学習成果を地域づくりに
平成16年4月
益城町公民館講座 開講式

1 はじめに
 4月から教育委員会生涯学習課社会教育指導員としてお世話になっております。よろしくお願いします。
 益城町の生涯学習熱の高いことに驚いています。8日の公民館講座の受付開始は8時30分からでした。ところが、早い方は6時30分頃から並んでおられたとのことです。2時間も前から受付に並ぶ、これはよその町村ではあまり見られない光景ではないかと思います。皆さん学習意欲が高く、遅く行けば定員一杯になって受講できないのではなかろうかとの心配から早くから並ばれたのです。
 話は少し違いますが、私は数年前に宝塚歌劇を観劇しました。私が座った位置は料金の安い後ろの方でした。宝塚関係者の方の話によると、料金が1万円以上する前の席の方から埋まっていくとのことです。関心のあるものは「前の方で見たい」という意識の表れです。これと同じことで、学習したいという強い意識が2時間も前に並ぼうという行動を起こさせたのです。
 また、あるお母さんの話です。「子どもが韓国の空手、テコンドーを習っています。言葉も習いたいと言います。子どもでも講座を受講していいでしょうか。」と申し込まれました。
 今朝は、あるお母さんから「息子は今日の開講式には学校があっているので出ることができません。教室が始まってからは毎日出ると言っています。よろしくお願いします。」と電話がありました。その子どもさんは小学1年生ということです。
 さらに、6年生の子どもも受講しています。
 本当に生涯学習熱の高さに驚きました。このような皆さんの生涯学習意欲に応える充実した公民館講座をはじめと生涯学習の充実をはかるために、町も16年度から役場の機構改革の一環として「社会教育課」から「生涯学習課」へと課名変更しました。
 皆様に魅力ある講座の開設を目指していきます。
 
2 生涯学習とは
 生涯学習が進められたのは15・6年前からでした。私も県教育委員会社会教育課でその仕事をしていました。そのころ、生涯学習を進めるいろいろな催しがありましたがなかなか皆さんに生涯学習を受け入れてもらえませんでした。当時、生涯学習についての3つの理解ちがありました。それは
  @この年になってもまーだ勉強せて言いなはっとですか、いつまで勉強すればよかつですか
  A忙しうして、生涯学習どこっではなか
  B生涯学習って社会教育のこつだろう。学校には関係なか
というものでした。
 宮原町の「生涯学習まちづくり大会」に出席したとき、ある女性の方が「私はやっと子育ても終わった。これから私の好きなことをしようと思っているのに公民館の先生たちは『まーだ勉強せて言いなはっとですか』」と話されました。さらに続けて、「私は今自動車免許証を取りに自動車学校に行っています。昨日、初めて路上運転をしました。歩いているときは何も気付かなかったけど、道路には私たちが安心して歩いたり車を運転したりできるようなしくみがたくさんあることを知りました。道路標識がある、信号があるなどで安心して道路を利用することができるのですね。このことを昨日初めて知りました」と話されました。私は「そのようにこれまで知らなかったことを自分の努力で知ることができた、わかるようになったも生涯学習の一つです。なにも机に向かって本とノートで学習することばかりが学習ではありません。趣味や生きがいを伸ばすこと、地域のことに力を注ぐこと、このようなことに取り組み輝く人生を送ることも生涯学習の一つです。」と答えました。
 2番目の「忙しうして、生涯学習どこっではなか」についてです。毎日の仕事に忙しい思いをしている人が「生涯学習って暇人のするこったい。私は忙しうしてそるどこっじゃなか」という人がたくさんいました。そうでしょうか。昔は「10年一昔」と言う言葉がありましたが、今では「1年一昔」あるいは「1月一昔」と言うのかも知れません。
 皆さん。炊飯器がこわれ、新しいものに買い換えると昨日までのやり方では炊飯器を使うことができないでしょう。説明書をよく読んで学習しなければなりません。同じように仕事をする上でも、極端に言えば昨日までと同じ方法では生産を高めることはできなくなりました。
 私はパソコンができませんでした。しかし、今学校ではパソコンを使えなければどうにも仕事になりません。私は必死でパソコン操作を習いました。JAでも農業生産を高める技術講習会などを実施しています。
 心豊かな生き方を求めて、趣味や教養、健康づくりに関する学習をすることばかりでなく、農業生産を高めるための研修、仕事に使うパソコン技術研修など職業能力を高める学習も生涯学習の一つです。
 もう一つの理解違いは学校の先生方に多かった理解違いです。「生涯学習って社会教育のこつだろう。学校教育には関係なかもん」でした。今現在、こんなこと言う先生はいません。学校では生涯学習の基礎づくりの考え方で学習指導を進めています。3年前に学校で勉強を教える基になる「学習指導要領」というのが改訂されました。そのとき、議論が起きたのが学力低下問題です。指導内容を3割減らしたのですから学力低下を心配するのも無理ならぬことだったことです。しかし、よく考えてみると、知識を豊富に覚えたとしても今のように変化の激しい時代には数年前の知識はすぐに役立たなくなります。それより、これまで学習したことを基に自分で考え問題を解決する力が今求められているのです。その一つが、小学校5年生で学習していた台形の面積を求める公式を覚えるのではなく、台形を三角形や長方形に分け、三角形などの面積の公式に当てはめて面積を求める算数的考え方を高めることです。今学校ではこのように生涯学習の考えを大事にした学習指導を進めています。これが自分で課題を見つけ、自分で考え、解決する生涯学習の基礎づくりにつながります。

