某日……高任宅にやってきたラオウさんがゲームソフトをいくつか取り出し、その内の1つを示しながらおもむろにこういいました。
ラオウ:「このゲーム……わざわざ『シリアスノベル』などとパッケージに表記してあるんだけど(笑)」
高 任:「……で?」
ラオウ:「いってみようか!(爽やかな微笑み)」
高 任:「いってしまわれるんですかっ!」
ラオウ:「いや、だってさ……敢えて『シリアスノベル』などと銘うつってことは……文句があるならかかってこいって事だろ?(笑)」
高 任:「あ、あの…最初ッから喧嘩腰でかかっていくのはどうかと思うのですが」
ラオウ:「……ゲームに関して10年以上も裏切られ続けてきた仲間だったらわかるだろ……この、秘かに漂ううさんくささ(笑)」
 
高 任:「だったら、わざわざ買うなよ!」
 
 ……などと、吉井さんをスルーした対談への足固め作業のため、高任はゲームをインストール……そしてプレイ開始。
 
 ふ、と真っ黒な画面の中央にに浮かび上がった文字は『100691days』。
 1年365日で約280年……おそらくこの物語の起点となる何かが始まってから、もしくは何かが終わってから約300年が過ぎたのか……と、物語のヒキのテクニックとしてはイイカンジです。
 心の中の期待ゲージがキュッと上昇させつつマウスをクリックすると……
 
『朝か…』
 鳥の鳴き声に、俺はゆっくりと目を開ける。
 窓から射し込む日が、朝の訪れたことを告げていた。
 そして俺は身体を起すと、部屋の中央へと向かい、大きくのびをする。
 
「……ダメすぎる」
 高任は突発性無気力症候群に襲われて寝っ転がってしまいました。(笑)
 いや、文意さえわかれば高任はまあきついこと言わない方なのでアレなんですが、この時点で美しい日本語(文章)を愛するラオウさん(笑)がパソコンの電源を落としてしまうことがほぼ確実なので対談が不可能であろうと思ったからです。
 で、でもでも、もうちょっと進んだら……かも知れないし、その時はラオウさんに最初は我慢しろと強制すればなんとかなる。
 ただ、大概の人間はオープニングにかなりの力を入れるはずなので、オープニングがこれって事は文章そのものに期待するだけ多分無駄……と言うことで、とりあえずは純粋にストーリーだけを追うという方針に決定。
 そして3時間後
 知人に言わせると高任は驚異的に読む速度が速いらしいですが、第一章だけでこれだけの時間がかかってしまいました……いや、いつもよりペースが遅かったと思います。
 文体は相変わらずで、第一章だけでこのボリューム。
 ざっとレイアウトを確認した感じ、最低でも第5章まで……
 
 その態度、ユーザーに対する宣戦布告と判断する。
 
 まあなんというか、第一章だけでも物語というか世界観にツッコミ所がありすぎて違う意味で面白いため、このゲームで感想日記を書くしか……等と、筆記用具を用意。
 というわけで自称『シリアスノベル』の作品、シナリオのあらすじを細かく追うことは避けますが、ずれていく世界観をお楽しみ下さい。(笑)
 
 第一章。
 舞台は砂漠。
 点在するオアシスを中心として街が形成されており、街と街の行き来は季節や風向きによって時に命を落とすほど厳しいが、キャラバンや旅人をはじめとして少なからず街と街の交流は行われている。
 その中で、周囲との交流を拒絶する故に砂漠に住む人間のほとんどが存在を知らないレイランと呼ばれる小さな村が存在していた……もちろん、主人公の住む村である。
 主人公はルタの眷属と呼ばれる集団に属し、守護者と呼ばれている……呼び名の通り、眷属の中で最強と呼ばれる『還す者』の1人アラミスを守るのが役目。
 ただ、アラミスと主人公は眷属に属する前からの知り合いのようで、アラミスはあくまでも守護者として自分に接する主人公にどこか寂しげな態度を示すが、主人公以外の人間にはそれを見せたりはしない。
 ある日、レイランに水鏡(いわゆるメッセンジャー)とよばれる眷属の1人が訪れる……ルタから『還す者』への命令を伝えるために。
 水鏡の者は主人公の前に立つと、にわかに額から光を発し始めます。
 同時に、主人公の脳裏に映し出される1つの光景……この街は、確か主人公が幼い頃一度だけ立ち寄った街の光景。
 その時には既に水鏡の者は主人公のそばを離れ、静かな口調でこう尋ねます。
『次は…遠いのですか?』
 
 お前が行き先を知らないでどうする?
 
