『偽チョコ』対談
 
 
高 任:「……で、次は何を話せば良いんですか?」
ラオウ:「……というか、結局書こうと思ってから書き始めるまでの準備期間ってどのぐらい?」
高 任:「確か……第1話を書き始めたのが、2月20日だったから……半月ほどだな」
 
吉 井:「全然時間かかってないやんっ!(爆笑)」
 
高 任:「いや、それは違うんですよ……こう、『チョコキス』が発売されてから……うむ、俺ならこうだな…ここがこういう設定ならこうだな……ここはちょっと違うんじゃないか……などと、事あるごとに頭の中でいろんな設定を練っていたわけで(笑)」
吉 井:「じゃあ、構想2年(笑)」
高 任:「いや、『チョコキス』の設定といっても、全部が全部『偽チョコ』の設定じゃなくて、言ってみれば『裏チョコ』の設定だったり、『真チョコ』の設定だったりするわけで(爆笑)」
ラオウ:「なんか、ゲッ〇ーみたいだな(笑)」
高 任:「ちなみに、『真チョコ』だと冴子は麻理絵や紗智と同じ中学の先輩で、『裏チョコ』だと、綺羅は主人公の姉の知り合いというポジションなんですが(笑)」
吉 井:「それ、頭の中で混乱しない?」
高 任:「そりゃ最初は混乱しますが、混乱させた方が案外きちっと設定は収まるところに収まるもんです」
ラオウ:「……個人的に、綺羅が主人公の姉の知り合いって設定は興味があるな(笑)」
高 任:「いや、そもそもの世界設定が全然違うから。『真』はともかく『裏』だと、青山は登場しないし、主人公そのものがそんなに強くないよ」
吉 井:「……高任君って…」
ラオウ:「吉井さん、言いたいことはわかりますが、ここは生暖かいまなざしで見守ってあげるべきです(笑)」
吉 井:「いや、HPの管理者としては、あまり生暖かいまなざしで見守っているわけにも(笑)」
ラオウ:「まあ確かに…いい加減そろそろなんか書けよ、お前」
高 任:「ふふふ、この休養期間中に、時間を見つけては図書館に通い、色々と資料をあさってきましたからね。夏コミが終わってからを楽しみにしてるが良い」
吉 井:「おお、ついに新作というか、新ジャンル始動ですか」
ラオウ:「あれ?なんかめぼしいのあったっけ?」
高 任:「まあ、新ジャンル以前に、さすがに偽妹の続き書かなきゃいけないなとか、俺望の続き書かなきゃとか……やっぱり、きっちり悪代官Rは書かなきゃいけないかとか思ってはいますが(笑)」
吉 井:「悪代官RのRって何よ?」
高 任:「いや、リターンズのR(爆笑)」
ラオウ:「いいね、そのタイトル……悪代官テイストで(笑)」
高 任:「んー、なんか前に掲示板で『アレで終わりか?』とかつっこまれたでしょ……俺としても時代劇と馬鹿話は好きだし、不完全燃焼だったから、初代と2のシナリオを基本に、俺好みの歴史的な人物を加えた上で新シリーズというか新しく書き直そうかと思って考えてるんですが、いかんせん、そっちのほうの資料を調べる時間がほとんどとれないのです」
吉 井:「……調べてどうするの?」
高 任:「もちろん、義務教育レベルの知識でわかるような話にするのは当然ですが、歴史を知っている人が読めばにやりと笑ってしまうような小ネタを忍ばせるためです、こう、しゃらんらって感じに(爆笑)」
ラオウ:「相変わらず、そういう無駄な努力は惜しまんな」
高 任:「つーかね、一応歴史物で続き物の形にするなら、シナリオなり文章なりで時代の流れはそれなりに醸し出す必要はあると思うのよ……その上で馬鹿話にする、と」
吉 井:「高任君、そんなんだからパロディを書き始めるまでに時間かかるんだよ」
高 任:「どんな形であれ、原作には誠実に向き合いたいじゃないですか……つーか、楽しませてもらったユーザーとして最低限の礼儀でしょ」
ラオウ:「まあ、多少は共感を覚える部分もありますが……パロディはある程度の早さが求められるよね」
高 任:「それは分かってますが……こう、原作ゲームをやりこんで、さらに隅から隅までやりこんで、その上で内容全体を把握するというか……早い話、俺という大地に降り注いだ雨が地下水となり、湧き水となるモノがパロディで……そりゃゲームにもよりますが時間かかって当然というか(笑)」
吉 井:「高任君が書き始めたときは既に、他のジャンルに人が移ってるってのはよくあるよね(笑)」
ラオウ:「まあ、さっきの話を聞く限りでは……手間かかるパロディの書き方してるよな、基本的に(笑)」
高 任:「自分自身に対しても耳が痛いが、手間をかけずにパロディとしてのオリジナリティが発揮できるならいいけどさ、誰もが書くようなパロディ書いてどうするの?漫画なら、絵柄なんかで多少なりとも個性を出せるけど、文章はなあ……悲惨だろ?(笑)」
ラオウ:「いや、高任さんの言ってることはわかるし、多分正しいよ、でもね……絶対に間違ってる(爆笑)」
吉 井:「ラオウさん、言ってる意味は分かりますが日本語が間違ってます(笑)」
ラオウ:「考えてみれば、高任さんって『チョコキス♪』への食いつき早かったよね……何やら、すぐさまSSを書き始めたような記憶もあるし(笑)」
高 任:「あれは、雨が地下水になるとかいう話じゃなくて、ただ闇雲に書きたかっただけです。言ってみれば、ただ道路の上を流れた雨水というか……今というか、偽チョコを書き始める直前になってやっと俺の中から湧き水がコンコンと(爆笑)」
吉 井:「遅すぎ(笑)」
 
ラオウ:「いや、元々その湧き水を求める旅人の数が非常に限られたジャンルだからどっちでも(一同大爆笑)」
 
高 任:「まあ、チョコキスに限った事じゃなくて、プレイしてこれは…と思ったゲームや、もったいないな…と思ったゲームのほとんどは、頭の中で俺設定をがっしんがっしん組み立ててますし……実際に書く書かないは別にして(笑)」
吉 井:「じゃあ、『こんなくそゲー作ったヤツ出てこいっ』ってなゲームも?」
高 任:「素材がもったいないと思ったなら……というか、ゲームに限らず、漫画でも小説でも、俺ならこう書くな……ってな感じで大抵の作品についてはやりますけど?」
吉 井:「そうなん?」
ラオウ:「……しかし、書き始めたのが2月20日ってえらく具体的に覚えてたな」
高 任:「なんとなく……というか、まあ、あまりツッコムな(笑)」
吉 井:「えっと、高任君」
高 任:「はい?」
 
吉 井:「何月何日に、何話まで書き上げた……などという、具体的な話は抜きにしようね(爆笑)」
 
ラオウ:「HPの更新情報とつき合わされるとまずいことでも?(笑)」
吉 井:「あははのは……などと、偽チョコ笑いを(笑)」
ラオウ:「……『あははのは』って、何のネタでしたっけ?」
高 任:「さすがに知らんわ、そんなもん」
ラオウ:「そういや、ちょっと気になってたんだけど『安寿こいしやほーやれほー』って何のネタなん?」
高 任:「……」
吉 井:「……」
ラオウ:「おや?」
吉 井:「ラオウさんって、本当に純文とか読まないんですね。鴎外ですよ、森鴎外」
ラオウ:「へえ……」
高 任:「まあ、その元のネタ分かった人ってどうもかなり少数だったみたいで。分かった人は素直にガッツポーズしても良いと思います」
吉 井:「よしっ(ガッツポーズ)」
ラオウ:「つーか、吉井さんはわりと純文学とか…」
吉 井:「いや、国語の教科書にありましたから(笑)」
高 任:「短編小説だし、一昔前はわりと教科書掲載が多かったみたいですが、最近はさっぱりらしいですね……だからまあ、若い子にはピンポイントなネタというか」
ラオウ:「なるほど」
 
 ちなみに、ネタは森鴎外の『山椒大夫』のラストシーンです。だからどうだというわけでもないですが。
 
高 任:「……で、2月20日の朝の8時頃だったかな……第一話『誰がために鐘は鳴る』を書き始めたワケですが」
ラオウ:「なにやら書き始めた時刻まで覚えているのが気にかかるが……それはともかく、好きだな、その、『誰がために…』のフレーズ(笑)」
高 任:「フレーズというか、ヘミングウェイの短編としてタイトルは有名だけど、案外アレを読んだ人はあんまりいないらしいのな……まあ、下手すりゃこのタイトルだけでラストのオチがばれるんですけど(笑)」
吉 井:「そうなの?」
高 任:「ばれるというか、勘がいい人ならバッドエンドの予想がつくというか(笑)」
ラオウ:「そういう話はさておき……第一話って、いちおう計算尽くで書いてるんだよね?」
高 任:「と、言いますと?」
ラオウ:「例えば……青山が主人公に言うよな?『確か、秋谷って…』などと」
高 任:「言いましたねえ」
ラオウ:「第一話という事で、読み手に対してさりげなく秋谷世羽子というキャラに注意を向けさせたとも考えられるけど……あの後の話の展開からして、青山は世羽子が女子校に転校した事情を知ってるし、それを忘れるというか、うろ覚え…などということも能力的にあり得ないよね」
高 任:「あり得ませんねえ」
ラオウ:「あれが計算通りだとすると、青山は世羽子がここに通っていることをほぼ間違いなく知っている……のに、主人公に対してわざわざああいう問いかけをしたわけだよな」
高 任「当たり前じゃないですか(笑)」
吉 井:「あの、ラオウさん?」
ラオウ:「はい?」
吉 井:「いちいち、そんなこと考えながら読んでるんですか?」
ラオウ:「考えるも何も、読んだ瞬間に疑問が走るというか……じゃあ、これには何か理由がある……ぐらいはごく普通に」
吉 井:「それ、疲れません?(笑)」
ラオウ:「別に……息をするようなモンですから」
吉 井:「はあ…」
ラオウ:「と、いうか……高任さんの書く話って、そんな感じに振り返ってみるとさりげなく違和感が散りばめられてまして……大抵それは伏線ですやん(笑)」
高 任:「いや、ついうっかり設定ミスとか(笑)」
ラオウ:「ちょっと話それますけど、『偽妹』なんか、プロローグ読んで単純に眞美が妹と思いこんでる人がいると思いますが、それは甘いです」
高 任:「……」
吉 井:「と、言いますと?」
ラオウ:「あのプロローグの昔語りで登場する妹4人って、可憐、咲耶、千影、鞠絵の4人ですよね?で、本編が始まった時点で、可憐以外の3人はみな高校3年生で、可憐だけが高校1年……で、12人の妹の中で春歌が高校2年でしょ。読者に対して確実に与えられたその情報だけに注目するなら、『お前にはもう一人…』の妹は春歌であってしかるべきでしょう」
吉 井:「……おぉ」
高 任:「……」
ラオウ:「で、同じ文章でも眞美が妹と思いこんで読むのと、眞美は妹かどうかはわからないと思って読むのとでは、かなり微妙なニュアンスが違ってくるわけで。もちろん、高任さんはそのあたりを計算して書いてるわけですが」
吉 井:「でも、あの書き方なら…普通は眞美が妹って思いません?」
ラオウ:「つまり、高任さんは読み手にそう思わせたいわけですよ……ねえ、さっきから何も聞こえない振りをしている高任さん(笑)」
高 任:「ふ、ふふふふ…」
ラオウ:「ふふふふ…」
吉 井:「うわ、二人そろって希にみるほどの不気味な微笑みを(笑)」
ラオウ:「と、言う感じにですね……基本的に、高任さんは読み手の意識をとにかくミスリードさせることが大好きなんですよ(笑)」
吉 井:「それは、偽チョコでも?」
ラオウ:「ありありですよ」
高 任:「……」
ラオウ:「というわけで、さっさと『偽妹』とか『俺望』の続き書けよ(笑)」
高 任:「吉井さん、もし俺が死んだらラオウさんに続きを書いてもらってください」
 
