桜の花びらが舞う風景。
 美しいけれどもどことなく悲しい風景・・・・悲しいから美しいかもしれない。
 そんな季節に私はきらめき高校の入学式を迎えた。
 これから自分が3年間通うことになる校舎を前にして、高校生活への期待に胸をふくらませ空を見上げる人。反対に高校生活への不安で地面を見つめる人。
 周りを埋め尽くした新入生の集団のほとんどの人がそのどちらかに属していた。
 私があの人を見かけたのはそんなときだった。
 一見どこにでもいるような少年、間違っても人目を引くことのない少年の姿が私の目にとまった。空を見上げるでもなく、地面を見つめるでもない。彼の視線はある少女の集団に向けられていた。彼がその集団を見ていたのかそれともその中の1人だけを見ていたのかは定かではなかったが、私は彼の燃えるような瞳にしばらく魅了されたのを覚えている。
 私は全てを祝福するような桜の花びらに包まれながら、なぜかその少年から目を離せずにいた私が再びその少年に出会うのはそれからしばらく後のことになる。
 
「あ、そう言えば如月さんと初めて出会ったのもこんな感じだったね。」
 公人が床に散らばった本を拾い集めながらそんなことを呟いた。
 未緒も手伝おうとしたのだけれども、制服が汚れるからと公人に断られたのだ。
「・・・・お互い自己紹介したのはそうですけど、もっと前に出会っていたかもしれませんよ?・・・同じ学校なんですから。」
 そう答えながら、未緒は公人の拾い上げた本を手にとって机の上にきちんと分類していく。
「そんなこと言い出したら、高校生になる前に街ですれちがってたかもしれないしね。・・・と、これでおしまい。」
 公人は未緒に最後の一冊を手渡しながら、きりのない会話をうち切った。
「ごめんなさい、私の不注意なのに・・・。」
 頭を下げようとする未緒の額を公人の指が押しとどめる。
「ぶつかったのはお互い不注意だったから。・・・・それでいいよね。じゃあ、程々にね。如月さんは他人の分まで仕事を押しつけられやすいから・・。」
 未緒の額を軽く弾くと、公人は未緒に背中を向けて軽く右手をあげた。未緒のもとから去ってゆく公人の後ろ姿を見つめる瞳。彼女の瞳の中に揺れ動く感情は眼鏡のレンズを通すことによって幾分和らげられ、誰も気付く者はいなかった。・・・・未緒自身だけが知る感情であった。
 −あの時どこにでもいる凡庸な少年の1人だった高見さんは、自分の瞳の輝きにふさわしく成長したけれど・・・・・私はあの時のまま・・・。−
 未緒は机に片手をつき、視線を窓の外へと泳がせる。
 あれから二回季節は巡り、再び桜の花が短い命を燃焼させていた。次に桜が咲く頃には自分はきらめき高校から去ることになる。そんな考えを巡らせ未緒はゆっくりと目を閉じた。
 時々、未緒は鏡に映った自分の瞳を見て驚くことがある。未緒の目は入学式の日のあの少年の様な目をしていたから・・・。
 それでいて、何もしようとしない自分自身に嫌悪感を抱く。そんなことを繰り返すうちに最近では未緒はあまり鏡を見ないようになっていた。
 誰もが自分自身の変化に対して鈍感になりがちだが、未緒もまた例外ではなかった。最近の何か思い詰めたような緊張感のあるたたずまいは充分人目を引くほどの美しさを秘めていたのだから。
 未緒は閉じていた目を開くと机の上の本を本棚へと戻していく。作業を続けながらいろんな思いが未緒の頭を交錯する。
 −高見さんに対して胸を張れる高校生活を過ごしたい・・・でも何をすればいいのかわからない・・・。−
 公人に劣る季節を過ごしたくはないという感情が、おぼろげながらも未緒の心に芽生えた。
 
