社会教育委員の今日的役割を考える


平成27年6月4日
上益城郡嘉島町町民センター


社会教育委員の今日的役割を考える

 皆さん、こんにちは。中川でございます。よろしくお願いします。
 私は、社会教育委員の仕事を考えるとき、下村湖人を思い出します。清和小学校校長室には、下村湖人の書が掲額してあります。「自主創造」と書いてあります。下村湖人は、皆さん若い頃お読みになった「次郎物語」の作者で有名です。湖人は、熊本の第五高等学校を経て東京大学卒業後は、出身地の佐賀県で校長などを歴任し、社会教育家、小説家として活躍した人です。特に、青年団活動の在り方を指導しました。
 湖人は、次郎物語で、次郎たちに青年団活動の神髄を朝倉先生の言葉を通して、「白鳥蘆花に入る」
を説明しています。これは、真っ白い白鳥が真っ白い蘆花の中に舞い降りると、どこに降りたか分からないが、白鳥の羽の動きで、今まで眠っていた芦原がそよそよと揺れ動くので白鳥の存在が分かるというものです。朝倉先生は、ある村でのある団体の行動を例に「白鳥蘆花に入る」を説明します。それは、ある村で、若い人たちが集まって、いつも村のことを研究し、村の生活の調和と革新とを図っている。しかし、正面切って改革を叫んだり、集団行動に出たりするようなことはほとんどしない。団員は、月に何回となく集まって、意見を出しあい、計画を定めてその実現を誓いあうが、それをその団体の決議だなどといって、大ぴらに発表したりすることは決してない。彼らは、それがめいめいに出来ることだったら、默って率先躬行するし、村全体でやらなければならないことだったら、めいめい自分の近しい人から、茶飲み話の間に角立てないで説き伏せて行く。そんなことをしながら、いつの間にやら、村の気風を改め、世論を指導していく。大ていの人は、そんな団体の存在をはっきり知らないし、知っても気にとめない。いわば村の地下水となって村民の生活の根をうるおしているようなものだ。こういうのが、ほんとうの意味で公共に仕える道ではないか。と。
 清和小学校にある書は、旧清和村の青年団員の方が青年団活動の一環で、佐賀県に赴き、そこで、下村湖人から「自主創造」という書をもらい、清和小学校に寄贈したものだそうです。湖人は「よいと思ったことは進んで行動に移し、創りあげましょう」ということを清和村の青年団員に伝えたかったのでしょう。
 社会教育委員の職務は後でも述べますが、大上段に振りかぶって「こんな社会教育を行おう」というのではなく、自らが社会教育を率先遂行することだと思います。「白鳥蘆花に入る」という言葉そのものだと思います。
 皆さん方は、社会教育委員としてそれぞれの町の社会教育行政や社会教育の振興にご活躍でございます。皆さんがたの日頃の活動に対しまして心から敬意を表します。
 昨年5月8日、日本創生会議人口減少問題検討分科会は、日本の人口の将来予測を発表しました。とてもショッキングな内容でした。
 それによりますと、2040年の総人口は、御船町が13,959人、嘉島町が8,421人、益城町が28,131人、甲佐町が7,854人、山都町が8,712人と推計しています。聞くところによりますと、山都町で昨年1年間の出生者数が70人を切ったとか。この数字を聞いて、びっくりすると同時に危機感を覚えました。持続可能な社会づくりが叫ばれています。今、何か手を打たなければますます人口減少は進行するでしょう。
 そこで、安倍内閣の私的諮問機関であります教育再生実行会議は、今年3月4日に、「学び続ける社会、全員参加型社会、地方創生を実現する教育の在り方について」を提言しました。その中でもショッキングなことが述べられています。
 オックスフォード大学准教授マイケル・A・オズボーンさんは、「今後10~20年程度で、アメリカの総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高い」と予測しているそうです。また、ニューヨーク市立大学教授キャシー・デビッドソンさんは、「2011年度にアメリカの小学校に入学した子供たちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就くだろう」と予測しています。これは、アメリカ社会の予測ですが、日本でもこれに近い状態になりはしないでしょうか。
