まあ、ギリシャ神話。(笑)
 
高 任:「しかし……何でお米の国では、タイタン族なんだろな?」
ラオウ:「ティターンを英語読みすれば、タイタンというだけの話だが。個人的にはティターンの方が一般的だと思うけど」
高 任:「そうかあ?(笑)」
吉 井:「……聞き覚えはありますけど、ティターンってのは、タイタンのことだったんですか?」
ラオウ:「…ええ、そうです」
吉 井:「微妙な間が…」
ラオウ:「微妙なので……というか、太陽神ヘリオスを単純にティターンと呼ぶ事があるんです。このあたりも色々と混乱させる元になってると思うんですが(笑)」
高 任:「つーか、クロノスがティターンなら、その息子のゼウスもティターンでいいと思うんだが」
ラオウ:「まあ、話せば長くなるんだが……そもそもギリシャ神話ってのは…(以下略)…で、近東先進国の、バビロンとかアッシリアとか、ヒッタイト族の神話の影響を濃厚に受けているわけだ」
高 任:「ごめん、もういいや(笑)」
ラオウ:「まあ、簡単に言うと(笑)……それを語り継ぐというか、歌い継ぐ詩人個人が地域にあわせたりして色々と創意工夫して話を膨らませるから、時代なり、各地でバラバラなわけで」
吉 井:「そういうのを編集して体系化したのが、ホメロスとヘシオドスでしたよね?」
ラオウ:「それはそうなんですが……1つ勘違いしちゃいけないのが、その2人がやったのはあくまでも、当時の、各地の民間伝承の取捨選択ですから」
吉 井:「と言うと?」
ラオウ:「つまり、どうしてもつじつまが合わないとか、まとめられない伝承は切り捨てた……というとちょっと乱暴ですが、同じような話がいくつもある中から、1つを選び、または変化させて組み込んで……という作業が基本なんですよ」
高 任:「その2人の編集は、ある意味神話全体からすると一面でしかないと」
ラオウ:「そこまでいうと、ちょっと語弊があるが……というか、2人より後の時代にもギリシャ文学はあるよね。あれは、ホメロス、ヘシオドスの編集に忠実というわけじゃないし、先住民の神話との融合を果たして徐々に神話ができあがっていったように、後の時代でもまた神話は融合を繰り返して変化していったわけで」
吉 井:「と言うことは…」
ラオウ:「もちろん俺も研究者じゃないからあれですが、ギリシャ神話の本を1冊読んだ……じゃ、全然意味がないんですよ。それが書かれた年代、当時の歴史の流れ……いろんなモノを総合して読み解いていくのがギリシャ神話というか」
高 任:「いや、でも…」
ラオウ:「いや、わかるよ……でも、図書館に行ってギリシャ神話関連の本を探す。本にも、著者にもよるけど、そこには著者なり、参考資料の影響が色濃く残ってるのが多いし……そもそも、専門で研究したとかいう人じゃない限り、俺らのレベルで『その話聞いたことがある』的なエピソードってのは、いつの時代の、誰の作品なり研究を元にしたモノか得体が知れないことがほとんどなんだな」
高 任:「……早い話、このゲームなり、何かの漫画や小説で神話に興味を持って、調べてみたけど、わけわからんってオチが待っていると?(笑)」
ラオウ:「少なくとも、気軽に調べられる題材じゃないのは確か……漫画なり小説のネタにするというなら拾い読みで充分だけど、そういう作品に触れてきた人間ほど、興味を持つとダメージがでかいかもしれない(笑)」
吉 井:「でかかったんですか?(笑)」
ラオウ:「まあ、誰しも若い頃はあります(笑)」
高 任:「時代というか……同じ年代でも、著者によっても変わってくるよね?」
ラオウ:「まあ、ホメロスとヘシオドスにしても、あまり年代として離れてないのに色々違う部分があるし。個人の価値観の違いと言ってしまえばそれまでですが」
