お題……『それは舞い散る桜のように(以後『舞い散る』)』 2002年6月発売(PC)
どういう経緯でこのゲームに手を出したのか不明ですが、久しぶりにラオウさんの逆鱗に触れてしまった不幸なゲーム……と書いてしまうと、この対談の方向性がばれてしまいますね。(笑)
(取説より抜粋)
それは桜舞う季節に始まる物語……
(主人公)桜井舞人は高校進学にあたって、ひとり北国に住む母親の元を離れて、遠く桜坂市に越してきました。桜坂は彼にとって、少年期までの多感な地味を過ごした思い出深い故郷でもあります。
桜坂学園での楽しくも平凡な1年が過ぎ、新年度を迎える前日。春休み最後の一日を過ごす舞人。そんな何気ない日常の一ページから始まる物語。
一年という期間の中で、彼らは何かを知り、何かを失い、そして何かを見つけていきます……
と、まあごくオーソドックスすぎて(笑)何の感慨も浮かばない解説どおり、プレイをしてみればこれまたごくごくオーソドックスな選択式テキストノベル形式。
主人公は、最近……というか、この時期主流だった会話破綻系キャラ……で、同じく会話破綻系というか性格破綻系っぽい(主人公の後を追うために北国から同じアパートにまで引っ越してきた)幼なじみや、お隣の父子家庭の娘(主人公の呼び方はもちろんおにいちゃん)、1年からのクラスメイトで時に熱く時にクールな、もう見るからに深い事情を抱えてますってなキャラが1人、ヒロイン格の四字熟語キャラが1人、童顔・生真面目・説教癖ありで児童文学作家を目指す先輩キャラが1人……攻略可能なのはこの5人ですが、他にも各攻略キャラに合わせた個性的なサブキャラがたくさん出てきて、この作品を豊かに彩ってます……いや、彩ってるからこそ、余計に逆鱗に触れてしまうというか。
ラオウ:「……いや、久々に『許せないゲージ』を振り切ってしまいました」
高 任:「はあ、振り切ってしまいましたか(笑)」
吉 井:「……高任君、他人事なの?」
高 任:「いや、このゲームって発売されたの2年前だし……そんなもん、とっくの昔に振り切れてましたけど(大爆笑)」
ラオウ:「……それでいてノーリアクションって事は、高任さんも俺と同様これを作品とは認めてないワケだな?」
高 任:「人の言葉の裏を読まないように(笑)」
吉 井:「……作品とは認めていない?」
ラオウ:「いや、シナリオがクズとかゴミ以下のゲームなんて昨今では珍しくも何ともないんで、そういう意味で許せないんじゃなくてそれ以前の問題というか」
吉 井:「なんか、さり気なく刺激的な言葉が駆け抜けていったような…(笑)」
高 任:「まあ、根本的に文章なりシナリオに対する価値観が違うんでしょうけどね」
吉 井:「それは、いつものことではないかと(笑)」
ラオウ:「いや、技術論とかそういう問題じゃなくて……このゲームを製作した人間というかシナリオを書いた人間は、作品に対するスタンスについてどういう考えを持ってるんだろうという疑問が」
吉 井:「……スタンス?」
ラオウ:「いつかの対談で少し述べたような気がしますが、いわゆる泣きゲーだの、感動ゲーと呼ばれるゲームのシナリオに度々見られるんですが……というか、敢えて名前は出しませんが、某ゲームが売れたというので安易に構成をまねてなんでしょう、その手のシナリオが氾濫し始めたと俺は判断してるんですけどね」
高 任:「うわあ、ラオウさんにしてはヒキが長いよ」
吉 井:「随分と昔、こんな感じのラオウさんを見たことがあるような…」
ラオウ:「まあ早い話、特殊な世界設定にシナリオの本質を依存しときながら、世界設定の描写を途中で投げ出してしまってるシナリオについて……ユーザーはともかく、作り手側は何も疑問を感じないのかなと。シナリオのための世界設定とかの方法論以前の問題と思うんですが」
吉 井:「……は?」
ラオウ:「もちろん、設定の全てを隅から隅まで書き込んだら物語の余韻もへったくれもないですけど……完成していない、もしくは作りかけですらない世界設定をね、ベクトルがバラバラな含みのある言葉なり描写でごまかして『答えはユーザー各自が見つけてください』……ってのは、俺は作品とは認めたくないですね(笑)」
吉 井:「口調はやわらかいけど、結局、評価としてはもっとも最低のレベルにあるわけですか?」
高 任:「まあ、自力で発動させていない伏線だらけですし……そんなの、なんの意味もありませんよね(笑)」
ラオウ:「意味深な台詞というか含みのある表現ってのは基本的に読み手に予断を与えるテクニックなんですけどね……そうやって読み手に与えた予断を逆手に取る、もしくは『ああ、あの台詞はこういうことか!』と発見させたと思わせることで読み手を作品世界に引きずり込んだり、リズムを作ったり」
高 任:「そ、そこまで真面目に考えたことはなかったが……」
ラオウ:「で、このシナリオって読み手に予断を与えたら与えっぱなしで、後は放置プレイでしょ?その予断に対する回答がないというか……人生に答えなどないのじゃよってな皮肉な禅問答をかましたないなら、結局泣きゲーもへったくれもないわけで、製作者がやりたいことと実際にやってる事ってのが完全に支離滅裂としか思えないんですな」
高 任:「結局俺が思うに、このシナリオって、どうとでもとれる曖昧な欠片を散りばめて、自分の納得できる答えを探してねってアレですよね。でも、それって作品じゃなくてただのシナリオ製作キットに過ぎませんよね(一同大爆笑)」
吉 井:「そ、そこまで…」
高 任:「いや、『答えはユーザーが…』ってのは、本質的には日常生活のふとしたことからシナリオのヒントを見つけるとか、ある作品からインスピレーションを得る……ってのと同レベルの話だと思うんですが?」
吉 井:「んー」
高 任:「早い話、『物語のつじつまはユーザーが合わせてください』などと、ふざけたことを要求してるんでしょう、これって?」
吉 井:「そう言われると、なんか許せないような気分に(爆笑)」