 脱線。
 
ラオウ:「話を戻しますが……ひょっとして青山は世羽子に惚れてるのかな、とか最初は考えてたんだけど」
吉 井:「あ、それはなかなか燃えるシチュエーション(笑)」
高 任:「いいですねえ、そういうの……ただ、偽チョコでそういう設定は必要ないというか、むしろ足を引っ張りかねないからちょいと無理ですね」
ラオウ:「だよね」
高 任:「はっきり言うと、青山は世羽子に対して好意を持ってますけど、恋愛感情はこれぽっちもないです……まあ、青山が誰かに好意を持つこと自体がかなり珍しいですけどね。生きている存在に対して青山が好意を持っているのは世羽子と主人公の2人だけで、死んだ相手をも含めると、主人公の母親と、青山鉄幹……書類上は青山の祖父、実際は青山の父親が加わるだけですな」
ラオウ:「なんだよ、書類上って(笑)」
高 任:「ん、青山は青山家を一代で巨大化させた青山鉄幹が77歳の時の子供なんだけど……まあ、青山を引き取るときに親類縁者が風が良くないと言って、鉄幹の4男が妾に産ませた子供……と言うことで書類上は収まったという感じ」
ラオウ:「またえらい細かい設定が……って、青山の母親は?」
高 任:「青山を身籠もったとわかった瞬間、鉄幹の前から姿を消しました……まあ、このぐらいなら差し支えないから言いますけど、偽チョコの世界設定において人間と天使との間に子供ができる可能性はごくまれで、できたとしてもそのほとんどが死産ということに……まあ、鉄幹が悲しむだろう……という理由から姿を消したと言うことで」
ラオウ:「ほう……とすると、安寿の言ってた、天使は子供が産めない……ってのは嘘っぱちなんだね」
高 任:「当然嘘っぱちです……ただ、安寿はそれを真実だと思…思ってますが」
吉 井:「なんか、今一瞬口ごもったような(笑)」
高 任:「気のせいです(笑)」
ラオウ:「……その確率からすると、これまでにちゃんと生まれてきた人間と天使のハーフってのは、天使と人間が関わり合いを持ち始めてから精々十数人というレベルと考えて差し支えないな?」
高 任:「ん、んー…そんなとこかもしれませんねえ…(笑)」
ラオウ:「(にやりと笑い)…なるほど」
吉 井:「な、なんか深い話になってきたような…」
高 任:「まあ、そんなわけで鉄幹は自分の子供がいるなんて知らなかったし……青山の母親は、1人で青山を育てた……というか、正体が正体だけに生活力の無かった母親を青山は小さい頃から養っていたというのが正確なところ」
ラオウ:「……で、母親が死んで……多分そのあたりは色々設定があるだろうから聞かないけど、青山は色々あって青山家に引き取られた、と?」
高 任:「まあ、そんな感じ……で、世羽子の通ってる小学校に転校してきたのが小6の2学期の時なんだけど、元々青山は青山家に引き取られるまで戸籍がありませんでしたから、当然学校なんか行ってないよ(笑)」
吉 井:「主人公と世羽子の家ってそんな離れてないんだよね?で、通ってる小学校は違ってるわけなの?」
ラオウ:「そんなに離れてないと言っても、それは大人の感覚では?小学生で、1キロ、2キロは結構遠いですよ」
高 任:「世羽子の家は、通ってた小学校の校区の外れにありまして……で、主人公の家は世羽子から見て川向こうにあるんです……えっと、あんまり細かい詰めはしてないんで、簡単に地図を書くと…えーと、いらない紙は…」
ラオウ:「わかった、もういい(笑)」
吉 井:「多分、チョコキスの原作者だってここまで考えてないよ(笑)」
高 任:「……というか、なんか原作では、主人公と麻里絵は小学校は同じ、でも中学校は別々……みたいな描写じゃないですか」
ラオウ:「だったっけ?」
高 任:「小学校が同じで、中学校が別々……というか、主人公と麻里絵の家の真ん中あたりで町の境界があって……確かに、日本全国調べてみると、そういう特殊な例というか、児童の救済例もあるんですけどね……やっぱ不自然かな、と。もちろん、シナリオ上大した意味はありませんけど、主人公と麻里絵が幼なじみでありながら5年間会わなかった……という理由を安直に求めたんだろうな……と思わなくも無かったわけで」
吉 井:「大した意味がないなら別にいいのでは?」
高 任:「偽チョコはともかく、さっき言った『裏』や『真』では色々考えたんですよ。麻理絵とみちろーが私立の中学校に行って、主人公だけが公立の中学校に行ったケースとか」
吉 井:「ああ、なるほど」
ラオウ:「……高任さんの設定というか、『偽チョコ』では、確か麻里絵と主人公は別の小学校だよな?」
高 任:「私立公立は抜きにして、別の中学校……なら、それが自然かなあと。かつ、2人が幼なじみでよく遊んでいた……違う小学校でそうならざるを得ないなら、2人の住む家がそれぞれの校区でかなりの外れにあったってな事情に限定されるでしょうし、校区の外れでありながら住宅地が形成されているとなると、それは別路線からの開発区域にあたる……ってのが自然な設定でしょう」
吉 井:「だったら、素直に原作通りに小学校が同じで中学校が別…でもいいのでは?」
高 任:「正直に言うと、シナリオ上それだと都合が悪いのです(笑)」
ラオウ:「なるほど……で、話を戻すが」
吉 井:「ラオウさん、もうこれ以上はお腹いっぱいだとはっきり言えばどうでしょう」
ラオウ:「にしても、青山の設定って……また、遺産相続でもめそうな(笑)」
高 任:「あ、そっちはね……青山が中3の時に、青山鉄幹さん93歳で大往生しまして。まあ、遺言を巡ってもめるもめる……のは別の話、またの機会に話すことにしよう(笑)」
吉 井:「は、はてしない物語…(笑)」
高 任:「まあ、青山は基本的に自分の母親が嫌いで……ただ、鉄幹には好意を抱いたせいか、素直に引き取られたワケで。鉄幹のことが気にくわなかったら、そのまま1人で生きていっただろうけど」
ラオウ:「……って事は、基本的にその鉄幹さんとやらは傑物なワケだな」
高 任:「傑物です……さすがに、どんな生涯を送ってきたかまでは細かく考えてないけど(笑)」
吉 井:「それを聞いて、なんだかほっとしたよ(笑)」
高 任:「まあ、鉄幹は鉄幹で色々計算したというか、……青山を引き取るに際して自分の息子達がどういう反応を示すか観察したワケで……結局これは器が違うってんで、機会があるごとに青山をパーティに連れだして顔つなぎをさせまくったワケで……弥生と会ったってのはそういう時です」
吉 井:「や、やっぱり細かい…」
ラオウ:「まあ、そのあたりはさておき……母親が嫌いってんなら、青山的にさっさと見捨てるんとちゃうの?」
高 任:「ああ、ちょっと言葉が足りませんでしたか……嫌いって事は、要するに好意を抱くのと同程度に興味の対象だったってことで。基本的に、好奇心は旺盛……というか、母親がどこか人間離れしてるってのは、青山レベルだとすぐに気付くでしょうし」
ラオウ:「……なるほど」
吉 井:「そういや……青山って、紗智に対して好意を持ったんじゃないの?」
高 任:「いや、アレは好意じゃなくて……なんというか、人として認めたぐらいの感覚。最近はかなり丸くなりましたが、こいつには見るべき所がないと判断した相手に対して、青山はろくに口も聞きません……極端な話、青山の中では、大勢の虫けらと少数の人間……みたいな感覚ですかね」
吉 井:「うわあ…やな奴だ(笑)」
高 任:「ついでに言うと、そういう意味で青山は御子をほとんど人と認めてません……主人公の知り合いじゃなかったら、間違いなく最終話では雪に埋もれてる御子を見捨ててますね」
吉 井:「え、アレは照れ隠しじゃないの?」
ラオウ:「……そういや、名乗りこそしたけど御子に対しては最初からきつかったな……何の伏線だろう、などと思ってたけど」
高 任:「アレは、御子の個人シナリオのための伏線です(笑)」
吉 井:「そ、そーなんだ…」
高 任:「確かに、後半だけ読むと、青山ちょっといい人……みたいな感じですが、違いますからね(笑)」
ラオウ:「……高任さん、ちょっと突っ込んだ質問していい?」
高 任:「何よ?」
ラオウ:「いや……青山は、誰かに対して恋愛感情を持つことができるのか?」
吉 井:「は?」
高 任:「そ、そりは……なかなかに突っ込んだ質問だねえ(笑)」
ラオウ:「(にやりと笑って)……なるほど、その反応からするに、反映されているかどうかさておき、少なくともそーいう設定を考えた事はあるわけだ」
高 任:「ラオウさん…そーいう、カマのかけ方はやめましょうって(笑)」
ラオウ:「んー、こういうカマをかけられる話し相手はあんまりいないからね……第一、はっきり喋ったら高任さんが困るだろう?(笑)」
高 任:「困るなあ」
ラオウ:「最終話の、青山が世羽子に対して『借りがある』ってのは、言葉通りに受け取っていいの?」
高 任:「えーと、重要じゃない部分だけをを説明しますと……世羽子の家庭の事情ってのを主人公に話したのは、言ってみれば青山にとって生まれて初めてのお節介だったんですわ。で、思いっきり裏目に出た……少なくとも、青山はそう思ってるわけで」
ラオウ:「ああ、はいはい、そういう事ね……『お節介の才能がない』ってのはそのあたりか。そりゃ、主人公のお節介に対して大したことを言えんようにもなるわな(笑)」
高 任:「で、このあたりも作用反作用というか……お節介の失敗ってのは自分が勝手に手を出して相手に被害を与えたワケですよ。それ故に、青山は主人公と世羽子に負い目っぽいモノがあるわけで、第一話の発言だったり、世羽子を賭の話に誘い込んだり……につながっていくワケ」
吉 井:「……ってことは、青山は二人をくっつけたい?」
高 任:「いや、そういう単純な話でもなくて……柄にもないことはするもんじゃないという諦観と自分が失敗したという屈辱、二人に対する負い目と好意がそれぞれ複雑に混ざり合った状態というか……まあ、時間も経って世羽子の頭も冷えただろうし、とりあえず二人の断絶した関係は解消する方向にもっていってやらねばいけない責任はあるか…ぐらいの」
ラオウ:「なるほど……その説明で、青山の行動がちょっとわかってきた」
高 任:「ただ、こういうのは読み手が自分の中で想像して楽しむモノでは?書き手が喋っちゃって良いのかな?」
吉 井:「いや、そんなこと考える読み手は多分半分もいないかと(笑)」
高 任:「それはそれとして、裏読みが好きな人の楽しみを奪っているような気がして仕方がないです」
ラオウ:「話は変わるけど、同じく第一話で麻里絵がある程度大人の対応をしてるのは……これも一応計算通りと言うことで?」
高 任:「ですね。主人公の反応を見つつ、少しずつ自分の態度を変化させていくわけですが……結局、そのあたりの伏線は全部途中でうやむやにしてしまいました(爆笑)」
吉 井:「うわあ、ぶっちゃけてる」
高 任:「さあ、ラオウさん思う存分突っ込んでくれ(と、首を差し出す)」
ラオウ:「みちろーがこっちに戻ってきた話とか、紗智と二人で学校さぼった話とか……『某えあー』並に、読み手をごまかしに入ってたよな、お前(笑)」
高 任:「1つ1つの話の間隔開いてるからアレかも知れないけど、最初から一気読みしたら、絶対不自然さに気がつくよな……などと思いつつ(笑)」
吉 井:「そう思ったら書き直し……はできないね(笑)」
高 任:「できないんですなあ」
ラオウ:「どうせ本来は、高任さんらしい……死ぬほど暗くて屈折しまくった麻里絵なり、みちろーの心情を元にした展開があったわけだろ?」
高 任:「さっき、ラオウさんが綺羅をヨゴレ扱いしてたけど、そういう意味では、麻理絵の方がヨゴレですね。もちろん、二人ともそれなりの背景というか…ごにょごにょ(笑)」
ラオウ:「まあ、前半部分の麻理絵は、かなり巧妙な演技をしてるなあという伏線がちらほらしてたけど、後半はわかりやすい演技になったからね。その部分だけでも、『ああ、高任さん投げ出した…』ってのはまるわかりでしたし(笑)」
高 任:「いや、そのあたりは、書けなかった話の設定というか……知人の反応から鑑みるにそこまで書くとやばそうだな、と」
吉 井:「高任君…俺の中で、麻里絵のイメージがガタガタ崩れていくんだけど(笑)」
高 任:「イメージも何も、俺の設定では麻里絵は綺羅タイプの人間ですよ……人間を見る目という意味では、青山の次ぐらいに優秀です」
ラオウ:「まあ、1話からみちろーに会う話ぐらいまで、麻里絵の態度が本当に少しずつ変わっていってるからなあ……ああ高任さん、空回りしてるけど気合い入ってるなあ、と(笑)」
 