 高任は思わずディスプレイに向かってつっこんでしまいましたが、つまり水鏡の者は主人公に行き先の光景だけを示すだけで、地名はおろか方向さえも指示できないわけです。
 なんて恐ろしいアバウトなメッセンジャーでしょう。(笑)
 しかも、主人公曰く『子供の頃に一度だけ立ち寄った街…』って……街の光景が変わる以前に、砂漠だったらオアシスの場所が変わって街そのものが消滅したりしないのかなあなんて、こっちの方がドキドキしてしまいますが、なんせ砂漠に住む人間ですから慌てず騒がず了解します。
 そして主人公とアラミスは使命を果たすために砂漠へと身を投じ……昼は自らの体を使ってアラミスを強い陽射しから守り、歩くときはアラミスを砂塵から守り……とにかく3日ほど(笑)の厳しい砂漠の旅を経て目的の街にたどり着きます……もう、ツッコム気力が失せましたけど。
 そして、街を治める人間の館に乗り込み、警護の人間を主人公が斬り倒し、目的の人間をアラミスが『還す』……どうやら殺すのではなく、記憶を奪う力であることがここで示されます。
 主人公も守護者として『記憶を奪う力』があるようですが、細かいコントロールができないとか……という事は、『還す者』はごく細かなコントロールの元にターゲットの記憶を奪う筈なんですが……なんですが。(笑)
 ゲームをプレイする限りでは、わざわざ体力的に虚弱なアラミスがそれをしなくても、主人公が単身で乗り込んで問答無用で記憶を奪った方がよっぽど効率がよいのではないかと思ったり。
 それはともかく、このターゲットを還した後にアラミスが呟きます。
『あの人……還して良かったのかな?あの人がこの街の領主になってから街が活気づいてきたって言ってたけど……』
『俺は、アラミスを守る役目を果たすだけだ……』
 などと、主人公とのやりとりで、これまでのターゲットは大体街の支配者層に偏っていたことがわかるのですが……時には貴族だったとか金持ちだったとか。
 
 よく考えると、水鏡の者からターゲット教えてもらってねえじゃん。
 
 ま、それはさておき、自らの使命に疑問を抱き始めたアラミスに、新たな命が。もちろん、それを伝えに来たのは例の水鏡の者。
 今度はどこかの街のある館の光景が映し出される……でも、それだけ。
主人公:『何故こんなに頻繁に命が下る?しかも、最近はやたら西の方角に偏っていないか?』
水 鏡:『さあ…私には…』
 
 いや、多分メッセンジャーの質が悪くて誤爆しっぱなしなのではないかと高任は思ったり。(笑)
 そして、今度は1週間ほどかけてたどり着いた街で、ターゲットが自らのレイランを離れ病気療養していた『西の還す者』と言うことが判明。
 西の還す者というか、どうやらアラミスは北の還す者らしく……って待てや!
 
 北と西の距離が近すぎやしませんか?
 
 これまでの展開からこの物語の地域というか、広さがある程度は把握できるのですが……砂漠の街というからには水源が必要で、それなのにこの狭い範囲に還す者が……東への命がくだらないということは、少なくとも3人は存在している。
 最近の頻度……1ヶ月で3回とか4回は論外としても、以前の頻度でも1年に2回か3回程度の頻度だったようで。
 それはつまり、この砂漠の中の街の領主(とは決まってないが)はすごい短期間でどうにかされちゃってる計算になるんですけど。
 高任のそんな疑問に答えてくれるはずもなく、お話はどんどこどんどこ進んでいきます。
 『西の還す者』との会話を経て(結局は相手に懇願される形で使命を果たしましたが)、アラミスの中でルタの使命に対する不信感は膨らむ一方。
『自分達は……世界を良くするために使命を果たしているのではないの…?』
 街を活気づかせ発展させていた領主、そして『西の還す者』を還す必要が本当にあったのか……それを知りたい。
 あくまでも守護者という立場を貫く主人公は、アラミスがそれを望むなら俺はそれを守るだけだ……と。
 自分達眷属を束ねる……砂漠を越えた遙か西の山脈にいるはずのルタの元へ。
 