ラオウ:「吉井さん、俺も高任さんも基本的にゴーイングマイウェイの人間ですけど、それは流されすぎでわ(笑)」
吉 井:「いやあ、ほとんどの人間は流されるんじゃないですか……この二人に囲まれたら(笑)」
高 任:「まあ俺はともかく、ラオウさんは小学校の低学年の時に教師に向かって説教した剛の者らしいですし(笑)」
吉 井:「マジですか」
ラオウ:「別に説教なんてしてないよ……ただ教師があまりにも頭悪かったもんでちょっと(大爆笑)」
高 任:「すごいよね……俺なんか小学校の低学年と言えば、精々雪玉を氷玉まで圧縮して、全校生徒の雪合戦に紛れつつ嫌いな先生の側頭部めがけて思いっきり投げつけて失神させたぐらいですわ」
吉 井:「それはそれですごいよ、高任君(爆笑)」
ラオウ:「し、死ななくて良かったですね…」
高 任:「うむ、今考えるととんでもなく危険なことをやらかしてたなあ、あの頃は……日記でもちょっと書きましたが、はっきりいってカッターナイフがどうこういってるレベルじゃないです(笑)」
吉 井:「腕白でもいい、たくましく育って欲しい…」
ラオウ:「腕白だと、普通はたくましい(笑)」
高 任:「もちろん、小学校の3年ぐらいになったら、どこを殴ったら危険とか情報なり経験なりでわかってきますからね……手加減とか覚えますし、大きな怪我をしないケンカのやり方とか、ちゃんと分別が付いて来るというか」
ラオウ:「まあ、それが普通の人間の成長の形というか」
吉 井:「(高任に視線を向けつつ)普通…かなあ」
ラオウ:「たしかに、見た目は真っ直ぐな環境でここまでねじ曲がって育つヤツも珍しいというか(笑)」
高 任:「素直さとか優しさを母親の子宮の中に忘れてきたような人間に言われたくはないなあ(爆笑)」
吉 井:「また、毒を毒で洗うような会話を…」
ちょっと脱線。
ラオウ:「……で、話を戻しますけど、シナリオがどんなにクズだろうと、書き手なりの世界をそこに示すことができていたらどんな稚拙だろうと俺は作品と認めます。でもね、このシナリオは書き手が自分なりの世界を示すことを放棄してるとしか思えないワケで」
吉 井:「作り手が世界を示してない故に、作品とは認めないと?」
ラオウ:「もちろん、作品という観念は一人一人違うでしょうけど……じゃあ、反対に問いかけてみたい。このゲームの製作者にとって作品とはなんなのか?」
高 任:「こういうネタになるとラオウさん、アツイよなあ(笑)」
ラオウ:「……と、本来ならその線で話を進めたいのだが(笑)」
吉 井:「フェイクですか(笑)」
ラオウ:「いやあ、これって作品に対する定義の違いとかとは明らかに違うもん……構成力の未熟さをはったりと単なる勘違いでごまかしただけのお話というか(一同大爆笑)」
高 任:「……ラオウさん」
ラオウ:「何?」
高 任:「最近、何かイヤなことでもあったか?」
ラオウ:「なんで?」
高 任:「いや、本日ちょっと毒きつめというか、言葉がナイフじゃなくて鉈になってる(笑)」
ラオウ:「いやあ、こんなゲームにはこのレベルがお似合いでしょ」
吉 井:「なんか、ラオウさんの背後にイヤなオーラが見えるんですが」
ラオウ:「最初に言いませんでしたっけ?『許せないゲージ』を振り切ったって(笑)」
吉 井:「うわあ」
ラオウ:「まあ、この作品に世界設定もへったくれもないってのを具体的に隅から隅までとりあげてたら時間かかりますからね、この作品に合わせて抽象的に説明してみますか(笑)」
高 任:「抽象的にって(笑)」
ラオウ:「本質的に何も語らず、ユーザーを煙に巻くだけのシナリオにはお似合いの手法だと思うが」
吉 井:「えーと、世界設定というか書き手の世界を示さない……ってのは、そんなにいけないことなのですか?」
高 任:「いや、ラオウさんの言いたいのは世界設定が矛盾してるとかじゃなくて……物語の発端とか、展開とか全部を……」
ラオウ:「吉井さん」
吉 井:「はい?」
ラオウ「めちゃめちゃ有名な『ロミオとジュリエット』を例に挙げますが、あの作品は何故悲劇として成立したと思います?」
高 任:「俺の中では、あの作品って喜劇なんだけど……(邪魔するなと睨まれた)すいません、何でもないです(笑)」
吉 井:「そりゃ、結局愛し合う2人が死んでしまった……からでは?」
ラオウ:「まあそうです。でも、相手が死んだと勘違いして自殺する……ってなすれ違いは、つまるところ2人の仲が許されない状況にあった事が重要ですよね」
高 任:「そりゃ、2人の親が結婚に大賛成……だったら、話はそこでハッピーエンドで終わっちゃうし(爆笑)」
吉 井:「まあ、確かにそれだとなんの問題もないですね…」
ラオウ:「ここで……あの作品の中で、犬猿の仲である両家の状況が描写されなかったとしたらどうでしょう?」
吉 井:「えっと……理由も何も無しに、ただ2人の交際が許されないという文章だけがあるって感じですか?」
ラオウ:「まあ、そんな感じで……何の説明もなく、『私達は結ばれない運命にある』などと、2人にそれっぽい台詞をどこどこ吐かせて、あのラストを迎えたと想像してください」
吉 井:「……そりゃ、納得できませんが」
ラオウ:「死んだフリとかなんとかありますけど……2人は愛し合っている、2人を取り巻く状況がそれを許さない、それでも愛し合っている……なら、どうにかするしかない……物語の発展というか展開というか、この物語を構成する重要な要素は突き詰めると二つだけなんですよ。『2人は愛し合っている』と、『環境がそれを許さない』……これらのうち、1つでも欠けるとこの物語は成立しないわけで」
高 任:「(笑いながら)……抽象的というか、ゲームをプレイした人間にはごっついわかりやすい上に、露骨な例えですね、ラオウさん(笑)」
ラオウ:「主人公と登場キャラの関係というか、物語を成立させるための要素のほとんどを特殊な設定に依存してるのに、その特殊な世界設定について何も語らない……っていうか語れなかったんでしょうね(笑)」
