某ゲーム屋にて。
ラオウ:「……」
高 任:「どーしました?」
ラオウ:「いや……このゲームなんだけど」
『うそもて』
絵に描いたようなダメ主人公が、妖精さんの力によってもてもて体質に……だが、世の中そんなに甘くない。
もてもて体質になるためには、ある制約というか条件付き……その条件とは、『うそしか言えなくなる』……ってな説明がパッケージに。
高 任:「……むう」
ラオウ:「アイデア的には結構面白そうなんだけど……これって、テキスト勝負になってくると思うんだわ」
高 任:「メーカーは?」
ラオウ:「スタジオ〇こぱんち」
ラオウさんとそんな会話を交わしてから1年半……中古ゲーム屋にてちょっと魔が差しました。(笑)
いや、魔が差したとか言うとちょいと失礼かも。
結論から言うと、作品が惜しい出来。
少子化だか不景気だか、とにかく女子校が共学に……ダメ人間と言うほどでもない様な気がしますが……何とかしてラブをゲットしたい主人公は躊躇なくそこに入学。
男女比率1対9……ああ、これぞ男のロマン。
いやいや、世の中そんなに甘くありません。
あくまでも個人的な一般論(笑)ですが、人口比率が3対7がボ−ダー……要するに、男1人に対して、女2人以上の比率になったときに女性は結構素顔を晒すというか。後、家族の前とか。
男連中は、女子の比率がいくらでも仮面をかぶるヤツはかぶる傾向強いですけど……って、ちょいと話が逸れましたが、人口比率が1対9となった日には……しかも、主人公は良いところを見せようとしてなのか女の子の頼みをほいほい聞いていたりするモノだから、入学して一年も経てば、もうすっかりパシリとしての貫禄が滲み出るお年頃。
ラブをゲットするどころではありません。
今日も女子数名からよってたかってゴミ捨ててこいだの、午後ティー買ってこいだの、レポート先生に渡してだの、うなぎパイ買ってこいだの……涙を流しながら家路を辿る始末。
作品が作品なら某猫型ロボットに泣きつくところですが、主人公である里中保(さとなか・たもつ)は孤高の一匹狼なのでどうにもなりません。
が、人生たまには甘いこともありまして。
霊感がないと見えない花の妖精さんモモの登場で、主人公の人生はググッと方向転換……いい方向か、悪い方向かはともかく。(笑)
ただ、もてもてになるための『うそしかつけなくなる』という条件の過酷さ……は、ごく普通の人間ならすぐに想像できると思いますが、この主人公ときたら……
朝から晩まで女どもにこき使われたりいじられたり、今より悪い状況になるもんか!
で、即答。
おっけー、どんとこい。
というわけで、もて体質になった主人公は、フェロモンをまき散らしながらかねてから憧れていた女の子にアタック。
主人公:「何見てんだよ」
女の子:『え、え…?』
主人公:「カマトトぶってんじゃねーぞ」
女の子:『か、カマトト…ですか…?』
アタック不可能。(笑)
主人公はそれ違う絶対違うと首を振るのですが、主人公の口は絶好調。
授業中に女教師を口説きだしたり、都合が悪くなったらフェロモン増加で女の子を押し倒したり……もう、うはうはワールドが展開されるようですが、実際はそんなモンじゃなくて。
早い話、甘い口説き文句が飛び出るのは『主人公が嫌ってる相手』なんです……もちろん、主人公はこの手のゲームにありがちなダメ人間ですので、『嫌いな相手でもえっちはできる。だって、男の子だもん(笑)』と、妖精さんに『こ、このクズ人間が…』などと悪態をつかれてしまう展開になりがち。
まあ、キャラ同士の掛け合いもそれなりに楽しいし、この設定だったらはっきり言ってそっちの方向で物語を展開させた方が良かったんじゃないかなあ……と、高任は思ったのですが。
どうも、シナリオライターはこの話を美しくまとめようとして見事に失敗しているのです。
さて、この『嘘しかつけない』という条件ですが……主人公の思ってることとは全く別の、時には主人公の知らないことでさえぺらぺらと、とにかく自動的に垂れ流し状態。
おそらくシナリオを練る途中で諦めたと思うんですが、キャラによってはもう嘘とかそういうレベルじゃなくて、甘い囁きや面白会話を繰り広げるだけの、シナリオライターにとって都合のいい道具として使われてるのが明らか。
だもんで、この設定がきっちりとはまっているキャラは隠しキャラも含めて登場キャラ6人のうちサブキャラの1人だけ……ちなみにこのサブキャラ、影があるというか、ストーカーだったり不幸だったり……このチャンスを逃したらということなのか、アリ地獄のように罠を張り巡らせて主人公を自分の元に引きこもうとするキャラ。
もちろん、主人公としては関わりたくない……という状況で、『嘘しかつけない』という設定がばっちりフィット。(笑)
もう、とにかく『お前とは関わりたくない』『イヤイヤイヤァッ!』という主人公の心の叫びが変換されて『君だけを見つめているよ』とか『君のためなら死んでもいい…』などと、状況の泥沼化に手を貸す手を貸す。(笑)
