『あなたたち人間は、知的探求心あるいは功名心と言ったモノに衝き動かされて、この世界を隅々まで開かれたモノにしていこうとしてきました……でも私達は、いわば世界の狭間で生きる存在です。世界が開かれていくにつれて狭間は消え、私達の生きる場所が失われていきました』
 『あの日、あの時の呼びかけ……遠い昔から、幾度も繰り返された、新天地を求める旅立ちへの呼びかけとは少し違ってました……単独、あるいは少数で新天地を求める旅はできませんし、もはやこの世界に残る私達の仲間も数少なく……多分きっと、これが、最後の機会と言うことなんでしょう』
 
 深い海の色の瞳を持つ……人ならぬ少女。
 彼女の言うことが確かならば……ピコは、この世界から去ることを決めたのか。
 
『あの日の呼びかけは、おそらくは呼びかけに過ぎません……ただ、旅立ちの日を告げ、後はそれぞれがそれに参加するかどうか決めるだけ』
『私…ですか?私は……ここに残ります。遠い昔に、そう決めましたから…』
 
 少女……アンとだけ名乗った彼女は、その海色の瞳でひたと海燕を見つめて、悲しげに言った。
 
『あなたが、その、彼女を引き留めたいと思うのは自由です……が、私達は、あなたたち人間より遙かに長い時を生きるのです。あなたが死んだ後、彼女は……長い、孤独の時をおそらくは過ごすことになります……その覚悟はおありですか?』
 
「……なにやら、心ここにあらずって感じだが?」
「まあな」
 とくに否定しようとも思えず、海燕はそう答えた。
 先日の、人ではない少女との出会い、そして会話……もちろん、リンダとの会話も含めて、考えることは多い。 
「そのくせ、隙は全くないとくる……業が深いな」
 そういって笑ったグレッグがいうように……自身が意識していないだけに、今の海燕を攻撃対象とするのはかなり危険な事かも知れなかった。
 手に馴染みすぎた剣が思うより先に動くのと同じで……迫り来る害意に対して肉体は手加減をせずに反撃してしまうだろうから。
「それで、何の用だ」
「いや、イリハ会戦の合同慰霊祭ってのが城内で行われるらしくてな」
 半瞬の間をおいて、海燕が呟いた。
「……1年、経ったのか」
「俺がその戦闘に参加したわけじゃないからな……」
 その先は、言わなくてもわかるだろう……という表情のグレッグ。
「わかった、俺がでよう…」
 1年前のあの戦いで、多くの戦死者がでた……その8割以上は、率いる人間の愚劣さによってもたらされたと海燕は思っているが、その本人は戦犯として既に処刑されている。
 もちろん、それはされないよりも正しいことだが……。
「……アンタのお陰で傭兵はほとんど死なずにすんだそうだな」
「俺じゃなくて、教官のお陰だ」
「教官?」
「……その時怪我をされて、除隊した」
「なるほど」
「……」
「どうした?」
「うがった見方をさせてもらえば、おれたち傭兵さえ戦闘に参加していなければ、あんな負け方をすることは多分なかったよ」
 そう言って、海燕はグレッグに背を向けた。
「……慰霊祭の件、頼むぜ」
「ああ」
 そう答えながら、海燕はイリハ会戦のことを振り返る。
 我々は陸戦の雄ドルファンの騎士だ、傭兵の手を借りるまでもない……あの時指揮官だった男に、そういった感情があったのは確かだろうし、その感情が部隊を2つにわける挟撃策を選ばせたという考えは、それほど飛躍したモノでもあるまい。
 むしろ、冷酷に傭兵部隊を死に兵として使い捨てる……ぐらいの男であれば、果たして戦局はどう動いたか。
『派手な勝ち方を求める割に、指揮官としての力量が伴わないという最悪の野郎さ』
 ヤングの言葉を思いだし……ふと、海燕は心に引っかかるモノを覚えた。
 20年ほど大きな戦争を経験せずにいたドルファンの騎士団が弱体化するのはもちろん、軍を指揮する人材が枯渇するというより、それを見出す場が圧倒的に少なかったのはよいとして。
『ヤング・マジョラム大尉が、この国を出る前に、絶対に信用できると貴様の名を挙げた』というメッセニの言葉が真実ならば、ヤングの意見はメッセニ中佐なり王女であるプリシラに対して多少の影響力はあったはずなのだが……。
 今になって思うと、ヤングの意見をメッセニ中佐が聞くという事は、直接の上司故にあり得るとしても……メッセニというより、プリシラの言葉には裏付けがない。
 まあ、そもそもプリシラの意見が政治はもちろん、軍部に影響力があるとも思えないが、それならそれで、何故その場を取り繕うような嘘をつく必要性があったか。
「ふむ…」
 かねてから考えていた、ドルファンという国の出入国の甘さが現場における最高責任者メッセニの指示によるモノだとすると……近衛兵をもとりまとめる立場のメッセニと、ドルファン国王および、プリシラとのつながりは強いと考えて差し支えがない。
 そして海燕の見たところ、メッセニは……忠誠心の高い人間である。
「考えすぎ……と切り捨てるわけにもいかないか」
 そんな海燕の呟きにいつも反応してくれたピコが、今はいない……。
 この世界から去ったわけではない……なのに、海燕の元から去ったのか。
 
 合同慰霊祭。
 イリハ会戦の戦没者を……といっても、外国人傭兵は戦没者の中には入らないらしい。
 少なくとも、慰霊祭に参加した連中のほとんどはそういう認識なのは間違いなく、さすがの海燕も多少の居心地の悪さを感じずにはいられない。
「まあ…ヴァルファの戦没者も、数には含まれていないわけだが」
 ドルファン側に比べて極端に少ないとはいえ、ヴァルファ側にも戦死者はいる。
 会戦における戦没者の慰霊祭というならば、ドルファン側はもちろん、ヴァルファ側の戦没者も含めた、全ての魂を対象とすべきで……そういった海燕の視点は、やはり東洋式なのか。
 敵を多く殺せば英雄、味方を殺せば戦犯……それは東洋でも共通する意識ではあるが、そこまで割り切られたものではない。
 東洋の片隅の、小さな戦場。
 長く続いた膠着の中、どちらが言い出したわけではないが互いに戦闘を休止し、敵味方の区別なく、戦場に横たわる死体を埋めて弔い始めた両軍の兵士を見て『最初から、戦わなきゃいいのに…』と呟いたのはピコだった。
 次の日になると再び戦い始めた両軍に、『人間って、よくわからない…』と呟いたきり
黙ってしまった……あれは、出会ってから1年ほど経った頃だったか。
 そんなことを考えているうちに合同慰霊祭は終わり、城を出た海燕は……そのままシーエアー地区の共同墓地へと向かった。
 