高 任:「うん、やっぱり空回りだったんだろーね……そのあたりの麻里絵の話が、知人周りですげえ不評で……暗い、とかラブコメじゃねえとか(爆笑)」
 
吉 井:「でもそれは全部演技?(笑)」
高 任:「まあ、演技っちゃあ、演技ですね……つーか、最初ッから青山は麻里絵の態度に興味を持ってるような描写を入れて、他に伏線はりまくってたんですけど……まあそこまで不評なら、やめたらあと決心して(笑)」
吉 井:「え、そんな理由なの?」
高 任:「いや、自分一人の日記とか言うならともかく、読み手の存在を意識して書く文章なんだから、自分だけの楽しみに没頭するのはナンセンスでしょう。まあ、趣味で書いてるわけだから自分の楽しみを全て投げ出すつもりなんてないですけど」
ラオウ:「まあ、頑張ったから楽しんでくれるはず……ってのは、幻想ですな」
吉 井:「確かに」
 
 ちょい脱線。
 
高 任:「というわけで、みちろーと再会して帰ってきたあたりで速やかに路線を変更……できるはずもないんですが、どこかの首相のように、とにかく変更するんだと断固たる決意を持って(爆笑)」
吉 井:「うわあ」
高 任:「第一話から、伏線はりまくってるんだから設定に矛盾が出てきて当然だっつーの、コンチキショー……などと夕日に向かって叫んでみたいボクがいたワケで(笑)」
ラオウ:「そりゃ、そうだろ」
高 任:「結局、13話までは最初の設定で一気に書いたわけですよ……で、14話あたりから新たな方向を模索し始めて(笑)」
ラオウ:「あぁ……じゃあ、みちろーに会って、帰ってきた来た時の話の時点で既に麻里絵の設定をぶったぎったのね(笑)」
 
高 任:「自分で言うのもなんですが……14〜20話は特に色々と怪しいよね(爆笑)」
 
ラオウ:「怪しいよな(笑)」
高 任:「後書きで、暗い話だと話がすすまん……とか書いたけど、実際はそんなレベルじゃなくて、ちょっと仕事が忙しかったのも絡んで、『うおおおっ、明日はどっちだっ!?』ってな感じで再構成に次ぐ再構成を繰り返しつつ、迷走してたよ」
吉 井:「なんか生々しい内輪ネタが出てきました(笑)」
高 任:「で、19話だか20話あたりでこりゃ書きながらではどうにもならんというか、季節も夏になったことだし……夏コミの準備でもしつつ、じっくりと構想を立て直そうではないか……などと、秋までお休みをいただいた次第であります(笑)」
ラオウ:「なるほど(笑)」
高 任:「いやあ、ほんとーの最初の計画では……全40話を、まあ5月末までには書き終えるつもりだったんだけどねえ」
ラオウ:「……3ヶ月で?」
高 任:「予定は全40話……1ヶ月足らずで13話まで書いてたよ?つーか、仕事だったら3ヶ月で1000枚なんぞふつーやん」
ラオウ:「まあ……書くだけなら、な(笑)」
高 任:「で、夏は外伝書いて、秋からは各キャラの話を書いて……という流れの予定だったのが、一体、私という椰子の実は、どこの名も知らぬ島に流れ着いたのやら(笑)」
ラオウ:「漂流しすぎ」
高 任:「つーか、パソコン壊れまくったもんな……仕事もアレだったし」
吉 井:「そ、それは麻里絵の呪いでは…(大爆笑)」
ラオウ:「予定通り書きやがれと、魔性ッぷりをいかんなく発揮(笑)」
高 任:「まあ……結局、序盤で書いた麻里絵の性格というか、伏線が、ずうううううぅっと、最後まで足を引っ張ってくれました。つらかったです、まる。(笑)」
 
ラオウ:「正直、あの流れだと、みちろーが帰ってくる必要がほとんどないもんな(大爆笑)」
 
高 任:「おじいちゃん、それは言わない約束でしょう(笑)」
吉 井:「ほ、本来は……やっぱり、みちろーが帰ってくることにはかなり意味があったんだよね?」
高 任:「ありましたよ……あれじゃあ、何のために登場してきたかわからない、原作のみちろーと一緒ですし」
ラオウ:「うむ、パロディですから(笑)」
高 任:「まあ、結局みちろーは使い捨てになっちまった……使えない奴だぜ(大爆笑)」
吉 井:「ひどい言いぐさだよ…」
ラオウ:「とすると、元々の設定で、みちろーは……ある意味、両親ではなくて麻里絵から逃げ出した部分があるのかな?」
高 任:「あははのは」
ラオウ:「それよりも……元々の設定において、麻里絵は主人公の事を好きだったかどうかってのも怪しいよね?」
高 任:「ラオウさん、書かれなかった話について語るのはもうやめよう。死んだ子供の歳を数えるより、僕たちにはやらねばならないことが(笑)」
吉 井:「ごまかしてる…」
高 任:「まあ結局、構成をやり直したせいで麻里絵の性質というか、キャラとしての輪郭がぼやけましたね……そのあおりを食って、紗智も多少。後は話の流れの中心に麻里絵がいるはずだったから、全体を通しての流れもめっためたになって。それと……青山が紗智に対して、麻里絵の性質についてちょっと語ってますが……あれは、物語をぶちこわすほど致命的な設定上の矛盾ですね。アレに関してはもう、なんの言い訳もできないと言うか」
吉 井:「……ラオウさん」
ラオウ:「はい?」
吉 井:「個人的には、『そのぐらいのミスで…』と思ってしまうんですが、そーいうモンなんですか?」
ラオウ:「よ、吉井さん……あれって、すごいミスですよ?」
高 任:「あの時点で青山は麻里絵の正体をおよそ見抜いてるんですよ……にも関わらず、紗智にああいう事を言う……あり得ないですね。青山がそういう性格なら、この話成立しませんもん……ですから、あの部分はなかったこととして読んでください(爆笑)」
 
 ちょい脱線。
 
高 任:「で、お休みの期間を使ってじっくりと話の構成を組みかえつつ、リスケジュールして……その上で暗いと言われた雰囲気を一新するために、満を持して安寿とちびっこを投入(爆笑)」
ラオウ:「連載再開から、すごい登場ぶりだったよなその2人」
高 任:「そりゃ、読み手を誤魔化す必要がありましたからな……ついでに、俺のモチベーションのためにも(笑)」
吉 井:「何やら、明日なき暴走を繰り返す週刊連載のノリだね」
高 任:「いや、元々出番が増え始めてくる流れだったんだけど……後で語りますが、主人公がちびっこに向かって茶封筒差し出したシーンなんて完全アドリブ(笑)」
吉 井:「そ、そーだったの?」
高 任:「つーか、『よし、これでなんとかなる』と、秋になって勢いよく書き始めたはいいが、『いやああぁっ!設定に矛盾があぁぁっ!』などと悲鳴を上げ、さらに再開が1ヶ月ほどずれ込みましたし(大爆笑)」
吉 井:「設定に矛盾って……さっき言ってた麻里絵の?」
高 任:「いや、それとは別口の巨大な矛盾が(笑)」
吉 井:「あるの?」
ラオウ:「まあ、細かく設定してただけに、方向転換するとあちらこちらできしみが出るのは必然だよな(笑)」
高 任:「きしむどころか、建物にたとえるなら、ほぼ倒壊寸前の有様だったよ」
ラオウ:「結局……再開したのって何月だっけ?」
高 任:「11月……ぐらい?(笑)」
ラオウ:「今さらだけど、4ヶ月も5ヶ月も間開けるのはどうかと」
 