 グランド脇でうつむいたままベンチに座る未緒に公人の声がかけられる。
「如月さん、どうしたの?」 
「・・・・・後一年で高校生じゃなくなるんだなと思うとなんだか・・・自分が何もしてないみたいで・・。」
 未緒は自分を見つめる公人を眩しそうに見上げた。
「・・・何もしてないなんてことはないさ。形に残るものがすべてじゃないし。」
「それは、高見さんだから言える言葉です。・・・・私は・・・。」
 未緒は口ごもった。
 自分がうらやましいのは公人の残してきた結果ではなくて、自分の信じた何かに全てを捧げてきた生き方ということは未緒にもわかっている。
「俺は自分のできることをやってきただけなんだけど・・・如月さんにはそういうのってないの?好きなものとか・・・。」
 −好きな人なら目の前に・・・でも高見さんに出会う前は本だけだったから・・。−
 少し顔を赤らめて公人から視線を逸らす未緒の隣に公人が腰をおろした。
「誰が言ったか知らないけれど、高校時代が青春の最後なんだって。・・・」
「・・・だから余計にあせってしまいますよね。」
 未緒が公人の方に顔を向けると公人は白い歯を見せる。
「でもね、春が終わると夏がくるんだよ。」
 −春が終わると夏がくる・・・。そうか春の次は夏が・・・−
 未緒は一瞬きょとんとしたが自然と未緒の口元がほころんでゆく。公人はそんな未緒の様子を見て満足そうに頷いた。
そんな2人の頭の上を風に飛ばされた桜の花びらが横切っていった。
 
 夏の激しい陽差し。地面にくっきりと浮かぶ黒い影。夏はある意味一年の中で最も残酷な季節ではないかと未緒は思う。
 一番明暗のはっきりする季節。・・・何かをしようとする者、何もできない者、そして何もしようとしない者・・・。
 木陰の中から見えるグランドは思わず目を背けてしまうほどに眩しく、未緒は目を細めてしまう。元々強い陽差しに弱い性質の未緒にはこの季節はつらい。日陰から日陰へと渡り歩く毎日である。だからこそ未緒の目には余計に眩しくうつるのかもしれない・・・。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
 太陽の陽差しを浴びながら、公人が未緒の方にやってくる。
「いえ、私も来たところですから・・・高見さん、クラブの方は残念でしたね。」
 自分よりも残念そうな表情をする未緒を見て公人は頭をかいた。
「ああ、仕方ないさ。やっぱり不純な動機でやってたからばちがあたったんだな・・。」
「・・・不純ですか?」 
 眼鏡のフレームから未緒の不思議そうな瞳がのぞいている。
「そう、不純な動機。誰かにいいところを見せようとして力が入っちゃって・・・。ま、自業自得だね。」
 −誰かって誰ですか?−
 未緒の視線が地面に落ちた。そんな未緒の頭にそっと公人の大きな手がのせられる。
「ごめんね、格好いいところ見せらんなくて。」
「・・・・・・・・・・え?」
 未緒はめまいをおこした。
 
 未緒は冷房の程良くきいたビルのロビーで目を覚ました。
「すいません、迷惑をかけてしまって・・。」
 ベンチの上に横になった自分の顔を心配そうにのぞき込む公人に向かって頭を下げようとするが、まだ少しからだが重いような感じがしてそのまま頭を横たえた。
「今日は特別暑いからなあ・・。如月さん、やっぱりかなり待ってたんじゃないの?」
「・・・そういう訳じゃないんです。」
 −いきなり高見さんがあんな事言うから・・・。−
「そう?まあ、今日は無理しないで。・・ちなみにここは美術館だから。」
 未緒は視線だけを動かしてゆっくりと周りを見渡した。いつもの視点と違うので公人に言われてもあまりぴんとこなかった。
 ひょっとすると公人の言うとおり少し暑さにやられていたのかもしれない。少し頭がぼうっとして外部からの刺激はクリアに伝わってくるのにそれに素早く反応できない感覚。
 未緒はゆっくりと目を閉じた。公人の優しさに甘えてしまおうと決め込んだのである。ほんの少しだけ。
 
