「セーラ様、家庭教師の先生をご紹介します。」
 グスタフに伴われて部屋の中に入ってきた人物はセーラが想像していた人物像からかなりかけ離れていた。だが、そんな感情をおくびにも見せずセーラは静かに頭を下げた。
「あなたが新しい先生ですか?来週からよろしくお願いします。」
 これから週に一度顔を合わせることになるだろう青年は、東洋出身と思われる顔立ちをしていた。が、どことなく懐かしい雰囲気がある。
「では海燕殿、来週からよろしくお願いします・・・。」
 グスタフが青年を見送ったのを見計らって、セーラは忠実な執事である彼を呼んだ。
「何でしょうか、セーラ様。」
「あの方は・・・グスタフが選んだ先生ですよね?」
「さよう・・・何か気にかかることでも?」
 セーラは静かに首を振った。
「・・・お祖父様は外国の方にあまりよい感情を持っていません。」
 グスタフは口ひげを震わせながら小さく笑った。
「この、グスタフめもドルファンからすれば外国出身でありますが?」
「いえ、でもあの方は見た目からして異国風の・・・」
 幼いときより心臓を患い、外出もままならないセーラは部屋の中で本を読んで過ごすことが多かった。
 そのセーラにしてみれば、家の外が既に外国のようなものである。
「セーラ様は確かに書物をよくお読みになっております。ですが、それはあくまで西欧の価値観に基づかれた知識でしかありません。」
 グスタフはいささか真剣な表情を見せ、セーラに向かって説明を続けた。
「旦那様はやみくもに海外文化や人間を排除しようとしてますが、セーラ様もまたその道を歩まれますのかな?」
 グスタフはまるで罰を待つ様に静かに頭を下げた。
 セーラは老執事の右頬の大きな傷痕を目にして、目を伏せて頷く。
「ありがとう、グスタフ。せっかくの機会ですから、私あの方にいろいろ聞いてみようと思います。」
「それは良いことです。どうしても馴染めないというならば、このグスタフ、責任を持って新しい家庭教師を捜しますのでお申し付けください。」
 そう言って、グスタフはもう一度深く頭を下げた。そうして部屋から出ていこうとしたところをセーラは再び呼び止めた。
「セーラ様、何か?」
「いえ、ただ、あの方って・・・」
「海燕殿がどうかしましたか?」
 セーラの透き通るように病弱な白い肌が微かに赤く染まり、恥ずかしげに呟いた。
「あの方・・・カルノー兄様にどことなく似ていませんか?」
「・・・ふむ、言われてみればそうかもしれませんな。」
 
 こんこん。
「やあ、セーラ。調子はどうかな?」
「あ、先生。お待ちしてたんですよ。」
 海燕が家庭教師となってはや半年が過ぎていた。
「・・・雨が降りますよね。その雨の元は一体どこからくるんですか?」
「それはね、天使の涙が元になっているんだ。」
「先生・・・私のこと、子供だと思って馬鹿にしてませんか?」
 この半年で、海燕という人物が驚くほどの知識人であることはよくわかっていた。それも、頭に詰め込まれた知識だけではなく、生活の中で培われた経験と融合した本当の知識人としてである。
「ああ、ごめん、ごめん。」
 頭をかく海燕に向かって、セーラは悪戯っぽく微笑んだ。
「・・・でも、ロマンチックな答えですよね。」
 ふと、セーラは黙って海燕の顔を見つめた。
「先生、怒らないで聞いてくれますか?」
「何をだい?」
「私、先生が東洋の人で傭兵をしてるって聞いてたからもっと・・・」
 顔を赤らめて黙り込んでしまったセーラの代わりに、海燕は言葉を続けた。
「もっと、粗野な人物だと思ってたのかい?」
「・・・・・・はい・・・すいません。」
 元々声の大きい方ではないが、恐縮して縮こまったセーラの声はまさに蚊の泣くようなという表現が似つかわしかった。
「・・・東洋だとこちらと生活習慣が全然違うからね。粗野に感じるかもしれないけど、決して卑ではないよ。俺の場合はこちらの生活習慣に慣れているだけの話だが。」
「・・・そうでしょうか?」
「・・・どの国にもいろんな人間がいる。決して善人ばかりの国や悪人ばかりの国がないのと同じにね。」
 セーラはほんの少しだけ寂しそうな表情を浮かべて俯いた。
「私は・・・生まれたこの国の人でさえよくわかっていません。」
「・・・。」
「先生の生まれた国ってどんな国なんですか?」
 海燕は言葉を選んでいるのか、少し考える素振りを見せた。
「・・・東洋の中でも東に位置する島国・・・その片田舎だ。こちらとは違って、農業に従事する集団国家かな?」
 セーラは手元の『真旅行記』(アルベルト・ジャンベルグ著)のあるページを指さした。「ここに書かれている国のことですか?」
「・・・ああ、そうだよ。ただ、この作者は過去の東洋において、文化的に多大な影響を与えている国の言語を理解していなかったんだろうな。」
「・・・どういうことですか?」
「東洋にもいろんな国があるんだ。この本の中で描かれている東洋は、東洋の中でも特殊な文化を持つ国の視点で描かれている。」
 この作者が東洋へ旅立ったときには、東洋のほとんどが北方の遊牧民族によって支配されていた。ただそれは台風のような略奪と朝貢による支配で、文化的な意味合いでの支配ではなかった。
 彼は、その国の協力を得て各地の様子を記録したとあるが、それは資料としては優れているものだろうが、決して東洋の国のあり方を書き表したものではない。
 そういうことを海燕から説明されると、セーラはため息をついた。
「はあ、勉強になります。・・・本は一方通行の価値観にしかすぎないことがあるんですね。」
「歴史書などがいい例だよ。征服者と、被征服者の歴史書を比べてみるといい。」
 このようにして、セーラは本からでは学べない貴重な知識や多様な考え方を吸収していくことが出来たのである。
 
