小学校入学前の家庭教育
平成19年11月
益城町立飯野小学校 「くまもと地域子育てスクール」


 皆さん今日は。
 社会教育指導員をしています中川です。今日は、就学時検診ですね。来年初めて飯野小学校へ入学するお子さんの家庭はどのくらいですか? 手を挙げてみてください。3分の1くらいですね。
3分の2の家庭は小学生以上のお子さんがいると言うことですね。
 私も2人の息子の父親であり、二人の孫の祖父です。本日は、おばあさんがお一人いらっしゃいますが、子育てでは子どもの様子が親より、祖父母の方がよく見えるときがあります。
 頷いておられますが心当たりがおありでしょう? それは、案外祖父母には責任があってないからかも知れません。いわゆる岡目八目という感じですかね。
 上の孫が1歳くらい。ちょうどつかまり立ちしてテーブルの周りをつたい歩きしているときのことでした。私が息子夫婦に、「未熟児で生まれて無事に育つだろうかと心配していたが、大きくなった。この調子ではもうすぐ歩けるバイ」と話しかけると、孫がるんるん気分なのです。「好き嫌い無く何でも食べるともっと大きくなるだろうに」と言うと、これまでとは違ってうつむき加減になるのです。私は孫に話しかけたのではありません。また、1歳くらいの子が大人の会話が分かるはずはないと思います。「褒められている」、「マイナス面を指摘されている」というのが雰囲気で分かるのですね。私はこのときほどびっくりしたことはありませんでした。
 おそらくこれに似たようなことは私の子どもの時にもあったと思いますが子どもの時は気づきませんでした。孫を見て褒めることの大切さに気づきました。後でも触れますが、子どもがすることを認め、大いに褒めましょう。してはならないことをしたときは、厳しく叱りましょう。
 本日は、入学前の家庭教育について一緒に考えてみましょう。
 私が先ず提案したいのは次の5つの視点です。
  ・楽しむ視点(悩み、楽しむ)
  ・スローな視点(てまひまかける)    
  ・生涯学習の視点(共にのびる)    
  ・人権尊重の視点(共に生きる)
  ・親は子どもより早く死ぬ視点(ひとりだちできる)
 楽しむ視点とは、子育てで思い悩むことがいっぱいありますが、その悩みも楽しむに変えて欲しいことです。自分が産んだ子です。悩んでばかりではおもしろくありません。「自分もそうだったかな」などと考え、子育てを楽しみながらやっていきましょう。
 2つめのスローな視点とは、手間暇かけることです。子育ては促成栽培はできません。じっくりと子どもと向き合っていきたいものです。子育ては結果よりその過程が大事です。
 皆さんははがまでご飯を炊いた経験はないかも知れませんが、私が小さい頃ははがまでのご飯炊きでした。このご飯炊きの様子を「始めちょろちょろ 中パッパ 赤子泣いても蓋取るな じわじわ時に火を引いて 10分たったらできあがり」と言っていました。
 このように時間をかけて、そして過程を大切にした子育てが重要ではないでしょうか。
3つめの視点は、生涯学習の視点、共にのびる視点です。「子育て」、「親育て」。あるいは「子育ち」、「親育ち」という言葉があるでしょう。子育てを通して親として学んでいるのです。
 4つ目は、人権尊重のまなざしでの子育てです。
 5つめは、親は子より先に死ぬの視点です。子どもが小さくて可愛いあまり案外この視点を忘れがちですが、子どもが独り立ちできる家庭教育の視点です。「自ら危険から身を守ることの出来る人間」に育てるか、「常に誰かから守られる必要がある人間」に育てるかは議論する必要もありません。

 家庭について、子どもたちの一番の願い、それはなんだと思いますか?
 どの年代の子どもも「家族みんなが楽しく過ごす家庭」と答えます。
 楽しい家庭は家族が意識的に協力し合ってつくるものです。笑い声、歌声にあふれた安らぎのある家庭をつくりましょう。怒り声、泣き声、叫び声は、家庭から追放しましょう。そのためには、親が幸せになることです。夫婦仲良くすることです。親のイライラは子どもに伝わります。親が心も体も健康に過ごすことです。
 家族の会話を増やし、家族のきずなを深めましょう。会話を増やし、家族の絆を深めるために、「本の時間」を設けて、お父さん、お母さんが絵本を読んで聞かせましょう。本校でも朝の時間にボランティアによる読み聞かせが行われていますね。私は、本の読み聞かせは、基本的には、親が子どもに読んで聞かせることだと思っています。お父さんやお母さんが子どもを膝に抱っこして読んで聞かせたり、ソファーに並んで座って読んで聞かせ、その後で本について話し合う。こんなことを是非取り組んで欲しいものです。
 このようにして、家族の絆を深め、あなたの命は家族が守るという強いメッセージを子どもに送り続けましょう。子どもの心は常に平静です。