「……墓地が似合う人ですね」
 自分に近づいてくるその気配からして無視は出来なかったのだが……なんと応えて良いかわからず、海燕は無言で振り返った。
 10メートルほど離れた……海燕の間合いから外れた場所で、微かに微笑むシスターの姿。
 ライナノールを葬ったあの夜とは明確に違う気配を漂わせつつ……彼女は再び口を開いた。
「あの女の人の墓参り……というわけでもないのですね」
「……」
 そういえば……という感じに、シスターは軽く頭を下げた。
「……ルーナと申します」
「海燕だ」
「はい……死神という異名を持つ、凄腕の傭兵だとお聞きしています」
「誰に…だ?」
 刹那の沈黙……それを押し流すように、さああああぁっと、風に吹かれて草が鳴る。
 微かな微笑みを浮かべたその表情のまま……突如、中身が入れ替わったかのように発する気配が全く別物になっていた。
 別物、といってもそれは決して周囲を圧するものではなく、むしろ、そこにいながら存在そのものを感じさせない方向への変化だ。
「……なるほど」
 ルーナが選んだ間合い……会話を交わすには遠すぎる約10メートルという間合いが、やはり偶然ではない事を海燕は知った。
「……おわかりに、なりますか?」
 ルーナの問いかけは、むしろ悲しげで。
 二重の意味で……という言葉を飲み込み、海燕は答えた。
「それとなく…な」
 敢えて目の前で気配を変化させたのだから、そちらに関して……の問いかけと受け取るが礼儀であろうと判断したからだ。
 それは、殺気や気配そのものを抑え込むのとは全く別の……いわば異質の気配。
 海燕が海燕と名乗る前、まだ故郷にいた頃……3度目に命を狙いに来たのがこういう連中だった。
 
 農民の老夫婦。
 畑の草取りをしていたその2人に対して、海燕はそういう認識しかもてなかった。
 かごを背負った老婆がよろけて転んだときも、『怪我はないか』と声をかけた海燕に恐縮して頭を下げたときも、素朴な笑みを浮かべたまま小刀を突き出してきた瞬間でさえ……彼らは、年老いた農民にしか見えなかったし、そうとしか感じられなかった。
 何かの冗談としか思えぬまま海燕は老婆を打ち倒し……もう1人の老爺の存在に思いが至ったときには、いつの間にかそばに来ていた養父が斬り捨てた後だった。
 『何も殺さぬとも良かったのでは』と、やや不満混じりに呟いた海燕に『人の命を奪うことだけを生業にする連中の存在』について養父は語り、海燕が止めるまもなく、気を失っていた老婆に、どこか哀しげな表情でとどめを刺した。
 そして、目の動きだけで海燕についてくるように示し……この付近で本当に農作業をしていたらしい数人の農民の死体を目にすることになった。
 武士、農民、商人、子供から老人まで、普段出会う人間の顔はきちんと覚えておく事、何らかの違和感を見抜く目を養う事………そう諭した後で、養父は海燕にこう言った。
『この者達は、お前を殺すためだけに殺された……お前のせいではないが、そのことは決して忘れるな…』
 その理不尽さに憤るのではなく、『自分のせいで死んだ』という養父の言葉が、心から離れなかった。
 故郷を捨て……国を捨てると決めたのも、根っこにはこの言葉があったからだ。
 大陸に渡ってからも、時折そういった連中の存在を耳にはしたが、命を狙われるような事はなかった……ピコと出会って何年か過ぎたあの時までは。
 もちろんそれも、海燕の命が狙われたわけではなく、海燕が彼らの仕事の邪魔をした結果である。
『……お前1人で、全員倒したのか?』
 眼差しこそ大人びてはいたものの、顔立ちにまだ幼さを残す少女にそう問われた。
『ああ…』
『……何故?』
『命を狙われた……どうやら俺が、やつらの仕事の邪魔をしたらしい。何度倒してもキリがないから、直接ここに来た』
 やつらの仲間でないことははっきりしていたから素直にそう答えたのだが。
 少女は、海燕が倒した連中に視線を向け……首を振った。
『お前、見た目通りの子供で何も知らないのだな……』
 その言葉に腹を立てたピコをなだめ……海燕は、黙って少女に背を向けたのだが。
『仕方ない、子供に色々教えてやるのは戦う者の義務だ…』
 などと、頼みもしなかったのに……ピコが複雑そうな表情で見守る中、少女は海燕の傷の手当てを開始し、そして、今自分たちがいる場所がどういうところかという部分から話を始めた。
 怒りも、哀しみも、喜びも……狂気すらなく、漁師が漁に出るように、農民が畑に出るように、彼らは、淡々と人を人と思うこともなく、依頼を受けて人を殺し続ける。
 むろん、最初からそうだったというわけではなく、彼らは自分たちの心を守るため、人を人と思わなくなっていき、それにつれて命を奪うという気負いもなくなり……最後に、殺気そのものがなくなってしまうのだと。
 この後の経験によって、少女の言葉が間違っていないことを知るのだが……この時点では、まだ半信半疑という感じで聞くだけだった。
 そんな海燕の様子をわかっていたのに違いないが、少女は特に怒った風でもなく説明を続け……最後になってようやく哀しげな表情を浮かべた。
『……奴らは、哀しい連中だ。だから怒るな、そして恨むな。もし、奴らが自分のやっていることに苦しんでいるのなら、苦しませずに殺してやれ』
 それから3日程、少女とは行動を共にし……多くの戦闘の合間をぬって、毒を含めた薬に関することをはじめ、天気、生物についてなど、生きていく上で重要なことを色々と教えてもらった。
『お前は子供だが、剣の腕だけは確かだ…それは認めてやる』
 十数度の戦いの後、少女はそう呟き……ちょっと笑った。
『お前とは、ここでお別れだが……また会うことになるぞ。私の勘は当たる。だから私を信じろ』
 そう言って、笑ったまま背を向けて去っていた少女……結局、海燕とピコが少女の名を聞かなかったことに気づいたのはしばらく経ってからで、自分たちが壊滅状態に追い込んだ連中が、その地域でかなりの名の知れた暗殺集団というか、後ろ暗い仕事を引き受ける一部族だったことを知るのは、もっと、ずっと後のことである。
 余談だが、さんざん年上ぶった態度を取った彼女が、自分より一つ年上に過ぎないことを海燕が知るのは、再会した後のこと。
 
