生涯学習の視点に立った学校の役割
平成10年9月
県立教育センター


1 生涯学習の経緯
(1)古典的あるいは個人的生涯学習論
 生涯学習の考えは、昔から日本にもありました。ただ、ここでいう生涯学習は個人的生涯学習のことです。
 たとえば、お稽古ごととか、習い事などです。そこで、ここでいう個人的生涯学習に関する言葉のいくつかを紹介します。
○孔子の「論語」に出てくる有名な言葉です。
 「吾十有五にして学に志し、三十にして立ち、四十にして惑わず、五十にして天命を知る、六十にして耳順う、七十にして心の欲する所に従い矩を踰えず」
 私は15歳で学問に志し、30歳で1人立ちとなり、40歳で迷いがなくなり、50歳で天から与えられた使命をさとり、60歳で人の言葉をすなおに聞けるようになり、70歳で自分の思うままに行ってもいきすぎがなくなったとして、人間修養は70歳にならなければ完成しないという意味ですね。
 この言葉は今日でもよく引用され、年齢をさすとき、「志学」(15歳)、「而立」(30歳)、「不惑」(40歳)、「知命」(50歳)、「耳順」(60歳)、「従心」(70歳)などがあります。
 中でも「不惑」は、40歳の別名としてよく使われていますね。
○佐藤一斎(江戸時代の儒学者)「言志四録」
 少而学 則壮而有為(少くして学べば 則ち壮にして為す有り)
 壮而学 則老而不衰(壮にして学べば 則ち老いて衰えず)
 老而学 則死而不朽(老いて学べば 則ち死して朽ちず)
 人が生涯学び続けることそのものを述べています。
○福沢諭吉は有名な「学問のススメ」で、次のように述べています。
 「いろは四十七文字を習い、手紙の文言、帳合の仕方、算盤の稽古、天秤の取扱等を心得、なおまた進んで学ぶ箇条甚だ多し」
 諭吉は、「読み、書き、そろばん」という実学をすすめました。当時、非識字率が高かったことを考えれば、「読み、書き、そろばん」を習うことは、現代の職業教育や専門教育に当たることだったと思われます。つまり、職業能力を高めるには「読み、書き、そろばん」が欠かせなかったことだと思います。
○山名次郎、この人は日本最初の社会教育論者と言われている人です。この人が表した「社会教育論」には島津日新斎の次のうたが掲載されています。
 「古の 道を聞きても唱えても 我が行いに せずばかひなし」
 「はかなくも あすの命を頼むかな けふもけふもと 学びをばせで」
 このうたは、学ぶことと実践の大切さを説いたものであることがよくわかります。
○武者小路実篤の有名な言葉は、皆さんご存じの通りです。
 「桃栗三年、柿八年、達磨は九年、おれは一生」

(2)現在の社会的生涯学習の経緯
 今叫ばれています生涯学習の考え方の経緯は次の通りです。
○昭和40年 ユネスコの成人教育推進国際委員会でフランスのポールラングランが「生涯教育」を提唱
○昭和46年 社会教育審議会答申 「急激な社会の変化に対処する社会教育の在り方について」
○ 同     中央教育審議会答申 「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」
 学校教育の限界、学校教育中心主義の弊害の自覚にたって、教育全体のなかで学校教育をとらえなおし、これを他の教育活動の領域と関連づけて、その再構築をはかろうとする姿勢から、「生涯教育の視点から全教育体系を整備する必要が有る」と指摘しています。
 また、次のようにも述べています。
 「近年、いわゆる生涯教育の立場から、教育体系を総合的に再検討する動きがあるのは、今日および今後の社会において人間が直面する人間形成上の重要な問題に対応して、いつ、どこで、どんな教育の機会を用意すべきかを考えようとするものである。」と。
○昭和48年 OECD(経済協力開発機構)「リカレント教育〜生涯学習のための一戦略〜」を政策理論として提唱
 「リカレント教育は、義務教育後のすべての教育を対象とする包括的な教育戦略である。その基本的特徴は、教育を個人の全生涯にわたってリカレントに、すなわち労働をはじめ余暇・引退などの他の諸活動と交互に行う形で、分散させることにある。」
○昭和56年 中央教育審議会答申「生涯教育について」
