県央地域における地域の寺子屋の取組状況について
小川町公民館
平成26年10月29日


 皆さん、こんにちは。
 地域の寺子屋推進事業プランナーの中川です。県央地区を担当しています。これから上益城・宇城・天草の各教育事務所管内での地域と協働した学校教育、つまり学校応援団活動について私が見たり聞いたりしましたことの一部を紹介します。
 3つの教育事務所管内の学校を訪問させていただきまして思いますことは、学校応援団づくりが目的である学校、学校応援団の支援が常態化して学校教育を推進する手段になっている学校があることです。
 皆さんご存じの通り、学校応援団活動は、子どもの確かな学力を育むこと、コミュニケーション力を育むこと、そして郷土愛を育むこと、先生方にとっては多忙感を解消し、特別に支援を必要とする子等に目を向ける時間を確保すること、地域の人にとっては自己実現、地域の子は地域で育てる意識の涵養であると思っています。私の持論ですが、「人は家庭で育ち、学校で学び、地域で伸びる」を学校・家庭・地域社会が連携して子育てに当たることだと思います。
 このような観点から、学校訪問で見聞きしましたことのいくつかを紹介します。
 初めは、コーディネーターや管理職の先生方の名言、私がすばらしい言葉と思った言葉のいくつかです。
 「お忙しい中で学校応援に来ていただいています。おもてなしの心でお迎えし、満足感いっぱいでお帰りになるようお見送りしています。」コーディネーターの方々や先生方のお気持ちの表れから学校玄関には、「○○さん 本日はお世話になります」とか、「お忙しい中子どもたちの学習支援ありがとうございます」などのウエルカムボードでお迎えしてあります。この心遣いが応援団活動を後押ししています。ある学校の校長先生は、「お忙しい中、本校の子どもたちの学びを支えていただいています。私が学校にいるときは必ずお見送りしています。」とおっしゃいます。まさに、おもてなしの心で迎え、感謝の心で見送っていらっしゃいます。
 次もコーディネーターの方の言葉です。
 「具体的な例を挙げて感謝の気持ちを表すよう先生にも子どもたちにもお願いしています。」
 学習支援が終わると、どこの学校も「ありがとうございました」とお礼の言葉を言います。ある学校では、具体的な場面での感謝の気持ちを表しています。例えば、6年生のミシンをつかった裁縫の時間で、「ミシンの糸が切れて困っていたとき、糸を通して縫えるようにしていただきありがとうございました」とか「ミシンをどう動かして縫えばよいか分からないで困っていたとき、丁寧に教えていただききれいな袋が縫えました」などのように。例えは良くないかも知れませんが、旅行先で買った土産のお礼に「先日はありがとうございました」より「おいしかったです。ありがとうございました」の方が嬉しく思います。もっと嬉しいのは「この前のお土産、酸っぱい中にも甘みがあってとてもおいしかったです。」とお礼を言われることです。「酸っぱい中にも甘みがあって」と言う言葉は実際食べた人でなければ言えないお礼の言葉です。具体的な言葉でお礼を言われると、自分が役に立っていることを実感できます。これが「この次も行こう」とか「次は友だちを誘って行こう」につながるのです。学校支援地域本部事業等を長年継続しているでは、学校支援ボランティアの高齢化、固定化、減少化が課題です。拡がりが少なくなっていることです。具体的事例を挙げてのお礼の言葉はこの課題解決にの一つになるだろうと思います。
 次の言葉は、教頭先生の言葉です。
 「子どもの育ちの姿を地域に示さねば、地域からの信頼も学校応援も望めません。子どもの育ちを地域に見せることができるよう全職員で指導に当たっています。」
 学校の情報を地域に発信するとは、まさに子どもの育ちの姿を地域に示すことです。子どもの育ちの姿とは、望ましい姿もあればそうでない姿もあることでしょう。そういう姿をひっくるめて地域に示すことで学校理解が深まると思います。先日、学校訪問の分科会の一つ「地域連携部会」に参加しました。その席で教育委員長が「地域から信頼される学校づくりを校長先生を中心に先生方が一体となって行っていらっしゃることが子どもの姿を通してよく分かります。子どもが育っています。」とおっしゃいました。その学校は、地域と連携した教育が盛んに行われています。
 次の言葉も教頭先生の言葉です。
