子どもは家庭で育ち、学校で学びます
平成21年11月19日
益城町立益城中央小学校 就学時検診 入学前の家庭教育

 みなさん、今日は。
 本日は就学時検診ですね。私が学校に来る途中で、お子さんと一緒に歩いて来ておられる方を何人か見受けました。
 お子さんと歩いてこられた方? おっ、何人もいらっしゃいますね。
 車で来られた方? 仕事の関係などで車を使われたのですね。
 後で話しますが、お子さんが入学するまでに、何度もお子さんと一緒に学校まで歩いてください。できるなら、天気の良い日、風がある日、雨降り日、朝、子どもたちが登校する時間帯に、そして下校する時間帯に。条件が違う日に学校まで歩くことでお子さんはたくさんのことを学ぶはずです。
 私が本校に赴任した年、雨の日は、車が学校までたくさん来ていました。子どもが雨に濡れないようにとの親心、祖父母心から子どもを学校まで送ってこられるのです。この親心は、子どもにとってはかえってマイナスになると強く言って、止めてもらいました。子どもは雨の日、傘を差して歩いてみて初めて、なるだけ雨に濡れない傘の差し方を学ぶのです。傘を差して対向してくる人とすれ違うとき、どうするかを子どもなりに考えます。入学後は歩いて登校させてください。
 お子さんが初めて入学する方、手を挙げてみてください。大体3分の1くらいでしょうか。お子さんは入学をとても楽しみにしているでしょう? 
 もう、ランドセルを買っている方? 何人もいらっしゃいますね。
 机も買っている方?
 お子さんは机の前に座ったり、ランドセルをからってみたりして、入学の日を今か今かと待ち望んでいますよね。
 お子さんの待ち望む姿とは逆に、特に、初めてお子さんが入学するところは心配なことが多いことでしょう。しかし、案ずるより産むが易しのたとえのように、お子さんはすぐに学校生活に適応します。お父さん、お母さんの心配も杞憂に終わります。
 そうは言っても、心配は心配です。そこで、これから私の子育ての体験から、孫育ての体験から、教員として子どもの指導に関わった体験から、校長として子どもをみてきた体験から、そしていろんな識者の提言から入学前の子育てについて、私の思いを話します。
 その前に、配付しています資料について説明します。
 熊本県教育委員会が作った「家庭教育10箇条」があるでしょう。10箇条といいながら、9箇条しか書いてありません。最後の1箇条は、「各家庭で考えて、書き込んでくださいよ」という意味です。本棚などにしまい込まないで、みんながいつも目にするところに張っておいて、子育ての指針にしてください。
 それから、ドキドキ子育て 家庭教育手帳 乳幼児編があるでしょう。これは、コンパクトな冊子になっています。お父さんだったら、ポケットに入る大きさです。お母さん方はハンドバックに入る大きさです。いつも持ち歩いて、子育てについて悩みや疑問などがあるとき、即座にこの冊子を拡げて、子育てのヒントにしてください。これも本箱にしまい込まないで、いつも持ち歩いて活用してください。この中のいくつかについて触れます。
 私の話のレジュメと資料があります。ここに書いていることはすべて話ができません。帰ってから是非目を通してください。手前味噌になりますが、私が新聞社に投稿したものを4点載せています。時間があったら読みたいと思います。
 まず、子育てに当たって持ちたい視点を5点挙げます。
 楽しむ視点を持ちましょう。子育てには、悩みや不安はつきものです。だからこそ、お子さんが成長した姿を見てうれしいのですから。    
 スローな視点を持ちましょう。つまり、子育てはてまひまかける行いということです。今は、スイッチ一つでほとんどのものが動きます。子育てはそうはいきません。手間暇をかけましょう。手塩にかけるという言葉があるでしょう。他人任せにしないで、自ら大事に世話をすることです。 
 生涯学習の視点を持ちましょう。子育ては親育てという言葉がある通りです。子どもも親も共に伸びましょう。    
 人権尊重の視点を持ちましょう。人は家庭でも、幼稚園や保育園、学校でも、地域でも一人では生きていけません。助けあい、励ましあい、思い合い、共に生きましょう。
 私たちが案外忘れているのが、親は子どもより早く死ぬという視点です。親が子どもより先にあの世にいきますね。だから、子どもが独り立ちだちできる力を付けることが求められるのです。
 これから私の提案を7つ挙げます。