 自己の充実・啓発や生活の向上のために自発的意志に基づいて、自己に適した手段・方法を自ら選んで生涯を通じて行うものが生涯学習。
 様々な教育機能を相互の関連を総合的に整備・充実しようとする考えが生涯教育。(生涯にわたって行う学習を助けるために、教育制度全体がその上にうち立てられるべき教育理念)
○昭和59〜62年 臨時教育審議会答申第1次〜4次答申  「学習者の視点に立った生涯学習体系への移行」の提言
    第1次答申 教育改革の基本的考え方は「個性重視の原則」
    第2次答申 学校は生涯学習機関と位置づける
    第3次答申 開かれた学校の推進
    第4時答申 教育改革の視点「個性重視の原則、生涯学習体系への移行、変化への対応」
               生涯学習機関としての学校の役割を提起
○昭和62年 閣議決定「教育改革に関する当面の具体的方策について」
○ 同     教育課程審議会答申   21世紀を生きる日本人の育成という視点から答申
         ・豊かな心を持ち、たくましく生きる人間の育成
         ・自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成
         ・国民として必要とされる基礎的・基本的な内容の重視と個性を生かす教育
         ・国際理解を深め、我が国の文化と伝統を尊重する態度の育成
○昭和63年 文部省に生涯学習局設置
○平成元年  学習指導要領の改訂
○平成2年  中央教育審議会答申「生涯学習の基盤整備について」  
○ 同     「生涯学習の振興のための施策の推進体制の整備に関する法律」施行
○平成3年  中央教育審議会答申「新しい時代に対応する教育の諸制度の改革について」    
○平成4年  生涯学習審議会答申  「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」
○平成8年  生涯学習審議会答申  「地域における生涯学習機会の充実方策について」
○ 同     中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」
         @今後における教育の在り方及び学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方
         A一人一人の能力・適性に応じた教育と学校間の接続の改善
         B国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方
          ゆとりの中で生きる力を育む
          「教育は子どもたちの自分さがしの旅を扶ける営みである」は、よく聞きますね。
○平成9年  中央教育審議会第2次答申   「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」
          「一人一人の能力・適性に応じた教育と学校間の接続の改善」を中心に答申
○平成10年4月 教育改革プログラム(最終改訂)
          教育改革の視点
           @心の教育の充実
           A個性を伸ばし多様な選択ができる学校制度の充実
           B現場の自主性を尊重した学校づくりの促進
           C大学改革と研究の推進
○平成10年6月 教育課程審議会答申
    幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改定について(審議のまとめ)
○ 同       中央教育審議会答申  「新しい時代を拓く心を育てるために」〜次世代を育てる心を失う危機〜

2 生涯学習社会の必要性
 平成9年版の教育白書「我が国の文教施策」には、生涯学習社会の必要性について次のように述べています。