高 任:「まあ、収束しない伏線をばらまいて『全てを語らない』とか『ユーザー自身が見つけだす真実』とかいくら綺麗事を並べても、結局書き手がユーザーを納得させる自信がなくて逃げ出したとしか思えませんね(笑)」
ラオウ:「あくまでも俺の推測ですが、ユーザーを納得させる自信がない……だったら、ユーザー自身にユーザー自身が望む設定を作ってもらおう……ってのは、創作に関わる人間としては最低の義務放棄です」
高 任:「世界設定で一カ所か二カ所、どうしてもつじつまが合わない……つじつま合わないから曖昧にしてごまかしちゃえ……ってのはまだしも(大爆笑)」
ラオウ:「……やけに実感のこもった台詞だった気がしたが(笑)」
高 任:「ラオウさんの気のせいでは?(笑)」
ラオウ:「まあ、話を戻しますけど……前に、物語の発端を否定するような世界設定は最低って言いましたが、世界は広いというか、物語が破綻するとかそんなレベルを超えてますからね」
高 任:「そりゃ、物語の発端、展開、発展、エンディング……の全てに至るまで、いわゆる特殊な世界設定に依存してるのに、その全てが闇の中で、後はユーザーが考えてつじつまを合わせてね、ですからね……何も語っていないと言うか、空っぽのシナリオと言われても仕方ないと思いますよ、俺は(笑)」
吉 井:んー、つまり二人の論理で言うと……この『舞い散る』って『2人の愛情が深まったら、何らかの力が働いて相手が主人公の事を忘れてしまう』ってのがシナリオの肝の1つなわけですよね?」
高 任:「主人公が人間が否かってのも世界設定的にちょいとぼやかされてるのでなんとも言えませんけど、人ならぬ身が人間に憧れ恋をした……それは所詮かなわぬ感情だった……人間に恋することがいけないこと……ってな、ある意味理不尽に対する慟哭なり苦しみが、本来読み手に共感を呼び起こすはずなんですよね…」
ラオウ:「いや、理不尽というか、世界の理(ことわり)と個人の理が相反するという状況設定がね……考えつかなかったんでしょうな(爆笑)」
吉 井:「そ、それは…言い過ぎかと」
ラオウ:「いや、考えてもみてください……読者に答えなりなんなりを想像させようとするなら、書き手はいくつもの答えを持ち、またその答えを導くことができるようにヒントを与えなければいけないわけですよね?」
吉 井:「え?」
ラオウ:「いや、悲劇というか泣きシナリオを書いている……その本人が、何故二人にこのような悲劇が襲うのかという理由がわからないなんて事はないですよね、普通(笑)」
吉 井:「ん、まあ……そうですね」
高 任:「理由もわからずに書いてたら、それ、ただの馬鹿ですやん……ある意味、紙一重の天才かも知れないけど(笑)」
ラオウ:「……ってことは、書き手はいくつもの解答に対するヒントを物語の中に交えつつ、そのいくつもの解答に合わせた複数の理由をもってキャラを動かしつつシナリオを進行させていく…」
高 任:「ダメじゃん(大爆笑)」
吉 井:「おや?」
ラオウ:「人間は複雑に行動するとかの問題じゃなくて、物語が依存している世界設定にいくつもの答えがある?もしそうなら、物語が1つに収束すること自体が矛盾してませんか?」
高 任:「世界設定を匂わせるヒントには、明らかに相反するモノがありますからね」
ラオウ:「俺は、多分最初にシナリオありきだったと思うんですよ……とにかく、結ばれるべき2人が理不尽な力によって引き裂かれるという構成要素が欲しかっただけじゃないかと(爆笑)」
吉 井:「また失礼な想像を」
ラオウ:「だって、どのシナリオも後半にいけばいくほど、どのキャラも何も語れず、何も行動できず、やってることと言えば結局また曖昧な台詞を並べ立てるだけで……シナリオに閉塞感漂いまくりですから(大爆笑)」
高 任:「明らかに、これまでごまかしてきた世界設定に復讐されてますよね」
ラオウ:「あの後半部分なりエンディングを読むと、それ以外考えられないですね。お話としてもっと書かなきゃいけないけど、これ以上書いたら砂上の楼閣に等しい世界観が崩壊する。世界観が崩壊したら、それに依存してるシナリオが崩壊する……だから、書きたくても書けない(笑)」
高 任:「そりゃ、後半に至るまで何も決まっていない世界設定を利用しまくったわけですから……後半で余計なことを書くといろんなモノが消滅しますし」
ラオウ:「……というのが、俺の推測ですが」
吉 井:「ん、んー?」
高 任:「んー、俺の想像は、まず1人のキャラのシナリオを書いて、2人目、3人目……で、書き手が何となく考えていた『同一世界設定』でシナリオを押し進めることが不可能であることに気付いたんではないかと(笑)」
ラオウ:「その可能性も捨てがたいんだけどね(笑)」
高 任:「で、5人のキャラシナリオをつき合わせて矛盾する部分は語ることを諦めて……最終的には、『忘却作用』とかのシナリオ上必要な要素だけ匂わせる空っぽシナリオに成り下がったのでは(爆笑)」
吉 井:「どっちにしても、失礼な想像にはかわりありませんが(笑)」
高 任:「だって、主人公の正体ははっきりしない、丘の上の子供達の正体や目的、力もはっきりしない、何故主人公のことを忘れてしまう力が作用するのかはっきりしない、そもそも主人公が人間に恋するとどんな不都合が起こるのか、もしくはただ単に人間じゃないからなのか、だったら何故エンディングで唐突にハッピーエンドになってしまうのか、主人公に向かって『どなたですか?』とか言ってる割に、結局忘却作用は主人公に恋していたことだけのようなシナリオの謎とか……」
吉 井:「高任君、ストップ」
ラオウ:「やめとけ、キリがないから(笑)」
高 任:「さっきも言いましたけど、物語の発端、展開、発展、エンディングの全てにおいて依存するはずの設定を何ら具体的に語ることなく、ただそれっぽい台詞や描写から勝手に想像しろってのは……希望風にいうなら『ありえない』(笑)」