 本提言は、このような未来を見据え、生涯学習の必要性と地域とともにある学校づくりを提言しています。教育再生実行会議は、「教育は、地域を動かすエンジンの役割を担う」と言っています。そして、学校は、人と人をつなぎ、様々な課題へ対応し、まちづくりの拠点としての役割を果たす観点から、全ての学校において地域住民や保護者等が学校運営に参画するコミュニティ・スクール化を図り、地域との連携・協働体制を構築し、学校を核とした地域づくり(スクール・コミュニティ)への発展を目指すとしています。これは、学校を縁として、人々が新たな地域づくりを目指しましょうということです。これが、「学縁による地域づくり」と思います。
 社会教育法が改正されて、1号委員とか2号委員、3号委員という呼び名はなくなりました。改正前の社会教育法では、第15条の2項1号に「当該都道府県又は当該市町村の区域内に設置された各学校の長」とありました。2号に「当該都道府県又は市町村の区域内に事務所を有する各社会教育関係団体において選挙その他の方法により推薦された当該団体の代表者」とありました。そして3号は「学識経験者」とありました。このことから1号委員と言えば、小中学校の校長先生、2号委員は、地域婦人会や老人クラブ、体育指導員、文化協会、民生児童委員などの各種団体から推薦された方、3号委員とは学識経験者でした。この規定はなくなりましたが、現在でも社会教育委員さんはこのような分野から委嘱されていると思います。それで、それぞれの立場や社会教育関係団体内で社会教育の振興について話し合われていることと思います。この話し合いがが、団体内のみならず地域へと広まり、その町の社会教育が活性化するのです。このことは、まさに下村湖人が次郎達に説いた「白鳥蘆花に入る」です。
 冒頭述べましたように、少子高齢化、そして人口減少社会、しかも人口が大都市に集中していく中にあって、新たな地域づくりが求められています。その中核を占めるのが社会教育であり、社会教育活性化の中核となるのが社会教育委員さんだと私は思っています。
 この社会教育委員については社会教育法に規定してあります。皆さんは既にご存じのことですが、再度温めてみたいと思います。
 社会教育法15条に、「都道府県及び市町村に社会教育委員を置くことができる。」と規定してあります。これはおかしな規定です。社会教育推進の上でとても重要な役割を担っている社会教育委員を「置くことができる」です。「置かねばならない」でも「置くものとする」でもありません。極端な言い方をすれば、社会教育委員は置かなくてもいいのです。置かなくても罰則規定はありません。現に、青森県ではしばらく置いてありませんでした。それは、社会教育委員に替わる社会教育に関する諮問機関があるという理由からでしたが、現教育長は社会教育委員の果たす役割の重要性から社会教育委員を置くことにされました。何故重要かと言いますと、職務について、17条に、次のように規定してあります。
 社会教育委員は、社会教育に関し教育長を経て教育委員会に助言するため、左の職務を行う。
 一 社会教育に関する諸計画を立案すること。
 二 定時又は臨時に会議を開き、教育委員会の諮問に応じ、これに対して、意見を述べること。
 三 前二号の職務を行うために必要な研究調査を行うこと。
2  社会教育委員は、教育委員会の会議に出席して社会教育に関し意見を述べることができる。
3  市町村の社会教育委員は、当該市町村の教育委員会から委嘱を受けた青少年教育に関する特定  の事項について、社会教育関係団体、社会教育指導者その他関係者に対し、助言と指導を与える  ことができる。
 社会教育委員は、合議制と独任制、両方の性格を有しているとよく言われますのは、「定時または臨時に会議を開き・・・」とあることから合議制と言われ、「教育委員会議に出席して社会教育に関し意見を述べることができる」とあることから独任制と言われているのです。