 30分程眠っていただろうか。未緒は目を覚ますと、自分の手を開いたり閉じたりして感覚が戻っているのを確かめた。
「あ、起きたりして大丈夫?」
 ベンチから身体を起こした未緒に気付いて公人が声をかけると、未緒はにこっと微笑んだ。
「大丈夫みたいです。・・・・・これからどうします?」
「・・・・・・そうだね、今日は美術館見物にしようか?」
 その日の展示品は何かのコンクールの受賞作であった。肩を並べて作品を見てまわる2人はある作品の前で足を止めた。
「・・・この人私達と同い年なんですね。これからどんな凄い作品を描くんでしょう?」
 絵のことはよくわからない2人だったが、作品から漂う雰囲気を肌で感じ取ることはできた。未緒の呟きに公人が反応して言葉を続ける。
「片桐さんが言ってたけど、どんなに技術的に上達しても昔描いた絵は同じように描けないもんなんだって。」
 未緒は首を傾げる。
「描いた本人なのに描けないんですか?」
「うん、そうらしいよ。・・・だからこの絵はこの人にとって17歳の今にしか描けない作品なんだ・・・多分。」
「・・・今しか描けない・・・。」
 −17歳の今にしか描けない・・・今しか・・。−
 どこか遠くへと視点のあわされた瞳は未緒が思索状態に入ったことを公人に悟らせた。公人はしばらく未緒をそっとしておくことに決め、それでいて彼女の側を離れず周りを眺めること数分。伏せられていた未緒のまつげがぴくりとあがる。
「あ、ごめんなさい。ちょっとぼんやりしてしまって。」
「ん・・いや、何を考えてたの?」
 未緒の視線が一瞬床へと落ち、軽く握られた右手を胸の辺りに押しあてる。
「高見さんには今しかできない事ってありますか?」
「・・・あるだろうけど、あまり意識したことないや。・・・如月さん、最近やけにこだわってるね?」
「そうですね・・そうかもしれません。」
 うつむきながら呟く未緒の頭に公人は手を乗せる。
「人はできることしかできないよ。でも、やってみないとできるかどうかわからない事って多いよね。・・・なんでもいいからまずはやってみることが大事なんじゃないかな?」
 未緒は頷きながらも、公人の手を自分の頭の上からどけさせる。
「なんか子供扱いされてるみたいで好きじゃないです・・・こういうの。」
「ごめん・・。」
 
 未緒は自分の部屋に戻ると着替えもせずにベッドに身を横たえた。
 −あ、洋服しわになっちゃう。・・・・別にいいか。−
 枕元の読みかけの本を手にとって、細い指先がはさんであったしおりを探し当てる。
 未緒は本を読み終えると、瞳を閉じて物語を反芻する。
 −素敵な話。・・・この人はどんな気持ちでこんな話を書いたのかしら?−
 未緒は右手に持った本を自然に自分の胸に抱く。
「こういう小説もこの人にとってはその当時にしか書けないものなのかしら?」
 未緒は、瞬間身を固くして目を開ける。そしてためらいがちに自分の想いを口にしてみた。
「・・・じゃあ、今の私にはどんな話が書けるのかしら?」
 未緒はベッドの上で身を起こしたままの姿勢で、しばらくそこにはない何かを凝視していた。
 やがて未緒はベッドから下り読み終えた本を本棚にしまうと、机を前にして椅子に腰掛けた。そしてまたしばらく身じろぎもしないで遠くをみつめる。
 部屋の中には未緒の深く静かな呼吸音と時計が時を刻む音だけが響き、夏の夜にしては珍しく静かな日であった。
 その中に微かな音が加わった。布と布がこすれる微かな音。
 ゆっくりと未緒は手を伸ばして鉛筆を握り、やがて鉛筆の芯が紙の上を滑る音が部屋の中に響き始めた。
 