「……『それ』で俺の間合いに踏み入った時の命の保証はしないぞ」
「それが理解できないほど無能ではないつもりです」
 そう応え……首からさげた十字架をルーナは右手で握りしめた。
「ゼールビス神父の、お知り合い……なのですか?」
「その名に心当たりはある……が、だとしても好意的な知り合いとは言い難いな」
「神父は、貴方のことを語るときとても穏やかな……昔なじみの親友を語るような微笑みを浮かべていらっしゃいました」
「俺の知るミハエル・ゼールビスにとって、俺という存在はある種の仇のはずだが」
 ルーナは首を振った。
「……私も、詳しいことは存じません」
「と……すると?」
 独白にも似た海燕の呟きには反応を見せず、ルーナは微かに両腕を広げ……どこか透明感のある微笑みを浮かべた。
「元暗殺者のシスターに、テロリストとされている神父のいる教会……」
「……」
「入国はもちろん、存在そのものを見過ごすこの国のあり方」
「……何が言いたい?」
「この国の人間でもない、傭兵の貴方が汗を流すのはばかばかしいとは思いませんか?」
 先ほど吹き始めた風……それが、凪いだ。
 ルーナが、何を言いたいのか、何をさせたいのかはともかく……その言葉の表面だけをとらえて答えるならば、まさしくその通りだろう。
 故郷だからというだけでなく、この先、ここで生きていこうとする人間が、この地のために血と汗を流す……多分それは、真実に限りなく近いところにあるはずだ。
 ルーナに対して、『確かにそうだ』と言葉にするのは難しくないし、ただ頷いて同意を示すことはさらに易しい。
 だがしかし……。
 ふっと、海燕は空を見上げた。
 上空は風が強いのだろう……青空の中、雲の動きは激しい。
 ピコの仲間を探すことを決めてから、戦場を渡り歩きつつも、機会を見つけては書物を手に取り、傭兵仲間や土地の老人に話を聞くことで……いろんな言葉に触れ、様々な知識を得たのだが。
 ルーナの問いかけに対し、既に海燕の答えは決まっている……だが、自分の気持ちを正確に表す言葉を探しあぐねていた。
 養父、傭兵仲間、旅人、商人……書物から得た言葉と違って、人と関わることで触れた言葉は、否応なしに彼らとの記憶を海燕に思い起こさせる。
 