高 任:「とすると……要するにガイアやウラノス、クロノスあたりまでは、話の始まりというか、ぶれが少ないから区別されてるのか」
ラオウ:「それもちょっと違うんだけどな……まあ、間違ってはない」
吉 井:「ウラノスは天空の…というか、クロノスの父親でしたっけ?」
ラオウ:「まあ、そうすね(笑)」
高 任:「でも、ふたりともガイアの息子(笑)」
吉 井:「え?」
ラオウ:「まあ、創世記はフェニキア哲学っぽい下りだから仕方ないんだけど……つーか、ヘシオドスあたりも整理しきれなかったのか、ガイアの世代あたりはかなり混乱してるっぽい」
吉 井:「なんかフェニキア哲学という時点で、理解不能なんですが(笑)」
高 任:「ギリシャの前ですよね」
ラオウ:「時代はともかく、場所が違うぞ(笑)」
吉 井:「……あ、そうか。ギリシャが台頭して、衰退していったわけだから、そもそもギリシャ神話は、フェニキアの影響を色濃く受けてるわけですか?」
ラオウ:「……さっきも言いましたが、近東先進国の神話ですかね。まあ、そこまで調べ始めると、大学の卒論が書けますけど(笑)」
高 任:「昔は卒業論文というとアレな気がしましたが……卒論も、ピンキリですし(笑)」
ラオウ:「そりゃ、毎年何十万人の大学生が生産されるし、全員が卒論を書くとすれば、毎年何十万の卒論が書かれているわけだし」
高 任:「まあ、俺は書いてませんが(笑)」
ラオウ:「文系は知らんが、理系の場合は論文というより研究だからな……」
吉 井:「ですよねえ…(笑)」
 
 ちょい脱線。
 
高 任:「カオスがあって、ガイア、タルタロス、エロス…エ、エレボスと……夜(ニュクス)だっけ?(笑)」
ラオウ:「素直に天地創造というか、名前じゃなく概念で覚えた方が楽だぞ。ただでさえ、タイタンとティターンみたいに、別の名前としていろんな形で伝わってきてるから混乱するし……大地であるガイアは、己の全てを覆う存在としての天空(ウラヌス)を産み、これから生まれて来るであろう神々の御座として定めた…あたりは、ギリシャ神話に限った事じゃないからね。名前じゃなく概念で理解するのが手っ取り早い」
高 任:「ウラヌスは天空だけど、クロノスは何だったっけ?」
ラオウ:「狡知とか、そのあたりだったかな……まあ、大地に対しての天空の後は、哲学というか宗教思想とか、そういうものと考えた方がいいだろな」
吉 井:「な、なるほど…」
ラオウ:「で、ゲームの中にも出てくる運命の女神あたりは、おそらく先とは別系統の詩人なり宗教思想の産物と考えられてて、一般的には夜から生み出された神格の代表格と言われてます」
高 任:「ほう」
ラオウ:「クロート、ラケシス、アトロポスの名前より、紡ぐ者、分け与える者、曲げ得ぬ者、の方が通りがいいか?」
高 任:「どっちもどっちとちゃうか?俺、紡ぐ者しか知らないよ(笑)」
吉 井:「結局は時間の概念ですよね?現在、未来、過去の」
ラオウ:「そういう事です……まあ、いわゆる人の暗い部分の概念のほとんどは、夜の一族というひっくくりになっているというか(笑)」
高 任:「……って事は、細かいことは抜きにして、ガイアの一族がティターンというくくりでいいのか?」
ラオウ:「まあ、そのあたりが無難かなあ……タイタンは巨人族とか訳されることが多いけど、概念その物が大きいからってのもあるだろうし」
吉 井:「なるほど……それにしても詳しいですねラオウさん」
ラオウ:「いや、一般常識で…」
高 任:「絶対違う(笑)」
ラオウ:「いや、俺の知識も結局さわりの部分だけですし、この程度で詳しいとか言われても……まあ、さわりの知識だけでも、このゲームはツッコミどころ満載です(笑)」