 我が物顔で空を席巻していた入道雲がいつの間にか南の空へと帰っていき、野山はつかの間の色鮮やかないでたちへと移り変わろうとしていた。
「最近の如月さん、なんかいい顔してるね。」
 放課後の図書室で窓の外を眺めていた未緒は公人にこう話しかけられ小首を傾げた。
「そうですか?・・・自分では良くわかりません。」
 公人は黙って頷いた。
「あんまり夢中になって身体を壊さないようにね・・。」
 そう言い残して自分の側から去っていく公人の背中に未緒はほんのりとした温かいものを感じた。公人の小さな心遣いが嬉しかったのだ。
 未緒は図書室の片隅に腰掛けて、最近ご無沙汰であった読書にいそしむことにした。何かに導かれるように綴ってきた物語はほぼできあがっていた。残るは、終章のみ。
 未緒の頭の中にあるエンディングは2種類でそのどちらかを選べばいいだけとなっているのだが、その状態のまま手を付けずに書きあぐねていた。
 未緒は紙の上に視線を滑らせながら考えていた。理由は2つある。
 1つは書き上げてどうするかということ。もう一つは・・・・。
 未緒は機械的にページをめくっていた本をぱたんと音をたてて閉じ、瞳を閉じた。頬にあたる空気の流れに誘われるように未緒は立ち上がり窓際へと移動し、目を開けた。
 強い風に運ばれた木の葉が2・3枚図書室の中に迷い込み、床の上を滑っていった。と同時に未緒の心の中にも風が吹き込んだように感じた。
 別に締め切りがあるわけではない・・。続きが書けないなら違う話を書けばいいだけのこと・・。そう心の中で呟き、未緒は何かを確かめるように軽く頷いた。
 
「あ、如月さん。こんなのがあったけど応募してみたら?」
 新しい物語を書き始めてからまもなくの頃、未緒は公人に手渡された雑誌を見て勢いよく立ち上がった。心なしか頬が熱いように感じる。
「高見さん!なんで、知ってるんですか?・・・まさか?」
 高校生の書いた小説コンテストの応募要項のページにふせんが貼ってある事からして偶然であるとは思われない。
 公人は黙って廊下の好雄と夕子の2人を指さした。
「・・・・・・ストーカー?」
 未緒の顔にあきらめにも似た笑顔が浮かんで消えていった。
 
 自分の部屋で机に突っ伏したまま動かない未緒。
 それはそのはず、自分の知らないうちに締め切りが設定されてしまったのだから。(笑)
 −そういうつもりじゃなかったんですけど・・・−
 公人に『頑張ってね』なんて言われてしまい、その一言が言えなくなってしまった。
「・・・誰かに期待されるって大変なことなのね・・・。」
 未緒はそう呟き、顔をずらしてぼやけた視界で部屋の中を眺めた。
 誰かに見せようとしていたわけではない、いわば日記のような感覚で書いてきた。だからこうやって尻込みしているのである。
 内気と恥ずかしがり屋が固い友情を結んだような未緒の性格からすると、なかなか厳しい状況ではある。ただ彼女には他人より優れた資質がいくつかあった。その資質の中の芯の強さと責任感・・・責任感に関しては未緒のせいじゃないような気がするが、この2つがかろうじて未緒の手のペンを投げ出させずにいた。
 締め切りは11月末。
 未緒は上体を起こして眼鏡をかけ直した。そして机の上に伏せてあったフォトスタンドをおこして写真を眺める。
 白い歯をみせてはにかむように笑い、準優勝のメダルを掲げた公人の写真。
「・・・充分格好良かったですよ・・。」
 公人が未緒に対して言った言葉。それを額面通りに受け取れるほど未緒は自信家ではなかったし、全てを冗談ですませるほど公人に対しての気持ちは浅くなかった。
 未緒が求めているモノ、それは何か形に残る勲章。
 未緒は目を閉じ、いつも自信にあふれた公人の幼なじみの少女を思い浮かべた。高校3年ともなればこれまでにいろいろ聞きたくないような情報を耳にしている。
 桜の舞い散る中で、少年がみつめていたモノ。
 それが何だったのかを未緒は薄々理解していた。そのことを理解したときには既に自分自身が少年に対して燃えるようなまなざしを向けていた。
 未緒は少し寂しげな、しかし決して後ろ向きではない笑みをこぼした。
「私の方がよっぽど不純な動機です・・・。」
 秋の夜長に響く虫の声。
 その風情あふれる調べも耳に入らぬように未緒は作業に没頭し始めた。
 