ラオウ:「俺らが生きている現実社会の理を流用するならそりゃ説明はいりませんが、このシナリオは非現実社会の理に依存してるわけで……その説明も無しにさらりと話を進めるのって、証明されてない公式を使うようなモンですからね……なんの基礎教養もない鎌倉時代の人間に現代の物理公式を示して納得させようとするのと同じです(大爆笑)」
吉 井:「……理由って、そこまで必要ですかね?」
ラオウ:「と、言いますと?」
吉 井:「いや、愛情が深まるとその事を忘れてしまうとか……それを絶対公式と見なして雰囲気を楽しむというか。ほら、『ONE2』みたいな感じで」
ラオウ:「まあ、そういう人がいるのは認めますけどね……スポーツやってる人間が練習するのは当たり前ってのと同じで、書き手がそういう努力を放棄するってのを読み手側が認めたらお終いでしょ」
高 任:「そりゃ、楽でしょうね……このキャラは何故こんな事をしたのか、この事件は何故起こったのか、何も説明する必要もなく、ただそれっぽい意味ありげな描写を散りばめておけばいいんですから(大爆笑)」
吉 井:「そう言われると、なんか違うような気が…(笑)」
高 任:「では、わかりやすく……例えば『チョコキス』(一同大爆笑)」
ラオウ:「ホンマにわかりやすいのかそれ?(笑)」
高 任:「別に『チョコキス』じゃなくてもいいんですが、登場キャラにはそれぞれ性格ってヤツがありますよね……人見知りで引っ込み思案なキャラがいきなり、『おっはよーっ!今日もどピーカンでイイカンジだね、てへっ』……とか言い出したら、普通のユーザーはひっくり返ると思うんですわ(大爆笑)」
ラオウ:「そりゃ、ひっくり返るわな」
高 任:「世界設定とかいうと大げさに感じるかも知れませんが……このキャラはトリッキーな性格だからこの行動には理由があるはずだとか、このキャラならここで怖じ気づいてしまうだろう……とかって、早い話世界設定云々と同じですよ。世界設定がなってないってのはキャラの性格付けがされてないシナリオとおなじですわ、俺に言わせれば」
ラオウ:「結局、このシナリオは基本的に読み手を騙すというか勘違いさせることでなんとか成立させてるって事でしょうね。シナリオの中に散りばめられた意味深な台詞は、嘘は言ってないかも知れないが本当のことも言ってない……本質的に何も語ってないというか……ほら、マスコミで採り上げられる有名人のインタビューとかでたまにあるじゃないですか。どこかで聞いたような言葉をもったいつけて口にすることで中身が詰まってるように思わせるアレです(笑)」
高 任:「絶対に、具体名は出すなよ(笑)」
ラオウ:「なんか小難しいことを聞かされると『ああ、この人には深い考えがあるんだな…』と、聞き手が勝手に誤解しちゃうんですよね。で、言葉の1つ1つをご丁寧に拾い上げて、向こうは何も考えてないのに、こっちが勝手に理由を付けてやる…と。まあ、そんな感じというか」
脱線。
高 任:「そういや対談のために、ネットで色々と探してみましたけど……まあ、世界観についていろんな人がいろんな想像をしてました。読み手にとっていくつもの顔を見せる世界観が素晴らしいとかいうのもあったが」
ラオウ:「いくつもの顔を見せるも何も……結局ゲームの中で何も語ってないんだから、いろんな想像ができるの当たり前じゃないですか(爆笑)」
高 任:「まあ、中身が空っぽならその中身はユーザーが埋めるしかないですからね……そりゃ、人によって変わりますわな」
吉 井:「んー、確か『いい小説は読み手によって様々な顔を見せる』とか、昔、国語教師が呟いていたような…」
ラオウ:「ああ、ひょっとするとそのあたりを誤解した上で狙ってるのかも知れませんが……全然違いますからね。様々な顔を見せる小説ってのは、いわゆる世の中の普遍性というか、理(ことわり)を描き出せてるって事ですから」
高 任:「……と、言うと?」
ラオウ:「いろんな人間の経験をつき合わせると、そこにはある程度の法則性が見いだせるんですな……それを利用したのが教訓だったり寓話だったり。で、反対に教訓なり寓話に接した人間は、自分の経験に照らし合わせて『ああ、あるある、そういう事…』と納得してしまうと言うか」
吉 井:「そんな事考えたことなかったですが、言われてみるとそうですね」
高 任:「……スポーツの話を、なんでもかんでも人生論で語りたがるおっちゃんみたいなもんか?(一同大爆笑)」
吉 井:「高任君、それめっちゃようわかる(笑)」
ラオウ:「ま、まあそんな感じなんだけどちょっと複雑だな……ま、いわゆる小説って基本的には人間なり人間に準ずる存在が出てきますよね。その描かれた人間の経験にリアリティがあれば、読者はそこから何らかの法則性を見いだし、その法則を自分の経験に照らし合わせる……読み手によって違う顔を見せるというのは、ちょいと乱暴ですがこういう意味ですね」
高 任:「おぉ…」
ラオウ:「読み手によって違う場面が浮かび上がる……のは結構ですが、読み手によって違う世界設定が浮かび上がるのはちょっと違うんじゃないでしょうか?(爆笑)」
吉 井:「なるほど」
ラオウ:「ただ、俺としてはこのシナリオの書き手は読み手を納得させるだけの世界設定を書くことを放棄したのに、少なくともいろんな人間が世界設定について考えているワケで……つまりそれって、ユーザーの方が書き手より優秀だったって事ですよね(笑)」
高 任:「……まあ、シナリオの本質がどうのこうのと言うラオウさんは所詮少数派でしょうし、俺としては本質云々は抜きにして、このシナリオってもったいないなと思うんですよね(笑)」
ラオウ:「もったいないも何も、はなっから成立してないから……」
高 任:「いや、このシナリオってこれだけ材料揃ってたら複雑な世界設定なんか必要無しに、ノリノリでドラマティックに仕上げることが可能だと思うんですよ(大爆笑)」
吉 井:「ド、ドラマティックですか…」
ラオウ:「ノ、ノリノリでドラマティックと言いますと…?(笑)」