吉 井:「いっそのこと、ゲームに出てくる神様を簡単に説明してくれます?」
ラオウ:「別に知識が無くても、あんまりゲームには関係ないと思いますが」
高 任:「アテナからお願いします(笑)」
ラオウ:「アテナからかよ」
吉 井:「ひょっとしたら、日本における知名度は1番かも」
高 任:「某セイントのイメージ強すぎ(爆笑)」
ラオウ:「いや、アテナって有名な割に謎ですからね」
高 任:「そうなん?」
ラオウ:「ギリシャ神話の神様というか、神格は何らかの概念を示していることがほとんどだよな?じゃあ、アテナは何の概念だ?」
高 任:「……あれ?(笑)」
吉 井:「完全武装で生まれたんでしたっけ?(笑)」
ラオウ:「戦神はアレスです(笑)」
高 任:「あれえ?」
ラオウ:「日本人は名前こそ知ってても、実は何もわかってないってのが、お約束の女神というか(笑)」
高 任:「うむ、わかってないようだな(笑)」
吉 井:「言われてみると、日本では名前が一人歩きしている感じですか?」
ラオウ:「まあ、諸説があって未だに意見が一致してないんだけど……一応一番有力と思われているのが、城塞都市の守護神って解釈かな。後、紡績関係とかは、後世の付け足しっぽいけどね」
吉 井:「あ、じゃあ某セイントの解釈は…」
ラオウ:「ノーコメントで(笑)」
高 任:「基本的には…守り神?」
ラオウ:「まあ、そうとってもいい……パルテノン神殿が有名だけど、城塞都市の丘陵に決まってアテナの神殿が置かれていたことや、そもそもアテナという名前が、アテナイ(都市の名)の女神からきたのでは……あたりに、俺も妥当だろなと」
吉 井:「守護神ですか」
高 任:「……でも、今ひとつピンとこないな。守護という概念ねえ」
ラオウ:「パラス(パラス・アテネ)とか、トリトーニス(トリートの女神)とか、多分ギリシア以前からの様々な呼称が整理され、アテナという最大公約数的な形で1つに収束された概念ではないかと」
高 任:「日本で言うところの、家のお守りさんあたりの概念が、他のとくっついて大きくなって、1つにまとまったみたいな感じ?」
ラオウ:「だろうな……だから、アテナという概念自体は他の神様に比べて結構新しいんじゃないかと」
吉 井:「なるほど……」
ラオウ:「まあ、収束した後は、都市の守護者から後に色々拡大解釈されたみたいで、信仰する人間にとっても使い勝手が良かったんだろうな。多くの勇者の物語に後援者として姿を現すのもそれが理由だと思う」
高 任:「すげえな……有名なアテナからしてこれだからな。この後の話を聞きたいような、聞きたくないような(笑)」
ラオウ:「まあ、あんまり有名じゃないかも知れないけど、アラクネーの物語とかえげつないけどな(笑)」
高 任:「蜘蛛のはなしだっけ?なんか機織りの上手な少女が、アテナの怒りに触れて、蜘蛛に姿を変えられたとか」
吉 井:「……え?」
ラオウ:「説明神話の類とは思うけど……アラクネーって、確かギリシャ語で蜘蛛なんですよ。『空は何で空って言うの?』的な疑問に答える物語で、神の名を借りる話を説明神話って言うんですが」
吉 井:「なるほど……ああ、蜘蛛は糸を出すから機織りですか(笑)」
 
 
高 任:「さて、前作でクレイトスに倒されたアレスは?」
ラオウ:「まあ、戦いの神としか(笑)」
吉 井:「うわ…」
ラオウ:「つーかね、前作ではゼウスに疎まれてって感じに解釈してたけど、それも無理ないぐらいに、ギリシャ神話に出てくるの神の中では待遇が悪いというか(笑)」
高 任:「そうなん?なんか、わりと戦いの神というと、尊敬を受けるような気がするけど」
