みなさん、『いただきじゃんがりあん』と言うゲームをご存じでしょうか?
 2000年11月10日に発売された……まあ、早い話が脱衣麻雀ゲームです。
 それにしても、日本国内で発売されるゲームの本数は、まさに星の数。
 凡作・秀作・馬鹿ゲー・名作・迷作・駄作・傑作・駄目ゲー・クソゲー・金返せゴルァ!・開発者逝って良し!などと、ゲームの評価を表現する言葉の多種多様な今の日本において、その全てを超越し、新たな呼び名を排出したと言われる伝説のゲームが、この『いただきじゃんがりあん』なのです!
 
 その名は、バグゲー
 
 このゲームが発売された直後、熱狂的なユーザーの書き込みにより制作メーカーのホームページがパンクしたのが伝説の幕開けでした。
 高任は噂で聞いたに過ぎませんが、なんというかユーザー達の魂の叫びとも思える書き込みの嵐、あらし、ARASI!
 ここまで熱狂的な反応を受けるゲームが存在するのか?と思えるほどの大反響が伝説なら、それに応えるメーカーの努力もまた伝説。
 あくまで噂ですが、この伝説の真相は未完成のゲームを経営者サイドが強引に発売に踏み切ったことが原因だとか。
 しかし、伝説というのは夢のごとく儚いもので、夢はいつか覚める運命です。それは、この伝説においても同様でした。
 
 このレポートは、ラオウ氏をはじめとした知人の協力を得て、不完全ながらも半年以上このゲームにつき合った高任の記録であります。
 麻雀を知らない人はごめんなさい。多分、分からない部分が多すぎると思いますので読んでもつまらないはずです。
 
 
    第一章……気になるあいつは『いただきじゃんがりあん』(笑)
 
 脱衣麻雀ゲームを購入するなんて久しぶりだなあ……などと思いながら、高任はゲームショップの袋からそれを取りだしました。
 タイトルは『いただきじゃんがりあん』。
 なにやら、パッケージにはチャイナとかバニーとかアンミラ風のコスチュームを身につけた女の子達が踊っています。
「いや、別に制服が見たいからという訳じゃないぞ。」
 などと、独り暮らしのくせに誰かに向かって言い訳をする高任。その無意識に近い呟きは、おそらく自分の心に向かって言い訳したのでありましょうか。(笑)
「さてと……?」
 高任はパッケージを開いて首を傾げました。
 ゲームCDおよび音楽CDとは別に、FDが一枚収められています。しかし、最近のパソゲーでは、修正ファイルの同封されたゲームはそれほど珍しいものでもなく、ウ〇ンのゲームなんか毎回のようにユーザーにFDをプレゼントしていたりするし……などと呟きながら速やかにインストール。
 そして、FDに収められていた修正ファイルを指示に従って解凍して準備オッケー。
 さあ、ゲームスタートだ!
 ポップなイントロからオープニングが開始され、デフォルメされたキャラがなかなか好感度が高くてイイカンジ。続いて、各キャラクターのデータ紹介をかねた一枚絵のCGが続くが、これはなかなか良くできてる予感が青年の背筋を走り抜ける。
「お、これは当たりだったのかも……」
 などと、ついついじりっと身を乗り出して画面に見入る高任。
 ゲームのストーリーとしては、何やら主人公の両親が経営するファミリーレストランの経営が危ういらしく、何とかして立て直さなければと言うことらしいです。
 自慢にもならないが、このレストランは味も値段も並。そしてウェイトレスは主人公の妹1人という…いわゆる売りのないレストラン。
 この経営危機を乗り切るためにはっ!
 いろんな店のウェイトレスを引き抜くんだろうなあ……などと思いながらゲームを進めていく高任ですが、麻雀ゲームはこのぐらい強引な展開でなければいけません。
 高任の予想通り、麻雀の勝負で主人公が勝ったら引き抜き成功ということらしい……しかも、主人公が負けたら店の権利書と妹が脱ぐ……らしい。それにしても、両親の経営してるレストランの権利書を勝手に賭の対象にするあたり、この主人公はろくな人間じゃありません。
 時折挿入されるコミカルな一枚絵と会話がなかなか楽しく、しかも、スタッフの中に週刊チャンピオンの愛読者がいることも確実なので、やはりイイカンジなどと思いながらとにもかくにも勝負開始。
『ロン!』
「むうっ、まだ3巡目だぞ!」
 脱衣麻雀にありがちな展開なのか?等と思いながら相手の手を見ると……
「役がドラだけってどういうことやねんっ!」
 赤入りか?赤入り麻雀なのか?ドラだけであがれるルールなのか?
 などといきなり不安になり、高任は慌ててマニュアルに目を通しました。
「一盃口が鳴いてあがれるって……どこのローカルルールだ、おい……」
 なにやら、背筋に冷たい汗が流れます。
「ま、まあ…勝てばいいんだよな……」
 実際の話、負けてもオッケーな筈なのですがとにかくゲーム再開。どうやら、点数には関係なく3回あがれば良さそうなので速いあがりを目指して手を進めます。
「おっ、出た出た。」
 独り言を呟きながら『ロン』のマークを押す……押す……
「ロンってゆーとるだろがっ!」
 マウスを連打しながら叫んでみますが、マシンはうんともすんとも答えません。これがコンピュータ管理システムの冷たさというものでしょうか?
 しかし、高任も自分で言うのも何ですが剛の者です。昔からフリーソフトをはじめとしてかなりの数の麻雀ゲームをこなして得た経験がうなってます。
 こういうケースで応用の利く対処方法の1つを試してみました。
「チー。(笑)」
 あがってるのに鳴くんですか?等というツッコミを無視して、慌てず騒がずあらためて『ツモ』のボタンを押してみる。
 ……やっぱりな。
「まあ、ありがちなバグだよね……って、なんで役がドラだけやねん!タンヤオ・ドラ2だろがよっ!」
 