 それぞれの各市町村の社会教育委員会議は、年3回から5回程度開かれていると思います。会議が一度も開かれていない町もあります。逆に毎月開かれているところもあります。現在の山鹿市がそうです。市町村合併の前、旧鹿本町の社会教育委員さん方は毎月会議を開き、教育長の諮問に対して熟議を重ねて答申していました。諮問がない年は、社会教育委員会が独自で調査項目を決め、それを建議という形で教育長に出しておられました。上益城でも平成10年、本日のような研修会で、教育長の諮問に応え、答申を出す演習をしたことがあります。平成10年と言いますと、平成14年から学校完全週5日制がスタートすることに備えて、各町ではその受け皿づくりを真剣に考えておられるときでした。研修会後、当時の6町村すべての教育長が社会教委員に対して、「我がまちの青少年の健全育成に関する方策について」などの諮問があり、6町村全ての社会教育委員会議が調査・研究・熟議を重ねて答申を出しました。それが、その後の社会教育行政に反映されました。益城町では、公民館活動を活性化するために、「生涯学習社会の公民館講座の見直し」でありますとか「公民館分館長の設置」でありますとか転入住民への「ミニ町史編纂」などの提言がありました。それらがその後の町社会教育行政に反映されています。
 社会教育行政職員の方へお願いです。我がまちの社会教育行政の活性化等について是非社会教育委員会に対して諮問してください。諮問がありましたら、社会教育委員会議で調査・研究議論が行われ、答申が出されるものと思います。
 社会教育委員の皆様へお願いです。教育長からの諮問がなくとも、自分たちで、我がまちの社会教育の課題を見つけ、課題解決のために調査・研究、そして課題解決のための方策を建議してください。
これは、社会教育委員の大きな役割の一つですから。
 私は、社会教育委員の役割は、住民と行政との架け橋だと思います。そのために、社会教育に関して、住民に対しても行政に対しても、御用聞きと押し売りの姿勢で臨んでいただくことだと思っています。例えば、住民の意向を聞き、行政に伝える、行政の意向を聞いて、住民に伝えることです。特に公民館講座については、いろんな住民の要求があると思います。私は住民の学習要求を、住民の要求課題と言っています。逆に行政の側には住民に学んで欲しいことがたくさんあると思います。例えば、人権問題、環境問題、福祉問題、現在の具体的な学習課題は認知症サポート、そして今特に求められているのは学校支援ボランティアの養成です。私はこれらを行政の必要課題と称しています。この要求課題と必要課題を統合した講座を主催講座として開設することが重要だと思います。
 平成の初め頃、文部省が生涯学習を推し進めました。そのとき、「カラオケも生涯学習」と言ったものですから、公民館講座がカラオケを始め、住民の趣味を中心とした講座が花盛りということが起きました。この頃です。公民館講座を揶揄して、「地域を忘れた社会教育は裏のお山に棄てましょうか」という戯れ歌が流行ったのは。町の税金で開かれる公民館講座に公共性が求められるのは当たり前だと思います。
 中央教育審議会は、平成20年に「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について~知の循環型社会の構築を目指して~」を答申しました。各個人が、自らのニーズに基づき学習した成果を社会に還元し、社会全体の教育力の向上に貢献するという「知の循環型社会」を構築することは、持続可能な社会の基盤となるなどを提言しました。中央教育審議会が学習の成果を社会に還元しましょうと提言する前から上益城では、学びの成果を社会活動に還元しています。そのさきがけが、旧矢部町の高齢者大学です。通潤橋で腕に腕章をはめて案内しているボランティアの方を見かけることがあるでしょう。あの方々は、高齢者大学で学んだ人たちです。旧矢部町の高齢者大学では、郷土史科があり、矢部町の歴史を学んでおられました。その方たちが、「自分たちは町の税金で学ばせてもらっている。何か町に恩返しができないものか」と思っていました。一方、通潤橋には、熊本はもとより県外からもたくさんの観光客が来ます。一時期、4年生の社会科の教科書に通潤橋が取り上げられたものですから、社会見学で県内外から小学4年生が通潤橋の学習に来ています。そのたびに、教育委員会に通潤橋の案内を頼んでいました。教育委員会の方は、そのたびに案内に出ていました。これでは、本来の業務ができません。そこで、誰か通潤橋の案内ができる人はいないものかと思っていたのです。この両者の思いが一致して、通潤橋案内ボランティアが誕生したのです。益城町で、公民館講座生が学校や施設を訪問して、そろばんや習字、絵手紙、陶芸などのお手伝いをしています。