 幼い子が殺傷されるという痛ましい事件が相次いでいます。「知らない人の声かけにはのらない」と指導することは大切です。しかし、私は「地域の中で知り合いを増やす」はもっと大事なことだと思います。そのためには、挨拶が出来るように育てたいと思います。
 今日のように車社会になり心配することは交通事故です。もう20年ばかり前のことですが、熊本市内で入学間もない1年生が交通事故でなくなると痛ましい事故がありました。いつもは自宅へ帰っていたのですが、その日は、おじいさんの家に帰るように言われていたそうです。いつも登下校する道路ではなかったので交通事情が分からなかったのかも知れません。交通量の多い道路を横断したのです。自分の目の前のレーンは渋滞のために車が止まっていたそうです。対向車線は、車がスピードを出して走っていたそうです。子どもは、目の前に車が止まっているのを見て、自分が横断するので車が止まってくれたと思ったのでしょうか。車の間を横断して、対向車線に出たとき、走ってきた車にはねられて即死状態だったということです。本当に痛ましい事故でした。
 ここ飯野小学校の前の国道も車の通りが多いでしょう。危険を知ること。そして交通ルールを守ることを入学前までに少なくとも5〜6回は現場指導してください。そのために、親子で何度も登校して、危険箇所を教え込んでおいてください。
 また、自分の名前、親の名前、区の名前、電話番号などは言えるように指導しておくことです。
 「自分の命は自分で守る」意識を小さい頃から育てましょう。

 「ルールを守る」ことは、社会生活を営む上で大切なことですね。
 「うそをつかない」は、躾の基本です。「うそをつかない」ことを口をすっぱくして躾けておられるでしょう。
 最近の日本では、「きまりを守る」が少し、おろそかになっているようです。子どもがまちがった行いをしたときは愛情を持って本気で叱ってください。「悪いことは悪い」これは、当たり前のことですが、当たり前になっていないことがあります。社会で許されないことは、家庭でも学校でも許されないのです。
 ときどき、おもちゃ屋さんの店先で「これ買ってぇー」と泣き叫んでいる子を見かけることがあります。こんな時保護者がどんな対応をするかです。「しょうがないねぇ」と買い与えるか、がまんさせるかです。子どもを不幸にしたいなら何でも買って与えればいいですよね。安易にものを与えると、子どもは欲しいものを手にするために努力したり、我慢したり、工夫したりすることが出来なくなります。そして、やたらとものを欲しがり、自分の気持ちを抑えられなくなってしまいます。
 孫が可愛いので直ぐにものを買ってやる祖父母の姿勢が心配です。私はものは買ってやりません。時々、「好きな本を買って読みなさい」と図書券をプレゼントします。
 「自分のものとそうでないものとの区別ができる」の意識が中学生、高校生の間で薄くなっているように思います。目の前にある自転車に乗って目的地まで出かけ、そこで放置するということがあるでしょう。幼いうちからきちんと躾けておくことです。

