「人生とは闘争なのよ、わかるかしら?」
「逃走…ですか、それは随分と後ろ向きなようでいて、人間の本質を言い表した言葉のようにも思える深い言葉ですね」
『後ろ向き』という単語に何やらひっかかるモノを覚えたものの、結奈はとりあえず肯定してくれたモノと判断して頷いた。
「……と、いうわけで」
結奈は未緒を指さして言った。
「私と戦いなさい」
「え、えっと…それは」
未緒は困惑した表情を浮かべ、おそるおそる切り出した。
「ああ、これが人生……などと呟きながら逃げ出して、眩暈で倒れるというリアクションを期待されているんでしょうか?」
「……」
「……」
「……なんの話をしているの?」
「私に聞かれても…」
結奈と未緒の間を、風に吹かれた枯葉が一枚通り過ぎていく。
「……ここは、科学的にちょっと話を整理してみましょう」
ちょっと待つのよ、という風に一旦手のひらを未緒に向けてから、結奈は顎に指先をあてて考え込んだ。
そして17秒後。
「なるほど、如月さんの頭の中で、闘争と逃走を誤変換した可能性が高いわね」
「ああ…そっちの闘争ですか」
未緒はぱん、と手を叩き、ため息をついた。
「日本語って難しいですね…」
「くっ、だから文系は嫌いなのよ…」
「いえ、そうでもないですよ…」
未緒は結奈の言葉に気を悪くした風もなく、ちょっと微笑んだ。
「いくつも解釈があると言うことは、いくつも正解があるという事につながりますから……それは多分、正解が1つである事より優しいことだと思います」
「正解がいくつもあるという事は、人を迷わせ、おおいなる混乱に導くわ……そのためにも、世界は1つの意志によって統一されるべきなのよ」
「それはつまり…」
未緒はちょっと顔を上げた。
「13人もいらないという事でしょうか?」
「え……12人じゃないの?」
「紐緒さんの調査は甘いと思います」
「そうか、甘いのね……」
結奈は手帳を開き、そこに『調査が甘い』と書き込んだ……そして、再び未緒を指さして言う。
「とにかく、そういう事よ……彼のまわりをちょろちょろする人間が多ければ多いほど、迷い混乱してしまうのよ」
「……紐緒さんがですか?」
「くっ……否定は出来ないけど」
結奈が悔しそうに唇を噛んだ。
「とにかくっ、私と戦いなさい」
「百人一首の音読でいいでしょうか?」
「そ、そんなの私が勝てるわけないでしょう」
「……と、言うか」
未緒はちょっと微笑み、言葉を続けた。
「紐緒さんは……数ある学問の中で科学を選んだわけですよね」
「そう、科学こそ力……私は科学に魂を捧げると決めたのよ」
「でも、科学しかなかったとしたら…」
「あり得ない仮定の話には興味ないわね」
「では…」
未緒はちょっと咳をしてから呟いた。
「紐緒さんは……高見さんを選んだんですよね」
「ご、誤解を招くような言い方をしないでっ!彼はあくまでもパートナー、世界征服のための私の右腕候補っ」
白衣を羽織っているせいか、結奈の頬の赤みがよく目立った。
「選んだことには変わりはないですよね?」
「そ、そうね…そういう事にしてあげるわ」
「じゃあ……高見さんにも選ばせてあげないと不公平ですよ」
「だからっ、それだと私が選ばれないかもしれないとか思ったら、研究なんか全然すすまなくってどうしようもないのよっ!」
「戦うべき相手は、そちらが先約ではないでしょうか…?」
結奈はふっと表情をあらため、そして呟いた。
「ふ、私の負けのようね…」
「よ、良くわかりませんが……この勝ち負けはあまり意味がないと思いますよ」
未緒はちょっと眼鏡の位置を直し、青く澄んだ空を見上げた。
「春になったら……多分、答が出ますよ」
「……」
「私はもう決めてますから……後は、待つだけです」
完
過去のバースデーSSならびに、ときメモSSを読み返してみると……恥ずかしいのはおいといて、結構高任の中でときメモ人間関係が硬直しちゃってるなと。
新しいネタを模索すべくちょっと人物関係をシャッフルしてみようかと思い、いままでやったことがなかった紐緒さんと如月さんのコンビ……というか、掛け合い……つーか、全然動きがねえよ。(笑)
最初は鏡さんと紐緒さんと如月さんの三つ巴にしてみようかと思ったら、この3人をコンビにするとパワーありすぎてちょっと収拾がつかなく……いや、正確には収拾をつけさせる時間が無いというか。
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