吉 井:「……対談は?(一同総沈黙)」
 
高 任:「(話題をねじ曲げるように)……ちょ、ちょっと話が走りすぎましたので戻しますが、3話の『ちびっこ、大地に立つ』あたりは、できうる限りタイトルはパロディで行くか、と」
ラオウ:「わ、わかりやすいねえ…」
高 任:「夏樹とちびっこともども廊下にひっくり返った主人公に向かって青山が言った『ひとりに絞れ、ひとりに…』ってのは、ある意味エンディングに対する暗喩のつもりでした」
吉 井:「な、なるほど……言われてみれば、深い台詞だね」
ラオウ:「……そのシーンを読む限りで、主人公の身体能力がずば抜けているとはとても思えませんが」
高 任:「……一応、ちびっこを助け起こすシーンで勢い余って天井にぶつかりそうに……ってな事を、ちびっこが言いましたが」
ラオウ:「……」
高 任:「ちびっこの体重が仮に30キロとして、学校の天井というと2メートル40程はありますが、持ち上げられたちびっこにそこまでの錯覚を持たせようとすると、これはかなりの腕力が必要とされるのは明らかで、しかも手加減がどうの……などと、主人公の台詞にあったと思いますが(笑)」
ラオウ:「な、なるほど……さっきも言ったとおり、主人公の身体能力云々は路線変更の影響ではなく、あくまでも最初からの設定だと…」
高 任:「いかにも」
ラオウ:「……夏樹にやられましたが」
高 任:「そりゃ、青山じゃないから基本的に主人公は自分の命に関わるレベル以下の攻撃に対しては意識していない限り隙だらけです。相手が女子ってのと、夏樹が世羽子のレベルにはとおく及ばないのが二人にとって幸いでしたね。まあ……主人公についてはちょっと意識下レベルで母親がいらんことしてますが、相手がかなりの能力を有していない限り、それが表面に出てくることはないです」
吉 井:「なんか、怖い設定がさらっと出てきたよ(笑)」
ラオウ:「ほう、それは逆を言えば主人公の母親は自分の子供にそういう事をしておかなければいけない立場にいたということかな?(笑)」
高 任:「まあ、青山曰く親ばかの人ですから……自分の子供が大事だから、襲ってくる相手の命は知った事じゃない……と、このぐらいで、この件についてつっこむのは勘弁していただけないでしょうか?今、つい口が滑りそうになってナイフの刃の上を歩いているような思いをしてるんですけど(笑)」
吉 井:「……なるほど、そのあたりは設定的に深部なんだね」
高 任:「設定といっても、あくまでも深読みとしての深部というか、安寿あたりのシナリオにならない限り、そのままスルーされるような部分というか」
ラオウ:「夏樹が世羽子に遠く及ばないって事は、やはり世羽子は最強なのか(笑)」
高 任:「青山をして、興味を持つ程の素質ですので……それが、青山と主人公の母親にとんでもない鍛えられ方をしたと言うことで。まあ、このあたりはリアリティ無いだろうけど、勘弁して(笑)」
ラオウ:「宮坂には何故かリアリティを感じるんだが(笑)」
高 任:「そりゃ原作からしてじょにーですから」
吉 井:「強いと言えば……冴子の従姉妹のかやねって、やっぱり、にゃっふーんのかやねですか?」
高 任:「当たり前じゃないですか(笑)」
ラオウ:「……『チョコキス♪』と『おまカフェ』のコラボ(爆笑)」
吉 井:「コラボの意味無いよ(笑)」
高 任:「個人的には、にゃっふーんのかやねと、安寿の言葉の掛け合いをさせてみたかったですな。天然と天然の、壮絶なるすれ違いというか(笑)」
ラオウ:「おいおい」
高 任:「まあ、元はといえば、冴子の名字と同じ漢字だったでしょ……このあたりは書き手としてのお遊びです。世羽子とかやねが語り合うんですよ、拳で……夢の対決ですな(笑)」
吉 井:「……あれって、漢字のヨミは違ったんでしたっけ?」
高 任:「冴子は香月(こうづき)、かやねは香月(こうげつ)……お茶とか、そういう家系の場合、分家筋が、主家と区別するために漢字は同じだけどヨミを変えたりするケースがあるから、それはそれで良しなどと自分を納得させて」
ラオウ:「……あ、ひょっとして後半のタイトルに『最強伝説』ってのがあったよな?それって、本来はかやねが出てくる予定だったとか…」
高 任:「まあ、あまり細かいことは気にするな……結局、冴子のシナリオをねじ込むスペースがなかったのよ(笑)」
吉 井:「……と言うことは、タイトルは大体先に決まってた?」
高 任:「節目節目に関しては……最終話なんか、一番最初に決めましたもん。『ああ、人生に涙あり』……日本人の魂ですな(笑)」
吉 井:「それって、何でしたっけ?」
高 任:「吉井さん、水戸黄門の主題歌です……あの曲を聞けば、人生のほとんどについて悟りが開けます(笑)」
吉 井:「え、あの曲って、そんな名前なんですか?」
ラオウ:「ですよ」
高 任:「あの曲に『後から来たのに(?)、追い越され〜♪』というフレーズがありますが、最初の予定では、そのイメージが顕著にでる話でした」
ラオウ:「……あぁ、麻里絵なり、世羽子が、誰かに追い越されていく感じか(笑)」
吉 井:「え、あのラストって予定通りと違うの?」
高 任:「そりゃ、麻里絵の設定ぶったぎったんだから、当初の予定とは変わりますよ……でも、各話のタイトルはある程度最初に考えたとおりつけたので、ところどころで、話の内容とタイトルが乖離してます(笑)」
ラオウ:「あたらしく考えろよ…」
高 任:「いや、なんかもう面倒で(笑)……それに、最終話に限らず、曲名からそのまんま……のタイトルがちらほらとありましたし」
ラオウ:「んなこと言ったら、『誰がために…』とか、『罪と罰』は小説名そのまんまやんけ」
高 任:「『罪と罰』のタイトルは、綺羅のためのタイトルだから。まあ、青山と違って綺羅の言うことはほぼ100%嘘まみれですけど(笑)」
ラオウ:「綺羅の言うことがほぼ嘘ってのはわかってるけど、『罪と罰』云々に関しては読んでないし、元々どういう話なのかも知らないのでなんとも(笑)」
吉 井:「え、どういう話かも?」
ラオウ:「知りません(笑)」
高 任:「基本的にタイトルには深い意味はありませんが……一応、あのタイトルに関してはかなり意味があります」
吉 井:「タイトルといえば…『水金地火木土天海冥』ってどういう意味?」
高 任:「太陽系の惑星の覚え方ですが……でも、『海冥』の周期と『冥海』の周期があるんですよね?後、なんや新しい惑星が確認されたとか」
吉 井:「いや、そうじゃなくて(笑)」
高 任:「登場キャラというか、世羽子も含めた攻略可能キャラって全部で9人なんですよ……で、太陽を主人公として、9人のキャラとの距離関係とか、特徴を俺なりのイメージで…」
吉 井:「(指を折り曲げながら)……ああ、9つだね」
ラオウ:「金星は、ヴィーナスですか?(笑)」
高 任:「じゃあ、サターンは誰だろね(笑)」
吉 井:「一番近い水星は…麻里絵ですか?」
高 任:「衛星の数が多いから、木星は綺羅なのか……とか考えると楽しいでしょうね。土星の輪は、天使の輪とか(笑)」
ラオウ:「ほう、サターンなのに天使の輪とは……いやいや、深い台詞だねえ(笑)」
高 任:「……俺は何もいってないよ。考えると楽しいでしょうね…としか(笑)」
 
 ちょっと脱線。
 
ラオウ:「ところで」
高 任:「なによ」
ラオウ:「つまるところ……綺羅はやっぱり、主人公に対して(……)なのですか?」
吉 井:「は?」
高 任:「……」
ラオウ:「……言うとまずかったか?(笑)」
高 任:「いや……う、勘弁して(笑)」
ラオウ:「ばらまかれたヒントを整理していくと、そのポジションが最も収まりが良いなあ、と俺は思ってたのですが(笑)」
高 任:「……それ、前に対談した時点でデスか?俺はてっきり……あのレベルまで読まれたかなという認識だったのですが、あの時点でそこまで読んでいたなら、ラオウさんは化け物です(笑)」
ラオウ:「青山は事実しか言わない。で、綺羅は嘘ばかり言う……ってのは構想としてあるよね?(笑)」
高 任:「……あるかもしれませんねえ(笑)」
吉 井:「知ってますか、ウサギは寂しいと死んでしまうのです(笑)」
 
 ちょっと秘密の内容。(笑)
 
高 任:「……水無月先生はね、なんとなく白衣、眼鏡の保健医が無性に書きたくなって(一同大爆笑)」
ラオウ:「いや、その、なんだ……こう、自分で積み上げた設定を衝動でぶちこわして楽しいか」
吉 井:「眼鏡の保健医は基本ですよね」
ラオウ:「……この人(吉井さん)もダメか」
 
高 任:「ラオウさん、高任統計によるとゲームの中で白衣の女性保健医はほぼ86%程の確率(7人中6人程度)で眼鏡をかけてます(大爆笑)」
 
吉 井:「またえらく限られた統計のような…」
ラオウ:「まあ、そりゃ……眼鏡というアイテムがインテリジェンスの象徴として使われているだけだと思うが」
高 任:「保健室に住んでるわけじゃない……とか言ってるけど、実際は女子校の宿直室の一室で生活してるようなもんです(笑)」
ラオウ:「衝動で書いた割には、また色々と設定ができているようだな…」
吉 井:「どうせ、綺羅によって家から勘当された……あたりの事情も出来上がってるんでしょうね」
高 任:「そりゃ、温子と一緒でね……あれだけ思わせぶりな台詞連発してますから、それにまつわるエピソード設定はもちろんみっちりと」
ラオウ:「結局、水無月先生は誰かのシナリオに関与してくるわけ?」
高 任:「綺羅とちびっこと冴子です……まあ、単なる脇役にしてしまうには惜しいと思ったので(笑)」
吉 井:「綺羅と冴子はともかく…ちびっこですか?」
高 任:「ちびっこを特待生でひっぱってきたの、綺羅ですから。ちなみに、二人の出会いはクリスマスイブの夕暮れですな。幸せそうな表情で街ゆく人をぼんやりと眺めるちびっこの前に、黒い服、黒いスカート…黒一色の綺羅が現れて言うんですな。『幸せそうな人なんかみんな死んじゃえ…とでも、言いたそうなお嬢ちゃん』と(笑)」
ラオウ:「……それは、ちびっこが小学4年の時?綺羅は……一応、高校生では?」
高 任:「一応、偽チョコ時点で綺羅は24歳です。主人公の7つ年上…つまり、ちびっこの8つ上。で、水無月先生は26歳」
ラオウ:「答えになってないよ……まあ、答えられない事情があるんだろうが(笑)」
高 任:「と、いうか……進学実績だけが欲しいなら、小学6年や、中学3年、高校3年を引っ張ってくればいいだけの話でしょう。わざわざ、小学校4年の時点で特待生として引っ張ってきて、しかも将来への投資という名目が立つにせよ、給料というか、報酬を与えてるという時点でなんか裏があるんだな…ぐらいは当然読んでますよね、ラオウさん?」
ラオウ:「うん、もちろん読んでるけど、その手の情報を高任さんから引き出さないと、対談する意味ないかなとか思ったり(笑)」
吉 井:「……狐と狸が化かし合いをしております」
高 任:「化かし合いというか、俺が一方的にラオウさんにやりこめられてるんですが…」
 