ラオウ:「それは多分、ローマ神話のマルスの影響だと思う。マルスは、ローマ神話の中でゼウス…じゃなくて、ユピテルか。(笑)それに勝るとも劣らない崇拝を受けてましたが、ギリシャにおけるアレスは、もう、不名誉な部分は全部アレスに押しつけてしまえって感じに、冷遇された神様で、クレイトスじゃないけど、そりゃグレるか、と(笑)」
高 任:「アフロディーテとの密通場面を取り押さえられた…あたりだっけ?」
ラオウ:「あ、それもあるな……何で冷遇されたかに関してはこれまた諸説色々あるんだけど(笑)」
吉 井:「なるほど」
ラオウ:「多分、国としての成り立ちもそうだろうね。ローマ帝国のそれと、ギリシャのそれでは、戦いに関する比重だったり価値観の違いというか。ただでさえ、守護神のアテネがいるわけだし」
高 任:「ああ、ゼウスがアテナを可愛がる、ね……なるほどな」
ラオウ:「後、このあたりは俺も不勉強なんだけど……アレスの本拠は北方のトラキアで、生粋のギリシアの神格じゃなかったことも影響してるのかなあ、と」
吉 井:「……?」
高 任:「いや、遠くの神様より、身近な神様みたいなもんではないかと」
吉 井:「ああ……九州の住人が、北海道の大雪山に向かって祈りを捧げるみたいな(爆笑)」
ラオウ:「吉井さん、その表現どこかで使わせてもらうかも知れません(笑)」
高 任:「使えるのか?(笑)」
ラオウ:「まあ、機会があれば……それはそうと、アレスもアフロディーテの夫だったり、違ったり、時代が進むと解釈が違ってきたりするから、難しい存在ではあるよ(笑)」
高 任:「そんなんばっかりか」
ラオウ:「神話ってのはそういうもんだ……包むように理解していかないと、バラバラで混乱するだけというか」
吉 井:「ちなみに、トラキア地方ってのは?」
高 任:「ダーダネルス海峡の周辺です、確か……えーと、ギリシャ、オリュンポス山の北にマケドニア、その東かな。地図帳だとこのあたり」
吉 井:「なるほど……」
 
 
高 任:「で、さっき出てきたプロメテウスは…?」
ラオウ:「長くなりすぎるからパス。まあ、簡単に言うと、人間の悲惨を救った恩人というか、火を人類に与えたというか、そのあたりで信仰対象になってます。そのせいでゼウスに罰を与えられたってのは、ゲームにもありましたが、これもまた色々と諸説が入り乱れてて…」
吉 井:「ややこしいわけですね」
ラオウ:「ゼウスとタイタン族との争いで、唯一ゼウスに味方したタイタン族と言われてますが、もうこのあたりの家系図はいい加減というか、俺も覚えてません。アトラスの兄弟というと、イメージ湧きますか?」
吉 井:「このゲームのタイタン族は、巨人族だから余計にイメージ湧きません(笑)」
ラオウ:「すみません、自分で調べてください(笑)」
高 任:「つーか、ヘラクレスだよね、プロメテウスのを助けたの?」
ラオウ:「助けたというか、まあ、少なくとも焼き殺しはしなかったな…(笑)」
吉 井:「ゲームの序盤に出てきた、タイタン族のデュポンはどういう感じの…?」
ラオウ:「ああ、あれは、英語で言うところのタイフーンです」
吉 井:「ああ、なるほど……だから、ああいうステージ(口から強烈な風を吹きだし、クレイトスを奈落へ落とそうとする)になってるわけですか」
高 任:「おお…」
ラオウ:「まあ、ガイアがクレイトスを利用して……は、結局タイタン族がゼウス兄弟らによって天から追い出されて地の底に押し込められてからも、ガイアは次々と新しいタイタン族……というか、ギガンテス(英語で言うジャイアント)の方がいいのかな……を産みだして、戦いに挑んだからでしょうね」
吉 井:「あ、一度戦って、それで終わりじゃないんですか?」