『困ってる人がいて、それを助けられるキミがいる……だったら、助けるのが当たり前だよね?』
 
 ピコに、何度も言われた言葉。
『人間って、良くわからない…』そう言って悩むピコが、海燕に『当たり前』を説くのは矛盾なのだろうが……海燕が、それを感じたことはほとんどなかった。
 生きるだけで精一杯だった最初と違って、戦場を渡り歩くようになってから、自分自身に対するリスクだけでなく、相手に与えるそれもよく見えるようになり、人との関わり合いを自然と避けるようになった。
 しかし、それがただの言い訳に過ぎないことを、海燕自身がちゃんと気づいていたからだろう。
 別にピコだって、無制限に誰でも助けろと言いたかったわけではなく……人との関わり合いを避けようとする海燕に対するカウンターというか、大仰な言い方になってしまうだけで。
『キミは、人間達がいう神様にはなれない……だから、キミが困ってる人全員を助けることが出来ないのは私だってわかってる。だから…だから…』
 あの後、ピコが何を言おうとしていたのか……。
「誰を助けるか……それを考え、悩む事……多分、それが大事なんだよ…ってとこか」
 そう呟き……海燕は、口元に微かな笑みを浮かべた。
「そうだな…10年も一緒にいたんだ……そりゃ、わかるさ」
 あの時以来、強く感じていた自分の中の虚無……それが、ほんの少しだが埋まった気がして、海燕はちょっと笑い……目を閉じた。
「神は全てを知り、全てを許す…か」
「……?」
「俺は、神など信じないが……言ってることは少しわかったような気がする」
 そう言って、海燕はどこか困惑した様子のルーナに視線を戻した。
「今、この場にいなくとも……俺がやることを、じっと見つめる何か」
「……」
「それは、自分自身でもあるし、人によって神であり、両親であり、友であったり……これまで殺してきた相手だったりするんだろうな」
 ルーナの表情から困惑が消え……どこか祈るような視線を海燕に向けてくる。
「俺は、その何かに対して顔を背けてしまうような真似はしたくない……それで答えになってるだろうか?」
 海燕とルーナはしばらく見つめ合ったが……先に視線を外したのはルーナの方だった。
「……貴方を衝き動かすモノは、貴方自身ではないと言うことですね」
 ルーナの唇が紡いだ言葉は、呟きといえたが……しかし、海燕の耳にはしっかりと届いていて……そんな表現も出来るのだな、と感心した。
 まだ存命かどうかもわからない、遙か遠くの故郷にいるであろう養父。
 かつて心を通い合わせたはずの、もう二度と会うことはない少女。
 そして……ピコ。
 多分、この3人の他にも、自分が意識をせずとも何かしらの影響を受けた出会いが少なからずあったはずで。
 自分が何を思い、何を為すか……多分それは、これまで関わってきた人間がそうさせるのだろう。
「そうだな…」
 海燕は小さく頷き、繰り返した。
「確かに、そうだ」
 欺瞞かも知れないが……そう思う限り、彼らはいつもそこにいる。
「……わかりました」
 感情を表に出さず、ルーナはそう呟いた。
「俺個人として、ゼールビスに対して遺恨は何もない……他に言えるのはそれだけだ」
「……」
 ルーナの、問いかけるような視線に応えて。
「惹かれているんだろう、ゼールビスに」
「……」
 ルーナの気配が微かに乱れ……しかし表情は動かず。
「私の生まれた地方には……『風が強く吹く時、人生が大きく変わる』という言葉があります」
「……」
「あの方は、私に何かを言ったわけでもしたわけでもありませんが……私の心に、強い風を吹かせたように思います」
 そうして彼女が浮かべた微笑み……それを見て、海燕は近い将来ルーナを斬る事になる予感を覚えた。
 一旦凪いだ風が再び吹き始め…草を鳴らし始める。
「……他に、話すことはあるのか?」
「そうですね…」
 ルーナは微笑みを消し……海燕を見つめた。
「貴方に情報を差し上げます」
「……?」
「去年の今頃、プリシラ王女が城を抜け出し、その捜索のために騎士団および傭兵まで招集がかけられたことを覚えてますか?」
「あったな…俺はちょうど出かけていて、招集を無視した形になったが」
「その場にいれば、貴方ならすぐに茶番だと気づいたはずです」
「……」
「王女を捜索するにあたって、騎士、傭兵ともに、数人グループで各地域に散ったわけですが、手助けとしてグループに1枚、王女の似顔絵というか、肖像画の写しが渡されました」
 海燕の眉が微かに上がった。
「……なんだと?」
 ルーナが小さく頷き。
「王女の姿が城内から消え、招集まで……そんな短期間で肖像画の写しを大量に用意する事は不可能でしょう」
 傭兵連中に聞けばすぐにわかること……それ故に、ルーナの言ってることは嘘ではあるまい。
「……ふむ」
「多分、道行く人間に肖像画の写しを見せて尋ねる無能な連中もいたでしょうね」
「騎士団および傭兵連中まで招集して、わざと騒ぎにした……そう言いたいのか?」
「それもありますが……騎士団の人間に、王女の肖像画の写しがはたして必要なのでしょうか?」
「……騎士と言っても、上から下までピンキリだろう。王女の顔を近くで見たことない連中だって少なくはないはずだ」
「……確かに」
 ルーナは、一応海燕の言葉を受けてみせた。
「……エリザベス事件をご存じですか?」
「いや?」
「3年前……他国のスパイが城勤めのメイドとして働いていたと、宮内局から発表がありました」
「ほう」
「……身柄を拘束する前に自ら命を絶ったので、詳細は不明という事になってます」
「特に珍しい事件でもないな」
「ええ、ただ……元々病弱と言われ、あまり人前に姿を現さなかったエリス王妃が、この事件の後、現在に至るまで一度も公式の場に姿を見せていません」
「なるほど……他国のスパイという発表も怪しい、か」
 と、海燕。
「……それと前後して、プリシラ王女もまた人前に姿を現す回数が極端に減りました」
「ふむ……俺の抱いている印象とは異なるな」
 特に情報を集めているわけでもないし……まあ、戦争中と言うこともあるのだろうが、軍施設や戦争孤児などの施設などの慰問など、姿をさらす回数は多いとも海燕には思えるほどで。
 そんな思考を読み取ったのか……ルーナは、薄く笑って言った。
「貴方の言う王女のそれは、去年の8月末の騎士団の駐屯地の慰問を行った後のことでしょう……あれは、王女として8ヶ月ぶりの公務でした」
「……」
 海燕はルーナの顔を凝視した。
「ええ、施設の慰問をはじめとして、随分と積極的に皆の前に姿を現す今の王女からすると、不自然きわまりないですね」
「失踪騒ぎの後……からなのか?」
「そういうことです……あまり人前に姿を見せないモノだから、一時は母親であるエリス王妃共々重病説までささやかれたほどでしたのに」
「……」
「まあ、疑えばキリのないことです……成長期の女性は、1年経てばがらりと印象が変わることも珍しくありません。人前に姿を現さない期間を設けてから、わざわざ肖像画の写しを用意する失踪騒ぎを起こしたのも、王女はこういう顔だったと騎士連中に印象づけるためだったという考えが邪推といわれれば…」
 自分の言葉が、相手にどう作用したか……それを確かめるかのように、ルーナは言葉尻を捨ててじっと海燕を見つめている。
 そんなルーナの視線を気負いなく受け止めつつ、海燕は口を開いた。
「思惑があってのことだと思うが、情報をくれたことに対してまずは礼を言う」
 微かな困惑の気配とともに、ちょっと視線をそらすルーナ。
「俺の方から聞きたいことがある」
 視線をそらしたまま、ルーナが呟くように応えた。
「……なんでしょう?」
「何か状況の変化があったと思ってよいのか?」
「……どういう意味でしょうか?」
「わざわルーナが俺に接触を求めてきたのもそうだが……今の情報、ゼールビスがそれを求めたというわけではあるまい」
 ルーナはちらりと海燕を見て……再び視線をそらした。
「……じきに、わかります」
「そうか」
「……」
 ルーナが、顔を動かさず目の動きだけで海燕を盗み見る。
「なんだ?」
「いえ」
 再び目をそらしながら。
「確かに思惑があって、貴方に会いに来たわけですが……貴方と言葉を交わせてよかったと思っています」
「それは、俺もだ…」
「そうですか…」
 と、ルーナは微笑みを海燕に向けて。
「また、機会があれば……話をしても構わないですか?」
「ああ、ただ……ルーナの思惑通りに動くとは限らんぞ」
 海燕のその言葉に対して、ルーナの返答はなかった……。
 