 主人公達の住むレイランから西に一週間旅して辿りついた街は本来『西の還す者』の守備範囲なのに……そうですか、眷属を束ねるルタは砂漠を越えて、遙か西に位置する山脈に居るんですか。(笑)
 いや、いいんですけどね別に。
 
 ま、それはともかくルタの元に行こうとした途中で、『西の還す者の守護者』との戦いで受けた主人公の足の怪我が悪化。主人公は一歩も歩けない状態に。
 俺を捨てて帰れという主人公からアラミスは離れようとしません。今や眷属としてルタの命に従うだけの2人ですが、かつては仲の良い幼なじみで、かつての思い出が……
 
 えっと、思い出の中では精々2つか3つの年齢差としか思えないんですが、主人公に対してアラミスがめちゃめちゃ幼いのは、眷属になった影響なんですか?(笑)見た目、10歳ぐらい離れてますけど。
 主人公は、アラミスのことを『まだ子供だ…』とか連発してますし。
 
 それはともかく、主人公の元でうだうだやってる内に水が尽きます。
 『還す者』と『守護者』という、アラミスにしてみれば歪んだ関係から、かつての幼なじみだったあの頃の2人に戻りたい。
 死ぬときは……
 アラミスの思いを受け、主人公もそれを了承。
 今姿をあらわしたばかりの朝日をバックに、お互いの額に手を当て、眷属であった記憶を消去しようとする2人。
 
 えっと、主人公って力のコントロールできなかったんじゃ……
 
 結局土壇場でアラミスが主人公の記憶を消去するのを躊躇したために、あどけない表情を浮かべたアラミスを抱きしめたまま1人主人公は取り残される……で、一章終わり。
 
 軽く流しただけでこれだけのボリュームがあるんで詳しくはアレですが、第2、3章ではそれぞれ違うキャラが主人公(?)となって話が進んでいきます。
 ちなみに、水鏡の者と、癒す者(自分の命と引き替えに他人の命を救う)の眷属がからんだお話なんですが……ゲームを終わってから冷静に考えると、第二、第三の章って物語構成上必要と言うわけでもないんですな。
 まあ……シリアスノベルとは言っても18禁ソフトなわけで、エロシーンのために無理矢理2章と3章の話を挿入したのでは……なんてのは、考えすぎですか、そうですか。
 
 まあ、ぶっちゃけた話このゲームのシナリオって『銀色』というゲームのアナザーストリーなんですよ。
 どんな願いでも叶えるという糸。
 それを争って人は殺し合い、銀の糸は度々赤く染まる……それ故に一度は封印されたものの、またそれは世に出て人の運命を操っていくってな感じのストーリー。
 もちろんその糸はある秘法と製作者の命を捧げる事で製作され……『銀色』では、その一本の銀の糸が様々な人間の手を経て最後に消滅する事で話を終えるのですが、エピローグとしてその糸によって永遠を生きることを余儀なくされた女性が、世界に散らばる全ての糸を封印するために旅立つエピソードが語られます。
 つまり、この『朱』というゲームは『銀色』のエピローグで語られた大陸に散らばった銀の糸の一本にまつわる物語なんですね。
 で、このゲームでも『銀色』の中で永遠を生きることを余儀なくされたキャラが出てきます。
 というわけで第4章……アラミスと主人公は生きていました。(笑)
 時間にして1章から1年後ぐらいですが、もちろんアラミスは記憶を失っています。
 主人公の視線が自分の知らない自分を見ている事にいらだつアラミスは……再び、旅に向かうことを決意します……そう、今度こそルタが住むという西の山脈へ。
 