 「子どもたちは1年生の時から学校応援団の姿を見て育っています。本校では、『掃除をしなさい』と注意したことはありません。掃除の仕方のアドバイスはしますが。」
 子どもたちは、学校応援団の姿を見て、ボランティアの心が自然と身に染みついているのです。ボランティアを自分の将来像ととらえているのです。ですから、掃除を進んでするのだと思います。これも、学校応援団の効果の一つです。
 次は校長先生の言葉です。
 「子どもが感動した時の表情はきらきら輝いています。子どもは本物に接することで大きな感動を体験します。そこに学校応援団の意義があります。子どものためになる提案は拒みません。」
 「本物に接する」、ここに学校応援団の大きな効果があります。ある学校の道徳の授業を参観しました。道徳の副読本「くまもとの心」をつかった授業でした。「くまもとの心」中学年版に清和文楽を守り受け付いている人々を扱ったものがあります。旧清和村の人々が文楽を守り継承している喜びや苦労を学んだ後で、先生が子どもたちに、「私たちの地域には守り伝えていく宝物はあるでしょうか?」と尋ねられると、子どもたちが一斉に手を挙げて、「八勢目鑑橋」「鼎春園」「古閑迫の虎舞」「七滝」「田代の獅子舞」「七滝の自然」など発表しました。私は子どもたちが校区の宝物を次から次に列挙したことに驚きました。自分が住んでいる地域を意識的に見ていなければこんなに地域の宝物を挙げることはできないと思います。担任の先生は、子どもたちが「古閑迫の虎舞」を挙げることを予想して、虎舞保存会長さんをゲストティーチャーに呼んでおられました。先生が「虎舞保存会長さんの話を聞きましょう。」とおっしゃると、保存会長さんが、虎舞でつかう本物の「獅子頭」、いや、虎舞だから獅子頭とは言わないでしょうね。「虎頭」でしょうか。虎頭が子どもに向かって、大きな口を開けて、「パクッ」と見得を切りました。子どもたちはびっくりしました。本物の虎舞を間近で見て、子どもたちの目が輝いていました。これが本物に接することですよね。
 後で話をしようと思いましたが、ここで「くまもとの心」について少し触れておきます。私は「くまもとの心」を深く読んだわけではありませんが、「くまもとの心」は、小学校低学年版、中学年版、高学年版、中学生版があります。低学年版には、八代の妙見際のガメを題材にした話があります。ある学校では、この学習をした後で自分たちの校区にあるお宮ではどんな祭りがあるだろうと調べ、近くの八幡さんの宮司さんからお神楽について話を聞くビデオレターをもらって学習していました。
 高学年の教材には、ロサンゼルスオリンピック柔道で、金メダルを取った山下選手の話があります。矢部町にある通潤山荘ロビーには、オリンピックで着た柔道着や活躍の後を表す品々が展示してあります。道徳の授業の後で、それらを見学に来る子ども、教材研究で見に来る先生がいると言うことです。
 道徳の副読本「くまもとの心」は、学校と地域素材・地域人材を結びつける教材です。みなさん、是非読みましょう。そして、「この教材では、こんな地域素材や地域人材を活用したらどうでしょう。」と提案しましょう。
 次に、学校支援の具体的事例をお話しします。
 学習支援は、ゲストティーチャーであったりアシスタントティーチャーであったりとその活用方法は様々です。ゲストティーチャーでは、講話が多いようです。講話の中でも、戦争体験講話、キャリア教育に関する講話、郷土史に関する講話等があります。
 中学校では、2年生が職場体験活動をします。学校によっては、100以上の事業所に依頼しています。学校が地域から信頼されていなければできない事業です。ある中学校では、キャリア教育の一環として、この職場体験事業主、10名程度の方に1年生から3年生までを対象にして職業講話をしていただいているそうです。生徒は、どの方の講話を聞くかを選択し、農業従事者、個人店主、工場経営者等から仕事の苦労話や夢、思い等を聴くそうです。それをもとに職場体験事業所を選択しているそうです。
 採点支援や傾聴支援を実施している学校の実践です。ボランティアの役割は、よく聴き、認め、ほめ、たずねること。教えてはいけないとしています。例えば、作文学習で書き綴った文を聴いてもらい、いいなと感じたところを具体的な言葉で褒めてもらうそうです。そして、疑問に思ったことを尋ねるそうです。例えば、「何人で遊んだの?」とか、「どんな遊びをしたの?」とか、「どこが面白かったの?」などを。子どもたちは尋ねられたことをメモして、席に帰り、尋ねられたことを説明する文章を付け加えるそうです。これらが作文推敲に大変役に立っているとのことです。