ラオウ:「ゲームの中でガイアが語る『全てのタイタン族が呪われた』ってのは、ギリシャ神話ではそれなりの重みがあります」
高 任:「なるほど…」
ラオウ:「で、このデュポンはギガンテスとしては最後の戦いというか……ガイアの子供の中では最も体が大きく、最も力が強く、ゼウスがやられかけるという物語があるぐらいだったんですが、まあ、負けました(笑)」
高 任:「ギガンテスとしてはってことは、まだあるのか(笑)」
ラオウ:「あるんだよ。今度は神族じゃなくて、人間の子供なんだけど……旧い言い伝えでは『大地の子』となっていて、それがガイアを指すのか、それともギリシア人の移住以前に住んでいた人間が信仰していた小アジア西部地方の神々を指すのかは不明というか」
高 任:「と、とにかく……ガイアは、自分の息子達を地の底に押し込めたゼウスを恨んで、戦いを挑み続けたと」
ラオウ:「そういうこと……だから、ゲームの中でアテナが『ガイアを信用してはなりません』とか言うのも、当然『3』への布石だと思う」
吉 井:「じゃあ、クレイトスって、ゼウスやアテナからもガイアからも騙されっ放しって事ですか?(笑)」
ラオウ:「少なくとも……ギリシャ神話をモチーフにしてるなら、クレイトスはガイアの復讐の道具として使われてるという解釈になるんですが、あのエンディングですからねえ(笑)」
高 任:「あのエンディングだもんなあ…」
吉 井:「ガイアは、ゼウスがクロノスを倒すのに協力は…?」
ラオウ:「しました」
吉 井:「何故?(笑)」
ラオウ:「まあ、ややこしいというか単純というか、そもそもウラヌスを討つようにクロノスをそそのかしたのもガイアでね、結局ガイアが産みだした怪物……ヘカトンケイレスあたりを疎んじて、閉じこめちゃったことに腹を立てたわけですよ」
吉 井:「はあ」
ラオウ:「で、クロノスも時間が経ってそいつらを疎んじるようになって……ついでに、『お前も自分の子によって追放される』という予言を真に受けて、自分の子供を次から次へと飲みほしたから妻に背かれたというか。でも、黒幕はガイアというか(笑)」
吉 井:「ガイアって一体…」
 
 
高 任:「考えてみると、『1』はクレイトスに力を貸すために色々神が登場したけど、『2』ではアテナとゼウスだけで、後はタイタン族がメインだったんだな」
吉 井:「……」
ラオウ:「どうしました…」
吉 井:「いや、プロメテウスを縛る鎖を切って、オリュンポスの炎の中で焼き殺しましたよね」
ラオウ:「ええ…」
吉 井:「で、プロメテウスはタイタン族で唯一ゼウスに味方したんですよね」
高 任:「あ」
吉 井:「あれ、クレイトスにそうさせたのって、裏切り者であるプロメテウスにたいするガイアの復讐だったんじゃないでしょうか」
ラオウ:「その解釈はありかもしれないですね……」
高 任:「ガイア、恐ろしい女…(笑)」
吉 井:「とすると、あのエンディングは、俺らが気付いてないだけで、きちんと筋の通っ……ってるようには思えませんねやっぱり(笑)」
ラオウ:「確かに……」
高 任:「裏切り者に対する復讐であると同時に、母としての愛情……とか、考えると、あのシーンはなかなか、泣けるんじゃないでしょうか」
ラオウ:「……なるほど。裏切り者として助けるわけにはいかないけど、苦痛からは解放してやりたい……か」
高 任:「ゼウスを倒さない限り、鎖から解き放っても同じ目に遭わされるのは目に見えてますし(笑)」
吉 井:「クレイトスは外道じゃないとダメだっ(爆笑)」
高 任:「元々、吉井さんの発言でこんな流れになったんですが…(笑)」
吉 井:「しかし、このゲームを楽しむためにもちょっとギリシア神話を勉強した方がいいのかも…」