 私は今、益城町公民館で大人と子どもにそろばんを教えています。そろばん指導で「自尊感情の大切さ」を感じています。
 大人のそろばん教室には、40代から70代までの人が20人います。
 9時半からの教室に9時頃には教室に来て、そろばんの練習をしていらっしゃるのです。私が来るのを待って、「ここがどうしても分かりません。教えてください」と言う人もいます。分かると、「あぁ、そうか。分かりました。ありがとうございました」とにっこりされます。胸に落ちるのです。これこそ、「自ら課題を見つけ、自ら学び自ら考え、判断し行動する」生きる力そのものです。
 「寝る前に見取り算の練習をすると、適当に頭が疲れてよく眠れますが、割り算の練習をすると頭がさえて眠れません」とか「練習すると体が熱くなり、着物1枚脱ぎます」、「4級の試験はぎりぎり合格で悔しかったので昨日自分で時間を計ってしてみました。時間は32分かかったけど満点でした。思わず万歳の言葉が出ました」などおっしゃいます。学習意欲旺盛な方たちです。
 子どものそろばん教室は、木山公民館と津森公民館で指導しています。飯野小学校でも来年から始めたいと思っています。
 4年生以上の子どもたちが、木山は30人、津森では8人の子が練習に励んでいます。すべて進んで学習に参加している子どもたちです。
 しかし、習い始めのころは難関がいくつかあります。その一つが5珠が下りている足し算、引き算です。
 例えば、「6+8」や「17−8」です。これが難しいのです。2〜3日練習して「難しかぁー」と止めてしまう子。「分かりません。もう一度教えてください」と何度も何度も尋ねる子。分からない悔しさから涙を流しながら必死で習う子がいます。
 この子どもたちの差は能力差と思いますか。私はそうは思いません。自尊感情の差だと思います。
 自尊感情とは、自分自身を価値あるもの、自分自身を大切に思う感覚です。自尊感情は、その人自身に常に意識されているわけではないのですが、その人の言動や意識態度を方向付けます。自分自身の存在を価値あるものとして評価し信頼することによって、人は積極的に意欲的に経験を積み重ね、満足感を持ち、自己に対しても他者に対しても受容的です。
 私は、この自尊感情が「自ら学び、自ら考え、行動する」生きる力の礎と思っています。
 皆さんに提案です。子どもに「自尊感情を育てましょう」。
 この自尊感情は、他者から認められ、褒められ、頼りにされたことで、自己存在感、自己有用感などを実感する自己実現の機会が多い人ほど自尊感情が高いことが分かっています。
 そのために、家庭で子どもに役割を分担させ、責任をきちんと果たしたとき、それを認め、褒めましょう。カーテンの開け閉めでもいい、新聞を取りに行くことでもいい、子どもに出来ることを自分の役割として持たせ、出来たとき、多いに褒めてください。そのことで、子どもは出来る喜びを実感し、「自分がいるからこの家はうまく回っている」と思うはずです。このような積み重ねが自尊感情をはぐくむのです。
 また、出来なかったときは、その原因を共に考え、もし怠けや悪さなどの時は厳しく叱りましょう。要領が悪かったり、方法が分からないときは、ヒントを与えたり、励ましたりして意欲を起こさせましょう。
また、「うゎーすごい」「うゎーきれい」「うゎーおいしい」などの感動を親子で実感する機会を数多く作りましょう。「楽しい」「悲しい」「うれしい」「くやしい」などの体験を豊かにさせましょう。
 この自尊感情が先ほど紹介しましたそろばん教室の人たちのように、向上心、チャレンジ精神を旺盛にさせるのです。夢を持つと、人は強くなります。
 自分自身を価値あるもの、大切に思う感覚は、自分を大切にするのと同じように他者も大切にします。これが、友だちとなかよく遊ぶことやいじめや差別をしないことにつながります。
 「自分を大切にする心(自尊感情)をはぐくむ」ことを家庭教育の第1に据えて欲しいと思います。

 入学前までに「子どもの生活リズム」を確立させましょう。
 先日、私は東京で開催されている夏目漱石展を見に行ってきました。そのついでに、東京大学の構内にある「三四郎池」を見に行きました。
 東大の掲示板に「6S運動を推進しましょう」というスローガンが貼ってあるのに驚きました。
 「6S」とは、「整理、整頓、清潔、清掃、習慣、しつけ」のことです。東大でこんな基本的なことを呼びかけなければならない時代かと驚いたのです。というのは、この6Sとは、家庭教育の基本でしょう。スローガンの横には自転車がバラバラに置いてありました。
 子どもの生活リズムを確立するために、この6S運動を進めましょう。
 それは、規則正しい生活 早寝早起きなどの生活リズムの確立です。早寝早起き朝ご飯の奨励です。十分な睡眠をとらせることです。整理整頓の習慣化で「自分のことは自分でする」の意識を育てましょう。適度のテレビ視聴です。一番の友達はテレビなんてあまりにも寂しいことだと思いませんか。学習の準備は自分でするは「学び」のスタートです。