 ちょい脱線。
 
吉 井:「温子は……こう、なんとなくアクセントのついたキャラだよね。こう、ちょっとしたエピソードが、こっちの想像力を刺激してくれるというか」
ラオウ:「唐揚げの皮をそっと弥生の弁当箱に放り込んだりとかは笑った」
高 任:「唐揚げは皮がおいしいのに」
ラオウ:「いや、お前が言うなよ(笑)」
高 任:「まあ…温子は温子で、結構人間関係で苦労してきたキャラで……女子校にやってきた理由の一つに、前の学校の友人関係から逃げ出したかったってのが……こう、ある部分でちょおっと人生を投げた感じのコミカルなキャラをイメージしていただければ」
ラオウ:「イメージしていただければ…じゃなくて、お前が文章で表現しなきゃいけないんですが(笑)」
高 任:「ごもっともで」
ラオウ:「まあ、それはそれとして」
高 任:「……なんか言いたそうデスね」
ラオウ:「多分……高任さんはそれなりにキャラを作るのは上手なんだろうとは思うよ。でもね、なんというか……基本的にどのキャラも一緒なんだよね」
高 任:「え?」
吉 井:「どこが一緒ですか(笑)」
ラオウ:「いや、各キャラの思考回路がみな同じなんですよ……それに、性格だの、価値観の条件を乗せて動かしてるみたいな」
吉 井:「はい?」
高 任:「な、何やら……すごいレベルのことを要求してませんか?」
ラオウ:「早い話、ある状況を与えられ……自分は何をするべきかの答えを出すアプローチがみな同じなんですよ。ただ、キャラの価値観なんかの設定があるから、答えが違ってるだけでしょう」
高 任:「……えーと、条件付けが違うだけで、思考ルーチンが同じということ?」
ラオウ:「そう……実際は違うよな。同じ価値観と立場でありながら違う答えを導き出す人間もいる……でもね、高任さんの作るキャラの場合、行動の違いは立場と価値観の違いでしか無いケースがほとんどなのよ……そういう意味で、キャラの書き込みというか奥行きが限定される上に甘くなる。青山と主人公なんか、状況によってはキャラがかぶりまくりやん」
高 任:「ふむ……主人公と青山のキャラがかぶるのは、ある意味わざとなんだが、そういう事を言いたいわけじゃないようだから、黙って聞いておこう」
吉 井:「高任君、全然黙ってないよ(笑)」
ラオウ:「多分、麻里絵の描写なんかもそのあたりがよけいに困難にさせた原因じゃないかと……物事を考える道筋と、経験による価値観……その二つを組み合わせてキャラを作ったら、もっと自由度が高まるというか、キャラに奥行きが出てくると思う……今度から、それに注意するといいかもね」
吉 井:「おお…編集のようなアドバイスを」
ラオウ:「ただ、当然文章力はより高度なモノが要求されるよ(笑)」
高 任:「うわあ」
ラオウ:「まあ……世の中にはひどいキャラメイクが氾濫してるけど。キャラの経験と価値観が乖離しすぎてたりとか、出てくるキャラの思考が全部同じとか、設定の矛盾以前に人格が矛盾してたり……それに比べたら、高任さんはだいぶマシ」
高 任:「吉井さん、ボクはラオウさんに何を要求されてるんでしょうか」
吉 井:「さあ、偽妹の続きを書く事じゃないでしょうか…」
高 任:「下手な亜〇亜を書いたら殺されそうで、正直すごいプレッシャーで」
ラオウ:「一応、俺は教えても無駄と思う人間には教えんよ」
吉 井:「高任君、今、青山の幻が…(笑)」
高 任:「ええ、ちらっと見えましたね」
ラオウ:「何をぶつぶつと」
 
 
高 任:「まあ、期間が空いたせいか……連載再開の時のテンションは、第一話を書いたときのテンションには遠く及ばなくて」
ラオウ:「おいおい」
高 任:「で、さっきの話につながりますが……こう、自らのテンションを高めるためにですね、『わあ、ちびっこだよ、ちびっこの出番がいっぱいだよ、あははは……』などと、もりもりと書いてる内に、とりあえずとテンションは上がりまして(大爆笑)」
吉 井:「〜〜〜(悶絶中)」
ラオウ:「お、お前なあ…」
高 任:「さっきも言いましたが、『ちびっこに読んでもらいたいモノが…』なんてシーンも完全アドリブで、もう、自分で書きながら、ちびっこマンセー、ちびっこサイコーなどとやってるうちにとんでもないミスを犯しまして(笑)」
吉 井:「え?」
高 任:「いや、言いましたよね……最初の予定では、夏樹が主人公に惹かれて、ちびっこはそのサポート……って」
ラオウ:「あ…?」
 
高 任:「本来はね、球技大会で夏樹と主人公の接近イベントがあったんですよ……でもね、はっと気がつくと『ちびっこが主人公に惚れてなきゃ大嘘だ…』というレベルまで、左脇を抉り込むようにちびっこを書きまくってしまったから、もう引っ込みがつかなくて(大爆笑)」
 
ラオウ:「あ、あほかお前っ(笑)」
吉 井:「…っ…っ(床を叩いて悶絶中)」
 
高 任:「だからね、あの28話の夏樹の台詞『……そういうつもりじゃなかったのに』ってのは、夏樹じゃなくて俺の台詞なんですよっ!なによりも、誰よりも俺が言いたかったんですよっ、そんなつもりじゃなかったのにいぃっ!」
 
 吉井氏が更に悶絶する側で、高任はラオウさんに蹴られました。
 
高 任:「……と言うわけでね、大自然の驚異によって、さらに予定を変更する羽目になってね(笑)」
ラオウ:「いや、人災だろそれ(笑)」
吉 井:「高任君にとって、ちびっこは大自然なんだ…」
高 任:「ええ、ちょっと逆らいがたい魅力に大自然に通じるモノを感じますね(爆笑)」
ラオウ:「あ、呆れてモノが言えんとはこのことか…」
高 任:「ちびっこが、ごっきーの詰まったあらほらさっさを携帯で写してたでしょ……あれはね、後のイベントでちびっこが御子に見せて気絶させるネタに使うはずだったんですけどね……」
吉 井:「ど、どういう予定で?」
高 任:「んー、だから最後の週末……2月10日(日)、11日(祝)の予定は、10日に世羽子と弥生の3人で外出、そこでかやねと冴子に会う。11日は、夏樹と単独デートの予定だったんですわ」
ラオウ:「え……じゃあ、あのあたりの話って全部アドリブというか、予定外なん?」
高 任:「全然予定外(笑)」
吉 井:「そ、その予定外ってのは、どの予定?」
高 任:「麻里絵の設定ぶったぎったあとに再構築した設定です……まあ、夏樹とちびっこのラインはある程度麻里絵から独立してたので、それほど影響を受けてませんが」
吉 井:「そ、そーなんだ…」
高 任:「予定外とはいえ、構図そのものは似せました……夏樹との単独デートの陰で、ちびっこが御子を例のごっきーの画像で気絶させたりしつつ、頑張るわけで(笑)」
ラオウ:「ごっきーと言えば、あのあらほらさっさはネタとしてまずくないか?(笑)」
吉 井:「『ぺたっとな』でちょっと笑った」
高 任:「あれも結構、年齢層高めのネタですが」
ラオウ:「じゃなくて、本家でそういうネタがなかったか、あれ」
吉 井:「言われてみると、ホイホイネタはあったような覚えが…(笑)」
高 任:「わあ、それはまずい……っていうか、そんなつもりじゃなかったのに〜(爆笑)」
 
 ちょっと脱線。
 
高 任:「で、球技大会の話が終わって……本当なら、宮坂と主人公が、球技大会のラストで学校の池にはまったりして風邪をひき、次の日に休んだりする予定でしたが(笑)」
吉 井:「そ、そうでしたか(笑)」
高 任:「で、本当なら……わらわらと何人かが学校を早退して、主人公に家にお見舞いにやってくる……そのわきで、青山と綺羅の攻防が始まったりする予定でしたが」
ラオウ:「じゃあ、もうあのあたり全然予定通り書けてないのか?」
高 任:「んー、夏樹が主人公に急接近するという前提でスケジュール組んでましたから……じゃあ、週末のデートの予定は変更しなきゃ、その上でそれに向けたスケジュールを考え直さなきゃ……で、前倒しになっていくのは仕方ないでしょう」
吉 井:「んー」
高 任:「とかやってたら、ただでさえ厳しかった冴子の話を滑り込ませる余地がこれぽっちもなくなって……気がつくと2月14日は刻一刻と近づいてくるし(笑)」
ラオウ:「そりゃ、時は止まらないモノだから……あのあたり、というか球技大会あたりから、高任さん文章荒れすぎ(笑)」
高 任:「シナリオを再修正しつつ、さあ、締め切り間近……では、ちょっとなあ。文章力ねえから、追いつめられると、ただでさえ薄いメッキが剥げる剥げる(笑)」
吉 井:「なるほどねえ」
高 任:「で、その頃は既に例の件があったわけで……仕事の絡みもあってまあ、まともに書けるような状態じゃなかったですね。2月末までに40話あたりまで書くのが精一杯で……結局、冴子はああいう形で陰に控えてもらうしかなくなりました」
吉 井:「そういや、宮坂は何故雪山に?」
高 任:「いや、雪山賛歌歌わせたから、とりあえず雪山だろうと……あんま深い意味はないですが、もう一つの案として、沖縄で黙々と豆腐を作っているってのがあったんですが(笑)」
ラオウ:「は?豆腐?」
吉 井:「……その元ネタ、なんかわかった気がする」
高 任:「ええっ!?」
ラオウ:「何だよ、その絶対に元ネタわかるわけねえってな反応は?」
吉 井:「ずばり、『風に吹〇れて、〇腐屋ジョニー』では?(笑)」
高 任:「うわ、すっげえ!吉井さん、すっげええ!(笑)」
 
(注)……まあ、そういう豆腐があるのですよ。(笑)
 
ラオウ:「高任さんって、基本的に歌のネタが好きだよね」
高 任:「好きなんですけどね……これなら誰でも知ってるよなってな曲を選ぼうと心がけてはいたんですが…『雪山賛歌』とか『しあわせなら手を叩こう』とか、知らない人っているのな、びっくりだよ」
ラオウ:「そ、そうなん?」
高 任:「『俺たちゃ街には住めないからに〜♪ってなんの歌ですか?』とか聞かれて、『ドナドナ』を知らない奴がいるって聞いたときと同じぐらいショックでしたわ(笑)」
吉 井:「まあ、最近は音楽の教科書にヒットナンバーが掲載される時代ですし」
高 任:「ただの小ネタだけど、安寿が息を切らす程にぱちんぱちん手を叩きまくって、主人公が『あんまり幸せそうには見えないが…』で呟くシーンなんかも、まあこの歌は誰でも知ってるよな……と思って書いてるわけですが」
ラオウ:「いや、アレは曲名だけで意味わかるからいいんじゃないの?」
 