高 任:「例えば雪村だと……親が決めた許嫁がいてですね、『1年だけ、時間を下さいとか言って』主人公の後を追っかけてくるワケなんですよ」
吉 井:「ほう」
高 任:「『雪村は馬鹿ですから』とか連発するじゃないですか……そのあたりはこの絡みがあっての発言で、12月の『ずっとそばに置いてくれて…ありがとうございました』につながっていくと考えたら、かなり楽しいというか(笑)」
ラオウ:「いや、高任さんだけ楽しくてもなあ(爆笑)」
中略。(笑)
高 任:「……という感じでですね、妙な世界設定の力を借りるまでもなく、しかもシナリオの各場面に散りばめられた意味ありげな台詞をちゃんと活用できますし(大爆笑)」
ラオウ:「な、なんというか……そういうベタベタの話を考えさせたらさすがだな、貴様」
吉 井:「高任君、それはドラマティックと言うか……アメデオティックというか(笑)」
高 任:「ふ、アメデオですか……そいつあ、俺にとって最高の誉め言葉だっ(一同大爆笑)」
ラオウ:「……つーか、アメデオの新作はまだ?」
吉 井:「さあ?」
高 任:「んー、次の新作はいわゆるアメデオティックなシナリオじゃないと思いますよ(笑)」
吉 井:「それはそうと、最近純愛ブームとかなんとか」
ラオウ:「ああ、『世界のあちこちで正義を叫ぶ』だっけ?(一同大爆笑)」
吉 井:「ラ、ラオウさん……あなたって人は(笑)」
高 任:「咄嗟にそういう切り返しができるあたりがラオウさんというか(笑)」
ラオウ:「世界平和に対する純愛物語だな、うむ(笑)」
高 任:「いや、純愛じゃなくて偏愛だろ?(笑)」
ラオウ:「テロに対するオリンピックの警護がどうのこうの言ってるけどさ、オリンピックよりアメリカの大統領選挙候補に仕掛けた方が戦略性高いよね(爆笑)」
高 任:「おーい」
ラオウ:「敢えて名前は挙げないけど、多数のクズ情報を流してから現職じゃない方の候補に仕掛けてもし成功したら……わかってて見逃したんじゃないかとか意見が出て、しばらく分裂して機能しなくなるよあの国」
高 任:「ら、ラオウさん、そういうネタはやばいっす(笑)」
吉 井:「そのネタ、もうやめましょうよ(笑)」
高 任:「(強引に話題転換)ま、なんにしろ……やはりアメデオは時代の最先端を突っ走っていたというわけだな(爆笑)」
ラオウ:「チガウチガウ、多分チガウ(笑)」
吉 井:「俺としては、いつかの対談で『これから純愛ネタが受ける…』ってな事を口走っていた高任君の方が今となってはアレですけど(笑)」
ラオウ:「そんな予想が当たってもなあ(笑)」
高 任:「自分で書かない限り意味ないっす(笑)」
ラオウ:「……というか、その手の本は読んだこと無いんだけどどんな感じ?(笑)」
高 任:「いや、アメデオのゲームの方が泣けると思うぞ(大爆笑)」
吉 井:「……めちゃめちゃ話逸れてます(笑)」
高 任:「じゃあ話を戻しますが、なんつーか、つばさに関してもこだまに関してもあれだけ世界設定関係無しにキャラの背景をワケアリにしてるんだから、妙な世界設定にこだわる必要なんて無いですよ。それ以前に『女には星座の1つも教えとけ』ってな台詞があるんだから、こだまのハッピーエンドはそういう場面を作らなきゃ意味ないですよね」
ラオウ:「と、言うと…?」
高 任:「いきなり記憶を取り戻してハッピーエンドじゃなくてですね……主人公がプレゼントしてくれた猫のリュックとか、デートで作った詩とか、こだまがそれを見て『あれ…私、なんで泣いてるんだろう…?』とかいうシーンを挟むなりして、主人公サイドじゃなくて相手サイドのイベントがないとなんの感慨もわかないと言うか」
吉 井:「ベタベタですな」
高 任:「ベタベタだろうがなんだろうが、この唐突な棚ぼたエンディングよりはマシですわ(笑)」
ラオウ:「いや、相手は主人公と恋愛してたことは忘れるけどまわりの人間の記憶はそのままだからな……さっきもちょっと触れたが、そんな危険なシーンを書きたくなかったんじゃないかなあ(一同大爆笑)」
吉 井:「下手なこと書くと…(笑)」
ラオウ:「書けるモノなら書きたかったんじゃないかなあ?(笑)それこそ、曖昧な世界設定から復讐されてる証拠というか(笑)」
高 任:「俺、このゲームは全員攻略することで設定が開かされると信じてたんですけどね(笑)」
ラオウ:「ラストシーンが桜香だったからなあ……世界設定だけじゃなく、あれでテ−マそのものまで混沌の中に葬り去られたな(笑)」
吉 井:「主人公の成長云々じゃなくなりましたからね……極端な話、自然と人間の共存を探るのがテーマだと言われてもそうなのかなと(笑)」
高 任:「俺、最初雪村がヒロインだと思ってたんですよ」
吉 井:「え?」
高 任:「いや、主人公が雪村の昔の髪型とか、昔の思い出とか思い出したときの反応って……何というか、『主人公にはそういう記憶が希薄』という異常さを理解してないとああいう態度はとれませんよね」
ラオウ:「おお、そういえば何気なく『うわあ、びっくり。昔の事なんて覚えてないくせに、なんか言ってますよーこの人』とか言ってたな(笑)」
高 任:「まあ、そんな感じから……主人公が元々人間ではないと知ってる存在というかですね、月並みですが雪女とかの末裔かな……なんて思ってたんですよ(大爆笑)」
吉 井:「ゆ、雪女ですか……確かに子供の頃の雪村は雪ん子みたいですが(笑)」
高 任:「まあ、呪いだかなんだか……他の4人と違って、雪村だけはその呪いの範囲外に位置するキャラなのかな…なんて(笑)」
ラオウ:「ああ、はいはいはい(笑)」
高 任:「勝手に想像して結構盛り上がってたんですけどね……『先輩、私は先輩のこと忘れたりしませんよ…絶対です』とかですね、誰かのバッドエンドというか、誰かに忘れられて主人公がショックを受けたときに雪村の胸に抱かれてそんなことを囁かれたら、3人に1人はノックアウトでしょう(一同大爆笑)」