高 任:「さっき、ラオウさんがツッコミどころ満載って言ってた方が気になりますが(笑)」
ラオウ:「あくまでもモチーフであって、忠実ではないですからね。多分チョコキスと偽チョコぐらい違いますよ(爆笑)」
 
 
ラオウ:「まあ、日本人にとってギリシャ神話の何がややこしいって……ヨーロッパから伝わってくる本と、アメリカから伝わってくる本とでは名前が違ってて、ついでにギリシャ神話はローマ帝政期に吸収されたり変化したりして、そもそも時代が下るに連れて、変化していってるわけですよ」
高 任:「ああ、なまじ古くからあるから」
ラオウ:「で、当然世界各地でギリシャ神話を題材にした作品が出回ってて、どの時代のギリシャ神話を題材にしたかでまた話が違ってくるわけで……日本人として生活していると、物語のかけらがあちこちに散見できる状態ではあるんだけど、それらをつなぎ合わせても到底1つにはまとまらないわけなのよ」
吉 井:「結局、あっちこっちでつまみ食いすると、混乱するだけって事ですか(笑)」
ラオウ:「ローマ神話がね、それに拍車をかけるというか……ある意味、北欧神話あたりは多少マシですが」
高 任:「その代わり、ケルトとかはめちゃめちゃやん。最近こそマシですが、昔日本に入ってくる資料なんてひどかったですよ(笑)」
吉 井:「……」
ラオウ「どうしました?」
吉 井:「ローマ神話というと?」
ラオウ:「えーと、ローマ古来の神々をですね、ギリシャ神話の中で類似の性格を持つ神と同一視して、ローマ人が模倣して作り上げた物語のことです」
吉 井:「パチモンですか?(笑)」
ラオウ:「というか……通訳というか意訳というか」
高 任:「日本神話に登場する神様を、ゼウスやアレスに置き換えるわけですよ」
吉 井:「なるほど」
ラオウ:「ただ……ギリシャの概念が、当時のローマの概念として存在しなかったり、理解されない場合は、色々やっちゃうわけです。例えば、ゼウスの父親であるクロノスを示す概念が、ローマ古来の神々の中にはなかったから、農業神のサートゥルヌスに当てはめたりしてます」
吉 井:「……サターンの語源の?」
ラオウ:「そうです。ラテン語です」
高 任:「……あれ、ハーデスってローマ神話の方ですよね?」
ラオウ:「いや、ローマ神話はディースだよ」
吉 井:「あれ、プルートって?」
ラオウ:「そっちがギリシャ」
高 任:「え?」
ラオウ:「えっとね……ハーデスってのは、ギリシャ文学における表現。厳密に言うと、ギリシャ神話に、ハーデスという名前の神はいない」
高 任:「プルートス…は、富の神だっけ?」
ラオウ:「そう……結局、死の神とかそういうのを直接的に表現するのを嫌ったという所じゃないかと言われてる。で、ギリシャ文学では、目に見えぬという意味合いで、アイデースとかハーデスとか……で、ハーデスの方がメインになっちゃった感じですか」
吉 井:「や、ややこしい…」
ラオウ:「と、まあ……神様の名前1つとってもこれですから。概念から入って、包括的に理解していかないと、まず混乱します(笑)」
高 任:「嫌がらせとしか思えんな(笑)」
ラオウ:「後は、手を出すなら1つだけにするとか。色々手を出すと、時代や訳者によってバラバラというか、極端な話、ハーデス、プルートン、ディースを、同一の神と認識しないまま訳しちゃうような人もいますから(笑)」
吉 井:「ただ、訳すだけですか(笑)」
ラオウ:「まあ、俺の知識もどこまで正確かは眉唾ですけどね……前に高任さんが言ってたけど、ギリシャ神話の研究が盛んだったのは、文学性とは別の所にあった……とまでは言い過ぎか(笑)」
高 任:「読んで面白い話じゃないよね?」