 ちょい脱線。
 
高 任:「……と言うわけで、麻里絵の設定ぶったぎりの件と、ちびっこと夏樹の立場が逆転しちゃった件の2つが、アレでしたな」
吉 井:「かなり念入りに書かれているような気がしてたんだけど……実際は、かなりアレだったんだね(笑)」
高 任:「まあ、一連のシナリオとしてはアレですけどね……個々の設定が定まってたから、そのあたりは何とか、あまりぼろを出さずに(笑)」
ラオウ:「まあ、話を聞くと……結局は麻里絵だな。方針転換が全てだろ」
高 任:「と言っても……話の流れがめためたになっただけで、一部を除けば、キャラそのものに関しては最初の予定通り書けたんじゃないかと。俺の独りよがりかも知れないけど、キャラが魅力的に書けたなら、とりあえず『偽チョコ』の導入としては、まあいいかなと思うわけですが(笑)」
ラオウ:「……で、攻略ですか」
高 任:「そりゃ、これに関しては大風呂敷広げましたからね……『偽チョコ』だけで終わったら、まさに俺は何のためにアレを書いたのかわからなくなるデス(爆笑)」
ラオウ:「まあ、やる気は認めるけどさ……読み手はついてきてるのかね?」
高 任:「また、きついところを」
ラオウ:「高任さんが散りばめた伏線……あれに気付かない限り、『偽チョコ』ってのは結局どういう話なのか、どういう世界観なのかってのが全然伝わらず、単にキャラがドタバタして終わり……だけの話でしょ」
高 任:「むう」
吉 井:「いや、だけの話と言われたら、世の中のギャルゲーはほぼそんな感じで、エロゲーに至っては…(以下略)」
高 任:「吉井さんがまた、みもふたもないことを」
ラオウ:「なんというか、俺らが対談で散々非難した、『何も語ってないシナリオ』……と、多分見た目は変わらんよ」
吉 井:「ラオウさん、『何も語ってない』ってのは、あくまでも伏線に気付いているから言えることでは?」
ラオウ:「……言われてみると、確かに(笑)」
吉 井:「裏の事情はともかく……偽チョコは偽チョコで、目に見える範囲で話は成立してるように見えますよ」
ラオウ:「えっと、まあ……結局時間とページ数を使った割に、『偽チョコ』は何をしたかったのか……ってな、ちょっと空虚な気持ちにさせられる終わり方だったんじゃないかと」
高 任:「きたきた、プレッシャー」
ラオウ:「で……そろそろ内容についてツッコんでよろしいですか?(笑)」
 
吉 井:「これまではツッコんで無かったとでも言うのですかっ!?」
 
高 任:「吉井さん、ラオウさんはそんな優しい人じゃないよ…」
ラオウ:「とはいえ……高任さん的にまだ話が完結してないわけだから、ツッコミ方が難しいというか」
吉 井:「……優しいじゃないですか」
高 任:「まあ、そのあたりの配慮はしてくれる人ですけど」
ラオウ:「基本的に、青山、主人公、世羽子の能力は頭抜けてるわけだけど」
高 任:「いや、主人公に関しては戦闘力だけがずば抜けてますので、能力だけで言うなら、青山は別格としても、主人公より世羽子が上ですよ」
ラオウ:「それはさておき……結局、3人とも母親が若くして死んでるわけだよね。で、この対談で明言してくれたから青山は天使と人間のハーフとして……主人公も、世羽子もハーフなんじゃないかという予断を与えそうな共通項は、当然意図して書いたモノだね?」
高 任:「もちろん」
吉 井:「え?」
高 任:「つーか、元々『世羽子』って天使っぽい名前だよなあ……などと、原作をプレイしていた頃から思っていたのですよ。世界の『世』に、『羽の子』ですからね(笑)」
吉 井:「……言われてみれば」
高 任:「世羽子もそうだけど、温子の名字は香『神』でしょ。原作ではかけらも出てきませんでしたが、元々はあの二人に関しても結構細かい設定あったんじゃないですかね、安寿がらみというかなんというか」
吉 井:「それは、考えすぎでは…」
高 任:「いや、チョコキスのヒロインって、ある意味ありふれた名前が多い……のに、あの二人のサブキャラに関しては妙に意味深な名前というか。あのあたり、かなりイメージかき立てられましたわ(笑)」
吉 井:「と、言うことは…」
ラオウ:「だからといって、世羽子が天使とのハーフってのは早計です吉井さん……というか、その3人の中で、少なくとも世羽子は天使とは関係なさそうだというのが、俺のヨミで」
高 任:「ほう?」
ラオウ:「と、いうか……さっきの話から察するに、青山、主人公、世羽子の3人が3人とも天使と人間のハーフってのは確率的に無理があるでしょう……その謎を読み解くために、最後の最後で安寿が漏らした、『力の譲渡』ってのはかなりのポイントではないかと」
高 任:「はあ、なるほど…」
吉 井:「高任君、何を他人事のように」
高 任:「下手な反応したら、ラオウさんに悟られますもん(笑)」
ラオウ:「主人公の父親が、母親の解剖を拒否……なんてのは、さらりと伏線ですな?」
高 任:「いやあ、そうとは限りませんよ……死んだ者が生き返るわけでなし、死因を追求することより、綺麗な姿のままで……というのは、遺族としてごく普通の感情でしょう」
吉 井:「あぁ」
高 任:「どうしました?」
吉 井:「それって、天使だったら医者にじっくりと調べられたらまずい……という解釈もあるんだね。ここで初めてそれに気がつく俺ってやばいですか?」
高 任:「いや、ぽろぽろ気付かれたら伏線の意味無いですし(笑)」
ラオウ:「主人公の母親は天使……と、断定したい所なんだけど、そう思わせる情報がある部分に集中してるのが気になってね…(高任を見てにやりと笑う)」
高 任:「さて、何の事やら(笑)」
ラオウ:「安寿のね、20年ほど前に許されない罪を犯した……は、主人公の母親が天使なら当然それに絡んでくると考えるのが普通なんだけど……ここで1つ質問がある」
高 任:「何かね?」
ラオウ:「さっき、主人公の能力云々は最初からの設定という言質を取ったからだけど……主人公と安寿の出会いというか、そのあたりのシーン……安寿が主人公を監視役?と勘違いして、『どこから見ても人間にしか見えません』……と言ったよね」
高 任:「やはりきたか(笑)」
ラオウ:「どこから見ても人間にしか見えない……ってのは、天使の変身能力に対してある程度の限界を示唆する物言いだな?」
吉 井:「ちょ、ちょっと待ってくださいラオウさん…」
高 任:「吉井さん……例えば、天使の変身能力……少なくとも外見面が完璧なら、そういう台詞にはなりません。不完全だからこそ、人間にしか見えないってのが誉め言葉になるわけで」
吉 井:「ああ、なるほど…」
ラオウ:「で?」
高 任:「そういう質問が出てくる以上、誤魔化すのは無理ですね。アレは俺のミスです……後で気付いて、うわわ、どうしよう……などと、安寿にちょっと繕わせましたが、設定としてかなりやばいです……つーか、俺としては何気なく書いたんですけどね……アレが痛恨のミスでしたわ」
吉 井:「ラ、ラオウさん……それこそ、些細なツッコミでは?」
ラオウ:「いや、実はこれがかなり重要なんですよ……多分、裏の事情では(笑)」
高 任:「一応言っておくが、天使の能力に強弱はあるし、安寿が正しいことを言ってるという保証はないからね……という逃げ道は確保しておこう(笑)」
吉 井:「……そういや、結局監視役って?」
高 任:「文字通り、監視役ですねえ」
ラオウ:「前半だけならまだしも、最終話目前でも監視役がどうとか安寿に喋らせてましたからね……偽チョコの中で出てきた登場人物の中に、それがどういう役目なのかはさておき、確実に監視役とやらはいるでしょうね(笑)」
高 任:「……こ、この男、そこまで言うか」
吉 井:「……冴子……ですかね?」
ラオウ:「順当ならそうでしょうね(笑)……ただ吉井さん……普通、監視役ってのは監視する相手の事を監視できなきゃいけませんよね……で、安寿は監視役がいることを知ってるのに、監視役が誰かを知らないわけですよ」
吉 井:「普通、監視役って正体をばらさないのでは?」
ラオウ:「確かに……天使長あたりに、『真面目にやるんですよ、あなたには監視役がついてますからね』などとくぎを差されてから送り出された……ってな可能性は高いと思いますけどね」
吉 井:「と、いうか…それでいいのでは?もしくは、監視役がいるという脅しで、安寿にプレッシャーを与えるためとか」
ラオウ:「あの文章を読む限りでは、監視役イコール安寿を監視すると思いがちですが、安寿って天使長に呼び出されて怒られたりしてますよね。もちろん、昔許されないことをしたから危険人物というか天使なのかも知れませんが、安寿を監視する意味というか、必要性が感じられなくないですか?」
吉 井:「と、いうと?」
ラオウ:「少なくとも、安寿の性格は真面目で……ついうっかりの失敗が結果として危険なのであって、監視役をつけるぐらいなら、指導役をつけるのが適切じゃないかと」
高 任:「ラオウさん、俺の表情をうかがいながら喋るのやめましょうよ(笑)」
ラオウ:「気にするな」
高 任:「気になるよ……えーと、指導役を付けるって事は……人間世界に天使が2人固まって行動すると言うことになりますよね?リスク面でそれはさけるべきじゃないかと……それに、天使同士の会話なんて、安寿の口からぼろぼろやばそうな台詞が出てくるのは目に見えてますやん(笑)」
吉 井:「だよねえ」
ラオウ:「嘘をつくのがうまい人は、相手の質問を想定した言い訳も含めて考えているモノです、吉井さん」
吉 井:「と、いうと?」
 