 ・・・応募作の大半は哲学めいたテーマと恋愛・友情を主としたテーマに集中したのだが、入賞作はこの両極にあるテーマを融合させていた。友人との交友を通して向上心にあふれ、それでいて堅実に歩を進めていこうとする主人公の姿は若者特有の浮ついたところが無く、文章力の未熟さを補って余った。文体そのものも変に飾るところが無く好感が持てた。
「・・・・だって。」
 公人が顔をあげると未緒は真っ赤になって顔を伏せた。
「た、高見さん。お願いだから口に出して読まないでください。」
 未緒の書きあげた小説は見事銀賞を射止めた。受賞者には事前に連絡されたため雑誌の発表より早く未緒は知っていた。ただ、雑誌の発売日に風邪をひいて休んだ未緒のお見舞いに公人がそれを持ってやってきたというだけである。
「でも、すごいよね・・。」
 公人の何気ない言葉に未緒は繭をひそめた。
「そうですか?」
「当たり前だよ。」
 未緒は公人の視線を避けるようにして呟いた。
「でも、不純な動機なんですよ・・。格好いいところを見せようとしただけの・・。」
 話の飛躍についていけず公人は首をひねった。未緒は音もなく立ち上がり本棚の中の大学ノートを2冊取りだして公人に手渡した。最初に未緒が書き始めた物語の綴られたノート。
「本当は・・最初違う話を書いてたんです・・。」
 公人が何気なくノートのページをめくろうとすると未緒の声がそれを制した。
「見ないでください・・・ここでは。家に帰ってから読んでみてください。」
 場が少し白けかけたのを感じて公人は未緒の家を早々に立ち去った。
 
 ノートの表紙には1と2の数字がふってあった。公人はゆっくりと表紙をめくった。
 
 桜の花びらが舞う風景。
 美しいけれどもどことなく悲しい風景・・・・悲しいから美しいかもしれない。
 そんな季節に私はきらめき高校の入学式を迎えた。
 これから自分が3年間通うことになる校舎を前にして、高校生活への期待に胸をふくらませ空を見上げる人。反対に高校生活への不安で地面を見つめる人。
 周りを埋め尽くした新入生の集団のほとんどの人がそのどちらかに属していた。
 私があの人を見かけたのはそんなときだった。
 一見どこにでもいるような少年、間違っても人目を引くことのない少年の姿が私の目にとまった。空を見上げるでもなく、地面を見つめるでもない。彼の視線はある少女の集団に向けられていた。彼がその集団を見ていたのかそれともその中の1人だけを見ていたのかは定かではなかったが、私は彼の燃えるような瞳にしばらく魅了されたのを覚えている。
 私は全てを祝福するような桜の花びらに包まれながら、なぜかその少年から目を離せずにいた私が再びその少年に出会うのはそれからしばらく後のことになる。
 
 少女の淡い関心が恋へと変貌していく最初の数ページで公人は頬を赤らめて口元を手で押さえた。
「この登場人物って・・・俺と如月さん?」
 公人自身ですら忘れていたような些細な日常行動に対しての少女の心の揺らぎが描かれた文章。公人にしてみれば3年分のラブレターをまとめて受け取ったようなものである。
 最終章で少女は思いきって少年に告白するのであるが、少年には他に好きな人があり断られてしまうシーンで締めくくられていた。
 公人は慌てて2冊目のノートを手に取った。最後まで1冊目とまったく同じ文章が続いている。ただこちらは2人が結ばれて正反対の結末を迎えるという点で違っていたが。
 公人は大きく息を吐いてノートを閉じようとして最後のページにふと目をとめた。
 何かを消した跡。
 うっすらと残った文字跡はこう読めた。
『このエンディングは嘘です・・・。』
 書いて消された文字。それは何よりも公人の心に沁みた。
 未緒にとって今しか書けない文章。その最後にこの文を持ってきた未緒の心中を思うと公人は言葉を無くした。
「・・・・馬鹿だな・・・。」
 そう呟いた公人が卒業までの10日間未緒を学校で見かける事はなかった。
 