(2)生涯学習
 生涯学習とはフランスのポール・ラングランという人が提唱したものです。ヨーロッパでは、生涯学習ではなく、継続教育といっているようです。つまり、職業能力を高めるために学校を出た後も継続して学び続けるという意味です。ヨーロッパでは日本のように大学進学者は多くありません。日本で言う義務教育を卒業してすぐに就職する人が多いということです。そこで、常に職業能力を高める学習を学校を卒業後も継続して続けていく必要があります。ですから、日本のように心豊かに生きるための学習はあまり視野に入れていなかったようですが、豊かに生きるための学習は大切なことだと公民館講座などの方式を、今ヨーロッパでは逆輸入しているということです。
 日本では、自分自身の充実、啓発、生活の向上のために自発的に必要に応じて自分にあった学習方法を自分で選んで生涯を通じて行うものを生涯学習と呼んでいます。これは、めまぐるしく変わる社会で心豊かに生きるための生涯にわたっての学習です。
 益城町公民館でも知識・技術の習得をを求めるものから趣味や生きがいに関わるものまで、内容も専門的なものから日常的なことまで幅広いものが用意されています。
 
3 生涯学習社会の実現
 益城町を「生涯学習のまち」とするために、皆様の学習意欲をさらに高め、充実したものとするとともに、活力ある益城町づくりのために学習の成果を社会に還元していただきたいと思っています。つまり、学習の成果を「まちづくりの活動」に生かしていただきたいと思います。
 地域づくり、自治公民館などでの学習機会、子どもや若者たちとの交流、健康で輝きのある生活のために、指導者として、啓発者としてボランティア活動を進めてみませんか。
 ボランティア活動は我が町を愛する心がないとできません。
 今、益城町の全小学校ではPTAを主体とした絵本の読み聞かせをしています。私よりも体の大きい6年生の子どもたちも絵本の読み聞かせを一生懸命聞いています。その中心になっている人の中に公民館講座「語りと絵本」で学習していらっしゃる方もたくさんいます。また、本講座で太極拳を学んだ方が中心となって飯野分館では太極拳教室を開いていらっしゃいます。今年から町では全公民館分館に公民館長を位置づけました。公民館分館の活動がますます充実することを期待しています。その中心に皆様がなられることを期待しています。
 矢部町で「通潤橋案内ボランティア」の方が活躍していることを知っている方も多いことでしょう。矢部町の案内ボランティアの始まりは、町の公民館講座「高齢者大学」で学んだ人が「町の税金で学ばせてもらったお返しに、何か町に役立つことはなかろうか」と考えていたそうです。その頃、「町外から来る人や通潤橋の学習に来る小学校4年生担任の先生などから、通潤橋の説明がほしいという要望が多く、町としては見学者へ説明してくれる人はいないだろうか」と捜していたそうです。そこで、教育委員会と講座生の思いが一致して始まったことです。65歳も70歳にもなった方が通潤橋について説明をしておられます。説明を聞いた人がいろいろと質問します。その質問に答えるためにさらに学習を続けられます。そして、それが自己の充実につながります。これを生涯学習ボランティアと呼んでいます。
 皆さんの学習成果をまちづくりに生かすとともにさらに学習を深めてほしいと思います。
 ボランティア活動をする上で、たくさんある情報を常にキャッチすることが必要になります。
 皆さんは「桃太郎の鬼退治」の昔話を知っていらっしゃるでしょう。私は皆さんにあの桃太郎のサル、キジ、イヌの3匹の力を常に持ってほしいと思うのです。
 どんな力かと言いますと、キジが空高くまい上がり、上空から鬼ヶ島の情報をつぶさにキャッチします。その情報をサルが知恵をはたらかせて分析します。猿知恵というでしょう。サルが分析・作戦を練ったものをもとにイヌが行動にうつします。つまり、鬼と戦うのですね。この3つの力が合わさって鬼退治ができたのです。
 私たちは、情報収集能力、分析能力、それと実践力を常に持ちたいものです。それが学習をさらに深め、地域づくりへとつながるものと思います。
 島津日新斎は「いろは歌四十七首」の中で
   いにしへの 道を聞きても 唱へても わが行ひにせずばかひなし
 と言っています。公民館講座で学んだものを今日からの生活に生かしましょう。
 1年間、健康に気をつけ講座を受講していきましょう。