 いわゆる学歴社会の弊害を是正し、心の豊かさや生きがいのための学習意欲の増大や、社会経済の変化への対応が求められている中、「人々が、生涯のいつでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価される」ような生涯学習社会の構築を目指していくことはきわめて重要な課題であるとしています。そして、生涯学習社会の構築が求められる背景と、そのための取組の一層の充実が必要な理由として、次のような点を指摘しています。
(1)学歴社会の弊害の是正
 偏差値偏重教育など、いわゆる学歴社会の弊害の是正は、現在進められている教育改革の重要課題であり、形式的な学歴によらずに、生涯の各時期の様々な「学習の成果」(実力)がきちんと評価される社会を築いていくことが求められている。
(2)社会の成熟化に伴う学習需要の拡大
 自由時間の増大、高齢化等社会の成熟化に伴い、心の豊かさや生きがいのための学習需要が増大している。
 これら学習需要に的確にこたえていくことは、学習者の自己実現のみならず、地域社会の活性化、高齢者の社会参加など、社会全体にとって有意義である。
(3)社会・経済の変化に対応するための学習の必要性
 情報化、国際化、産業構造の変化等に伴い、社会人は絶えず新しい知識や技術の習得を迫られている。

3 生涯学習とは
 これまで生涯学習の経緯とか、生涯学習社会とは何かなどを見てきましたが、肝心な「生涯学習とはなんぞや」を考えてみたいと思います。
 と言いますのも「生涯学習」という言葉ほど多種多様な解釈はないように思います。ここにいる皆さんお一人お一人に「生涯学習をどうとらえていますか?」と尋ねると、それこそ百人百様だと思います。それぞれが勝手に思い描きながら議論しても議論がかみ合いませんので、ここでは、平成4年の生涯学習審議会答申に定義づけられたものを「生涯学習」として話を進めます。そこには、「生涯学習」を次のように定義しています。
@ 生涯学習は、生活の向上、職業上の能力の向上や自己の充実を目指し、各人が自発的意志に基づいて行うことを基本とする。
A 生涯学習は、必要に応じ、可能な限り自己に適した手段及び方法を自ら選びながら生涯を通じて行うもの。
B 生涯学習は、学校や社会の中で意図的、組織的な学習活動として行われるだけでなく、人々のスポーツ活動、文化活動、趣味、レクリエーション活動、ボランティア活動などの中でも行われるもの。

4 生涯学習の場
 生涯学習の場には、次のようなものがあげられます。これは、一応の整理をしたものですが、生活の場すべてで生涯学習は行われるということになると思います。
 @ 幼保・小・中・高等学校などの教育機関
 A 大学などの高等教育機関
 B 公民館、図書館、青少年の家、博物館、文化施設、スポーツ施設など
 C 企業・事業所などの職場
 D 家庭や地域

5 生涯学習の基礎を培う小・中学校の役割
 中央教育審議会答申でも教育課程審議会答申でも述べていますように、小・中学校は生涯学習の基礎を培う場です。その基礎を培う場である学校にはどのようなことが求められているかを見ていきたいと思います。
(1)学校の役割として、次の4つがあると思います。 
 @児童生徒が、生涯学習の観点からの基礎的・基本的事項、自己教育力、勤労観、職業観、職業生活に不可欠な基礎的知識・技能等を身に付け、自己の個性を理解し、自らの生き方、在り方を考え、将来の生活設計を考えながら主体的に進路を選択できる能力を育成すること。
 A家庭や地域の教育力と密接な関連を持つ様々な教育活動を通じて、家庭や地域に問題を投げかけ、その教育力の活性化を図ること。
 B地域の歴史を研究している郷土史家、伝統的地域行事や伝承遊び等を守り伝えている人、ボランティア活動の実践者などの地域の人材の活用を図り、地域の人々と児童生徒との人間関係や交流を深めるとともに、地域の教育力を高める役割を担うこと。
 C地域住民の多様な学習ニーズに応え、今まで以上に施設を開放し、教職員が社会教育指導者として積極的に社会教育に参加するなど、スポーツ・文化活動つくりの拠点としてのコミュニティースクールの役割を担うこと。
(2)現指導要領の基本方針の中にこのことが述べられています。
 @豊かな心を持ち、たくましく生きる人間の育成
 A自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成