 ……本当なら『ツモ』も付くんですけどね。
 
 5200点が、何故か1300点しか貰えません。
 しかし、これには理由がありました。まず、鳴きタンがなく、ドラ表示牌がドラという条件で作られているらしいのです、このゲームは。
 などと悪戦苦闘しながら、なんとか勝ちました。
 
 
 勝てば脱衣。(いや、負けても妹が脱衣らしいけど。)
 しかし、このゲームのキャラクターは、可愛い制服が売りです。コスチュームを全部脱いだら意味がありません。つまり、巫女さんでいうと巫女衣装を全部脱いだ女の子はただの女の子になってしまうのです!(笑)
 と言うわけで、服を脱ぐ……というかはだけるというか、なかなか心憎い演出を見せてくれるなあと思っていると、画面に一瞬だけ選択肢らしきものが現れて速攻で消え失せました。
『いや、今はやめとくよ……』
『なんで?……私ってそんなに魅力無いかな?』
 なにやら、話が勝手に進んでいます。
 高任は首を傾げながらも、ゲームを進める事にしました。
 次のターゲットは当たり前のように眼鏡娘のいる店です。どうやら、主人公の先輩らしく楽しそうなキャラの予感。
 そして次の勝負に勝って先輩が……
 どうやらただの脱衣というよりギャルゲーの告白シーンみたいな感じで、プレイしている高任もなかなか恥ずかしいです。
『……先輩、わざと俺に負けたんじゃないですか?』
『今の私に出来ることを精一杯しただけよ……』
 ……中略
『ずっと、あなたが好きだったわ…』
『先輩……』
『ふふ…やっと言えた…』
 頬を伝う一筋の涙……
「おおっ…」
「おおおおおおおおおっっ!」
 高任のボルテージが最高潮まで跳ね上がってます。眼鏡娘の性格設定その他諸々が心のツボにはまったのかもしれません。(笑)
『ごめん、先輩……』
「なんでじゃああああっっ!なめとんのかこらあっ!」
 その思いに応える準備は覚悟完了済みの高任は思わず叫ばずにはいられませんでした。その真剣な瞳が、一瞬だけ画面に現れた『応える』と『応えない』の選択パネルの存在をとらえています。
 どうやら、主人公は眼鏡娘の想いに応えない事にしたようで……
「……って、誰がそんな選択したんだっゴルアッ!」
 まさか、時間制限なのか?
 男の決断は1ミリセカンドが基本単位なのか…?
 昇華されなかった煩悩がゲーム開発者への怒りに変換され、ふつふつと滾る思いを胸に高任はゲームを続けます。
 そして二人目の女の子、三人目の女の子と倒していくのですが、どの女の子の時も選択する余地無くゲームは進んでいきました。
 そして、最後の1人もまた強制的に据え膳食わぬ状態で……
 謎は(おそらく)全て解けました。
 