これらは、町のお金で学ばせてもらった学びの成果を地域に還元したいとの思いからです。学びの成果を活かしてボランティア活動することによって新たな学習課題が生まれます。平成7年の阪神淡路大震災後に通潤橋に学習に来た子どもから、「1月に起きた阪神淡路大震災の時のような大地震が起きてもこの通潤橋は壊れませんか?」との質問があったそうです。ボランティアの人は、この質問を受けて、おそらくこれまでも大地震があったはず。にもかかわらずこうして橋がある。大地震にも耐えることができるはずだ。それで、「この通潤橋は大地震にもびくともしません」と答えようと一瞬思ったそうです。しかし、自分はそれを確信をもって子どもに言えるような勉強はしていない。自分の思い込みのままで答えるのは、勉強に来ている子どもたちに失礼なことだと考え直して、「私はそこまで勉強していません。後日調べてから学校に返事するということでいいですか。」と言うと、子どもは「お願いします。」と言ったそうです。それで、ボランティアの方は、後日、役場に残る古文書を調べたり、県立図書館にある通潤橋に関する書物で、大地震と通潤橋の関係を調べたそうです。すると、通潤橋が完成してまもなく安政南海大地震が起きた記録が目にとまったそうです。そこに、「布田保之助は畳石にわずかのズレもないことを確認した」という文言を見つけたそうです。このことを後日、学校に手紙にしたため送ったという話を聞いたことがあります。
 益城町のそろばん講座生の方も、自分のそろばん技術を高める学びはもとより、そろばん技能を子どもたちに効果的に教える方法を互いに研究し合っています。ある方は、かけ算の方法を1日かかって研究したと言っていました。かけ算の方法は、5種類ほどあります。基本的なかけ算は、かけられる数をそろばんの中央に置き、左側にかける数を置いて、計算する方法です。ところが、そろばん塾などでは、競技そろばんと言って、かける数もかけられる数もそろばん上に置かないで、問題の数を読んで、かけ算九九の答をそろばん上に置いていきます。その九九の答をそろばんのどこに置いていくかの研究です。例えば、468×593という問題があったら、3桁×3桁ですので答は6桁の数となります。それで、そろばんの中央の定位点を「一の位」として、そこから左へ数えて6桁目から「4×5」の答え、その右隣の5桁目に「4×9」の答え、その右の4桁目に「4×3」の答えを置いていくのです。この計算方法を教えるのはかなり難しいです。この計算方法で、小数×小数のかけ算をするのです。小数点をどの桁に打つかの判断が難しいのです。きちんとした規則があります。この小数点をうつ桁の規則を1日かかって解明したというのです。まさに学習成果を活かしたボランティア活動が新たな学習課題を生み出し、課題解決のために自ら学習した例です。
 また、老人ホームに行って、入居者の人と一緒に碁をしたり将棋をしたり、世間話をしたりなどのボランティア活動をしている人もいます。入居者の人はこのようなふれ合い交流を楽しみにしているそうです。
 このように学習によって得た成果を学校支援や福祉施設の支援に活用している人が増えてきました。そして、ボランティア同士が連携し合い、課題を話し合い、協働して課題を解決するなどの行動が新たな地域づくりへとつながっています。
 このような視点からも、生涯学習の推進は欠かせないものです。
 冒頭述べました教育再生実行会議の提言では、現代社会では、社会の変化に応じて職業の在り方が様変わりしている中で、生涯を通して社会で活躍していくためには、学校卒業までに身に付けた能力だけでは不十分であり、社会に出た後も、学び続けることにより、新たに必要とされる知識や技術を身に付けていくことが求められていること、人々が幸せや生きがいを求めていくには、仕事以外の時間をいかに創造的、生産的に過ごすかが重要になってくることなどから、社会に出た後も、誰もが学び続けることができ、その成果を社会で活かし、何歳になっても夢と志のために挑戦することや、一人一人が自己充実感を持って幸福に生きていくことができる社会を実現することが極めて重要だと提言しています。このことを実現するための教育の理念や方策についても提言しています。
 そこで私からの提案です。
 第1の視点は、先ほども触れましたが、公民館講座の見直しです。どの町でも公民館活動の一環として公民館講座が開設されています。講座は、大別すると公民館が主催する主催講座と住民が自ら学ぶ自主講座とがあると思います。