 提案1は、「家族みんなが楽しく過ごす家庭」をつくることです。   
 安らぎのある家庭をつくりましょう。笑い声や歌声にあふれた家庭です。そのためには、親が幸せになることです。親のイライラは子どもに伝わります。親の心の健康・心の安定が大切です。心が安定していなければ子育てに一貫性がなくなります。同じことをしているのに、昨日は何も注意されなかったのに今日はとても叱られたでは、子どもは親に不信感を持ってしまいます。子どもから目を離さずにいつも温かく見守りましょう。
 会話を増やし、家族のきずなを深めましょう。それが、「あなたの命は家族が守る」の強いメッセージを子どもに伝えることになります。
 子育ての基本は、夫婦仲良くが一番です。

 提案2は、「自分の生命は自分で守る」を教え込むことです。
 冒頭お話ししたとおりです。お子さんと一緒に何度も学校まで歩いてください。そして、交通規則、危険箇所を丁寧に教えてください。
 もう20数年ほど前になりますが、熊本市内で入学間もない子が交通事故で命をなくしました。
いつもは自宅へ帰っていたのですが、その日は親に用件があって、おじいさんの家に帰るように言われていたそうです。いつも登下校する道路ではなかったので交通事情が分からなかったのかも知れません。交通量の多い道路を横断したのです。自分の目の前の車線は渋滞のために車が止まっていたそうです。反対車線は、車がスピードを出して走っていたそうです。子どもは、目の前に車が止まっているのを見て、自分が横断するので車が止まってくれたと思ったのでしょうか。車の間を横断して、反対車線に出たとき、走ってきた車にはねられて即死状態だったということです。本当に痛ましい事故でした。
 益城中央小学校近辺も車の通りが多いでしょう。危険を知ること。そして交通ルールを守ることを入学前までに親子で何度も登校して、危険箇所を教え込んでおいてください。
 また、自分の名前、親の名前、区の名前、電話番号などは言えるように指導しておくことです。それと、地域の中で知り合いを増やして欲しいと思います。

 提案3は、「ルールを守る」を厳しく教えてください。
 うそをつかない、無益な殺生をしない、ものを盗まないは、躾の基本です。
 お子さんがまちがった行いをしたときは、愛情を持って本気で叱ってください。そして、ルールを守ること、自分がしたくてもがまんしなければならないことがあることを教えてください。社会で許されないことは、家庭でも学校でも許されません。

提案4は、「自分を大切にする心、自尊感情をはぐくむ」ことです。
 私は今、益城中央小学校、津森小学校、飯野小学校の子どもたちの希望者にそろばんを教えています。
 子どもたちの中には、「できるようになりたい」と泣きながら、何度も何度も聞きに来る子がいます。
 2〜3日練習して、「自分にはできない。分からない」とやめてしまう子がいます。
 周りの雑音も気にせず、そろばん学習に集中する子がいます。
 周りの子がおしゃべりを始めるとすぐにそちらに流されてしまう子がいます。
 私はこれら子どもの違いは、能力差ではなく、自尊感情の差だと思います。子どもにとって一番大切な自尊感情が、就学前、小学校時代はあまり見えないのです。中学生になれば、すぐに分かります。学習内容が難しくなります。高校受験があります。これに挑戦する子どもの姿で自尊感情の高低が見えてきます。なかなか見えにくい幼児時代からお子さんに自尊感情を育ててください。
 学校では、「認め、褒め、励まし、伸ばす」視点から子どもたちを指導しておられます。これが、子どもの自尊感情を育みます。この認め、褒め、励まし、伸ばすは、学校の専売特許ではありません。家庭でも、大いに認め、褒め、励ましてください。子どもたちは、単に褒められてもうれしがりません。子どもをしっかり見つめ、昨日まで出来なかったことが出来るようになったことや、分からなかったことが分かるようになったことなど、その伸びや行いを見つけ、認め、褒めてください。それが自尊感情の醸成につながります。
 孫のことで、平成18年1月熊日新聞に投稿した「子どもをほめて自己実現増幅」読んでみます。


