。子どもが並ぶ時間をなるべく短くして書くことに集中させたいですよね。そこに、地域の方の出番があるのです。そろばん指導と一緒で、5・6人が指導のお手伝いをすると、時間が短くてすみます。子どもたちは練習時間が長くなります。ですから効率的に指導できます。個に応じたきめ細かな指導ができます。公民館講座の中に書道教室があります。講座生は、「時間が許す範囲でお手伝いします」と言っています。是非、声をかけてください。
Iぞうきん縫い
 学校支援ボランティア募集のチラシを見た地域の人が、300枚程度のぞうきんを縫って来られました。「子どもたちの掃除に役立ててください」と。100枚程度は本校にあげました。このように現物で支援することもあります。また、冒頭、私のことを話しましたように、家庭科の授業での裁縫やミシンを使ってのぞうきん縫いなど地域の人に協力をお願いしてみたらどうでしょうか。
J室町文化
 6年生の社会科で、歴史学習をします。利休のお茶、雪舟の水墨画、観阿弥の謡曲などを資料集や辞典などで知識として学習するのは良いことですが、なかなか頭に残りません。これら文化の一端に触れる体験をさせたらどうでしょう? お茶を指導する人がいます。水墨画を指導している人がいます。謡曲を指導している人もいます。
 私は6年生の修了式で、はなむけの意味を込めて朱喜の偶成「少年老い易く 学成り難し 一寸の光陰 軽んずべからず 未だ覚めず 地塘春草の夢 階前の五葉已に秋声」を吟じていました。子どもたちは初めて聞く詩吟ですから、笑い出しそうになる子もいましたが、何となく意味が分かり真剣に聞いてくれました。詩吟の響きが心に残ったのではなかろうかと思っています。大げさに言えば、日本文化の一つに触れることができたのではなかろうかと思っています。
 学校だけでは体験できない学習活動を地域の人と創造して欲しいと思います。
K焼き物
 学校では、楽焼きをします。私が指導していた頃の楽焼きは大変でした。素焼きは、30分から1時間に1度くらいの割合で温度調節をしますのでそんなに授業には影響はありませんでした。本焼きは15分から20分くらいで焼き上げるでしょう。しかも、1度にたくさんの作品を焼くことができません。ですから、子どもたちを自習にして楽焼きに張り付いていなければなりませんでした。
 今では、素焼きも本焼きも業者にまかせているでしょう?先生が指導されるのは、作品の作り方と絵付けですよね。
 だったら、本物の焼き物に挑戦させたらいかがでしょう。楽焼きは置物ですが、陶器は使うことができます。例えば、自分で作った世界に一つしかない湯飲みを毎日使うことができるのです。公民館講座で陶芸を学んだ方が、「いつでもお手伝いします」と言っています。窯は公民館にあります。来年度は陶器作りに挑戦させることを検討してください。
 10月、上益城教育フォーラムが甲佐町で開かれました。そのとき、田浦小学校の学校支援について発表がありました。田浦小学校では、国語や算数の採点の手伝いもしてもらっているとのことです。採点の基準が分からず、戸惑うこともあったそうですが、先ほど習字の個別指導で話したように、数人で採点するので子どもたちは、先生の前に長時間並ばなくてすみ、学習が効率的にできるということでした。
 地域の人とティ−ムを組んで授業を行うことがまだ一般化していなかった頃、御船小学校で地域の方とティ−ムを組んだ6年生社会科「戦争が終わった頃の御船町の様子」の授業がありました。
 「今日は、当時の地域の方をお呼びしています。どうぞお入りください」と先生が声をかけると、和タオルを頭に巻き、久留米がすりの着物にもんぺをはき、わら草履を履いたおばあさんが登場しました。これには子どもたちがびっくり。おばあさんは当時の話をされました。子どもたちから質問を受けました。その中に、「当時はどんなものを食べていましたか?」がありました。準備してあっただご汁を一人ひとりに配りました。給食が終わってすぐの5時間目の授業であったにもかかわらず、子どもたちは「おいしい」と言って食べていました。事前に、授業づくりを話し合うとき、子どもたちから当時の遊びや食べ物について質問がきっと出るだろうと予想してだご汁を準備していたのです。授業は大成功でした。こんな授業は先生だけでは絶対できません。
 このように地域の人をゲストティーチャーとした授業づくりは子どもたちに多様な授業形態を提供します。それがおもしろい授業、よく分かる授業につながります。
 そこで、益城町ではお手元に配付しています「ボランティア募集チラシ」により、ボランティアを募集しています。地域の方が少しずつではありますが、登録しておられます。公民館講座生も登録しています。それを人材バンクとして人材を確保しています。是非活用してください。
 終わりに、中国のことわざに、「聞いたことは忘れ、見たことは覚え、体験したことは理解できる」というのがあります。「百聞は一見にしかず」ということわざがありますが、「体験したことは理解できる」というところに注目してください。
 また、「子どもは体験したことはできるが、体験しなかったことはできない」という言葉もあります。授業の中でいろんなことを体験させてください。
 プロ野球、楽天の監督だった野村克也さんは、「財を残すは下 仕事を残すは中 人を残すは上」という言葉を残しています。
 私は、この言葉に「感動を残すは最上」を付け加えたいと思います。
 「財を残すは下 仕事を残すは中 人を残すは上 感動を残すは最上」
 子どもたちに多様な学習活動を提供し、より確かな学力を付けてください。
 先生方は、時間的、精神的ゆとりを求めて、地域人材を大いに活用してください。そのことが、地域の方の自己実現につながり、地域の教育力向上につながります。
 「益城中央小学校には地域の人がいつも来ている」との声が聞けるようになることを願って話を終わります。