 あのお話のラストを決めるのは私ではない・・。
 選ぶのはあの人だから・・。
 想い出を引きずるようにして振り返りながら校舎を後にする集団。
 一度も振り返ることなく速やかに去ってゆく集団。
 そんな集団をぬうようにしてこちらに近づいてくる制服姿。これから彼は選ぶのだ、どちらかの結末を。
 少年は私の前で立ち止まり息を整えてから、私にノートを1冊手渡した。
「・・・・1冊・・ですか?」
「残りは必要ないと思ったから・・。」
 未緒は震える手で表紙を確認する。
 しばらくして、未緒は表紙にぽつりと一点のしみが浮いているのに気が付いた。
 −何のしみかしら?−
 未緒がそれに視線を集めた時、そのすぐ隣に同じようなしみがぽつんと生じゆっくりと周囲に滲んでいった。
 未緒は指先で目尻の涙を拭い顔を上げた。
「高見さん・・・私あなたが、あなたのことが大好きです。」
「俺も如月さんのことが大好きだよ。」
 未緒が心の中で描き続けてきた物語が自分の望む形で結末を迎え、新しい章を綴り始めた。これからは未緒1人ではなく公人と未緒の2人で綴られていくことになるだろう。
 1つに解け合った影がその証明として長く伸びていた。
 
 
 

 おや?ちょっと無理がある話だが愛でカバーだ。(笑)なんだかんだ言っても愛着のあるキャラだなあ。
「・・・如月さんが好きってことは眼鏡っ娘ファンですか?」
 知人の友人の言葉に私は家に帰って気に入ったキャラを書き出してみた。すると、眼鏡占有率50パー。(笑)・・・えーとこれは絶対数が少ないための偏りだな、もっと書き出してみよう。・・・占有率60パー。(笑)眼鏡キャラのいないゲームとかもあるから実際はもっとグレイトな数値になることは間違いない。このとき私は悟りを開きました。
『そーか、俺は眼鏡好きやったんか。』と。(笑)このことがあって印象深いキャラになっております。といっても最近は眼鏡の扱いが憤懣やるかたなしといったキャラが多くてあれですが・・。扱いが悪いと言えば如月さんもすげえ扱いを受けましたが・・。
 冬コミが終わって夜行バスで田舎に帰って、そういやここならラジオドラマが聞けると思い出し、あの伝説の回を耳にしたのです。・・・・ついラジカセを壊してしまったじゃないですか?・・・ほんのちょこっと。(笑)
 しかも、世間には安易な未緒・好雄本が出回るし、なかなか厳しい時代を過ごした記憶が走馬燈のように・・。
 頭脳戦艦ガルをノーマルでクリアした人間にも我慢できんことがあります。 
 いや、今さら詮無き事を申しました。人にはそれぞれ立場というものがありますし。
 ちなみにときメモ2は眼鏡がいないと聞いたので購入してません。まあ、かけとったらいいというものでもないですけど。
 どんなゲームでも1人か2人眼鏡さんがいます。
 しかし、よく考えて欲しいのです。眼鏡というのはかけているかかけていないかだから確率は5割のはずです。(当時飲み屋で大爆笑)・・・・これは冗談にしても、高校生で視力矯正が必要とされる割合は4割を超え5割を越えたとか越えないとか・・。ということはやはりキャラの半分は眼鏡さんである方が自然であってビル・ゲイツも納得の世界標準であるのではないでしょうか?
 というわけで眼鏡さんファンは藤崎桃子と小倉千紗を見てから死ぬように・・。この2人のキャラが即座にわかる人はある意味凄い人です。おそらく日本全国で数人しかいないのではと思います。かたやDOS末期のパソゲー、かたやプレステのどマイナーゲームの隠しキャラ。片方ならともかく両方知っているという偶然はちょっと・・ねえ。

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