ラオウ:「さっき、高任さんの返答ってわりとスムーズだったでしょ?多分、俺の質問は想定内だったって事ですよ、多分(爆笑)」
 
高 任:「ラオウさん、アンタって人は……そこまで人間が信用できないのかね」
ラオウ:「人間はともかく、そういう意味で俺はこれっぽっちも高任さんを信用してないよ(笑)」
吉 井:「心温まる関係ですね(笑)」
高 任:「つーか、偽チョコに関してはいろんな設定を考えたんですよ、だから当然ラオウさんがいうような状況設定なんかも頭の中で何度も考えた事なんです」
吉 井:「なるほど」
ラオウ:「で、監視役とやらが安寿を監視してないのならば……」
吉 井:「うわ、ラオウさん聞いてないよ(笑)」
高 任:「ラオウさーん、それ以上は勘弁してえ」
ラオウ:「嘘つきゲームで俺に勝とうなどとは、10年早いよ……と、いうか、このぐらい深読みしてもらわないと、書いててつまらなくないか?」
高 任:「だからといって、これから書く攻略編のネタを喋られても…」
吉 井:「……なんかわかってきたかも知れない(笑)」
ラオウ:「と、まあ……そのあたり深読みの好きな人間にはたまらない構成ですが、そこまで設定に凝る必要があるのかという疑問が(笑)」
高 任:「んー(笑)」
ラオウ:「高任さんって、王道大好き人間なのに、その裏で非常にテクニカルなシナリオも好むからなあ」
高 任:「別に、テクニカルな王道だってあるさあ(笑)」
ラオウ:「ただな……深読みをする上で安寿の語る情報が全く信用ならないってのは見過ごせないよ。だとすると、物語に関わってくるはずの天使についての情報が『偽チョコ』ではほとんど語られてないわけなんだから……これは、書き手として非難されてしかるべきだと俺は思う」
高 任:「嘘もまた情報ですよ……何故、安寿がそういう嘘をついたか、もしくは嘘を真実と思いこまされているか、あたりが重要なんじゃないですか」
ラオウ:「だから、安寿の発言が嘘という情報がないだろ」
高 任:「そのために、安寿と青山の例の会話があるんですけど」
吉 井:「高任君、高任君」
高 任:「はい?」
吉 井:「ラオウさんの書き手に対する要求も大概だと思うけどさ、高任君の読み手に対する要求も大概ではないかと。ただでさえ、普通に話は進行してるんだから(笑)」
高 任:「いや、だから俺は別に深読みをしろと言ってるワケじゃないんですよ……目に見えるストーリーはちゃんと書いて、その裏で色々やってるけど、それは深読みが好きな人に対する楽しみを提供しただけです」
ラオウ:「だったら、もうちょっとさりげなく…」
高 任:「アンタを基準にしてどうすんねんっ!(笑)」
吉 井:「それについては全く同感です(笑)」
ラオウ:「それはそれとして、これはあまり自信がないんだけど……主人公の母親が死んだことをみちろーが知らなかったってのは、結構重要な伏線じゃないかとにらんでるんですが」
高 任:「ほう?」
吉 井:「でも…みちろーの家って、麻理絵や主人公の家から結構離れてるわけでしょ?麻理絵が話さなかったら、別におかしくはないのでは?」
ラオウ:「ええ、主人公の母親が普通なら」
吉 井:「と、いうと?」
ラオウ:「会話の端々に、主人公の母親がまともじゃないってのは出てきましたよね?大体、自分の子供を川に投げ込む母親なんて、普通ならご町内の噂の的というか、めちゃめちゃ目立つはずでしょう…そんな人物が死んだなら、近辺で情報が伝達されていくのが普通ですし、ましてや、麻理絵の母親とみちろーの母親がわりと親しい関係でしょ?」
吉 井:「……?」
ラオウ:「つまり、本来ならもっと噂になるはずの人物なのに、それほど噂になってないことが不自然なんです。主人公に関しても、子供の頃からそれだけ色々やってるなら、もっと噂が広がってていいし、女子校でも主人公のことを知ってる人間がもっといてもおかしくないはずなんです」
吉 井:「あの、ラオウさん…できればわかりやすく(笑)」
ラオウ:「つまり、主人公なり主人公の母親なりに関して、噂が広まらないようにする力が働いていた……と考えると、結構つじつまが合ってくるんです」
高 任:「……」
吉 井:「噂が広まらない…?」
ラオウ:「吉井さん、天使は記憶操作の力を持ってるみたいです」
吉 井:「…って、ああっ!」
高 任:「ラ、ラオウさん、考えすぎ」
ラオウ:「あのさ、考えれば考えるほど、与えられた情報のかけらがつながって一つの形になっていくのに、それが偶然なわけがないよね?もちろん、読者を誤った方向へと導くためのトラップという可能性もあるけどもさ(笑)」
吉 井:「え、うわ、なんか…すごい、新しい視野が広がったような…」
ラオウ:「しかも、母親が死んでから主人公は近所であまり噂にならないようにおとなしくしてる?いやあ、意味深だねえ…母親が死ぬ直前に、主人公と母親との間に一体、何があったんですかねえ?もう、気になって気になって、夜も寝られないよ(笑)」
吉 井:「お、おおっ…」
高 任:「……」
ラオウ:「母親が死んでから、主人公の身長がぐんと伸びたり……で、高任さん。偶然がどうしたって?(笑)」
高 任:「あははのは」
 
 ちょい脱線。
 
ラオウ:「なんかね……後半にかけて、宮坂というキャラが死んでしまったのが残念でね」
高 任:「宮坂、主人公とちゃうもん」
吉 井:「なんかまた、見えないつばぜり合いが始まったような気がするのは俺だけですか?」
高 任:「まあ、逆〇ナインみたいな外伝は考えてたんですけどね……夏に映画になってさすがにまずかろう、と」
ラオウ:「……外伝、というと?」
高 任:「いや、数年前の話で……その頃の男子校に存在した出れば負けの弱小サッカー部のキャプテンが校長室に呼ばれるんですよ。ちなみに、キャプテンの名前は他力本願(大爆笑)」
ラオウ:「わかった……助っ人として、宮坂がかり出されるんだな」
高 任:「うむ、キャプテンが部員に向かって、『全国大会出場を決めなければ廃部だ』とか言ったら、部員全員が『無理だ』と返してきて、キャプテンが頷くんですよ、『俺もそう思う』と、大いばりで」
吉 井:「そのネタはさすがにまずいよ」
高 任:「まあ、色々あって……男子校からサッカー部は消滅するわけですが」
ラオウ:「ちょっと待て」
高 任:「何よ?」
ラオウ:「その話……宮坂が、男子校に対して恨みを持っている……という伏線になるよな」
高 任:「気にするな」
吉 井:「まあ、舞台が舞台なら、じょにーは十分に主役をはれるキャラだよね」
高 任:「基本的に、どのキャラも主役をはれるだけのキャラメイクを心がけたというか……でも、青山は道義的に無理ですな(笑)」
ラオウ:「御子も厳しくないか?」
高 任:「いや、御子のシナリオはやや熱血風味で……こう、主人公との出会いを経て、色々と成長していくんですよ、本来は」
吉 井:「……考えてみたら、御子っていきなり主人公に頼み事をしてくるよね」
高 任:「他力本願……というか、原作を悪意的に読めば瞳を潤ませて主人公を操る小悪魔キャラですな(笑)」
ラオウ:「真珠の涙を浮かべたら、男の子はイチコロですか(笑)」
高 任:「涙は流さずに、目にとどめるのがコツです……とか弥生に向かって語る御子がいたら、すごくイヤだ(爆笑)」
ラオウ:「そういや、御子が主人公に言うよな……弥生には二つの足かせがどうとか。あれって、結局偽チョコの中では、弥生、御子の家庭の事情を全部は語ってないって事だよな?」
高 任:「かもしれませんねえ……なんせ、バッドエンドだから(笑)」
ラオウ:「世羽子にしたって、子供の頃主人公と何があったのか、中学校でどういう経緯でつき合いだしたのか……そのあたりの事情はまったく語られてないよね?」
高 任:「世羽子シナリオにはいると、主人公は寝ているときに昔の夢を見るんですな……いかにも、ゲームっぽい展開で(笑)」
吉 井:「『シ〇スタ』ですか?」
高 任:「いや、イメージ的には『卒業〇真2』で」
ラオウ:「伏線はともかく……全然語ってないのがどんどん明らかになっていくが」
高 任:「バッドエンドだもん」
吉 井:「と、いうか……主人公に告白されて、世羽子が意地悪した……って事は、少なくとも世羽子は即答というか即受しなかったんだよね?あのべた惚れ描写からして、どういう事情があったのかちょっと興味が」
高 任:「それは後々書くと言うことで……まあ、世羽子は主人公とつき合いだしてからめちゃめちゃ苦労したというか……デートの最終行き先が警察署ってこともしばしばで(爆笑)」
吉 井:「な、何で…?」
ラオウ:「そりゃ、トラブルイズ・マイライフの主人公だから……想像に難くないですやん。何かあったら首突っ込んで大暴れ……そりゃ、警察のやっかいにもなるでしょう」
吉 井:「……すごいな、世羽子。ふつーは、イヤになりそうなモノだよ(笑)」
ラオウ:「世羽子の相手するのも大概だと思うが(笑)」
高 任:「まあ、似たものカップルというか」
ラオウ:「……高任さん、元々の設定で麻里絵とのエンディングってのはどういう展開になるはずだったの?」
高 任:「何故それにこだわるか(笑)」
ラオウ:「いや、麻里絵の設定ぶったぎったってことは、麻里絵なり紗智なりのエンディングってめちゃめちゃ予定が狂ったっていうか、やばい状況になってるのではないかと」
高 任:「……」
吉 井:「高任君?」
高 任:「いや、まあ……ご指摘の通りなんだけどね。紗智はともかく、今のままだと麻里絵の攻略編が書けねえというか、困ってます(笑)」
吉 井:「……別に、さらっと書けば良さそうに思えるけど」
高 任:「や、幼なじみキャラ好きなんで……こう、アメデオっぽい怒濤のシナリオで書きたいなあと」
ラオウ:「ど真ん中の割にはテクニカルな…」
高 任:「勘違いすんな……例えば、俺がイチローに向かって思いっきりど真ん中に投げても絶対打たれますやん。ど真ん中勝負ってことは、球威だけでバッターをねじ伏せる力が必要なんですよ……つまり、読み手をねじ伏せるために色々と舞台を整えるのは、当たり前のことで、テクニカルに設定を作り上げるのは、全てど真ん中勝負、王道一直線のための手段ですよ」
ラオウ:「むう、微妙に論点がずれているような気がするが」
高 任:「まあ、元々の設定はラオウさんのヨミ通りというか……かつての、『好き』という告白は、別に麻里絵の本心でも何でもないです。単に、主人公を自分の側に引き留めておこうとする手段に過ぎなくて」
吉 井:「黒っ、めっちゃ黒(笑)」
ラオウ:「じゃあ……別れ際に、何か言おうとして黙ってしまう……ってのは、計算尽くか?」
高 任:「ですね……で、これで完璧と思ったら、主人公逃げちゃうんですよ。しかも、それっきり、会いにきやしねえ(笑)」
ラオウ:「で、キープして置いたみちろーをさくっと?(爆笑)」
吉 井:「い、イヤな女だ、麻里絵ってめちゃめちゃイヤな女だっ!(笑)」
高 任:「と言っても……麻里絵は、自分自身に対して全然自信が無いワケで。こういう手段を用いない限り、自分の側に誰も来てくれるはずがない……という、思いに凝り固まっているという感じに」
ラオウ:「……紗智と主人公の会話でちょっと気になってたんだが……えーと、『気だては良いし、気だては良いし……』『紗智から見て麻里絵の良い所は気だてしかないのか…』ってなあれは、やはり伏線だったのかね?」
高 任:「まあ、元々は……麻里絵と紗智を初っぱなからあんな仲良しこよしの関係にするつもりはなかったし(笑)」
吉 井:「や、やっぱり暗い話なんだ…」
高 任:「で、紗智とみちろーが会うのが13話で……ホントなら、その時点で紗智の麻里絵に対する疑惑は決壊寸前で、14話、15話は、本来なら洒落にならない、ど修羅場の話が展開される予定でした(笑)」
ラオウ:「そ、そいつはなかなか…高任さんの好きそうな」
高 任:「いやもう、さっちゃん大激怒……で、麻里絵と紗智が口もきかねえような状態で、スト−リーは中盤になだれ込む(笑)」
ラオウ:「い、いやちょっと待て……それは、麻里絵シナリオじゃなくて、バッドエンドシナリオでその展開なのか?」
高 任:「うん、だからさっきも言ったやん。14〜20話は特に怪しいよなって(笑)」
吉 井:「そ、それは……すごい路線変更だね(笑)」
高 任:「まあ、そんな状態の二人を放っておく主人公や安寿、ついでに世羽子じゃないわけですが……色々あって、麻里絵は本当に主人公が好きな自分に気付くワケです……そして麻里絵シナリオだと、チョコを抱えて主人公を捜す麻里絵の前に、同じようにチョコを手にした紗智が現れて、『アンタいい加減にしなさいよっ』などと激しく難詰を始めるが、麻里絵はそれを黙って最後まで聞き……という感じのラストの予定でしたが」
ラオウ:「む、むう…そいつは確かにど真ん中ですな」
吉 井:「アメデオのオーラが……でも、原作の麻里絵ファン大激怒の可能性が高そう」
高 任:「まあ、今さら死んだ子供の歳を数えても仕方のないことですが……ああいう偽チョコを書いちゃった以上、このシナリオは没にせざるを得ないでしょう」
ラオウ:「まあ、無理がある…か」
吉 井:「いや、多少設定に矛盾が出ようとも、路線変更して大正解だったと思います(爆笑)」
 