 主催講座とは、行政側から住民にこれは是非学んで欲しいと思う課題、例えば、人権問題、環境問題、福祉問題、産業問題、現在は学校支援もこの中に入ると思いますが、このような課題を開設した講座です。行政が住民に学んで欲しいと思う課題のことを私は行政の必要課題と言っています。つまり、公民館が公民館の考えで主催する講座が主催講座です。
 自主講座とは、住民の皆さんが学びたいと思う課題、例えば、カラオケであったり、囲碁であったり、将棋であったり、いろいろありますが、それらを学ぶ講座です。益城町では、主催講座を3年で修了した人たちが、さらに学びたいとの思いから、習字であったり、陶芸であったり、木目込み人形であったり、社交ダンスなどを自主講座として学んでいます。私はこれを要求課題と言っています。
 この必要課題と要求課題を統合した講座を開設して欲しいと思います。
 2つ目の視点は、職業能力を高める講座の開設です。例えば、パソコン講座の中でもワードやエクセルを活用する講座などです。
 3つ目の視点は、福祉に関する講座開設です。社会福祉協議会と連携した認知症サポートに関する講座などは現代的課題の一つではないでしょうか。人権問題はどこの町でも取り組まれています。
 4つ目の視点は、家庭教育支援講座の開設です。熊本県では全国に先駆けて、「家庭教育支援条例」を策定しました。公民館講座の一つに、家庭教育学級を開設したり、本県社会教育課が進めています「親の学びプラグラム」を公民館で実施したりして欲しいと思います。
 ちなみに、学校では、子どもたち一人一人が、生涯学び続ける意欲・態度・技能などを育成するために、生涯学習の視点から、確かな学力・豊かな心・コミュニケーション能力等を養う教育が進められています。このことを効果的に進めるために、地域とともにある学校作りの取組が活発に行われています。地域の人が様々な場面で学校教育を支援しています。皆さんの中にも学校応援団の一人として、地域学習での案内や講話、ドリル学習などの○付け、田植えや野菜栽培などの農作業体験、昔遊びなどで学校にご協力している方もおいでだと思います。
 学校では、学力を高める教育を推進していると言いましたが、「学力」という言葉を聞いてどんなことをイメージしますか?「全国一斉学力テスト」などの言葉が思い起こされますか?文部科学省が小学6年生と中学3年生を対象に、毎年学力調査をします。これをマスコミでは「学力テスト」と称して報道しています。静岡県知事が学力テストの結果を公表すると言って物議を醸しました。テストと言えば、評価です。自分の学力はどの位の位置にあるか、我が校の学力はどの位置にあるか、学力が高いか低いかなど気になるところですが、文科省が小学校6年生と中学校3年生を対象として実施しているのは学力テストではなく学力調査です。全国の子どもたちの学力や学習状況を把握して指導法の改善などに役立てるべく調査するものです。この学力を大阪大学教授の志水宏吉先生は、「樹のイメージ」でとらえた「学力の樹」として説明しておられます。 


 先生は、知識・理解や技能からなる学力をA学力と称して生い茂る「葉」、思考力・判断力・表現力からなる学力をB学力と称してすっくと伸びた「幹」や「枝」、意欲・関心・態度からなる学力をC学力と称して大地をとらえる「根」に例えて、3者が一体となって成長し、「学力の樹」を形づくっていくと説明しておられます。もう少し詳しく言いますと、子どもたちが学びとる知識や技能が、1枚1枚の葉っぱであり、生い茂った葉っぱが大きな力を発揮するように子どもの成長に不可欠な要素だと言っておられます。葉っぱが秋になると枯れ落ちたり、春になると生え替わったりするように、学習によって新たな知識にすることが大切だと言うことです。
 C学力の「根」は、地中の隠れたところにあり、目には見えませんが樹を支え、地下から栄養や水分を吸収するという大事な役割がありますね。子どもの成長にとって、とても重要な意欲・関心・態度がこれにあたると説明しておられます。「幹」や「枝」にあたるのが、思考力・判断力・表現力、これをB学力と説明しておられます。樹は、太陽の光の栄養分を葉から根へつなげます。根から水分や栄養分を吸い取り枝や葉に受け渡していきます。これらの働きを通して、幹や枝を太らせていきます。幹は大樹をがっしりと支えます。大樹にとって、葉も幹も根もどれも欠くことのできない大切なものです。