 B基礎的・基本的な内容の重視と、個性を生かす教育の充実
 C国際理解と我が国文化と伝統を尊重する態度の育成
 D社会の変化に主体的に対応して心豊かに、主体的に、創造的に生きていくことができる資質や能力(新しい学力観)の育成
(3)中央教育審議会「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」で、「生きる力」と「これからの学校」について、次のように述べています。
「生きる力」
 @いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力
 A自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性
 Bたくましく生きるための健康や体力
これからの学校
 @「生きる力」を基本とし、知識を一方的に教え込むことになりがちであった教育から、子どもたちが、自ら学び、自ら考える教育への転換を目指す。
 A知・徳・体のバランスのとれた教育を展開し、豊かな人間性とたくましい体を育んでいく。
 B生涯学習社会を見据えつつ、学校ですべての教育を完結するという考え方をとらずに、自ら学び、自ら考えるなどの「生きる力」という生涯学習の基礎的な資質の育成を重視する。
 つまり、「教育は、子どもたちの「自分さがしの旅」を扶ける営みである」ということです。
(4)教育課程審議会答申は、次のように述べています。
○改善の基本的考え方 
 @教育は、子どもたちの成長への願いを扶ける営みである。
  ・学校・家庭・地域社会の有機的関連付けが重要であること。
  ・学校は、学ぶことの動機付けや学び方の育成を重視すること。
  ・家庭や地域社会では、社会体験や自然体験を重視すること。
 A小学校の役割
  ・国家社会の一員として社会生活を営む上で必要とされる知識・技能・態度の基礎をしっかり身に付けること。
  ・豊かな人間性を育成すること。
  ・自分のよさや個性を発見する素地を養うこと。
  ・自立心を培うこと。
 B中学校の役割
  ・国家社会の一員として社会生活を営む上で必要とされる知識・技能・態度を確実に身に付けること。
  ・豊かな人間性を育成すること。
  ・自分の個性の発見・伸張を図ること。
  ・自立心をさらに育成すること。
 次のような生涯学習の視点が随所に見られます。
 ※一人一人の子どもの生涯にわたる学習の基礎をしっかりとつくり固めていくこと。
 ※学校が知識・技能の伝達や訓練の場として受け継がれてきたこれまでの在り方を見直し、「生涯学習の基礎となる力を育成していく場」と捉えること。
 ※学校は、子ども一人一人が生涯にわたって学び続ける意欲・態度・能力の基礎を培う時と場ととらえること。
○教育課程改善の基準のねらい
 @豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての自覚を育成すること
 A自ら学び、自ら考える力を育成すること
 Bゆとりのある教育活動を展開する中で、基礎・基本の確実な定着を図り、個性を生かす教育を充実すること
 C各学校が創意工夫を生かし特色ある教育、特色ある学校づくりを進めること

6 これから学校教育を展開するうえで持ちたい視点
 私は、これからの学校教育を展開する視点として次の4点をあげたいと思います。
(1)社会の変化
 @「物の豊かさから心の豊かさへ」シフトし始めています。
 A大量生産による画一的商品から、多品種少量生産による多様な商品の中から自らの好みにあった個性的な物の選択の時代へ移行しています。
 B「形式的な平等から実質的な平等へ」が特に指摘されてきました。
 C「効率主義より個性の尊重を」が社会の流れです。
(2)学校教育における生涯学習の視点
 @自発性
 A選択性
 B生涯を通じて
  ・向上心、挑戦意欲、克服しようとする態度などの情緒を持つ(自尊感情の醸成)
  ・基礎的・基本的知識や技能の定着
  ・学習方法や学習態度の育成
  ・学習の有用感の理解と実感
  ・縦の統合(幼小中連携)
  ・横の連携(学校・家庭・地域社会の連携、学社融合)
 C生活の向上や自己充実(自己実現・自己有用感)