                            「子供をほめて自己実現増幅」

 小学校1年生の孫が通知票を持って来た。通知票には、学習の様子、係の役割、出席状況、身体の様子、そして子どもの学校での暮らしぶりが所見として担任の先生の心温まる言葉で、実に丁寧に書き記してある。
 所見を声に出して読み、「うわー、2学期は1日も休まなかったんだね。体が丈夫になったね。『計算ができる』や『本読みができる』は、三重まるになっている。勉強もがんばっているね。係の仕事も一生懸命している。お友達とも仲良く遊んでいる。すごいぞ!」とほめると孫は、はにかみながらもうれしそうに「学校は楽しいよ。」と声を弾ませて応える。家族一人ひとりに通知票を見せながら、学校での様子を話している。その得意げな顔。瞳が輝いている。
 自分がしたことを人から認められたり、ほめられたりすることで存在感や有用感を実感する、いわゆる「自己実現」を味わっているのであろう。この自己実現が、現在はもとより生涯にわたっての学習意欲をかきたてる源であるという。公民館講座やカルチャーセンターなどで学んでいる意欲旺盛な人のほとんどは、小中学生時代に「自己実現」を実感する機会が多かったようだ。
 子どもたち一人ひとりの学習や生活の様子などつぶさに観察し、通知票にまとめて保護者に伝えることは大変な労力であろう。先生方のご苦労に頭が下がる。心を込めて作られた通知票をもとに家庭でも子どもたちを認め、ほめ、励まし、伸ばしたい。このことが子どもたちの「自己実現」を増幅させ、学習意欲旺盛で主体的に生きる人づくりにつながるはずだ。

 この自己実現を実感するごとに、自尊感情が育まれます。だから、認め、褒め、励まし、伸ばすことが大事なんです。それにより、向上心、チャレンジ精神が旺盛になります。
 また、「うゎーすごい」「うゎーきれい」「うゎーおいしい」などの感動を親子で実感してください。感動が心を揺さぶります。
 夏の夜空を彩る花火大会、感動しますね。益城町では8月の夏祭りの後で花火大会が行われます。尺玉という花火は、音も大きいし、大空に描く花も大きくて綺麗ですね。花火をみてみんなが感動しています。私が熊本市の画図湖での花火大会で目にした光景です。小学1年生くらいの親子連れでした。「うわー、きれい。うわー、音が大きい」と母子で手を取り合って喜んでしました。少し移動して人混みの中に来ました。やはり小さな子どもとお母さん。子どもが「うわー、きれい。」「うわー、大きな音」と言うと、「せからしか、静かに見きらんとね」とお母さんが言っています。同じ花火を見るという体験でも、どちらが強く心を揺り動かされ、いつまでも心に残るでしょうか。同じ感動でも2人、3人で共感しあうと、それが増幅します。
 「楽しい」「悲しい」「うれしい」「くやしい」などの体験を豊かにして、喜怒哀楽体験をたくさんさせてください。
 友だちと「なかよく」遊び、いじめや差別をしない子どもに育ててください。いじめや差別は人間として恥ずかしい行為であることを言い聞かせて欲しいと思います。