 どうやらエッチシーンのイベントスキップ機能を搭載してるようです。
 
 目の前で餌(高任にとっては眼鏡娘)をちらつかせられたあげく、最後までお預けを食らわすとはなかなかSMチックなシステムだと言えましょう。
 結局どの女の子とも深い仲になることなく、平和なエンディングを…というテキストの途中でいきなり画面がフリーズ。
「……なめとんかこらあ!」
 この日、何度目になるか分からない高任の雄叫びが部屋にこだましたところで、あきらめて眠りにつきました。
 
 
 高任は、熱い憤りを罪のないラオウ氏にぶつけます。(笑)
「と、いうわけですげえんだわ、これが。」
『んー、ネットでもそのゲームのバグが凄いと評判だよ。』
「ういす、実感しております。」
『ふむ、実は発売日に修正ファイルが出てたらしいから君のために手に入れてあげよう。』
「ありがとう、心の友よ!」
『心の友って、具体的にはどのレベルなんだ?』
 ガチャ。
 そう、修正ファイルさえ入手すれば問題はナッシング。
 高任の心に光明が差し込みます。しかし、あれだけのバグをそんなに速く修正できるのだろうかという不安も、同じようにまた高任の心に影を投げかけるのでした……
 などとこの数日後、ラオウ氏より修正ファイルB(購入時に同封されていたファイルはA)を入手。
 さあ、ゲームスタート……相変わらずの麻雀のバグに苦笑しながらゲームを進めます。
 そして10分後。
 『応える』の選択パネルを、がっちりとプッシュする高任。
「お…」
「おおおっ…」
「お、おおおおおおっっ!(笑)」
 告白シーンの凶悪さに比べると、大した18禁シーンでもない筈なのだが、焦らされた分、なんだか幸せを感じてしまった高任がいたのでした。(笑)
 どうやら、メーカ側の確信犯的な匂いを感じてしまいます。
 しかし、女の子イベントは選択できるようになったものの、相変わらず麻雀システムそのものは吉外チックそのままです。
 これはどういうことだろう……?
 そして高任は我に返りました。
 このバグ修正で何を優先したかというと、おそらくは18禁シーンのバグなんだなと。一刻でも速く、とにかくユーザーのもとに18禁シーンを届けようとするメーカーの姿勢がわかりやすすぎて涙が出ます。
 所詮男なんて18禁シーンが拝めたらそれでオッケーなんだろという認識が露骨で、それがかなり不愉快です。
 まあ、麻雀がしたい奴は脱衣麻雀ゲームなんか買わないだろ?
 などという背後からツッコミは無視して、旅を続ける高任の背中は、悲しいぐらいに男でした……
 
 
『ご、ごめんなさい…それ当たりです…』
「全然当たってねえよ!しっかりしてくれえっ!」
 何やら、点数計算もしないままにいきなり麻雀画面に。(高任はマウスにノータッチ)あがってない役を、どう計算したのか分からないが点棒が持っていかれてしまう。
 そして、その直後に
「ロン…ロン…ロンッつっとんだろがっ!」
 何回ロンのボタンを押しても反応がありません。リーチをはじめとして、役なら片手で足りないほどぎっしり詰まっている倍満の手です。
「くそう、こういうときはチー。(笑)」
 リーチをかけてるのに鳴けるあたりが心憎いですが、この鳴きで、倍満がハネマンにスケールダウン。(笑)それでも、あがる事を優先する高任でしたが……
 ……あがれません。(笑)
 どうやら、バグが修正されてしまったようです。
「いらんとこだけ修正すんなあっ!」
 高任の叫びが部屋の中にこだまします。
 プレーヤーの救いであるバグを修正するよりも先に、修正しなきゃいけないバグがてんこ盛りなのですが一体どういう了見なのでしょう?
 それにしても、このゲームをプレイし始めてから独り言の回数が増えた事に気が付いて、何やら気分が悪いです。でも、いちいち突っ込まなきゃやっとれないと言うのも事実。
 風のない日に上空から舞い落ちてくる雪のように、とにかくバグ、バグ、バグの嵐がトルネードハリケーンサイクロンのジェットストリームアタック状態です……って自分で何を行ってるのか訳分かりません。
 ゲームそのものはなかなか面白いのですが、麻雀システム部分がこれでは違う意味で口元半笑いになってしまいます。
 あがれるのにあがれなかったり、あがれないはずなのにあがられたりというケースが多数存在しており、おまけに相手側もあがれるのにあがらないなどという心憎い演出が。
 なめられてる?コンピューターに馬鹿にされてるのか俺?
 などと憤っている高任の血圧をさらに上昇させるべく、当たり牌じゃない捨て牌であがられてしまうことも幾度か。
 高任は、何かをあきらめ、ゲームを続けました。それから数分後に信じられないものを目にすることを知らずに……
 