最後は、『思い出を下さい…』などの安っぽい台詞で身動きのとれなくなった主人公とパイルダーオンして、そこに父親が踏み込んでくる(気の毒そうな顔をして)、そんでもって責任をとらざるをえないという絵に描いたようなエンディング。
個人的に、このシナリオはかなり面白かったです。
後は、もう1人のサブキャラである女教師……もてもて体質になった主人公に、年下好きの女教師がのめり込んでいき、最後は学校辞めるついでに主人公との不純異性交遊を同僚に目撃させて、主人公をがっちりゲット……ってな感じで。
結局、『嘘しかつけない』という設定はうすうすで、主人公はただ自分の口が勝手に女教師をくどきまくるのに感心したり……という、半ば傍観モード。
と、大きくわけるとサブキャラは『嘘しかつけない』という条件の暗黒面エンドと例えるべきか……で、最初に挙げたキャラは最高の出来とすると、女教師はいまいち。
メインキャラ3人のシナリオは、いまいちからいまさんぐらいまでがずらり。
で、メインキャラに関しては……バッドエンドの際、『嘘の精算』などという、これまた適当なことを妖精さんが言い出します。
たまに示される選択肢……主人公はうそしか言えないんだから、そのキャラに対して好意を示すような選択をすると、大抵『ふざけんなこのクソ女』的な発言となり……エッチシーンが拝めなくなったりします。(笑)
ですが、うまくやろうとして『キミが大好きだよ』的な発言を繰り返していると『嘘の精算』によって、『キミが好き』=『キミが嫌い』となって、あれほど大好きだったはずの女の子を主人公が嫌いになってしまうエンディングに。
要するに、メインキャラ3人のハッピーエンドを目指すならば『好きという気持ちを伝えたいけれどそれができない…』展開に。
確かにこれは、サブキャラのシナリオが暗黒面だとすると、ちょっとプラトニック風味というか、美しく飾り立てるためのお膳立てが出来てるような気がします。
『どうして、何も言ってくれないの?』
そんな女の子の問いかけに、主人公はただ首を振り、微笑みを返すしかできない。
そんな切ないシナリオをきっちり書き上げ……られなかったのか、なんか、『嘘しかつけない』筈が、全然関係ないことをしゃべり出したり……設定が、設定の役目を果たしてないというか。
で、キャラによっては物語を美しくまとめるために、『自分の口からでる嘘は、全て言いたくても言えないことで、自分の心からでる嘘は事実がなければ出ないんだ…』などと、ユーザーが総ツッコミを入れてしまいそうな付け足しがあったり。
ただの面白設定と泥沼と、面白会話を楽しむだけのゲームなら基本的に何をやっても構わないってな部分はありますが……物語を美しく終わらせたいという意図があるならば、そういう適当な事やっちゃいけません。
『こんなアイデアどうっすか?』
『おお、面白そうじゃないか。次の企画はそれでいこう』
などと話が進み、サブキャラの1人を書き上げてから、他のキャラに対してこの設定が結構窮屈なことに気付いて妥協に妥協を重ねた挙げ句のシナリオのような。
アイデアがあり、ある程度ゲームの骨組みを考えてから、アイデアをゲーム仕様にあわせて練り直し、再びゲームの骨組みを……という流れを途中からぶったぎって、アイデア(設定)からゲームの骨組みを作り、無理が生じた部分をアイデアをいじって補い、アイデアをいじって生じた無理を……などと、震度4で倒壊してしまう建築物を想像してしまいました。(笑)
と、まあ……シナリオの狙いというかテーマが破綻しているのはおいといて。
馬鹿設定と、キャラ同士の面白会話を楽しむことに徹すると……このゲームは結構味があるんですね。
主人公と妖精さん……妖精さんにしてはかなりブラックというか、なんせ、登場時にサバ缶かぶって現れますし……主人公の幼なじみは、影の薄いお笑い求道者でこっそりと主人公のことを……ですし、主人公のターゲットであるイタリアからの帰国子女はしゃべりがとろりんのぱよぱっよのボディの多少天然さんで、実は主人公のことを……で、主人公の父親が勤める会社の社長令嬢は、運動抜群の天は二物を与えずのキャラで、個人的にはこのキャラとの掛け合いがかなり笑えます。そんでもってこのキャラも主人公のことを憎からず……おい。(笑)
もてもて体質になる必要ないよな。
と言うわけで、『嘘しかつけない』という設定にひかれて購入したのは良いのですが、その設定はほぼ全滅で、結局は違う部分で楽しめたという、注文とは違う料理が出てきた印象が強いですな。
総合的評価で言うと平均点レベルですが、パーツで見るとかなり極端な出来です。
キャラの面白トークとかが好きな人で、ちょっと魔がさしてみたいという方は……買っても良いんじゃないでしょうか。
ただし、メーカーはスタジオね〇ぱんち。
バグの覚悟だけはしておいてください。
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