提案5は、「子どもの生活リズムを確立する」ことです。
 「早寝・早起き・朝ご飯」という言葉は、よく耳にされるでしょう。なぜ、早寝・早起き・朝ご飯かを見てみましょう。
 早寝・早起き・朝ごはんは人間の土台づくりにとても重要なことです。
 早寝・早起き・朝ごはんは生活すべてに繋がっています。
 早寝・早起き・朝ごはんは学力の向上や少年犯罪と相関関係にあるということもいわれています。
 子ども達の成長ホルモンは、午前0時前に最も多く分泌され、この時に一番深い眠りに入っていることがのぞましいといわれています。幼児期をピークに分泌され、思春期まで二次性徴を抑制するメラトニンという成長抑制ホルモンの量も睡眠に左右されるそうです。成長ホルモンの分泌を考えると、午後11時から午前2時はぐっすり眠っていることが大切です。寝る時刻は、遅くても9時30分が良いでしょう。
 私たちは昼行性の動物で、人の体内リズムは25時間です。自然界は24時間です。この1時間の差を調節するのが朝陽です。朝陽を浴びて脳を目覚めさせることで24時間のリズムにリセットするのです。ですから、朝は、遅くとも7時には起こすことです。
 皆さんが小中学生の頃、午前中にはどんな教科を勉強しましたか?体育や音楽が1時間目にあった記憶はあまりないでしょう。だいたい1時間目、2時間目は国語か算数です。脳が活発に活動するときに国語や算数を学習していたはずです。学校は、8時40分頃から授業が始まります。この授業の始まる2時間前には、子どもを起こしておきましょう。1日の始まりは、朝のカーテン開けから始めましょう。
 お母さん方はご存じですが、明け方が体温は一番低いですね。朝ごはんのエネルギーで体温を上げることによって、脳の働きが活発になり、学力も向上します。エネルギーにかわりやすいものを朝食にとりましょう。ごはんとみそ汁やパンと牛乳が良かろうと思います。遅刻する子どもは朝食を食べておらず、学力も伸びないというデータが出ています。
 整理整頓の習慣を早くから身につけさせることです。お子さんは、小さい頃、「自分でする」と言っていたでしょう。お子さんにできることは、少々ぎこちなくともお子さんにさせてください。特に、遊び道具の後片付けはお子さんにさせてください。これが整理整頓の習慣化につながります。
 テレビの長時間視聴は、脳の発達に悪影響を与えます。日本小児科医会「子どもとメディア」対策委員会は、平成16年1月テレビ視聴について提言をしています。


 (前の部分略)

 影響の一つめは、テレビ、ビデオ視聴を含むメディア接触の低年齢化、長時間化です。乳幼児期の子どもは、身近な人とのかかわりあい、そして遊びなどの実体験を重ねることによって、人間関係を築き、心と身体を成長させます。ところが乳児期からのメディア漬けの生活では、外遊びの機会を奪い、人とのかかわり体験の不足を招きます。実際、運動不足、睡眠不足そしてコミュニケーション能力の低下などを生じさせ、その結果、心身の発達の遅れや歪みが生じた事例が臨床の場から報告されています。このようなメディアの弊害は、ごく一部の影響を受けやすい個々の子どもの問題としてではなく、メディアが子ども全体に及ぼす影響の甚大さの警鐘と私たちはとらえています。特に象徴機能が未熟な2 歳以下の子どもや、発達に問題のある子どものテレビ画面への早期接触や長時間化は、親子が顔をあわせ一緒に遊ぶ時間を奪い、言葉や心の発達を妨げます。
 影響の二つめはメディアの内容です。メディアで流される情報は成長期の子どもに直接的な影響をもたらします。幼児期からの暴力映像への長時間接触が、後年の暴力的行動や事件に関係していることは、すでに明らかにされている事実です。メディアによって与えられる情報の質、その影響を問う必要があります。その一方でメディアを活用し、批判的な見方を含めて読み解く力(メディアリテラシー)を育てることが重要です。(略)

具体的提言
1 2歳までのテレビ・ビデオ視聴は控えましょう。
2 授乳中、食事中のテレビ・ビデオの視聴は止めましょう。
3 すべてのメディアへ接触する総時間を制限することが重要です。1日2時間までを目安と考え ます。テレビゲームは1日30分までを目安と考えます。
4 子ども部屋にはテレビ、ビデオ、パーソナルコンピューターを置かないようにしましょう。
5 保護者と子どもでメディアを上手に利用するルールをつくりましょう。

 この提言について、是非家族で話し合ってください。そして、テレビ視聴のルールを家庭で作ってください。
 テレビやゲームのし過ぎは、脳の司令塔だといわれている「前頭前野」の発達に悪影響を与えると、東北大学の川嶋先生は警鐘を鳴らしています。


(前の部分略)
前頭前野の働きは、
@顔の表情や声の様子から、人の気持ちを推測する働きがあります。
Aものを覚えるという気持ちも、前頭前野から出てきます。
 「覚えるためには繰り返し練習しなきゃ!」と前頭前野が教えてくれるのです。
B「さあ、がんばるぞ!」という「やる気」、なにかをやってみようという「やる気」「挑戦する気持ち」も前頭前野から出てきます。
C反対に、やってはいけないことはしない、という気持ちも前頭前野から出てきます。
 人を傷つけてはいけない・盗んではいけない、これも前頭前野が教えてくれています。
D悲しいこと、くやしいしいことがあっても、人前では顔に出さずに我慢する気持ち、これも前頭前野の働きです。前頭前野がうまく働かないと、ちょっとしたことでも、すぐに怒ったり、めそめそしてしまいます。
E前頭前野は、いろいろなものを発明する力も発揮します。ノーベル賞をもらうような発明や発見をする人はとても上手に前頭前野を使えるのです。(以下略)