「……あれ?今、何が欲しいんだ俺?」
 少しぼんやりしていた高任は、自分の手牌を眺めました。
 ……1雀頭に4つの面子はちゃんとあって、全部で14枚の牌があります。しかも、あがっているはず……って、これからつもらなきゃいけないんですけど?
「は、牌が多い。多牌しとるぞ、俺!」
 麻雀ゲームで多牌。(笑)
 人間長生きはしてみるものだなあ……などと虚ろな瞳で天井を見上げたりしてしまう高任でした。一体どんなプログラムを組めば、多牌してしまうのでしょうか?
 当然どうにもならず、あがりを完全に放棄する羽目に。
 一応のエンディングまで辿りつき、流れるスタッフロールを眺めながら高任はこめかみのあたりを手で押さえました。
「麻雀のバグ……増えてないか?」
 何やらバグを修正したのか、それともバグを増やしているのか良くわからないので、高任は一旦このゲームをアンインストールして前のバージョンでプレイしてみることにしました。
 レポート用紙を片手にゲームを開始する高任に、なんとも業の深さを感じます。こんなゲームのバグの傾向チェックをして一体何になると言うのでしょうか?
 何やら、タンヤオとピンフ及び各役の条件を混同している傾向があるようです。しかし、それが原則ではなく、認識したりしなかったりなので一体どんな面倒なプログラムを組んでいるのか不思議に思うほど一貫性がありません。
 そういえば、相手キャラが当たり牌を見のがす事もたびたびです。
 ファジー機能?それとも、こんな脱衣麻雀ゲームで、人工AIを搭載してしまう時代になってしまったのか?
 なにはともかくこんなプログラムを創りあげてしまうとは、このメーカーはある意味ただ者ではないでしょう。
 多分今回の修正ファイルによっていろいろ修正されてるんでしょうけど、その修正が新たなバグをよんでいるらしく全然ダメダメです。
 怒りを通り越して笑顔さえ浮かべてしまうのが、眼鏡娘のレベル1いかさまの『ドラ積み込み』です。
 このゲームの最初のバージョンでドラ表示牌がドラとして認識されていたのが今回修正されたのはいいんですが、彼女の積み込むドラは相変わらずドラ表示牌なのです。
 何やら、せっせと危険牌を積み込んでしまう眼鏡娘のけなげさにほろりと……くるかあっ!
 と言うわけで、この修正ファイルによって眼鏡娘はいかさまが役立たずのキャラナンバーワンの地位に座りました。
 そんなの使わなきゃいいやんけ等と思われるかも知れませんが、このゲームではいかさまは条件がそろうと自動的に発動してしまうのです。(笑)
 
 この時点で高任が分かったこと。
 長時間連続してプレイすると、システムがダウンする。(おそらくはメモリの使い方がおかしいと思われる。)
 カンが出来る材料が2つ以上あるとき、カンを選択するとシステムが強制終了してしまう。
 このゲームの危険性に気が付いた高任は、このゲームをしばらくプレイするのをあきらめようと思いました。
 
 
 それからさらに二週間程過ぎ、高任は複雑な思いを胸に、知人に入手して貰った修正ファイルを見ました。どうやら、メモリ云々の問題はこれによって解消されるようです。
『修正ファイルH』……Hってことは、そうこれは8番目の修正ファイルの様です。ファイルの作成日時は11月29日。(笑)
 ちなみにゲームの発売日は11月10日。その時同封されていた修正ファイルの作成日時は11月1日。
 約1ヶ月で8個の修正ファイルを作る苦労は、並大抵のものではなかったと推測されます。(注:知人からの情報によると、修正ファイル発表直後に差し替えたりしてバージョンがかなり進んだとのこと。)
 迫る納期、少ない予算、次から次へと発覚するバグ潰しの毎日。チーム全員が会社に泊まり込んで頭を抱えるシーンが目に浮かびます。ゲーム発売直前なら、どこのメーカーでも見られる光景です。
 