 ちょっと脱線。
 
高 任:「……というワケでデスね、別に色々と伏線はってるのは、深読み云々だけじゃなく、各キャラのシナリオを力一杯彩るためなのです」
吉 井:「な、なるほど…」
高 任:「確かに、天使がどうとかいうのは世界設定のアレですが、基本的には安寿のという眼鏡娘をブラッシュアップするための舞台設定なのです」
ラオウ:「むう」
高 任:「伏線がどうこう言いますが、基本的に俺の中で各キャラシナリオの設定ができているわけだから……例えば、1週間後に大地震が起こることを知ってる人間は急いでそこから離れようとしたり、危険を周囲に伝えようとしますよね。誰にも教えずに自分だけ助かろうという人間でも、知人との会話で地震の話になったら多かれ少なかれ不思議な反応を見せたりすると思うんですよ。で、実際に地震が起こったらそいつの行動は伏線だったという事になり……で、地震が起こらなかったとき……そいつの行動はワケが分からない。それと同じで、説明不足も何も、そのキャラが背負っている状況が明らかになる出来事が起こってないからワケが分からないのであって、俺としてはそれに対する返答としてバッドエンドだから……と言うしかないじゃないですか」
ラオウ:「くふう、この男は減らず口を…」
高 任:「もちろん、ラオウさんが言ったように読み物云々でいうなら設定過多というか、構成ミスという批判は受け入れますし、文章が下手くそという批判も受け入れますし、誤字脱字多すぎという批判も受け入れますよ(笑)」
吉 井:「締め切り破ったのは?」
高 任:「吉井さん、人生にはゴールなんて無いんです……そう、つまり締め切りというのはあくまでも局所的に通用する人間の観念であってですね…」
ラオウ:「回る回る二枚舌(笑)」
高 任:「そりゃ、舌が二枚あったら回さないと喋りにくいじゃないですか」
ラオウ:「そしてすかさず話題を逸らす……どこかの政治家に見習って欲しいな(笑)」
吉 井:「いや、それはやめて……個人的に、ラオウさんと高任君には政治家になって欲しくないです、騙されそうなんで」
高 任:「騙された方が幸せな生き方だってありますよ」
ラオウ:「うむ、自分で考え、選ぶのは大変ですからね……基本的に人間は楽をしたがる生き物です」
高 任:「と言うわけで、文章を書く人間は読み手を騙くらかすことに力を尽くすのです」
吉 井:「もう、何の話やら…」
 
 また脱線。
 
ラオウ:「……こう言ったらアレですが、最終話の、安寿が言ってた『力の譲渡』なんてのは卑怯だよ。最初から考えていたにせよ、あれは後出しジャンケンみたいなもんだろ」
高 任:「安寿が、上司からそういう嘘をつけ……と、命令された可能性もあるけどね」
ラオウ:「……」
高 任:「そこまでヨんでるラオウさんなら、そういう可能性があることは理解できるよね……翼をしまえないとかいいつつ、主人公にぶつかる直前にぶわっと翼が広がったりしてるわけだし。もちろん、角度的に背中の翼が見えなかった、急降下のために広げていなかったという見方もできますが(笑)」
ラオウ:「うむ、ちょっとうっかりしてた……なるほど、安寿のそういうポジションも考えられるわけか(笑)」
吉 井:「それにしても、ラオウさん」
ラオウ:「はい?」
吉 井:「なんというか……良く、それだけきちんと伏線をつかんでますね?」
ラオウ:「高任さんの場合、きちんと構想だけは練ってくれますから。パズルと同じで、あるべきところに情報をはめ込んだら、一気に全体図が見えてきます」
高 任:「はあ、そうですか…」
ラオウ:「……と、まあ、なんというか。高任さんのそういう情熱を、もうちょっと読者のために回せばいいんじゃないだろうか……と思うわけよ」
高 任:「んー……確かに、どう言い訳しても『偽チョコ』は書き手側の趣味にまみれてて……読み手に対して誠意を尽くした話とはとても言えませんね。正直なところ、30話あたりになると……楽しんでくれてる人がいるなら、誰かのエンディングでびしってしめた方がいいのかなあ……などと、頭を抱えて転げ回る日々もありました(爆笑)」
吉 井:「転げ回りましたか…」
高 任:「いや、いっそのこと最終話は全員のキャラのエンディングを別個に書いて、最終話(……編)の中から好きな話を選んでください……と、いうような事まで考えましたよ(笑)」
ラオウ:「それはまずかろう(笑)」
高 任:「まあ、さすがにそこまで盛大な逃げ(笑)をうつぐらいなら、ちびっこのエンディングに持っていく方が100倍はマシというか」
吉 井:「誰のエンディングになるのか……ってのは色々考えられてたみたいですが、ラオウさんは何を根拠に誰でもないエンディングを予想したの?」
高 任:「夏の対談(その時点で19話まで)の時点で、それは完全に読み切ってたよね?」
ラオウ:「……他人に説明しようとすると、もうちょっと先の……えーと、ちびっこが主人公に聞くシーンがありますよね。『夏樹や私に恨まれるかも知れない…』ってな台詞があったアレがわかりやすいかと」
高 任:「……21話だったか?主人公がラブレターでもくれるのか、とちびっこが空回りするシーンの後だな」
ラオウ:「結局……あれで、ちびっこは踏ん切りを付けるわけだろ。ただ、本来なら主人公が誰かにお節介をしたのが裏目に出て責められる……それを見ていたちびっこが、『有崎さんは、善意でやっただけじゃないですか…』とか言わせて、『ああ、それは仕方ないな…』と主人公に言わせ……その上で、ちびっこに踏ん切りを付けさせる方が流れとしては自然だし、ちびっこの精神的にも説得力があると思うのよ」
高 任:「まったくもってその通りですな……失敗した事による責めを素直に受ける主人公の姿に、ちびっこの中の何かが共鳴する……というのが、言われるまでもなくふつーの進め方です」
吉 井:「……そうですね。結局、あのシーンは空中戦でちびっこが納得しちゃってるわけですし、説得力と言う意味ではちょっと……主人公が行為の人であるなら、なおさら首をひねるしか」
ラオウ:「で……何か理由がなきゃ高任さんが、あのシーンで、しかもちびっこのシナリオでそんな書き方するわけない(笑)」
高 任:「わあ、信頼されてるよ俺(笑)」
ラオウ:「だとすると……主人公のお節介の失敗ってのを書けないんだろうなあ。わざわざお節介失敗のためのキャラを登場させるような日程的余裕もなさそうだし、だったらそれは、攻略可能と思われるキャラを誰一人失敗させられない状況なんだな……と、予想すれば、誰かのエンディングを目指しているんじゃなくて、八方美人系エンディングに収束させるためだろうとしか考えられなくなるんです」
吉 井:「な、なるほど…」
ラオウ:「……と、まあ、そんな感じでいろんなシーンを分析していくと、後半どうなるかはさておき、この時点で作者は誰のエンディングも目指していない……と、推測するのはそんな難しい事じゃないです」
高 任:「そ、そーでしたか……なるほどなあ」
吉 井:「違う、それは違うよラオウさん……どこかおかしいよ、それは」
ラオウ:「ただ、この推測の前提として、高任さんが真面目な書き手であるという認識が必要でしょうね…」
 
 ちょい脱線。
 
ラオウ:「結局、ツッコム所と言っても……説明が不足すぎて読み物としてどうかってのと、後半、締め切りを意識しすぎたせいか文章が酷すぎってのと、麻里絵のキャラ不自然すぎってのと、後半青山と主人のキャラがかぶり気味で、それなら青山というキャラを創った意味がぼやけるってのと、後半あからさまに話を詰め込みすぎってのと……」
高 任:「おいおい」
ラオウ:「そういや、携帯電話の使い方が変というか、不自然なシーンがいくつか……まあ、自分で使わないせいだろうけど」
高 任:「あはは…」
ラオウ:「途中で方針を変更したせいだろうけど、夏樹と御子かな、ちょっと動機が不明というか、行動が不自然なのが気になるな」
高 任:「むぬう」
ラオウ:「まあ、つまるところほとんどの原因が構成ミスに収束するわけで、これは高任さんから話を聞いてほぼ予測通りだったけど」
吉 井:「よ、容赦ないですね…」
高 任:「いや、これまで叩いてきた、ゲームの対談に比べりゃマシでしょう……つーか、俺はもっと酷いツッコミを受けると思ってました(笑)」
ラオウ:「……個人的な感想を言わせてもらうと、『偽チョコ』って10話までは面白かった……というか、テンポとノリがね、良かったと思う。だからこそ、それ以降が……こう、なんというか…竜頭蛇尾?(笑)」
吉 井:「うわ」
高 任:「まあ、本来ならそのあたりから各キャラのシナリオに分かれていくわけだけど……ゲームじゃなくて読み物の形態をとってるから、言っても詮無きことか」
ラオウ:「まあ、そういう事だよ……高任さんがどういう考えで、どう書いたかって事情はわかったが……その評価が変わることはない」
吉 井:「きびしい…」
ラオウ:「と、いうか……文章書きなら、文章で全てを語れってのは正論でしょ。いや、ここはこうだったんだ……などと、文章以外で説明を必要とするのは結局己の未熟さを露呈するだけの話で」
高 任:「ごもっともで」
ラオウ:「まあ、高任さんの場合は、語りきれなかったんじゃなくて、まだ全部語ってないという違いはあるけど……それならそれで、時間かけすぎだわな。一年半かけて、まだこれだけ……って事だろ?さっきも言ったが、読み手はちゃんとついてきてるかって話になるよね?」
吉 井:「いや、でもラオウさん、全部で50話ですよ、50話。職業的作家が仕事で書くってんならともかく(笑)」
ラオウ:「まあ、早い話……他の話も書こう。つーか、チョコキスのパロディを求める人間が少ないんだから、他の受け口を広げなきゃ話にならないというか……この人他にはどんなの書いてるのかな……という受け口を残しておく事は最低限必要ではないかと」
高 任:「ごもっともで」
ラオウ:「ただ、高任さんの場合、受け口を広げるための受け口ってのがまた狭くて(大爆笑)」
高 任:「受け口の広い作品は放っておいても、他の誰かがやるやん……同じ程度の作品だったら、俺は間違いなく受け口の狭い作品を選ぶよ」
吉 井:「少数嗜好…」
 
ラオウ:「…マニア気質(大爆笑)」
 
高 任:「すんません、一年以上経つのにそのネタ引っ張るのやめてくれません?(笑)」

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