 子どもの前頭前野の成長を阻害するようなことがあってはなりません。

提案6は、「知的好奇心をくすぐり、きまりを教える」ことです。
 「これ、なーに?」「なぜ?」の知的好奇心が学習の始まりです。これを大事にしてください。
 「自分でする」は、自主性の始まりです。
 「あそび」を大切に。外での元気な遊びが子どもを大きくします。遊びの中で知的学習を重ね五感を育てます。
 孫娘達の遊びについて、今年の9月、朝日新聞に投稿した「ままごと遊びで想像力を養おう」を読みます。


          ままごと遊びで想像力を養おう

 先日、庭の芝刈りをしていると、2人の孫娘が小屋から植木鉢やその受け皿、移植ごて、剪定ばさみなどを取り出した。移植ごてで花壇の土を掘り起こして丸めたり、水を加え泥水を作ったり、私が刈った芝を集め水で洗ったりしている。杉の丸太に腰掛け、縁側への上がり段を調理台にし、母親の調理をまねたままごと遊びを始めた。
 しばらくすると、「おじいちゃん、昼ご飯できたよ。食べて。ご飯に野菜サラダとスープよ」と言う。鉢に泥ご飯がよそおってある。皿には木の葉を切り刻んだ泥水スープ。大きな皿には薄い泥水をかけた芝サラダ。「うわー、今日の昼ご飯はごちそうがいっぱい。いただきまーす」と食べるまね。「ごちそうさま。おいしかった」と私、「どういたしまして」と孫娘。
 昔から、ままごと遊びや砂場遊びは生涯にわたる想像力の基礎を培うといわれている。子どもたちは既成のおもちゃもよいが、このような身の回りにあるものを使ったままごと遊びでさらに想像力を養って欲しいものである。(以下略)

 近頃は、読書離れが問題となっています。幼児期から本に親しませてください。
 生活体験、お手伝いや自然体験が豊富な子どもほど、道徳観・正義感が充実しているというデータもあります。
 大きな声でのあいさつと「はい」の返事ができることも、大切なことです。

提案7は、「就学前の学習は自分の名前を読むことができる程度で十分」です。
 ひらがなの読みは、自分の名前が読めればそれで十分です。自分のものと他人のものとの区別をする上で自分の名前は読むことができる方がよいですから。それ以上のことは不要です。
 字の読み書きを教えるよりも、絵本の読み聞かせをしてやってください。PTAで、月に1度くらいの割合で絵本の読み聞かせが行われていると思います。子ども達は熱心に聴き入ります。しかし、読み聞かせの基本は、親が子を膝に抱いて読み聞かせることです。そのことで絵本への興味関心が高まります。そして、自然とひらがなを読むことができるようになります。
 平成19年3月朝日新聞に掲載された「幼児に読んで見せたい童話」を読みます。      


           幼児に読んで見せたい童話

 グリム童話「赤ずきんちゃん」を4歳になる孫に読み聞かせると、顔を伏せて「おおかみがこわい」と言いながらも、何度も「もう一度読んで!」とせがむ。読み終わると「あー、よかった」と胸をなで下ろしている。(中略)「赤ずきんちゃん」に限らず読み伝えられた名作には、子どもを引きつける魅力がある。単純明快なストーリー、善人と悪人の際だつ対比、一つ一つの事実の積み重ね、ハッピーエンド。リズム感のあることばで子どもを空想の世界に引き込み、夢を持たせてくれる。幼い子どもの心に、生きるための知恵や勇気をしみ込ませる。
 物語の主人公と一体となり、ハラハラ、ドキドキ、ワクワクしながら得た感動は、大人になっても夢をはぐくみ心を豊かにさせる。
 幼児にはたくさんの名作絵本を読み聞かせてやりたい。(以下略)