吉 井:「高任君、それ結構くる(笑)」
ラオウ:「くるんですか…」
高 任:「シナリオに統一性を持たせたいなら、『雪女は心に抱えた氷が溶けると消滅する』とかの設定をでっち上げてですね、『(人間じゃない)先輩なら大丈夫だと思ってたんですけど……やっぱりダメだったのかなあ』とか、意味深な台詞を言わせて、『アルジャーノンに花束を』みたいに、消滅の時まで引っ張りに引っ張ってユーザーの涙を誘うんです(大爆笑)」
吉 井:「いける、いけるよ高任君(笑)」
高 任:「そりゃもう、主人公は必死で『雪村、俺はお前が嫌いだ』とか言うんですけど、雪村はにっこりと微笑んで、『嘘ついてもダメですよう、先輩。先輩の暖かい気持ちが……今も、私の心を溶かしてるのがわかりますから』とか言われたら2人に1人はっていうか、俺はもうダメです(大爆笑)」
ラオウ:「うん、ダメだな(笑)」
高 任:「いや、確かに『雪村、お前は俺が人間じゃないから好きになったのか…?』ってなイベントは必須ですが(笑)」
ラオウ:「や、シナリオがダメなんじゃなくて、お前がダメだ(爆笑)」
吉 井:「今さらそんなことを…(笑)」
ラオウ:「まあ、ちょっと感心したりもするんですけどね」
高 任:「……と言うと?」
ラオウ:「いや、木を見て森を見ずなんて言葉がありますけど、あれって逆もまた真なりというか……森を見る人って反対に1本の木をまじまじと見ることができない人が多いんですよね」
吉 井:「…?」
ラオウ:「で、高任さんって森を見る人なのに、一本の木に必要以上にこだわれる人でもあるんですよ(爆笑)」
吉 井:「(床を叩いて悶絶中)…」
高 任:「えーと、一本の木から森の全貌を予想するというのはごくノーマルの…」
ラオウ:「そうじゃなくて、森のあるべき姿を理解していながら、一本の木にこだわって森全体のバランスを破壊することができるというか(爆笑)」
吉 井:「(引き続き悶絶中)……」
高 任:「……それは、変なのか?」
ラオウ:「変と言えば変だが、結構貴重な資質だと思うぞ……もちろん、一本の木だけにこだわって森のことを考える事もできない輩は大勢いるから、下手をすると同一視されるけど(笑)」
高 任:「いまいち良くわからないが、とりあえず誉め言葉みたいだな……というか、吉井さんが悶絶してるのが非常に気になるが」
ラオウ:「や、多分思い当たる事が多すぎるからかと」
高 任:「……まあ何はともあれ、創作ネタとしてはこのゲームはなかなかに手応えがあるというか」
ラオウ:「『偽』でも書くのか?」
高 任:「多少心は揺れるけど……5人のキャラおよびサブキャラをきちんと絡めた世界設定とシナリオ構造にしようとするとかなり困難です」
ラオウ:「いや、本来はゲームの作り手がその困難を引き受けなきゃいけないんだがな(爆笑)」
高 任:「しかし……この対談って、これまでの対談の中で最高に何も語ってないんじゃないですかね?」
ラオウ:「語るべきシナリオの中身がないんだもん……例によって、シナリオ以外は水準以上にできてるとでも言えばいいのか?(笑)」
吉 井:「んー、ラオウさんが言うところの1本の木だけにこだわれる人には楽しめるんじゃないでしょうか」
ラオウ:「……なるほど、そういう見方もアリですね」
高 任:「まあ、このゲームが出た頃はこういった感じの破綻系会話が主流でしたからね……多分、キャラ同士の会話だけで楽しんだ人は少なからずいたと思いますよ」
ラオウ:「まあ……俺はそういうのでは楽しめない人種ですんで。つーか、高任さんや吉井さんと対談してる方がよっぽど楽しめます(笑)」
吉 井:「いや、俺は時々苦痛ですが(爆笑)」
ラオウ:「そりゃ、お二人が眼鏡論議とか始めたら俺だって苦痛です(一同大爆笑)」
お買い得度…… 5(どこで楽しむか、が鍵)
音楽…………… 9
操作性………… 9
意味深度………10(まあ、自由に想像だけしたい人にはおすすめかと)
再プレイ度…… 3
絶対値評価……−4
なんというか……キャラをクリアするたびに『え、ええっ!?』って感じに、自分一人が見知らぬ惑星に置き去りにされたような孤独感が楽しめます。
こうして対談を文章におこしてみると、『ゲームをやってない人間には絶対にわからない』と高任には思えましたので、変則ですが参考までに高任の感想日記っぽい文章を。
つーか、以前プレイしたときに殴り書きした文章をちょっとだけ手直し。(笑)
ファーストプレイ。
キャラとの出会いというか、会話のやりとりがなかなかコミカルでイイカンジにさくさく進んでいきます。
ただ、そんな日常生活の中で何故か主人公が立ち寄ってしまう丘の上……その二本の桜の木の下で度々出会う女の子をはじめ、時々主人公が示す恋愛に対する恐怖心はもちろん……母親との電話によるやりとりでは
『あんた、本当に母親かね?』
『育てていただいた記憶はあるんだろ?』
『産んでいただいた記憶はないがな』
『だろうねえ…』
『こ、こら、意味深な間の取り方をするな』
『お前……まさか、なにか思いだしたんじゃないだろうね』
など、登場キャラとのコミカルな会話の中にふと紛れ込む意味ありげなやりとりが数多くあったので、単純な学園生活ラブラブゲームではないことは察しがつきます。
最初だから特に誰かを大事にするという選択肢を選んでたワケじゃないのですが、6月22日(進行は一日ごとじゃなくとびとび)終了時にムービーが入り、この時点でルートに入ったというか第二部が始まるというわかりやすい構成でした。
その相手は、主人公の後を追いかけてはるか北国から主人公と同じ学校に入学し、同じアパートの真上の部屋を借りるという、マシンガントーク炸裂の幼なじみキャラ、雪村小町。
主人公を追っかけてきたストーカー(このキャラの心の辞書において、ストーカーと書いて恋する乙女と読むらしいが)キャラにふさわしく、小町を主人公の魔の手から救うと決めてこれまた小町を追っかけるようにして同じ学校に入学してきた、絵に描いたような二枚目キャラも既に登場してたりしますが、そいつの会話もはっきり言って伏線まみれとしか高任には思えなかったり。