  ・豊かな人間性
 D社会の変化への対応
  ・情報社会への対応
  ・環境保護
(3)学社融合の視点
 @融合とは、複数の個がそれぞれの機能の一部を共有化し、新たな機能を備えたより上位の次元の個を創造すること。
 A学社融合とは、学校教育と社会教育とがそれぞれの役割分担を前提とした上で、学習の場や活動などを部分的に重ね合わせながら、学校と社会とが一体となって子どもの教育に取り組んで  いこうという考え。
 B学校と社会教育施設が連携して、学校教育の中で活用しやすいプログラムや教材を開発し、施設の特色を生かした事業に取り組むこと。
(4)人権尊重の視点
 学校の教育活動全体を通じて人権尊重の視点から一人一人を大切にする教育を推進していく必要があります。このために、生命を大切にし、自他の人格を尊重し、お互いの個性を認め合う心、他人の痛みが分かり、他人の気持ちが理解でき、行動できるなどの他人を思いやる心、正義感や公正さを重んじる心などの豊かな人間性を育成することが重要であると考えます。
 @自己実現、自己有用感を学校生活の中で味わわせながら自尊感情を育てる。
   1度きりの人生を大事にする態度、向上しようとする心、人生を充実させることに生きがいや生きる目標を見出そうとする情緒、自尊感情を育てる。
 A豊かな心とたくましい体を育むとともに、人間としての生き方を身に付けさせる
   一人一人の子どもの居場所づくりをとおして、豊かな人間性、人としての生き方、在り方を考える指導を行う。

7 実践例
 七滝小学校では、以上のような視点から学校教育を全職員で展開しています。その基底にすえているのが「学ぶ喜びを体験させる」ことです。
 これが自ら学ぶ意欲を喚起するとともに学習の方法を学び取らせることにつながります。そこで、授業へ積極的に参加し、わかる喜び、できないことができるようになる喜びを体感させるために、次の6つの「あう」学習の展開を先生方に求めています。
   みんなで助けあう学習
   みんなで励ましあう学習
   みんなで喜びあう学習
   みんなで楽しみあう学習
   みんなで支えあう学習
   みんなで高まりあう学習
 以下は、学校でのいくつかの実践例です。
(1)生活科1年実践例 「校区探検」  くらやみ公園で遊ぼう 
 1年生の校区探検です。本校は、車道を通ると遠回りのため山道を通学路にしているところがあります。学校近くで林(森)の中を通ります。そこには、杉などの大木があり、木の茂りで昼間でも薄暗い所です。毎年、保護者が草刈りや倒木の除去など通路の整備はされますが、倒木や葛がかなりあります。それが子どもにとって格好の遊び場となっています。
 そこを通学する子どもが名付けた名前が「暗闇公園」です。校区で自慢できる場所探しの学習でこの暗闇公園を発表した子どもがいたのです。子どもがそこでの遊びの様子を話し、担任はデジタルカメラで撮影した写真をコンピュータで紹介するなどの工夫をしたのです。それらの取り組みにより、「暗闇公園」のことを初めて知ったある子が月曜日の学習が待ちきれなくなり、日曜日に一人で探検をしてきたのです。発した言葉が「明日の授業まで待ちきれなかったので、昨日一人で暗闇公園を探検してきました。」だったということです。
 子どもたちは、担任の創意工夫により興味関心を高めていけば、自ら学ぶ意欲が沸いてくるものです。この取り組みがそれを物語っています。
(2)地域との連携 2年実践例    校区探検 たけのこほり 
 これまでの校区探検は担任がクラスの子どもを連れて校区を周り、「ここが郵便局です」、「ここが農協です」、「ここは○○君の家」などと建物や場所を確認しているだけでした。私は「せっかく校区を探検するのであれば、校区探検でしかできない体験を子どもにさせたらどうか。そのために家庭や地域の協力を願ってはどうか。」と提案しました。
 担任がこの提案を受け熟慮の末、一人の子どものお祖父さんとお祖母さんにお願いして、校区特産の筍ほり体験を計画しました。