 友だちと遊んだことを聴いてください。いつ、どこで、だれと、何をして遊んだかなどを話すことが作文の始まりです。
 「うちの子は、100まで数えることができる」と言うことを聞くことがあります。100まで数えることよりも「5」までの数を1対1対応で数えること、「2」と「3」はどちらが大きいかが分かることの方が大切です。
 そこで、子どもさんに与えるおやつの与え方を工夫しましょう。例えば、チョコボールを兄弟2人に与えるとします。お皿いっぱい与えると、量の概念は育ちません。数を意識せずに食べますから。少しの量を与えてください。そして、必ず奇数個与えるようにしてください。「5個」とか「7個」。二人がけんかを始めたらしめたものです。「2個」と「3個」の大きさの違いに気づいてけんかするのですから。このようにして、数を「量」としてとらるようになります。これが算数の学習にはとても大切なことです。
 突然ですが、動物の名前を5つ挙げてください。花の名前も5つ挙げてください。どちらがすぐに名前が浮かびましたか?
 動物の名前はすぐに浮かんだでしょう。花はぱっとは出てきませんね。どうしてでしょう?
 私たちは、毎日の生活で、「犬の来よる」、「かわいい猫だね」などと言います。「動物が来よる」「かわいい動物」とは言いません。ところが花は、「きれいな花が咲いている」「この花は匂いのよか」などと言います。花の名前は言いません。この違いが、動物と花の名前が思い浮かぶ差です。子どもさんと外歩きをするとき、これからは花の名前を言いましょう。「パンジーがきれい」、「サルビアがきれい」などと。
 学校で、先生とみんなと学習した結果、「できるようになった」「わかるようになった」という感動を大切にしたいものです。
 今年の5月、朝日新聞に掲載された「給食のおかげ 野菜食べる孫」を読みます。


             給食のおかげ 野菜食べる孫

 妻は、この春小学校に入学した孫娘によく電話する。給食を食べているかどうかが気になるからである。先日は電話をするなり、「おばあちゃん、昨日と一昨日、給食をみんな食べてしまったよ」と弾んだ声で孫が話したという。
 孫娘は、食べ物の好き嫌いが激しく、特に野菜をほとんど食べない。「野菜を食べると美人になるよ」「元気になるよ」などと言ったり、野菜と分からないように調理したり、目をつぶらせて食べさせたりしてきた。が、どうしても野菜を食べることができない。
 手を替え品を替えて6年間指導し続けてもできなかったことが、わずか入学1ヶ月足らずで少しではあるが、野菜を口にすることができるようになったという。学校が持つ教育力の大きさを再認識した。先生の語りかけ、給食を楽しく食べる学級の雰囲気、周りの子との会話、野菜を食べてみようという本人の気持ちなどいろんなものが孫の背中を押したのだろう。(以下略)

 子どもは、できなかったことができるようになったこと、分からなかったことが分かるようになったことでとっても感動します。読むことはできても書けなかったひらがな、例えば「あ」が書けるようになるととても感動します。家で家族から教えてもらっても感動はするのですが、初めて書けるようになった喜びをクラスの子全員で味わわせてください。「もっと覚えよう」という意欲が生まれます。孫がなかなか食べることができなかった野菜を「食べてみよう」と思ったのは、先生や友達の声かけ、学級の雰囲気が背中を後押ししたからだと思います。私は、これが学校が持つ教育力だと思います。
 入学前にお子さんに、ひらがなや数の読み書きを教えることよりも以上述べましたような知的活動をたくさんさせてください。これが入学前の教育です。
 時間が来ました。昨年、本校で話をしました演題は、「手を離して、目は離さずに」でした。お子さんから目は離さないで欲しいと思います。反対に手は早く離してください。お子さんができることはお子さんにさせてください。
 中国の諺に、「聞いたことは忘れ、見たことは覚え、体験したことは理解できる」というのがあります。また、「子どもは、したことのないことはできない、教わったことのないことは分からない」という言葉もあります。
 入学前にたくさんのことを体験させてください。そして、感動を味わわせてください。
 元楽天監督野村さんは、「財を残すは下 仕事を残すは中 人を残すは上」と言いました。私はそれに「感動を残すは最上」を付け加えたいと思います。
 お子さんが入学前にたくさんのことを体験し、入学式の日、スキップしながら登校することを祈念して話を終わります。
 ご静聴ありがとうございました。