後、前半部分で伏線を感じさせる小町との会話を抜粋すると……
『……雪村は馬鹿だなあ』
『ええ、雪村は馬鹿ですから…』
とか、
『でも、らしさで言うなら、昔の方がよっぽどお前らしかったと思うけどな…』
『うわあ、びっくり。昔の事なんて覚えてないくせに、なんか言ってますよーこの人』
とか。(笑)
ここまで意味深な伏線を張り巡らせて一体どんなシナリオを展開してくれるのかなどと楽しみにしながらゲームを進めていくと……例の丘の上で、例の女の子を相手に。
『今日は、報告に来たんだ……なんかそうしなきゃいけないと思って』
『……』
『ぼくね、好きなひとができたんだ』
責めるような、諭すような揺るぎない表情で主人公に何かを訴えかけてくる女の子のそれを遮るように…
『また、ひとを好きになったんだ…』
『それが、何も生み出さないとわかっているのに…ですか』
『ぼくはもう、昔のぼくじゃないんだ…』
『後悔、しますよ…あなたも…そのひとも…』
『言っただろ…今度は負けないって…』
自分でさえその言葉の真意を理解できていない言葉が夜の闇に呑まれていく……もちろん、ユーザは与えられた情報からあれこれ想像はしますけど理解はできません……とりあえず、主人公がいわゆる元が人間ではないのだろうということ以外は。
幼なじみの意味深な台詞から察するに、何やら複雑に設定が絡み合った雰囲気がしてイイカンジです。(いい意味で)
丘の上に現れる、いつもの女の子にくわえて1人の少年が現れる。
『おかえり。僕たちは君の凱旋を心から歓待するよ』
『すると…君は忘れたのにここに来たのかい?』
『ああ、それは彼女のことだね……しばらく見てないけど息災なのかな?』
『彼女が誰だって?君は面白いことを言うね……教えたくなっちゃうよ、君がどんな滑稽な顔をするか想像すると…』
などと、ユーザーの想像力をがりごりとかき混ぜつつ、物語は加速していきます。
異次元ベクトルに。
と、それに関しては後述する(笑)として、かなり破壊力満点と思われる幼なじみとのラブラブストーリーをかいつまんで説明。
いつも自分の後をついてきた幼なじみへの感情……それは様々なイベントというろ紙を通過して、主人公の中である思いへと結晶化していく。
ある日、髪をばっさりと切った幼なじみの姿が主人公の記憶の断片を意識の闇から拾い上げます。
『それ、子供の頃の髪型か?』
『……わかるんですか?』
『今思い出した…』
いつも泣きそうな顔をしてた、北国へと引っ越した主人公の隣の家に住む……いつも俺の後を追ってきた寂しい笑顔の……小町。
漠然とした想いは、かつての記憶を核としてゆっくりと、しかし確実に現実味を帯び……そして主人公は、ある日これまで敢えて口に出さずにいた問いかけを呟く。
『お前…俺の後なんか追っかけて、そんなの楽しいと思うのか?俺、お前にひどいこといっぱい言ったよな?』
『か、構いませんよ……雪村はうたれ強いですからね。せんぱいがいやな思いをしたときは雪村に八つ当たりして憂さを晴らしてください』
『なんで、そんなに我慢してまで……俺なんかに…』
『さあ、なんででしょうね……仕方ありません。好きになった雪村が馬鹿なんです……振り返ってくれなくてもいいんです。だから……私を置いていかないでください』
……ってな感じで2人はくっつくんですが、もちろんこのままハッピーエンドになるはずがありません。(笑)
もう何度目かわからない丘の上で、例の少年が囁く。
『友よ、喜劇は終わった……これからとびっきりの悲劇が始まる』
『なんだと…』
『リメイク版だけどね…』
そして修学旅行。
旅先の……と言っても、主人公にとっては地元……桜坂で主人公の帰りを待っているはずの幼なじみから電話がかかってくる。
『いますぐ会いたいんです…』
『……と言われても』
『いえ……私、今実家に居るんで…』
母親が危篤でと嘘をつき、幼なじみの元へと向かう主人公。
『お前、暗いからつまんない……面白いことを言って笑ってれば仲良くしてやる』
そんな遠い日の約束を律儀に守り続けて、本当は泣き虫で寂しがりやのくせに、いつも明るく振る舞ってきった……幼なじみと並んで歩く故郷の地。
『せんぱい…』
『ん…?』
『ずっとそばに置いてくれて……ありがどうございました』
その後、結ばれる2人。
数日後。
幼なじみの連絡を受けて主人公は、桜坂病院横の教会へと急ぎます……膨れあがる不安と共に。
そこで主人公が目にしたのは……ウエディングドレスに身を包み、主人公に向かって知らない人を見るような視線を向ける幼なじみの姿。
『……どちら様でしょう?』
……と、ここでテロップが流れ出したりしたのでバッドエンド(それはそれで納得はできませんが)かと思ったら……まだ続きがありました。
やさぐれた主人公が親友とクリスマスを過ごしたり、バレンタインでは…
『あんたはっ!ずっとアイツのことを突き放してばかりきたじゃないか!そのアンタが……アイツに一度突き放されたからって……』
などと言い募る例の……幼なじみを追いかけてやってきたキャラと殴り合って熱血したり。(笑)
そして、2月末。
主人公はまた丘の上にいた。
主人公に向かって『新しいゲームが始まったらまたくるよ……』と言い放った少年の姿はなく、桜香という名のあの女の子と一緒に。
『まだ、追い続けるのですか…?』
『私は人間が好きではありません……いえ、いつも裏切るからむしろ嫌悪感を覚えています…』
それでも諦めないという主人公に向かって、女の子は何かを決意したように……
『一度だけ…機会を』
『え…』
『私では、それが限界。それ以上はもう……何もできません。そこから先は、すべてあなた次第です…』
次のシーンは4月……桜が舞い始める季節、そして……幼なじみの誕生月。
主人公の元にウエディングドレスを着た幼なじみが唐突にやってきておしまい。
なんでやねん!