 ……発売直前は
 
「努力する時期が完全に間違っとるだろがっ!」
 いや、売るだけ売って計画的に夜逃げするメーカーが実在したことを考えると、修正ファイルを発表するということでユーザーを最後までサポートしようとする姿勢は立派とも言えましょう。
 しかし、こんなあからさまな泥縄方式で作られた修正ファイルなんぞ、たかが知れてるよな……などと全く期待せずに修正ファイルをインストール。
『リーチッ!』
 高任が振り込みを避けてなんとか流局に持ち込んだ瞬間、その事件は起こりました。
『ノーテン!』
「ノーテンリーチかよコンチキショー!」
 なにやら、CPUにブラフ(はったり)機能が追加されたようです。しかも、チョンボの対象にもならないらしく、さらっと次の局が始まったりします。
 高任はこめかみを押さえながらゲームを続けました。
 そして、ある機会がやってきました。
 そうです、このゲームでタブーとされるカンです。しかも、一度ポンした牌を積もってきての加カン。システムが強制終了することも辞さない勇気の行動。
 高鳴る胸をおさえつつ、高任は震える指先でマウスを操作して『カン』のボタンを選択します。
「カンっ!」
 ……セーフ。
 何やら、牌のグラフィックがかすれてて凄い恐いですが、ゲームそのものは進行し続けています。
 しかし安心したの持束の間で、この行動は見えないダメージを与えていたようです。そのダメージは次の局において現れました。(多分)
「お、ツモだ……」
 点数計算画面で示された役。
『ピンフ』・『タンヤオ』・『ピンフ』・『二盃口』・『ドラ1』
「ピンフが2つってなんじゃあっ!」
 叫ばずにはいられません。
 しかも、ドラ2がドラ1。ついでにツモはどこへ行った?
 ちなみにピンフはあがり形を示した役なので、絶対に重複しません。そして二盃口というのは一盃口が二つある形なので、形状としては7種類の牌が2つずつになることがほとんどです。(つまり、ドラ1というのは絶対にありえない。)
 高任が速攻で電源を切って寝たのは言うまでもありません。
 
 
 その翌日、一応ストーリー的にはなんとか進行が可能な様に思えたので、各キャラのエンディングを潰していくために再びプレイ。
 とりあえず、危険なカンはしない。
 と、硬く胸に誓ってゲームを始めます。
 ぶっちゃけた話、脱衣後に特定の女の子のキャラとえっちしてその女の子で麻雀の勝負に挑み続ければそのキャラとのエンディングに向かうのはおそらく明らかでしょう。中には約一名、絶対にエンディングを迎えたくないキャラもいますがそれはそれ……。
 それから考えると最低でも7回ぐらいプレイしなきゃ駄目なのかと思うと、かなりうんざりしたものを感じますが、今回の修正ファイルによってメモリの使い方が改善されたせいか、長時間プレイによる強制フリーズが起こらなくなったので、かなりましになったような気が……
「いかん、騙されてるぞ、俺。」
 高任、我に返りました。
 何やら、慣れてはいけないことに慣れてしまいそうな自分を叱咤しながらプレイ。
 女の子キャラのイカサマは相変わらず良くわかりませんが、ドラを積み込むイカサマは修正されているようです。
 ただ、一番使えるキャラはやはり妹です。
 後は、システムダウンの危険を顧みないならリンシャンツモのイカサマが使えるキャラがなかなかよろしい様で。暗刻の牌をとにかくポンしておいて、テンパイした瞬間にカン。役はもちろんリンシャンツモのみで。(笑)
 これほど確実にあがれる裏技もあまりないと思うのですが、多分制作者の意図から外れた使い方だと思います。高任自身も、これを使用しながら呟いたものでした。
「……何か間違っているような気がする。」
 しかし、何が間違ってるかってこんな不完全なゲームが発売されたこと自体が間違っているのであって、既に底なし沼に足を踏み入れたユーザーにそんな理屈は通用しません。
 