 実技支援では、そろばん学習支援、習字学習支援、ソーイング支援など実技を伴う学習の支援が数多くされています。私もそろばん学習の支援に行っています。益城町では、公民館講座生がお手伝いに行きます。1度に8人から10人程度行きます。4人程度のグループを1人でみます。指遣いや1珠・5珠の使い方、計算方法についてアドバイスします。ある学校では、歯科医勤務経験のある方が歯磨き支援を給食後に行っています。もう5年近く続いていますので、虫歯保有者数や1人あたりの虫歯保有本数も減ったと言うことです。
 その他の支援として、読み聞かせやクラブ活動支援、部活動支援が行われています。先ほど紹介しました「くまもとの心」を読み聞かせている学校もあります。校区居住の外国人に絵本を英語で読み聞かせをしている学校もあります。     
 体験・交流支援も多くの学校で行われています。栽培体験、農業体験、昔遊び体験、ふれ合い給食会、ふれ合い軽スポーツ大会、通学合宿、地域へ出かけての交流などです。
 安全・安心支援は、登下校時の見守り、交通指導、あいさつ運動などです。ある中学校では、あいさつ運動が「行ってらっしゃい運動」へと発展し、通勤途中の方が車の窓を開けて応えているそうです。
 環境美化支援では、掃除、除草、樹木剪定、整地・修繕が行われています。  
 郷土愛支援では、社会科や生活科での郷土学習、「くまもとの心」を活用した道徳教育、地域祭りへの参加、地域清掃活動等が行われています。
 ある学校では、PTA活動や授業参観時での託児支援をしています。保護者からは授業参観や話し合いに参加できると好評だそうです。
 学校応援団の組織や名称についてお話しします。
 これまで学校支援地域本部事業の指定を受けてきた学校以外では、学校応援団としての単独の組織ができているところは多くありません。何らかの別組織の中に組み込まれているものが多いように感じます。しかし、私はこれも学校応援団の組織だと思います。例えば、校区の区長さん、民生児童委員さん、体育協会長さん、婦人会・老人会などの会長さん等で組織されています「教育懇談会」や「連絡協議会」、そして校区の活性化を協議する「地域活性化協議会」などです。名称で「○○小と地域の絆を結ぶ会」というのがあります。まさに学校と地域の絆を結ぶ名称です。すばらしい名前だと思います。しかもその学校は、その会合を60数回重ねてきています。年数回の会合としても10年以上も前からこの組織があるのです。歴代校長先生方の先見の明に頭が下がります。コミュニティ・スクールの指定を受けている学校は、「○○小・中学校運営協議会」と言う名の組織ができています。
 コーディネーターの心構えにつきましては、先程来話してきましたように、学校と地域のニーズや情報を収集する御用聞き的役割、子どもたちの確かな生きる力を身につけるために地域の素材や人材の情報を提供するとともに、その活用方法を提案する押し売り的役割、学校とボランティア、ボランティアとボランティアををつなぐ役割等があると思います。その際、持っておきたいのは冒頭申しました「おもてなしの心」です。
 時間が来ましたので、課題及びその解決等につきましてはレジュメに記しています。後刻、目を通していただければと思います。
 終わりに、資料として附けています、大阪大学教授 志水宏吉先生の「スクールバス理論」について簡単に説明します。先生は、バスの4つの車輪がうまくかみ合って前進するように子どもたちも4つの力がうまくかみ合って確かな学力を身につけることができる。確かな学力を身につけた子どもがいる学校が力のある学校だと説いておられます。4つの力とは、右前輪に当たるところが一人一人の学びを支える学習指導、左前輪が一人一人の子どもたちがつながり感を持てる生徒指導、右後輪が家庭の教育力の向上・家庭間のつながり、そして学校への支援協力、左後輪に当たるところが地域の教育力の活性化、地域の教育機関同士のつながり、そして学校への支援協力です。私は、志水教授の理論は学校応援団の活性化を図る私たちが求めている姿ものそのものだと思っています。
 子どもたちの確かな学力を下支えし、自尊感情を醸成する学校応援団活動がますます充実しますようがんばりましょう。