「グスタフ・・・」
「どうかしましたか、セーラ様。」
 海燕が帰っていった後、セーラはグスタフに尋ねてみた。
「海燕先生って、一体おいくつなんでしょう?見た目はまだ私とあまり変わらないように思えるのだけれど・・・?」
「確か、カルノー様と同じ年でございましたが。」
「カルノー兄様と同じ・・・。」
 それならばセーラより5歳ほど年上と言うことになる。自分が後5年生きたとしても、あれほどまでに人間として懐の深い存在となれる自信がなかった。
 絶句してしまったセーラを慰めるように、グスタフが自分の頬の傷痕を撫でながら遠い目をして呟いた。
「戦場というものは一日が一年にも匹敵するような出来事が起こります。そのような苦労をみじんも感じさせませんが、海燕殿はおそらく子供の頃から戦場を駆けめぐっていたのだろうと私などは感じました。」
「・・・子供?」
「あれは十年以上も激しい戦場を生き抜いてきた男の瞳です。それでいて傭兵の生活による汚れを身にまとうことのない希有な方です。」
 セーラは初めてグスタフと出会った時のことを思い出す。記憶の中で、グスタフは無口で暗い目をしていた。
「・・・私はセーラ様と出会って救われました。セーラ様は私の生き甲斐でございます。もちろん旦那様にも感謝はしておりますが。」
 老執事からの思いもかけない言葉にセーラはうろたえた。
「・・・私は別に・・・」
「いえ、セーラ様は当時の私を人として見てくれた初めての方でした。」
 グスタフはカルノー兄様が旅立った寒い国の出身だと聞いたことがある。それがどのような経緯を経てこの国にやってきたのかセーラは知らない。
 ただこの年になって少しわかったことがある。
 国の重鎮であるピクシス家長男の行方についての当時の記事が全くないことや、家の中でカルノーについて誰も語ろうとしないことなど推理する材料はたくさんあった。
 おそらくカルノー兄様は何らかの理由でこの国にいられなくなったのだ。そしてグスタフの助けを借りて・・・。
 だとするとグスタフは寒い国において、政治的、もしくは軍事的にそれなりの地位にあったのだろう。追放されたのか、逃亡したかのどちらかだと思うが。
 だが、セーラは自分の推理をグスタフに語ることはしない。
 セーラの人生は待つ人生であった。
 心臓の治療法がみつかるのを・・・そしてカルノー兄様が帰ってくるのをただ待ち続ける人生。
 