 しかし、脱衣麻雀のゲームは配牌がいいからなんとなく気分が良いのが利点。
「おや、ラッキー……」
 イイカンジに牌がよって役が確定したので、相手の牌を鳴きました。そしてすかさずロン……ロン…?
「そーだよねー、このぐらいは予想してしかるべきだったよね……」
 既にこのゲームのプログラムに何かを期待することをあきらめている高任は、確定3暗刻の手をにっこり笑って放棄しました。
 このぐらいで怒っていては、精神がもたないゲームです。相変わらず役を認識したりしなかったり忙しいゲームですので。
 その隙をつかれて大きな手をあがられた高任は、せっかくだから負けたときのイベントでも見てみようかと思い、それ以後あがるのを放棄してぼんやりとマウスを連打し続けました。
 10分後。
「さっさとあがれゆーとんじゃ!」
 ひたすら流局を繰り返して、いつまで経っても勝ってくれそうにありません。そのうえ、プレイヤーは3回あがれば勝ちなのに、女の子は主人公の点数を0以下にしないと勝ちにならないようです。
 そしてなんとか負けましたが、妹は脱ぎませんでした。(やったね、全国のお兄ちゃん!)
 
 そして気を取り直してから1時間後。
 眼鏡娘のエンディングまっしぐら……の筈なのですが、エンディングが迎えられませんでした。
 ひょっとしたら複雑なフラグが存在してるのかも知れないので、今度は幼なじみを攻略対象にして同じように再プレイ。
 ……何故か攻略が成功してしまう。
 すこおし首をひねって再度眼鏡娘に同じ選択でトライしてみる。
 成功。
 もう一度同じ選択でトライしてみる。
 失敗。
「…………。」
 高任、マウスを握りしめたままぽつりと呟きます。
「駄目じゃん。」
 これはバグであろうとと決めつけて、高任は戦場から逃走する事を決めました。
 険しかった顔つきが一変して、穏やかに微笑む高任。思えばこのゲームを手に入れてからというもの、心が安まることがありませんでした。
 たかがゲームです。
 こんなちっぽけなものに、人間様の心が左右されていいはずがありません。高任があたりを見回すと、世界は輝きに満ちています。
 神々しい光が周囲を取り巻いて……
「パトラッシュ、ボクもう疲れたよ……」
 そうして高任は、安らかな眠りにつきました。
 
 
『例のゲームの新しい修正ファイルを手に入れましたよ!』
 気のいい友人からの連絡に、高任はそんなゲームがあったなあなどと曖昧に頷きました。どうやら、前回の修正ファイルから1ヶ月以上過ぎたファイルらしいです。
 それなら、それならばきっとかなりのバグが修正されたのではないだろうか?
 そして高任は呟きました。
「じゃ、じゃあ…せっかくだから。(笑)」
 反射的にこんな台詞を返してしまうあたり、高任は心のどこかで分かっていたのでしょう。このゲームのバグが1ヶ月やそこらでどうにかなるレベルではないことに。
 とにかく、高任は新たな修正ファイルを手に戦場に舞い戻ります。胸をよぎる一抹の不安を道連れにして……
 
 何やら友人が添付してくれたファイルに、この修正ファイルの内容が示されていました。
・子のダブリ−一発が人和と認識されていた不具合の修正。
・一気通貫が認識されない不具合の修正。
・セーブデータの日付表示不具合の修正。
・一部の加カンでフリーズする不具合の修正。
・メモリリーク改善
・一部ピンフが認識されない不具合の修正。
・一部の上がり形取得不具合の修正。
・四カンツ四暗刻単騎が認識されない不具合の修正。
・かおりのイカサマ不具合強化
 
 何やらこれまでのファイルで、修正されているはずのピンフやら一気通貫の不具合をさらに修正しているらしいです。
 ひょっとして『一部』という言葉は『修正』にかかっていたのでしょうか? (笑)
 そんな些細なツッコミよりも、高任の目を惹いたのは一番最後の項目です。
『かおりのイカサマ不具合強化』
 
 ……不具合を強化してどうする?
 ちなみに、不具合が強化されたかどうかは知りませんが、このファイルによって修正はされてません。
 
 これもやっぱり期待できねーな、などと考えながら修正ファイルで書き換える高任。
 そしてプレイ。
「リーチ!」
 相手キャラが一発で当たり牌を捨ててきました。
 ……何故か当たれません。
 ちなみに、リーチはかかってるし、ピンフもタンヤオもあるし、ドラもあります。何が不満で当たれないのでしょうか?
 少なくともこの時点で、上に述べたような修正の一部がされていないことが判明。
 とにもかくにも、二巡後になんとか自力でツモりました。そして点数計算の画面で示された役は次の通り。
『リーチ』・『タンヤオ』・『ピンフ』・『ドラ1』……20符4ハン・5200点。
 
 ……『ツモ』は?
 