レジュメ

平成26年度
「学校・家庭・地域連携推進事業」「放課後子ども教室推進事業」第2回コーディネーター等研修(県央会場)
県央地域における地域の寺子屋の取組状況について

1 コーディネーター・管理職の名言
 ・「お忙しい中で学校応援に来ていただいています。おもてなしの心でお迎えし、満足感いっぱいでお帰りになるようお見送りしています。」
 ・「具体的な例を挙げて感謝の気持ちを表すよう先生にも子どもたちにもお願いしています。」
 ・「子どもの育ちの姿を地域に示さねば、地域からの信頼も学校応援も望めません。子どもの育ちを地域に見せることができるよう全職員で指導に当たっています。」
 ・「子どもたちは1年生の時から学校応援団の姿を見て育っています。本校では『掃除をしなさい』と注意したことはありません。掃除の仕方のアドバイスはしますが。」
 ・「子どもが感動した時の表情はきらきら輝いています。子どもは本物に接することで大きな感動を体験します。そこに学校応援団の意義があります。子どものためになる提案は拒みません。」

2 学校支援の領域・事例
 ・学習支援(ゲストティーチャー アシスタントティーチャー)
講話:戦争体験講話 キャリア教育に関する講話 郷土史に関する講話
採点支援・傾聴支援:よく聴き、認め、ほめ、たずねる。
実技支援:そろばん学習支援 習字学習支援 ソーイング支援 水泳指導支援 歯磨き支援
その他の支援:読み聞かせ クラブ活動支援 部活動支援     
 ・体験・交流支援
  (栽培体験 農業体験 昔遊び体験 ふれ合い給食会 ふれ合い軽スポーツ 通学合宿 地域へ出かけての交流)
 ・安全・安心支援(登下校時の見守り 交通指導 あいさつ運動 行ってらっしゃい運動)
 ・環境美化支援(掃除 除草 樹木剪定 整地・修繕)  
 ・郷土愛支援
 (郷土学習 くまもとの心を活用した道徳教育 先輩は語る 地域祭りへの参加 地域清掃活動 ・その他の支援:PTA活動や授業参観時での託児支援

3 学校応援団組織及び名称
 ・教育懇談会 ○○校区連絡協議会 ○○地域活性化協議会 ○○小と地域の絆を結ぶ会
(○○小・中学校運営協議会)

4 コーディネーターの心構え
 ・御用聞き(学校・地域の情報収集)
 ・押し売り(提案):学力充実・自尊感情醸成  人材情報や活用方法の提案
 ・人と人をつなぐ:学校とボランティア ボランティアとボランティア 
 ・おもてなしの心:ウエルカムボード
5 課題
 ・学校の課題
  大規模小学校での地域人材活用   教科での支援
  中学校での地域人材活用の場の開発
 ・人材課題
   高齢化 固定化 減少化
 ・地域課題
   地域ネットワークの構築   学校を核としたコミュニティの創造
 ・大人の学びの場づくりの課題
小中学校版公開講座開設

6 課題解決に向けて
 ・具体的な感謝の言葉でボランティアの自己実現を喚起(管理職・コーディネーター)
 ・学校支援ボランティアの養成・発掘(コーディネーター・行政)
 ・コーディネーターの学校常駐体制の整備(行政)
 ・学校教育課と社会教育主管課の連携(行政)

※ 学校を核とした地域の寺子屋の効果
   学校・家庭・地域社会がそれぞれの教育力を活かし連携することで確かな学力を身につけた子どもを育みます。

 (スクールバスモデル理論 大阪大学 志水宏吉教授)

(出典)大阪府教育委員会『学校改善のためのガイドライン』2008年