 こんこん。
「はい、お待ちして・・・」
 セーラの予想に反して、姿を見せたのはグスタフであった。
「セーラ様、今日海燕殿はここに来られません。」
 グスタフの言葉の意味を理解するのに、しばらくの時間が必要とした。
「・・・何か、あったのですか?」
「先日の戦闘で、海燕殿は傷を負われ入院していると連絡が入りました。」
 立ち上がりかけたセーラの質問を先取りして、グスタフは慌てて首を振った。
「あ、傷自体は大したものではないそうです。来週にはちゃんと退院して家庭教師にくるから心配しないでくれとのことです。」
「・・・そう、良かった。」
 セーラはほっとため息をついた。しかし、安心したのもつかの間で、胸のあたりに締め付けられるような痛みを感じて表情を歪めた。
「くっ・・・」
「セーラ様!」
「大丈夫・・・ちょっと興奮したせい・・・いつもの発作です。」
 発作がおこると、体中におもりを取り付けられたようになってしまう。ベッドの上に身体を横たえ、静かに、ゆっくりと呼吸を整えていく。
 自分に出来ることはそれだけしかない。そうしていれば、やがて体の自由が戻ってくることを経験から学んでいた。
 自分の胸を締め付けていた鎖が徐々にほどかれていく感覚を得て、セーラはやっと安心して目を閉じた。
 幼い頃は発作の度に命の危険を感じて涙を流したものだったが、今はそんなことはない。それは繰り返される発作の度に、あきらめることを学んできたせいかもしれなかった。
「・・・グスタフ。」
「あまり無理をなさってはいけません。」
「カルノー兄様から連絡はありませんか?」
 弱々しいセーラの問いかけに、グスタフは悲しげに目を伏せた。
「・・・いいえ。」
「そう・・・。」
 
「発作を起こしたと聞いたが、大丈夫なのか?」
「はい、発作といっても軽いものでしたから。それより先生のケガは・・・?」
 海燕はことさら陽気に胸を張って見せた。
「この通りさ。」
「良かった・・・先生に会えないと寂しいですから。」
 ふと自分が口にしてしまった言葉の意味を考えて、セーラは顔を赤らめてしまった。が、海燕はそれに気がついた様子はない。
「・・・先生は、何で傭兵なんて怖いことをなさってるんですか?」
「傭兵は・・・怖いかい?」
 セーラは首を振って、もう一度言い直した。
「私は・・・死ぬのが怖いです。先生は怖くないんですか?傭兵は危険なお仕事だと聞いてますが・・・」
 海燕の表情がやや真面目なものとなる。
「人は・・・暴力に対しての抵抗手段をあまり持っていない。一番簡単なのは、暴力に対して暴力で立ち向かうこと。俺の選んだ仕事はそういうことだ。」
 セーラの視線から顔を背けるようにして、海燕はどことなく自嘲的に呟いた。セーラはそんな海燕を見ていたくなかったので慌てて謝った。
「ごめんなさい、先生のプライベートに立ち入るつもりはなかったんです。・・・私があさはかでした。」
「いや・・・気にすることはない。ただ・・・」
 海燕はどこか遠くを見つめているようだった。
「傭兵や騎士達は戦争そのものが無くなったとき、どうすればいいんだろうな?」
 戦争が終われば、傭兵は新たな戦場を求めてこの国を出ていく・・・だとすれば海燕はどうなのだろう?海燕の呟きを聞いてセーラはそう疑問を持った。それでも、そのことを直接尋ねるような勇気の持ち合わせはない。
「・・・そういえば、戦争の方はどうなっているのでしょう?」
「一応、今のところこの国が有利な状況にあるよ。」
「そうですか・・・。」
 戦争が終わったら・・・傭兵はその存在意義を奪われる。王や国に仕える騎士達はともかく、傭兵は自分たちを抹殺するために命をかけて戦い続けるのだろうか。
 セーラは暗い気持ちになり、無意識に海燕の手を取っていた。
「セーラ・・・?」
「え?・・・あっ、私、最近手相の本を読み始めたんです。先生の手相はどんな感じかなと思いまして。」
 セーラにしては上出来の言い訳であった。もちろん、それにふさわしい態度さえともなっていれば、の話ではある。
 さすがに処世術に長けている海燕は、セーラを興奮させるような反応を見せずに静かに微笑んだだけだったが。
「・・・いろいろ・・・」
「ん?」
「外国人だからとか、傭兵だからとか聞きますけど・・・先生は優しい人です。カルノー兄様と同じ温かい手をしていますもの・・・」
 そう呟くセーラの頭を、海燕は静かになでた。
 