 私は午前中、宇土市の学習支援人材バンク事前研修会に行ってきました。実践発表の中で、網津小学校の先生が、「盲導犬と暮らしている方の生き方に学ぼう」で盲導犬と暮らしている方の話を聞くことで、盲導犬に関する知識理解が深まり、盲導犬が目の不自由な方を支えていること、目が不自由な方の盲導犬に対する思いなど、障がい者の生き方を通して自分の生き方を学ぶことができたと発表されました。網田漁協ののり養殖技術指導者の方が宇土小学校5年生社会科学習で、「のり養殖」に関する学習の手伝いをしたことを発表されました。のり養殖に従事している人の思いや苦労、のりを育てる技術など、専門家の話を聞いてのり養殖についての理解が深まります。これまでは、知識理解は、学校の先生にお任せしますが私たちの考えでしたが、専門的知識理解は地域の方々の支援が必要なのです。
 ○付けボランティアの方が、子どもたちの学習ぶりをとても褒められます。「がんばったね」、「よくできたね」、「もう少しよ」などの言葉かけが子どもたちの学習に対する興味・関心・意欲を引き出しているのです。
 皆さんが学校においでると、○付けばかりではありません。講話ばかりではありません。休み時間などで子どもとのふれ合いがあるでしょう? これがコミュニケーション能力を高めます。子どもたちからお礼の手紙が届くでしょう? 子どもたちは、手紙を書くことによって表現力を高めていきます。
 このように皆さんが学校教育を支援していらっしゃることで、子どもたちの学力が高まっているのです。子どもたちの育ちを支援していただいているのです。
 どうぞ、これまで以上に学校支援をよろしくお願いします。
 また、地域の大人の学びの場を提供する学校も少しずつ出てきました。
 これまで述べてきましたように、社会教育は、学校教育以外の組織的な教育活動全てを指します。多岐にわたっています。社会教育委員制度は、この社会教育について教育委員会に助言する制度です。社会教育法から社会教委員の皆さんの職務はこれまで見てきました。
 終わりに社会教育委員の皆さんの今日的役割をまとめます。
 役割の一つは、社会教育行政の必要課題を住民の要求課題となる架け橋的役割です。行政の必要課題が住民の要求課題となるということは、行政と住民が課題を共有することです。課題解決の見通しを共有できたことことです。全ての人が幸せに暮らせる社会づくりに欠かせないのが、人権問題、福祉問題、環境問題、地域づくりなどです。行政が学んで欲しいと思うこれらの課題を、住民が学びたいと思うようになれば、知識理解から行動へと発展すると思います。つまり、題解決方策まで考えることになると思います。例えば、不法投棄は罰せられるからしないではなく、環境を守るためにしてはいけないという意識を住民が持つことです。住民が主体的に考え実行する、これは、住民の意向を社会教育行政に反映させることとなります。
 二つは、家庭・学校・地域をつなぐパイプの役割です。民生児童委員さんがこの役割を担っていますが、社会教育委員の皆さんももこの役割が大きくなってきたと思います。いま、学校を縁とした地域づくりが提唱されています。このことを「学縁」ということは、冒頭話しました。この学校・家庭・地域をつなぐ役割はまさに社会教育委員の皆さんにに求められる現代的役割だと思います。
 三つは、家庭や地域の教育力向上に関しての積極的助言です。親が悪い、学校が悪い、地域が悪いでは、課題は解決しません。それぞれの課題解決に対して、これまでの豊富な経験や知識などから課題解決のための具体的方策を助言していただくことです。
 四つは、社会教育関係団体の活性化に関する助言です。青年団は一部地域を除いてほとんど消滅しました。地域婦人会や老人クラブも、存続の危機に瀕している地域があります。団体の存続はもとより、会の活性化のための指導助言です。
 五つは、社会教育行政の活性化を図るための答申・建議・意見具申、教育委員会へ提言することです。
 社会教育委員さんのご活躍が、冒頭述べました不都合な真実「人口減少社会」に歯止めをかける方策となることと思います。皆様方お一人お一人の英知を結集してそれぞれの町の社会教育が活性化することを祈念しまして話を終わります。
 ご静聴ありがとうございました。