「用件は?」
「東洋人っ!」
「メッセニ」
 言葉プラス、いいから……と、王女は視線と手の動きでメッセニを制した。
「珍しいわね、貴方が素直に呼び出しに応じてくれるなんて」
 どこか皮肉な響きだったが、海燕は気にせず答えた。
「メイドが可哀想だったからな」
「あら、歴戦の傭兵といえども、女の涙には弱いって事かしら?」
「俺を連れてこないと、わがままで横暴な王女に厳しく折檻された上に首になると、涙ながらにしがみつかれてはな」
「……」
「ごほんっ」
 メッセニが咳払いをした。
「中佐が、咳払いにとどめるということは事実か?」
「…事実なら、何か問題でも?」
「にらむなら、中佐をにらめ」
「ごほん、ごほんっ」
 と、咳払いで対抗するメッセニには目もくれず……王女はちょっと笑って海燕を見つめる。
 その視線を気にした風でもなく、海燕もまた王女に視線を向け……ふっと、その輝くようなブロンドに視線を止めた。
 それに気がついたのか、王女が薄く笑った。
「そういや、東洋にはこういうブロンド美女はいないんですってね」
「……」
「ちょっと、反応しなさいよっ!?」
「ん、あぁ…いわゆる東洋人種にブロンドの持ち主はいないな、確かに」
 そう答えながら、海燕は同じくブロンドの髪を持つ病弱な少女の顔を思い浮かべていた。
 プリシラ王女の母親であるエリス王妃は、ピクシス卿の娘であるから……2人は当然従妹ということに…。
「そこは、『誰がブロンド美女だ?』みたいなツッコミをいれるところじゃないかしらっ!?」
 王女の言葉が、海燕の思考を中断させ。
「……」
「……な、何よ…?」
「別に謙遜することもないだろう」
「ほめてくれてありがとう……と、言うべきなの、それは?」
 と、首をかしげる王女に。
「まあ、まだ少し幼さを残している印象があるから、美女という言葉は少し不正確かもしれんな…」
「東洋人っ!?」
 と、メッセニがこめかみの血管を破裂させる勢いで怒鳴る。
「メッセニ、うるさい」
「しかし…」
「変わり者にはね、変わり者に対する接し方ってのがあるの……頭ごなしの命令で心を動かすような人間じゃないからこそ、私達もこいつを信用できる……違う?」
「しかし、傭兵などの手を借りずとも…」
「まだそんなぬるいこと言ってんの?」
 王女が呆れたように呟いた。
「はっきり言わせてもらえば、王や貴族が万能であるという幻想の時代は終わるのよ……そもそも、全部を自分1人で出来ないから家臣がいるんじゃなくって?その家臣の範囲が広がる時代がきてるの……いいかげんそれぐらいは悟って」
「……は」
 それが本音なのか建前なのかはともかく、海燕は少し目の前の王女を見直すつもりになった。おそらく、東洋圏だろうが全欧圏だろうが変わりはないだろうが、王という地位はかつて、絶対的という意味で神に近かった。
 それが時代と共に、少しずつ人に近づいていき……それを時代の流れというならば、おそらく最後に王は人そのものになるのだろう。
 いわば底辺を這う海燕と違って、王女という身分にありながらそれを語るのは、かなりの困難を伴うはずだが……少女は、そこを軽々と飛び越えたのか。
「(だが……危ういな)」
 と、海燕は心の中で呟く。
 自分が軽々と飛び越えたからと言って、それを周囲に要求するのは困難というより無謀だった。
 王政から共和制へ……現在、ドルファンを取り巻く周囲のレベルを越えたところを先走っているとしか思えない。
「……で、俺は帰っていいのか?」
「いや、ちょっと待ってってば」
 と、駆け寄った王女が手首をつかもうとするのを、海燕は反射的に避けた。
「……?」
「いやいやいや、そこまで嫌わなくとも。気まぐれだかなんだか知らないけど、私の呼び出しに素直に応じてくれたのは初めてなんだから…」
 王女の言葉を聞きながら……海燕は、のどの奥に小骨が刺さったような違和感を覚えていたのだった。
 
 8月1日に予定されている、アルビア国皇太子アム・シュードラの来訪に向けて……いわゆる、国内の掃除。
 何故、傭兵である自分が警備隊の手助けをしなければならないのか…と、海燕が疑問を抱く以上に、警備隊の人間は、海燕の存在に眉をひそめていたりする。
「……5分ですむ話を」
「は?」
「いや、独り言だ…」
「そうですか」
 まだあどけなさの残る……と言っても、本来は海燕と同年代なのであろうが……青年は、海燕に向かって屈託のない笑みを浮かべた。
「心強いです」
「…?」
「自分は、あの時……サーカスから逃げ出した猛獣が市民を襲っている現場にいました」
 外国人……というより、一目で異邦人と知れる東洋人の海燕に対して、こんな目を向ける人間はこの国でごく少数派だ。
「あの時……自分は警備隊員ではありませんでしたが」
 言い訳、というよりどこか恥じるように俯き、青年が呟く。
「……トルクをご存じですか?」
「……多少は、な」
 一言で言えば、『トルキア人バンザイ、外国人は出て行け』の排他的選民思想。
「あの時、あの場にいて……トルキア人が無条件で優れている、などと考えていた自分を恥じました」
 青年は、顔を上げ……祈るような表情で海燕に訴えた。
「この国を、嫌わないでください」
 素直……というより、純朴なのだな、と海燕は感じ……それゆえに危うさを覚えた。
 
「……なかなか頑強な抵抗だった、が」
 城西区のヴァネッサ支部捜索……とは名ばかりの戦闘を終えて、海燕は呟いた。
 負傷し、拘束されたまま連行されていく連中は、ほとんどがヴァネッサの活動員……正確にはアウル・ヴァネッサに所属する者達であること、アウル・ヴァネッサはヴァネッサと呼ばれる活動グループの中で過激派に位置する集団であること……などを教えてくれた青年もまた戦闘の際にそれほど深刻ではない負傷を受け、今は治療を受けている。
「隊長、発見しました…情報通りです」
 どうやら、戦闘へと移行するきっかけとなった場所の捜索によって、爆発物が複数発見されたようだ。
「……俺は、まだここにいる必要があるか?」
「あ、いや…今日は、良くやってくれた」
 邪魔者扱いなのは間違いなかったが……言葉を多少選ぶようになったあたり、先の戦闘による海燕の働きは、王女なりメッセニの口利きよりも効果があったらしかった。
「余計な世話かも知れないが…」
「なんだ?」
「あの男…」
 と、海燕が指を指す。
 都合、8人を生きたまま逮捕したのだが……そのうちの1人、海燕が真っ先に戦闘力を奪い取った男。
「やつは、おそらく現役の軍人だ」
 どこの、までは口にしない。
「……」
 海燕を見つめる隊長の視線は動かない。
 口を開くことはもちろん、呼吸すら乱すこともない様子に……かえって、それは意志の力が強く働いている事を知らせた。
「……口出しして、すまなかった」
 そういって、海燕が頭を下げた瞬間……ほんの微かだが、隊長の表情に好意的な何かが浮かんだが、すぐに消えて。
「今日はご苦労だった…帰って休んでくれ」
 