「・・・私の生活って、待つだけの生活ですよね?」
 セーラの言葉は、何気なく呟かれただけに悲痛であり、寂しい言葉であった。さすがの海燕も言うべき言葉を見いだせずに黙っている。
「カルノー兄様の帰りを・・・そして心臓の治療法・・・」
 セーラはそこで一旦言葉を切った。そして恥ずかしげに頬を染め、海燕の顔をちらちらと見やる。
「そして先生が来るのを・・・」
「おやおや、それは光栄だな。」
「嘘じゃありませんよ・・・私、出来ることなら毎日でも先生とお会いしたいです。」
 後半部分はセーラ自身にしか聞こえない位の小さな呟き。
「・・・セーラ、一つだけ約束して欲しいことがある。」
 海燕が幾分真面目な表情をしていたので、セーラはさっきの恥ずかしい言葉が聞こえてしまったのかと思って、ますます顔を赤らめる。
「もし・・・もしも心臓が治ったら・・・待つ人生をおくらないと約束してくれ。」
「え?・・・どういうことでしょう?」
 海燕はほんの少し遠い目をした。海燕がこんな表情をするとき、セーラはただ静かに聞く事にしている。
「待つ事と求めることは違う。・・・待つことは失望する事を繰り返すことだ。少なくとも俺はそう思っている。」
「・・・何かを求めて生きる、そういうことですか?」
 海燕はそれに応えず、ただ静かに目を閉じた。それと同時に、家庭教師の時間が終わったことをグスタフが告げに来る。
 海燕の後をついていくようにセーラは何気なくドアの方に近づいた。どこか海燕の様子がおかしな風に感じられたのと、玄関まで見送りに行こうかと言う考えがあったからである。
『・・・セーラ様は心優しいだけに真実を知れば・・・』
 扉を通してグスタフの声が聞こえてきた。セーラはドアノブをつかんだまま、その動きを止める。
『次の戦いが終われば・・・多分外国人はみんな・・・』
「・・・強制退去?」
 セーラは微かに聞こえてきた言葉を繰り返した。
 つまりその言葉の意味は・・・?
 その瞬間、セーラの視界は暗転し、息苦しさに襲われた。
 薄れゆく意識の中で、誰かに抱き上げられた感触と、自分の名を呼ばれたような気がしたが、それを確かめるだけの力は無かった。
 
 セーラは穏やかな気分で目を覚ました。
 何かがいつもと違う・・・?
 しばらくしてあることに気がついた。呼吸がいつもより大きく、深い。セーラは思いきって大きく息を吸い込んでみた。そして胸のあたりに手をあててみる。
 規則正しいリズムで心臓が動いていた。いつものように、とまどったような動きや、弱々しさは感じない。
「セーラ様!」
 声をかけられて、セーラの意識がそちらに引き戻される。
「・・・グスタフ、私は・・・一体?」
「・・・眠っておられました。それも、長い間です。」
「いえ、違うの。私の身体は・・・?」
 いつも無表情のグスタフが、ほんの少し口元をゆるませる。
「クラシスという花をご存じですか?」
 名前だけは知っていた・・・いや、そのぐらい珍しい花である。確か36年とか72年に一度しか花を咲かせない貴重な・・・
「その花を原料にした薬をセーラ様に飲んでいただきました。」
「でも、そんな珍しい花をどうやって・・・?」
 グスタフの表情が消える。それを見て、セーラはあることに気がついた。記憶の中では冬だったというのに、頬に感じる空気はどこか暖かい。
 ・・・一体自分はどのぐらい眠っていたのだろう?
「グスタフ・・・今は何月ですか?」
「・・・4月でございます。」
 2ヶ月以上も眠っていたことになる。
「グスタフ、すぐに先生を呼んでください。」
 グスタフは何も言わないが、クラシスの花を手に入れてくれたのは海燕に違いない。こうして目を覚ましたのだから、一刻も早くお礼を言わなければ・・・。
「・・・グスタフ?」
 グスタフは静かに首を振って、机の上に置いてあった手紙をそっとセーラに渡した。
「これは?」
「海燕殿からの手紙でございます・・・。」
 震える指先で封を破り、セーラは慌てて手紙を取り出した。
 