 何やら、初手からやる気メーターがぎゅんぎゅんさがる様なバグ炸裂。それでも高任は戦います。
 さらに、ノーテンリーチをかまされたりしながらもとにかく戦い続ける高任。正確には戦うと言うより、「あ、こんなバグもある。」などと呟きながらレポート用紙に書き連ねていく作業だった気もしますが。(笑)
 そして数時間後。
 麻雀の基本とも言えるピンフにバグが発生するのがストレス発生のガンであることは間違いありません……っていうか、やっとバグが理解できる内容になってきたという段階です。
 ピンフのバグは、連続した牌の並びの複合した受け替えで1つの形しか取れないプログラムを組んでいるのではと推測されるのですが、(おそらく条件付き整合プログラムが上手く機能していない)6・9の筋待ちの時にやたら認識してくれないのは何故か分かりません。
「まあ、少し麻雀らしくなってきたな……」
 脱衣麻雀ゲームとして、ストーリーを追うことは十分可能なレベルに到達しています。
 麻雀のバグも、1人に対して普通に進めていれば遭遇するのは精々1つか2つぐらいでしょう。というか、ここまで来るとどういう時にバグが出るか理解できているので、バグを出さずに対局を終えることも可能です。
 さて本来なら、高任はここでこのゲームを終了してもいいはずなのですが……
 ちらりと手元のレポート用紙に視線を落としました。
 どういうときにバグが出たかびっしりと書き込んだ紙切れを見ていると、何やらここで終わってはいけないような気がしました。
 高任は、腕組みしながら天井を見て呟きました。
「……せっかくだから、最後までつき合ってみるか。」
 というか、いつまでユーザーサポートが続くかどうかを見極めたくなった高任でした。
 
 
 さらに1ヶ月が過ぎました。
 季節さながらの『鬼は外!』のかけ声に合わせて、このゲームをハードディスクから削除するのが健全な男子のあり方ですけど、あいにく高任は不健全な男子なので新しい修正ファイルを手に入れたりしています。
 今度の修正ファイルは……
・WAVE再生処理の改善
 ……とのこと。
 ついでに、マニュアルを訂正するとのお知らせが……それは、搦め手からどうにかしようと言うことですか?などと邪推してしまう自分が少しイヤ。(笑)
 まあ、それはともかく麻雀システムそのものの修正は行われていないようなのでこのままゲームを終了してもいいのですが、久しぶりにたちあげたゲームですし……
「せっかくだから……」
 などと、口元半笑いでプレイする高任。
 そして1分後。
 高任がロンのボタンを押した瞬間、
『このプログラムは不正な処理を行ったので強制終了されます!』の警告文が画面に。
 おまけに、システムがフリーズ。
 ついでに高任の身体もフリーズ。(笑)
 もちろん、我に返った高任が眠りについたのは言うまでもありません。
 
 それからさらに時は流れ、ゴールデンウイーク。
 高任はひょんな事から新しい修正ファイルを手に入れたのでした。いや、正確に言うと3月にも1つ手に入れてはいましたが、何を修正してるかわけが分からなかったので。
 
・一部の三連刻が認識されない不具合を修正
・上がり牌を鳴いて、牌を捨てずにあがることの出来る不具合を修正
・リーチのみのロンあがりが認識されない不具合を修正
 
 この修正ファイルで、とうとうバージョンが1.6までやってきました。しかし高任は首を傾げながら、これまでのバージョンにおいて発生したバグを書き込んだレポート用紙を読み返しています。
 1つ目の三連刻については、あがった記憶がないのでまあ良しとしましょう。しかし、2つ目のバグは割合すぐに修正されており、それ以後試してみてもそのバグが発生しなかったことは明らかです。
 そして3つ目。
 ……そんなバグ出た記憶が高任にはありません。
 と言うわけで結論。
 既にメーカー側でも、どんなバグが発生してどのバグを潰したのか全然把握できていない状況に陥っている。もしくは、1つバグを潰す度に新たなバグを発生させている。
 それはつまり……
「駄目じゃん…。」
 このゲームが発売されて既に半年。
 この制作メーカーが生き残って次の作品制作に取りかかっているのか、それともメーカー自体はとっくに潰れてしまって、責任感の強い人間が黙々と修正ファイルを作っているのかは分かりませんが、ユーザーサポート担当の苦労を思うと、何故か涙が止まらない高任でした。
 誰かが、誰かが彼の肩を叩いてあげなければいけないのではないのでしょうか?
『逃げておっけー』と。
 