 私の孫は3歳から4歳頃、「これ、なーに?」「どうして?」を連発していました。今でも「何?」「なぜ?」とうるさいくらい聞いてきます。
 皆さんの子どもさんもそうでしょう。
 この「これ、なーに?」「なぜ?」という知的好奇心が学習の始まりなのです。この好奇心を大切にしたいものです。
 また、「自分でする」も連発します。これは自主性の始まりですね。
 孫が3歳頃、みんなが雲底で遊んでいるのを見て、自分も雲底にぶら下がるというのです。まだ、腕力もなく、とてもぶら下がるのは無理だと思って体を支えてやろうとすると、「自分でする」と言って支えさせません。1段も渡らないうちに落ちそうになり「落ちる。おじいちゃん助けて」と言います。そして同じ事を何度も何度も繰り返していました。これが子どもの特性です。
 子どもが、幼稚園や保育園から帰ると、「お母さん、聞いて。聞いて」と言って園での話をしたがるでしょう。
 お母さんはちょうど夕ご飯の準備で忙しい時です。それでつい、「あとでね」と言ってしまいがちです。子どもは今話したいのです。それを後でと言われればもう話す意欲がしぼんでしまいます。これの繰り返しが続くと、学校や園での話をしなくなります。
 どんなに忙しいときでも、一つか二つは子どもと向き合って聞いてあげましょう。そして、「今は夕ご飯の準備で忙しいから残りは後でね」と言おうではありませんか。何かをしながら聞く、適当に相づちを打つは良くないと思います。
 「あそび」を大切にしましょう。遊びが子どもを大きくします。子どもたちは遊びの中で知的学習を重ねているのです。野外や自然の中での遊びが生きる知恵を生み出します。
 自分の気持ちを先生や友達に伝えることができる子に育てましょう。伝え合うことが理解の始まりです。
 あいさつと返事ができることはとても大切です。大きな声でのあいさつと「はい」の返事を繰り返し指導しましょう。
 初めてお子さんを小学校に入学させる保護者の皆さんは、「入学までにどれくらい勉強をさせておけばよいだろうか」が一番の心配事だと思います。
 名前の読み書きができればだいじょうぶです。
 子どもは、先ほども言いましたが知的好奇心が強いので自分で字を書こうとします。無理に止めなくても良いでしょうが、鏡字、左右反対になった字や筆順の間違いには気をつけてください。字を書くことよりも絵本などの読み聞かせをいっぱいしてやってください。入学したら先生が1字1字丁寧に書き順まで教えてくれます。
 「うちの子は100まで数えることが出来る」などと聞くことがありますが、100まで数えることより、10までの数の1対1対応が大切です。数を数えながら一つずつモノを移すことができることが大切です。
 また、おやつなどを与えるとき、袋ごとやたくさん与えないで、兄弟姉妹が2人いるところは5個与えて「二人で仲よく食べなさい」と言う方が算数の勉強になります。同じ数には分けられませんので「同じ数」の概念が生まれます。子どもさんが一人の所は10個くらいを「○日で食べなさい」と言って与えることが算数の基礎を作るでしょう。
 子どもの知的好奇心をくすぐり主体性を育てると同時にきまりを教えましょう。

 今、モンスターペアレンツという言葉をよく聞きます。無理難題を学校に求めたり、我が子だけに目を向けて先生にいろいろと求めることがあるそうですね。
 一番の被害者は学校でも担任の先生でもありません。その親の子です。
 親が先生を信頼しなくて子どもが信頼するはずはありません。
 教育は信頼の上に成り立っています。先生が教材研究をし、分かりやすく教えても、あるいは心を揺り動かす話をしても、その先生を信用していないなら教えられたことが胸に落ちるはずがありません。
 先生は教育のプロです。教育のことは先生にお任せしましょう。どうしても先生の方針が理解できないときは、先生と話し合いましょう。
 教育心理学に「ピグマリオン効果」という言葉があります。
 ピグマリオンという若い王が、女性像を彫ったところ、あまりの美しさに恋をしてしまい、この像が生命の通う人間であることを願い、信じ続けたら像に命が宿り、二人は結婚し、幸福に暮らしたというギリシャ神話からとったものです。信じていることが現実になることをいっています。自分が「好き」と好感を持っていると相手も「好き」という好感を持つようになります。自分が「嫌い」「どうもなじめない」「どうもあわない」と思っている相手が、自分に好感を持ったりいろいろと世話してくれるはずはありません。教育は指導者を信頼することから始まります。
 親は子育て免許取得者です。担任の先生と保護者が常に子どもに関する情報を交換し、共有し、学校と家庭が同じ目線で子どもを育てていきましょう。
 今、子どもたちは入学を今か今かと心待ちにしていることと思います。飯野小学校での学校生活が豊かなものになりますことを願って話を終わります。