 その後も、いくつかの活動グループの支部を捜索したようだが、海燕がプリシラ王女に声をかけられる事はなかった……。
 
 そして8月1日。
 
「うわー、潮くさい、髪がべたつくー」
「まあ、海のそばだからな…」
 髪をいじる手を止め、少女はちょっと海燕を見つめた。
「ねえ、なんかあったの?」
「……どういう意味だ?」
「……なんか、ちょっと明るいというか、吹っ切れたというか……こう、いかにもな感じの暗い影がちょっと薄れたというか…」
「……ボキャブラリーが豊富なんだか貧弱なんだか…」
「そういう言葉の返しにも、心の余裕を感じるわね」
「ふむ…」
 海燕はちょっと少女を見つめ。
「多少、心境の変化があったことは認める」
「ふーん…」
「……で、ティーナにも何かあったか」
 ティーナは、海燕がそうしたようにちょっと海燕を見つめて。
「多少、心境の変化があったことは認めるわ」
「そうか」
「そうよ」
 挑発的な目で、つん、とあごを突き出してみせる……が、海燕は相手にしない。
「で、ドルファン港をぶらぶらするだけか?」
「あれ、知らない?今日、アルビア皇太子がやってくるの」
「……」
「いや、これが格好いいのよ……貴方にはちょっと負けるけどね」
「世辞はいらん」
「そう…」
 と、ティーナはちょっと口をつぐんで距離を取り……前髪をかき上げながら海に視線を投げた。
「私も、お世辞は言われるのも人に言うのも嫌いよ…」
「……」
「綺麗な言葉は、それを吐いた人間の中に醜さだけを残していくもの…」
「なるほど、そういう部分は確かにあるかもしれん」
「……」
「……ティーナ」
「なに?」
「まだ、王女の身代わりを務めているのか?」
 身体を硬くするでもなく、ティーナは平然と振り返った。
「なんで、そう思うの?」
「同じ香水を使っているな」
「それだけ?」
 ティーナの微笑み……夏だということを忘れさせるぐらい、ぞっとするような凄みがある。
「その顔は、あまり人前では見せない方がいいな」
「……それだけ?」
 と、ティーナはちょっと虚を突かれたように呟き……くすっと笑って言った。
「私、貴方の目が好きよ」
「……それは、初めて言われた」
「虚実を見抜くのとはちょっと違う……そこにあるモノを、ただそこにあるモノとして捉えるとでも言うのかしら」
「……よくわからんな」
「でしょうね」
 そう言って、ティーナがまた笑う。
 さっきとはまるで違う、柔らかい、人を惹きつける笑顔だった。
「あ、来たわよ…」
 と、ティーナが指さす先に……黒い粒が見える。
「まだ遠いのに、良くわかるな…」
「アルビアの船はね、ドルファンのモノとは違うの」
「……速いな」
 小さな黒い粒がみるみる大きくなり、その威容を周囲に示し始める。
「海の護り手アルビア……か」
「ええ…そうね」
 
「……貴方なら、警備をかいくぐって斬り込めたかしら?」
「護衛の腕というより、覚悟によるな」
「覚悟…?」
 ティーナがちょっと首をかしげた。
「護衛の人間が10人程も、皇太子をかばうように身を投げ出せば、剣はもちろん、銃弾も届かない……まあ、爆発物が人気なのは、そういう理由もある」
「死ぬ覚悟…ってことね」
 厳重な警備と共に、見物人までも引き連れる格好で皇太子が去ったドルファン港は、どこか閑散とした気配が漂っている。
 おそらくは、警備の問題上、船の出入りを制限しているからだろうし、アルビアの軍船が周囲を警戒もしているのだろう。
「……皇太子の姿、見えた?」
「ああ」
 遠目ではあったが、日の光を受けて輝く金髪が印象に残っている。
「まあ、ある程度予想はしていたが、若いな」
「貴方が言う?」
「一般論だ……王女の、3つか4つ上ってところか」
「……さすがにそろそろ、結婚相手を見つけなければいけない年齢よね」
 それはどちらに対してだ……という言葉が出かかったが、海燕は直接それに触れることを避けて別の言葉を口にした。
「……一人娘というところがネックか」
「それはないわ」
「……?」
「アルビア皇太子と、プリシラ王女の政略結婚はあり得ない」
 何故、そう言い切れる……という疑問とは別の言葉を探した。
 今日、というより今交わされている会話が、かなり微妙であることを意識してのことなのだが…。
「暗殺を依頼するような口ぶりだな」
「依頼したら、受けてくれる?」
「俺は、護衛を引き受けても、暗殺は引き受けない」
「……」
「殺すべきだと判断したら、俺は自分の意志で殺す……傭兵として戦場を渡り歩く人間が言って良い言葉じゃないのかも知れないが、人の命を奪うという判断を他人任せにはしたくない」
「それは……あなたが死神だから?」
 『死神』という呼び名を、目の前の少女が知っていたことに驚きは感じなかった。
「死神、か…」
 本当なら、死神は殺す相手を選べはしないのだが……結局、自分の『死神』という呼び名は戦場を渡り歩くことで一人歩きしたモノに過ぎないか、と海燕は心の中で呟き。
「そうだな、それもあるかもしれん」
 と、曖昧に肯定した。
「そう…」
 と、ティーナは、海燕をじっと見つめて。
「……殺すべきだと判断したら」
 伊達や酔狂ではなく、真剣な瞳で。
「貴方は、私を殺してくれる?」
 二人の間に降りた重い沈黙……それを破る義務を課せられた気がして、海燕は口を開いた。
「……やはり、何かをやろうとしているんだな」
 その問いかけに、ティーナは首を振った。
「違う…私は、もう決めたのよ」
「……」
 海燕の視線から逃れようと……したわけではなく、ただ単にティーナが海に視線を投げたように思われた。
「ねえ、『初めて』会ったときの事、覚えてる」
「ああ」
 ふふ、とティーナはちょっと笑って。
「本当かしら……と言いたいけど、あなたは本当にわかっているんでしょうね。わざと、王女の気配に似せて現れたときも、貴方は瞬時にそれを見抜いたもの」
「……これから何をやるのか、俺に教えたいのか?」
「そうね、無防備すぎるわね、今の私」
 と、テーィナは再び笑って。
「本当……何を言ってるのかしら…」
「迷っているのなら止めてやる……が、既に決めたんだろう?」
 ふっと、ティーナが冷めた視線を海燕に向けた。
「余計な知恵をつけたのは、あの娘ね」
「つながりを認めるような発言は避けた方が良いな」
 冷めた視線のまま、ティーナが返す。
「ええ、あなたも」
「……とはいえ、1つだけ聞きたい」
「なに?」
「何故…決めたんだ?少なくとも、『初めて』会ったときは、そういうこと全てを放棄していたように思えたが…」
 ティーナは何も答えず、ただじっと海燕を見つめ。
 どのぐらいそうしていただろうか……テーィナは、海燕を見つめたまま口を開いた。
「強いて言うなら、あなたのせいよ」
 ティーナが何を意図してそういう表現を使ったのか……ただ、『あなたのせい』という言葉が、海燕の心に影を落としたのは確かだった。
 