 何やら失礼な想像を爆発させたまま、高任はゲームをプレイし始めました。
 まずはあがっているのにチー。
「……なるほど。」
 どうやら、鳴いた後にさらにコマンドを付け加えることを不可能にしたようです。チーとかツモとかのコマンド画面が現れなければバグもへったくれもありませんから。
 さて、次はこれまで散々悩まされてきたピンフのバグチェックです。
 6・9の筋はおろか、一盃口の複合時、雀頭に字牌を持ってきた時、などとあらゆるケースを想定して対局を繰り返しましたが、これと言ってバグは発生しません。
「おお、これは……やっと完成なのか?」
 ただ、1つだけ気になることがあります。
 それは、対戦相手がやたらとこちらの牌を見のがすケースが多いのです。確かに、出てくるキャラの数人は主人公のことを憎からず思っているわけだからわざと見のがしているのだ!……と、考えられないこともないのですが、全員の目がが節穴状態なのは何か理由がありそうです。高任はここに目を付け、ひたすら普通の上がり役は放棄して珍しい役を追いながら相手の手を観察することにしました。
 そして数時間後。
 とりあえず、ツモリ三暗刻の役を認識しないというバグが確認できました。3回やって2回認識されなかったので多分バグでしょう。
 後は、対戦相手によって見のがす牌がばらばらな傾向がある事は分かりましたがこれと言ったバグは発見できませんでした……と思ってたんですけどね。(笑)
 何故か妹とのイベントが発生しないので首をひねりまくってたんです。どうやら、初期バージョンから地道に修正ファイルを重ねていくとどうも不具合が発生するみたいです。(笑)一旦アンインストールして最終バッチをあてればこの不具合は発生しませんが。
 何にしろ、高任だけの具体例なので正しいか間違ってるかは分かりません。……しかし、まあそんなお茶目な不具合を除けば……
 発売より半年。
 発表された修正ファイルの数、13個。
 とうとう、伝説とまで呼ばれたバグゲーが、単なる脱衣麻雀ゲームになってしまったんだなあ……
 
        第9章……夢の終焉、そして新たな旅立ち。(笑)
 
 そしてこれ以後、この制作メーカーからは新しい修正ファイルが発表されてません。(9月中旬現在)つまり、発売後約半年をもってこのゲームは完成したと判断されたのでしょう。
 しかし、この最終ファイルによって修正されたゲームはなんと味気ないものか……発売直後の、あの1人ボケ1人ツッコミが止まらない初期バージョンの方が楽しめたような気分まで湧いてくるから不思議です。
 画面に向かって、『なんでやねん!』とか、『あがっとるだろがよ!』とか、本来1人寂しくプレイする麻雀ゲームでありながら、まるで仲間数人と実際に麻雀をうっているような錯覚に陥らせてくれた初期バージョンのこのゲームには、確かにいたのです。
 そう、麻雀が好きだけど覚えたばっかりでチョンボをやらかしてしまい、『仕方ないな、今度からは気を付けろよ…』という会話を交わす仮想の仲間がそこには確実に存在しました。
 しかし、『しっかりしろよお…』などと、呟きながらコミニケーションをはかっていた相手は今や幻となってしまいました。
 そう、伝説が幕を閉じた瞬間、夢は覚めたのです……。
 
 だが、来るべきこの10月に新たな伝説をうち立てるべく、このゲームを制作した『すたじおみりす』より、新作ゲームが発売される予定です。
 その名も、『月陽炎(つきかげろう)』!
 どうやら、巫女さんが出てくるゲームだとか。
 さあ、巫女さん衣装を脱がせると、いきなりバニーさんが現れるなどの伝説のバグは再び地上に降臨するのでありましょうか?
 はたまた、ここぞという場面で再びお預けを食らわすという放置プレイが炸裂するのでありましょうか?
 伝説は神話へと発展するのか、それとも単なる普通のゲームを作って高任を大きくがっかりさせてしまうのか?
 さあ、みなさん!10月19日発売予定、『月陽炎』を刮目して待つのだ!
 
 答えはいつだってそこにある……
 
 
 最後に、高任の頼みにいやな顔も見せず、(大概電話だからと言うツッコミはなしよ)快く修正ファイルを手に入れてくれたラオウ氏、および友人D氏に深く感謝します。
 
                   2001年9月末日   高任斎。

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