 子どもたちが孟宗竹の山に入って筍をほろうとするがどこにも筍は見あたりません。子どもはどこをどうほればよいかまったく分かりません。そんなとき、お祖父さんが地面の感触を楽しむように歩いていて、突然「ここをほってごらん。筍があるぞ。」と子どもにほる場所を示されたそうです。子どもは半信半疑で、お祖母さんと掘り始めたら筍があったのです。このときの子どもの驚き。そして、「うわぁー、○○さんのおじいちゃんはすごい。」の言葉が出たのです。
 子ども達はお祖父さんの長年の生活経験から靴を通しての地面の感触でそこに筍があるかを見極めることができる力に驚き、感動したようです。
 このことから大人の力、高齢者の力がわかり、それが尊敬へとつながると思います。
(3)社会科実践4・5年生 水産業の盛んな地域
 「鯵が1皿500円、鯵1匹500円、どうしてこんなに値段が違うの?」
 今学校では、「自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、判断し、よいより解決方法を決定する」学力が求められています。
 これは5年生が魚屋さんの見学で感じた疑問です。同じ魚が数匹で500円、1匹で500円とはどうしてだろうか。この疑問を担任は学習課題として位置づけて学習計画をつくりました。海から遠く離れた七滝での海の魚についての学習です。海での魚釣りを経験した子はいません。これをどうしたら自分の身近な課題としてとらえることができるかと担任は考えました。そして、コンピュータを使ってインターネットで漁業について調べました。芦北青少年の家の活動の中に漁業についての学習や活動ができないか相談し、集団宿泊教室の活動の中に漁業についてのプログラムを組み込みました。
 芦北漁協の魚市場見学をしたのです。そして、漁師さんから漁場を案内してもらい漁業についての学習を深めていきました。漁船に搭載されている魚群探知機のこと、網を巻き上げる機械のこと、いけすのことなど実地に見学できました。また、漁師さんの説明により漁業の楽しさやきつさを学びました。さらに、観光うたせ船のすぐそばまで案内してもらい、帆船の優雅さを見ることもできました。このようにインターネットを活用し、体験活動を導入することにより豊かな学習活動を創造することができます。
(4)国語科 6年実践例
    万葉集「ひんがしの野にかぎろひのたつ見えて、かへりみすれば、月かたぶきぬ」
 これは○○小学校の実践とは違います。七城町の生涯学習フェスティバルに参加したとき、ある先生が発表されたことです。
 柿本人麻呂の和歌に「ひんがしの野にかぎろひのたつ見えて、かへりみすれば、月かたぶきぬ」があります。これが6年生の国語の教科書に出ています。教科書には、この和歌とその現代語訳があるというのです。ただ、この歌を読んで情景を思い浮かべておしまいではあまりにももったいないと考えた先生は、この歌の情景を絵に描かせようと思いついたそうです。
 「ひんがしの野にかぎろひのたつみえて」を手がかりに、東の空の情景を子どもに描かせてみると山の端から太陽が今まさに出ようとしている場面に落ち着いたということです。「かえりみすればつきかたぶきぬ」の西の情景を描くと、それこそいろんな情景が描かれたそうです。満月、半月、半月も上弦の月、下弦の月、三日月などが。子どもたちがいろいろ議論するがなかなか一つにまとめることができなく、時間がなくなったところで、一人の子が「この月と太陽の勉強は4年生で習ったような気がする。明日4年生の理科の教科書を持って来て調べてみよう。」と提案したそうです。翌日、4年生の教科書をもとにいろいろ調べていると、東の空に太陽が出始める時間に西の空に浮かぶ月は満月しかないという結論に達したということです。
 過去の学習経験を本時の学習に生かすことは、生涯学習の大きな視点です。学ぶべきところがあります。

8 終わりに
 先生方の中にも生涯学習の視点に立った教育活動を展開されている方が大勢いらっしゃることと思います。生涯学習の視点に立った教材研究をし、子どもたちに確かな学力、豊かな心を育てていきましょう。
 終わりに、先生たちが毎日している「教材研究」は先生自身の生涯学習の一つです。自分の職業能力を高めることです。本日の研修会もその一つです。
 私たち教師は、生涯学習の啓発者であると同時に実践者であることを付け加えまして私の話を終わります。