 主人公が奪った記憶を取り戻すために。
 
 主人公と共に砂漠を越え辿りついた大河(対岸の港まで何日もかかるぐらい広い)……船に乗って対岸へと向かう2人を襲ったのは大嵐。
 嵐の河に放り出されたアラミス……ってすごいところで4章終了。
 で、次の章では今まで謎のベールに包まれていたルタの昔話と、ルタの名と想いを継いで世界を良くするための集団、眷属を束ねる今のルタが出会って旅をする話。
 これまで完全に連絡が途絶えていた主筋からの使命を受けて、一族が守り続けていた『あらゆる望みを叶える糸』を持って、そこへと向かうルタ。
 海を越え……大河に入るあたりで大嵐。
 漂流して浜に打ち上げられた場所でルタは1人の少女と出会います……その名は、ロッテ。いいところのお嬢さんだというのに、何故かこのような辺鄙な別荘で隔離されるように生活しているのですが……話が進み、その理由が明らかになります。
『視力を完全に失う前に……世界を知りたい』
 俺は今使命を果たすための旅の途中であり(以下略)……と、首を振るルタに、『足手まといになるなら見捨ててください…』という感じにルタの旅に同行。
 まあ、結局は視力を失ったロッテをかばってルタは命を落としてしまいます……しかし、ルタの望み『世界を救うため…』のため、ロッテは死に瀕しながらも糸を約束の場所へ。
『……これで、世界は救われるんでしょ?』
 その場に現れた女性はただ静かにロッテを見つめるだけ……彼女はその糸を封印するためにやってきたのだから。
『……だったら…ルタは何のために』
 少女は糸を握りしめ、自分がルタとなってその想いを叶えるために……ってな感じに、バックグラウンドが語られます。
 まあ、結局最後はルタ(ロッテ)の元に主人公とアラミスが辿りつき、アラミスはルタの力によってあっさりとかつての記憶を取り戻して主人公と抱き合う。
 それを後目に、ルタ(ロッテ)は自分のやってることはルタの願いからずれていってしまった……そう泣き崩れるロッテに向かい、主人公が言います。
『ただのロッテに戻りたいか…?』
 頷くロッテの額に手を当てて、記憶を消去してやる主人公……その場を去る主人公とすれ違うように、例の女性が少女の元へと近づいていく。
 
 何やら、話の主題が転々として思わず騙されそうになったんですが、ルタの言う『ずれていった…』ってのがどういう事なのか全く語られることはありません。
 さらに、かつてアラミスと同じような疑問を抱いてルタの元に辿りついた眷属が2人ほどいるようなんですが、その2人がルタとどういう事を語り、どういう結末を迎えたのかも全く語られません。
 ルタの願いの中でアラミスや主人公がどういう役割を果たしたのか、おかしくなったというならアラミスに示された使命はやはりおかしかったのか……一番最初に示された、アラミスと主人公の動機付けは謎のままで、あらゆる登場キャラの目的と行動が豪快にすれ違っていくのが失笑を誘います。
 で、ラストシーンはというと……
 今まさに姿を現そうという朝日をバックに、今度こそ2人揃ってただのアラミスと主人公に戻るんだ……って感じに、2人同時に記憶を消去してお終い。
 
 多分……1シーン毎に見るならそれなりの見せ場なんでしょうけど、話のつながりはめちゃめちゃ後半の1シーン毎に世界観はほつれ、どうにもなってません。
 ロッテがルタであることを放棄……というか、主人公によって記憶を消去された後に主人公とアラミスがした行動から考えるに、いわゆる眷属達の力はそのまんまなのもツッコミ所満載ですが。
 とにかくなんと言ったらいいのか……物語が投げっぱなしという表現が一番近いでしょう。全ての章において避け得ない運命に流されていく……ってな悲劇で泣かせる構成にしたかったんだとは思うんですが、結局物語のラストで悲劇の設定が実はどうにもなってないというか。
 ただ、銀色の場合は封じていたはずの銀の糸が数奇な運命を彩り……長い歴史を経て、思いは浄化され消滅するってな、『朱』において影の主役であったキャラクターの長い旅の終わりが存在する事を匂わせていたワケなんですが、今回は完全に放置プレイです。
 この物語の後、340000daysぐらいの後日談があって、影の主役である例のキャラクターとロッテが船上で会話をしているワケですが、エピローグとか言いながら見事にオチが付いてないところがこのゲームらしいといえるでしょう。
 
 自分の行動がルタの願いからずれてしまったと泣き崩れたロッテの悲しみ……それは、こういう話を書きたい、という確固たる願いが書き進めるにつれて思いっきりずれていったシナリオ担当者の声なき叫びだったのかも知れません。
 願わくば、誰かがシナリオ担当者の悪い記憶を消してくれることを望んで……

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