 その2日後に、皇太子が視察を予定していた王立美術館で爆発物が発見されて予定が変更された……事を除けば、8月5日に皇太子は予定通りドルファン港から帰国の途についた。
 余談だが、プリシラ王女は皇太子見送りのためにドルファン港に足を運び……その親密さをうかがわせる行動が、周囲に対するアピールなのか、それとも親密さ故の行動なのかを知るのは本人のみである。
 なお、王立美術館に仕掛けられた爆発物に関しては、8月7日にフェンネル地区のヴァネッサ支部にかくまわれていた、スエズ解放戦線メンバーの一人、モハメド・アジルが警備隊の手によって逮捕されている。
 
 さて、ドルファンとは別に、この8月はトルキア半島における情勢が大きく揺れ動いた月と言って良い。
 先月、アレイス派とクルガニム派の間で休戦協定が結ばれたトルキアにおいては、アレイス家を後押ししていたシベリア軍の撤退を終了するやいなや、クルガニム派が牙をむいた。
 先に合意した休戦協定が、シベリア軍を撤退させるための方便に過ぎない事を、この上なくわかりやすい行動を持って証明したわけだが、当然これにはクルガニム家を後押しするゲルタニア軍の意向も含んでのことである。
 ゲルタニアとしては、クルガニム家がアレイス家を打倒する形で国の混乱を収めない限り、助力に対する大きな見返りが与えられないからである。
 後に、このだまし討ちにも似たクルガニム家および、ゲルタニア軍の行為に対して、周囲諸国の非難が集中し……ゲルタニアでは、現コール首相の解任提案が可決され、共和制が施行されてから連続で政権を守ってきた共和党に代わって、新トルク党が政権を奪うことになるが、これは11月の事。
 ちなみに、新トルク党はその名の通り排他的な政治思想をもつ政治集団であり、党首はゲルタニア・プロキア戦争において国の危機を救い、英雄と称されたハインリヒ・ゲーツ大佐……が、首相としてゲルタニアの舵取りを始めることになる。
 
 そしてプロキアだが、これはドルファンにおいても影響を与える動きである。
 プロキア南東部のイエルグ伯が独立を宣言し、プロキア国盟主のヘルシオ公とのにらみ合いが続いていたわけだが……やはり、南東部入り口に当たるログローニュでの戦闘において苦戦を強いられ、後退したことが侮りを生んだのだろう。
 プロキア北西部のヘルドマン家が、独立を主張したのであった。
 南東部のイエルグ伯に対して、北西部のヘルドマン家……確かに両者の連携も難しいが、それに対応するヘルシオ公も苦しい。
 元々、ヘルドマン家はハンガリアとの関係が深いと見られ……この独立を主張する動きの裏で、ハンガリアが虎視眈々と爪を研いでいるのは想像に難くない。
 ましてや、これを放置しておけば、第二第三と、独立を主張する家が出てきても不思議はない。
 苦境に陥ったヘルシオ公が選んだのは……いみじくも、酒場で海燕がグレッグを相手に語った『ヴァルファを雇う』という手段であった。
 ヘルドマン家の独立の主張から、ヴァルファへの使者派遣までに費やした10日という時間は、『ヴァルファの行方は不明』というプロキア側の発表の裏に隠れた何かを糊塗するためなのか、それとも本当に居場所を特定するまでにそれだけの時間がかかったのかは不明である。
 何はともあれ、使者を受けてヴァルファは首都プロキアへ移動……ヘルシオ公は即座にヴァルファと契約したこと、近く北西部のヘルドマン家を攻める意志があると発表。
 と、ここでヘルドマン家当主である、バスク・ヘルドマンの腰が砕けた。
 ヘルシオ公に対して恭順の親書を送るだけでなく、次女を側室にいれる意志があることを伝え……まさに命乞いにも似たその態度に、周囲は冷笑を浴びせた…。
 だが、この側室に入った次女が、後にプロキアの歴史を動かす役目を果たし、ヘルドマン家当主の命乞いが策略だったことを明らかにするのだが……これは、3年という期間で語られるこの物語とは別の話になる。
 もちろん、プロキアには南東部のイエルグ家、ドルファンにはダナンのベルシス家という問題を抱えている以上、停戦条約を結べる状態にはないが……ダナンを追われた格好とは言え、ドルファンに対して敵対を表明したヴァルファを雇い入れたプロキアとの間に、当然摩擦は生まれる……。
 
「……何してるのさ、海燕」
「いや、人を待っているだけなんだが」
 ハンナはちょっと海燕の顔に目をやって。
「いつから…そうしてるの?」
「今日で3日目だな…」
 ハンナには珍しい、うかがうような表情で。
「……この学校の…生徒?」
「…の、はずだ」
「この前、ボクが邪魔しちゃった…あの娘…かな?」
「ああ、そうだ…どこに住んでるかも知らないからな、まあ、ここで待ってれば通りがかるかと」
「あのさあ…」
 ハンナは前髪に指先を埋め……呟いた。
「夏期休暇って、知ってる?」
 半瞬の間をおいて。
「……そういえば、あったな」
 と、頭をかいた海燕に、ハンナが追撃をいれた。
「ついでに言えば、今日は日曜」
「なるほど、待っても無駄か……ありがとう、ハンナ」
 仕方ない…と、そこから立ち去りかけた海燕の背中に、ハンナが慌てて声をかけた。
「いや、3日間もまってるのに、諦めるの早すぎない?」
「3日といっても、待ってたのは登校時間だけだが」
「それはそれで…生徒そのものががやってこないな…ぐらいは気づこうよ。ボクに言われたらおしまいだよ、ホント…」
 