ラオウ:「正直、なんかネタになりそうなエピソードはないかなあ……とか、名前だけ借りるとか、日本ではそういう使われ方をしてきたのは間違いない(笑)」
吉 井:「なるほど」
高 任:「今考えると、ゴッ〇マーズって、ローマ神話のマルスか(笑)」
吉 井:「ギリシャだと、ゴッドアレス……語呂悪いね」
ラオウ:「まあ、そんな感じで色々使われてるから、名前は聞いた事あるよ……だけに、余計に混乱しますよね」
高 任:「まあ……ギリシャ神話より、日本神話の方が間違いなく認知度が低いんでしょうね、この国というか、俺らの世代(笑)」
ラオウ:「俺もあんまり知らんぞ」
吉 井:「某ファイブスターで、多少認知度高まったと思いますが」
高 任:「日本のアニメが世界各地で……って、こういう理由もあるのかもしれんなあ(笑)」
ラオウ:「ああ……そりゃ作品にもよるだろうけど、どの国の人間にも何らかのとっかかりを与えている可能性はあるな」
吉 井:「大抵の日本人は、イソップ物語を知ってるでしょうけど、外国人で日本昔話を知ってる人間は希でしょうからね」
ラオウ:「吉井さん、イソップ物語ってそもそもギリシャです(笑)」
吉 井:「え、そーなんですかっ?」
ラオウ:「子供が読むようなやつじゃなく、もうちょいまともな話になると、ゼウスによって人間が作られたとか、プロメテウスによって人間が作られたとかの下りがありますから」
吉 井:「……ってことは?」
ラオウ:「編集されたのはギリシャ神話より後ですけどね……作者というか、それを語った人間はギリシャ神話が編集されるより前のことです。だから、話の中に色々とギリシャ神話を形作る部分が散見できるわけで」
高 任:「……そういやさ、ギリシャ神話って、アテナ、アルテミス、アフロディーテ……とか、若いねーちゃんの概念を示す神がやたら多いやん。でも、若い男の概念って、基本的にアポロンだけだよな?あれって、なんで?」
ラオウ:「そんなことは専門家に聞け(笑)」
吉 井:「……女神が多い方が良かったんじゃないでしょうか」
高 任:「そんなギャルゲーみたいな(爆笑)」
ラオウ:「じゃなくて、概念の話だろ、高任さんの言ってるのは」
高 任:「そうなんですけどね……基本的に、アポロンって男性の理想型とされてますよね。なのに、女性の場合は、数人の女神に概念が振り分けられてるから……男性優位とか、そういう問題でもなさそうだし」
ラオウ:「どうだろな……ヘシオドスは女性が嫌いだったんじゃないかとかいう意見を聞いたことがあるけど」
高 任:「と、いうと?」
ラオウ:「うまく言葉にできんが、あれもこれもどれも、いろんな理想を一人の女性に求めても意味がない……という思想の持ち主だったのかなあ、と」
吉 井:「でも、それを男に求めるって事は……ある意味、責任重大では(笑)」
高 任:「某漫画の、『一人の女性に全てを求めるとお互いつらいだろ?だから、甘えて欲しいときはこの女の子、優しくされたいときはこの女の子、と付き合う相手ごとに役割分担を……』ってな、話ですか?(爆笑)」
吉 井:「ヘシオドスってプレイボーイだったんだね(笑)」
ラオウ:「いや、妙な解釈しないで(笑)」
 
 
ラオウ:「正直なところ、説明されてもさっぱりわからないでしょ?」
吉 井:「ええ、確かに(笑)」
ラオウ:「ホメロスやヘシオドス、その後世の人間が、自分なりの物語を作り上げたように、自分で色々調べて、自分だけの解釈を持つしかないんですよ。万人を納得させようとかいう解釈を求めてもなあ…と、俺は思います(笑)」
高 任:「なるほど……」

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