 セーラへ
 セーラ、君がこの手紙を読むときにはきっと病気は治っている事と思う。それはとても喜ばしいことだが、もう一つ嬉しい知らせがある。
 君の心臓の薬を手に入れるにあたって、ある人物が協力してくれた。仮面をかぶっていたのでわからなかったが、多分彼はセーラの・・・カルノー兄さんだと思う。
 セーラの前に現れないのは多分何かの事情があるからなのだろう。それは察してあげて欲しい。ただ、彼はいつも君のことを見守っている。それだけは事実だ。
 一つ注意しておくのだが、心臓が治ったからといって急にはしゃいだりしないこと。これまでとても静かな生活をしていたのだから、ゆっくりと時間をかけて丈夫な体にしていかなければならない。
 セーラ・・・次に会う時を楽しみにしているよ。
 ドルファン歴28年 3月15日  丈・海燕
 
「・・・どうして先生が?」
 セーラは傍らに立つグスタフを見た。
「議会で外国人排斥法案が可決されたのです。海燕殿も好きで出国した訳でもないでしょう・・・。」
「・・・外国人排斥・・・まさかお祖父様が!」
 グスタフは何も言わなかったが、その表情だけでセーラには充分だった。頬を伝う涙を見せたくなくて、セーラは枕の上に顔を埋めて泣いた。そんなセーラに対して、グスタフの静かな声がかけられた。
「・・・セーラ様、海燕殿はこの国において聖騎士の称号を持っております。」
 セーラの嗚咽がぴたりととまった。
「騎士は、自らが仕える存在からの招集に応じる存在です。」
「・・・そんなこと、できるのでしょうか?」
「さあ、わかりません。でも、待っているだけでは絶対に出来ないと思います。」
 セーラは目元にたまった涙をぐいと拭って、窓の外を見た。
「・・・先生、私先生の言う通りに生きてみようと思います。・・・まずは、体を丈夫にするところから・・・。」
 
 
「いよいよですね、プリシラ王女・・・いえ、女王。」
「もうっ、二人の時は堅苦しい呼び方しないでって言ったでしょう!」
 あれから10年。
 外国人排斥に動いていた老重鎮はこの世を去り、激動の時代の中で若い力がこの国の中枢を固めつつあった。
 その中で代表的な存在と言えば、やはりプリシラと、ピクシス家のセーラである。特にピクシス家の分家の長女にすぎなかったセーラがピクシス家の当主となるまでにはいろいろあったのだがそれはまた、別のお話である。(笑)
 プリシラの名による大号令。
「ドルファン国女王プリシラの名において命じます!我が国を襲う外圧に対して、全ての騎士よ立て!我が元に馳せ参じよ!」
 国から追い出しておいて今更・・・という騎士もいるだろうが、海燕だけは生きている限りこの招集に反応するであろうと思われた。
 そして、今日ドルファン港にくる船の乗船名簿にそれらしき名前があることを聞いて飛んできたのである。
 ・・・もちろん、二人ともお忍びだが。
「・・・まだ、出てこないのかしら?」
「一人一人審査するから時間がかかるんですよ。」
「・・・まったくだ。」
 プリシラとセーラはお互いの顔を見つめ合った。そしておそるおそる後ろを振り返る。
「・・・先生。」
 セーラはそう呟いて、目の前の人物を上から下まで眺めつくした。そしてゆっくりと涙をこぼす。
「・・・先生。」
 そう呟くきりで何も言えないセーラに代わって、プリシラが口を開いた。
「海燕、あんた独身でしょうね?」
「傭兵が結婚なんて出来るかよ・・・」
「あっそ、じゃあ、女王の名において命じます・・・・・・」
 
 
                      完
 
 
 何か途中から方向性を見失った気がしないでもない。(笑)
 冷静に考えたら場面転換そのものが否定されるキャラなんだなこれが。しかも、ゲームのエンディングはエンディングにならないし。いや、セーラに限らず女学生はほとんどそうだが・・・。
 まあ、とにかく眼鏡で名前がセーラです。やっぱりクラリスとセーラという名前はそれだけで好感度アップですよ。(爆笑)

前のページに戻る