ぼんやりとエンディングテーマを聞きつつ、ご都合主義とかそういったレベルを超えたエンディングに一発ちゃぶ台をひっくり返そうかと思いましたが、ひょっとすると高任の国語力が不足しているせいかもしれないと思い直して与えられた情報をもう一度整理することにしました。
主人公に向かって『……どちら様でしょう?』と言い放った幼なじみですが、この後のエンディングに向けてのイベントで『あ、桜井先輩だ…』などと口走っているので、その台詞はブラフであると思われる。
とすると、何故修学旅行中の主人公に向かっていきなり会いたいと連絡してきたのか、何故修学旅行中の主人公の元へではなく実家に帰っていたのかとか、結ばれる前の台詞『ずっとそばに置いてくれて……ありがどうございました』とかの行間がかなり深そうです。
物語の中にバリバリにはられていた伏線を意図的に無視する事にして、対談の中で述べたような1つの物語が高任の中で構築されました。
幼い頃の思い出云々はさておき……幼なじみには、親が決めた許嫁がいたと。
多分高校進学を前にして、『1年だけ……1年だけ時間を下さい…』などと親を説得し、報われぬ恋だと知りながら主人公を追いかけて桜坂市へ。
で、幼なじみを追いかけてきたキャラは、『雪村家に恩を受けた者だ…』とか言ってたので実は監視役……ただし、幼なじみに惚れていたりするのでその立場に同情的。それ故に、主人公に突っかかる。
で、1年……という期間が何らかの事情で短縮されでもしたのか、それとも直接それを伝えるためなのか実家に呼び戻され、ちょうどその時主人公は修学旅行で割と近くにいたワケで……『ずっとそばに置いてくれて……ありがどうございました』の発言につながったと。
おお、なかなか燃えるシチュエーション……って、もしそうだったとしても行間読ませすぎ!
等と1人ボケ1人ツッコミをしたところで、クリアするキャラの順番を間違えたんだろうとあきらめて次のプレイに。
とすると……普通ならヒロインを解くべきではあるが、生憎高任は普通じゃないので狙いはクラスメイト。
『さくっち(主人公のあだ名)は……私の同類だと思ったんだけど、違うの?』
『同類?』
『恋愛ってやつが……できない人間』
誰かを好きになる……その気持ちの向こうに感じる漠然とした不安が、主人公を恋愛から遠ざけてきたのだが……ゆっくりとその思いは…(以下略)。
で、このキャラの場合……『俺はその後ろ姿を見つめながらこの恋の終焉が近いのを知った…』の一文と共に唐突にテロップが流れだす。(笑)
で、やぱり続きがあって。
去年からずっと『さくっち』と呼んでいた主人公のことを『桜井君』と呼ぶシーンが流れたり、また丘の上で例の女の子が主人公との永遠の別れに涙しながらもう一度だけ機会をどうにかしてくれたり。
そして次のシーンで唐突に、そのキャラが主人公に告白しておしまい。
……助けてラーメンマン。
まさか、まさか全キャラこんな感じですか!?
いろんな意味でドキドキしながら次のキャラを。
お隣の女の子……父親が再婚してお引っ越し。主人公のことは忘れてしまったのか、あれほどずっと一緒だと誓ったにも関わらず全く連絡無し。
でも、エンディングでは唐突に主人公の元へ。(笑)
児童文学作家を目指す先輩……ある日突然、主人公に向かって『誰?』と呟く。ただ、まわりの人間は主人公と先輩がつき合っていたことを知っていたりするのがかなり謎。
最後は文芸部の部長に励まされたりしつつ、最後の機会とやらを与えられて、先輩が唐突に主人公に向かって……
心の中でちゃぶ台が宙を舞いました。
で、ヒロイン。
多分、この5人目のキャラをクリアしたら裏シナリオが始まったりするんだよね、パズルが組みあがって猛烈に泣かせてくれるんだよね ……等と自分をごまかしつつ。
どうやらこの2人、かつて出会い……そしてヒロインが主人公のことを忘れるという経験をしたとのこと。
終わりの予感に震えつつ
『どうして私達、いつも離れちゃうの!?』
という問いかけに主人公が、
『俺が恋なんかしたから世界が狂ったんだ…』
などと、ただでさえ不条理な世界観をさらにかき混ぜてくれます。
そしてもちろん今回も唐突にヒロインは主人公の事(つき合っていたこととか恋心)を忘れ……主人公はどうして忘れないんだろう……などという些細なツッコミを入れる気にもならず……これまた唐突に春が来て主人公は丘の上に向かい、ヒロインとの再会を果たす。
ま、このキャラのエンドに何かを期待してなかったのでなんと言うこともないですが、エンディングのスタッフロールが終わった後に例の女の子(桜香)が現れます。
どうやら主人公が人の世界へと足を踏み入れるきっかけとなった女性(母)のような存在が、彼女にも現れた……って所で、終了。
どうやら、やっと物語の本編に突入できるようです。
……が、何度やってもダメ。
とりあえず、誰かのルートに入ってから的はずれな選択肢ばかり選んでいるとそのままバッドエンドになると言うことはわかりましたが、状況は変わりません。
ふと気になっておまけのCGだのえっちシーンだのをのぞいてみると……
達成率100%。
……神はいないのか。
これだけ活用しやすい伏線があって、物語のベクトルもいわゆる王道パターンを踏襲しているというのに、なんでわざわざ誰もが考えつかないようなゴールにたどり着いてしまうのか。
攻略キャラの内、1人か2人の自殺点ならともかく、全員揃って自殺点ってのは……いくら寝不足だろうが誰か止めて。
ここまで来るとわざとつまらなくしたとか思えないと言うか……好意的に解釈するとこのシナリオって『語られなかった部分』が多すぎる雰囲気があって、ひょっとすると容量の関係で(テキストじゃなくてそれに付随するボイス絡み)いろいろなモノが削除されて、でもスタッフは元の物語を知っているから脳内補完が可能でテストプレイでもそれに気がつかなかったのでは……等と思えないこともありません。
なんというか、この作品って最後の最後でそれまでのお膳立てやら何やら全部ぶちこわしにされただけ……と思いたい。
ゲームの中のある登場キャラがすんごく意味深な台詞を吐いてますが、それらを幾つか抜粋して高任の感想とします。
『期待は常に失望を二乗する。時間の無駄だったよ……文句を言いたいのは僕の方だ!』
『ああ、不愉快だ!このゲームは面白くない!』
あの……もしこのゲームの開発の実状を知ってる方がいたら、一体開発時期に何があったのかこっそりと教えてくれませんか?(笑)
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