「なんだろう、今日は海燕がとても優しい気がする…」
 と、海燕に買ってもらった胡桃パンを一口かじり……ハンナは慌てて首を振った。
「い、いつもは優しくないって意味じゃないよ。こんな風に目に見えて優しい態度を取ってくれるのは珍しいなあって…」
「まあ、人目につかない場所だからな…」
「……それで、海燕が探してるのってハイマーさんだよね」
「ハイマー…?」
 海燕は少し首をひねり。
「いや、ライズという名前だが」
「……だから、ライズ・ハイマーさん」
「ああ、なるほど…」
 さすがに、『ライズ・ヴォルフガリオ』…もしくは『ライズ・ドルファン』などと名乗りはしないか…と、頷く海燕。
 ハンナは、再びパンをかじり……今度は絞りたてのフレッシュジュースを一口。
「学校ではほとんど誰とも口をきかない娘だよ…いつも一人で、本を読んでる感じ」
「詳しいな?」
「……何で詳しくなったんだろうね」
 と、これは海燕に聞こえないように。
「で、多分学校で唯一口をきくのが、ソフィア。えーと、ソフィア・ロベリンゲ」
「ふむ、知らないな」
「……知ってるとか言われたら、海燕の印象変わっちゃうよ…」
 ぶつぶつと、ハンナ。
「…と言っても、親しいって感じじゃないよ。なんか、ソフィアが色々と気を遣って、断り切れずにって…とこかな。でも彼女なら、どこに住んでるか知ってるかも」
「なるほど……」
 それは結局、何の解決にもなってないような気がしたが、海燕は頷いて見せた。
 パンの残りを食べ、ジュースを飲み干すと……ハンナは、1つのびをした。
「今の時間なら、ソフィアの居場所はわかるんだ。ついて……人目を気にかけるなら、離れてついてきてよ」
 
「ここだよ」
 と、ハンナが海燕を連れてきたのは劇場で。
「ここで、研究生とかいうのをやってるんだ、ソフィア。まあ、役者の卵ってやつかな」
「……むう」
 長年、戦場を渡り歩いた歴戦の傭兵……とは別の、いわゆる男の勘が、ここには足を踏み入れない方が良いと海燕にささやくのだが。
 緊急でもないが、ゆっくりともしていられない……という事情から、海燕はそれを無視した。
 もちろん、海燕の内部葛藤に気づかず、ハンナは既に裏手のドアの取っ手に手をかけていたところで。
「こんちわー」
 慣れているのか、それともただ無頓着なのか……ハンナは、挨拶と共に気軽な感じで中に入っていき、海燕もそれに続いた。
 今日は日曜。
 当然、この劇場では公演があり、その準備が始まっているわけで……当然、公演に出る役者も集まっているわけで……。
「……え?」
 海燕を見た瞬間、彼女は……これまでに見たことがなかった表情を浮かべて。
「あ、やだ…嘘みたい……」
 と、どうやら盛大に勘違いしている模様で。(笑)
「ごめん、海燕…今、ちょっと用事で出てるって」
 と、そこにやってくるハンナ。(笑)
 ぱあっと輝くようなティーナの微笑みが、どう変化したかについては省略するが……ティーナの視線はハンナへと向けられた。
「うわあ……女連れでやってくるって、どういうリアクションを期待されてるのかしら、私も役者として、それに応えなきゃいけないんでしょうね」
「いや、ここにソフィアという少女がいると聞いて来たんだが…」
「挙げ句の果てに、他の女に会いに来たなんてふざけたことぬかしてくれてますわよ、この男……」
「……すまん、部外者なのはわかっていたんだが」
 冷静になったのか、それとも周囲の目を気にして冷静さを繕うつもりになったのかはわからないが、テーィナは『そうね』と頷いた。
「ねえ海燕、この綺麗な人って知り合い?」
「ああ」
「……」
「……どうした、ハンナ」
「……別に」
 と、何故かこっちも微妙に不機嫌。
 ハンナの様子を見て、ティーナは少し鷹揚さを示そうと思ったのか。
「……ソフィアなら、ちょっと買い物を頼んだだけだから、すぐに戻って…」
「ただいま、戻りました」
 と、声をかけながらやってくる少女の姿。
「ああ、ソフィア。ちょうど良かったわ…」
 ティーナが事情を説明するより先に。
「あっ」
「おや…?」
 おそらくは、テーィナに買い物を頼まれた品物を取り落とし……少女は、海燕の顔を見つめている。
「そうか…お前が、ソフィアだったのか」
 ドルファン港に降りたってすぐに巻き込まれた……海燕にとっては、トラブルとも呼べないトラブル。
 そして、2人の後ろでは…。
「うわあ、思いっきり訳ありの知り合いじゃないのよ…」
「ボ、ボクの中の海燕の印象が変わっていくよ…」
 と、1人は苦々しい表情で呟き、1人は頭を抱えて悩んだりしていたのだった。
 
「……」
「……」
「……」
「……ハンナ」
「何さ?」
「別に、無理に案内してもらわなくても良いんだが?」
「別にー、暇だしー、全然無理でも何でもないしー」
 ソフィアはライズがどこに住んでいるかを知っていた……が、劇場ではこれから公演が始まるわけで、その場を離れるわけにもいかず。
「……とても、そうは見えないんだが」
「ソフィアにものすごく頼まれたしー、ティーナさんにもよろしく言われたしー」
 ぶつぶつぶつ。
「……?」
 何を呟いているのか……と、少し距離を縮めて聞き耳を立ててみると。
「いざというときお前を守れないって、そりゃそうだよね…何人、守らなきゃいけないのさ…」
「……?」
 そんな時が来ないことを祈るが、いざというとき自分がその場にいたならきっとハンナを守ろうとするだろう……それは、海燕にとってわかりきったことなので、反対にハンナの呟きにどういう意味があるのが理解できない。
「そういやー、病院の看護婦さんともー、たまーに会ったりしてるのかなー」
「看護婦……テディのことか?」
「そうだよ−、あの後、ボクすっごくおこられたんだよねー」
「落ちて怪我をするよりマシだろう……というか、怪我でもして病院に行かない限り会うことはなさそうだが、何かテディが関係してるのか?」
「別にー、ボクが知るわけないじゃんー」
 ハンナの投げやり口調は変わらない。
 しかし、それとは別に……ハンナがテディの名前を出したことで、海燕は『アタシは、医者じゃなくアルケミストさ』と自己紹介したメネシスの存在を思い出していた。
 例の、リンダから聞かされた話について、多少お門違いだとしての間違いなく優秀な頭脳を持つ彼女なりの見解を聞くことが出来たなら……何か役に立つかも知れない。
 などと、海燕が考えていたことなどハンナが知るはずもなく。
「別に関係ないけど−、ソフィアと同じでボクの家もこのあたりなんだよねー、まあキミには興味ないと思うけどー」
「ソフィアとは近所だったのか」
「……まあねー」
「……と、すると、ライズとも近所ということか?」
「フェンネル地区っていっても、結構広いし……まあ、住所を聞く限りでは近所って事になるけど…」
 おや、口調が元に……と思ったが、海燕は何も言わず。
「まあ、キミが通ってる養成所の前の道路を抜けて学校に向かうという意味では、フェンネル地区の、同じ区域にあたるかな」
「ふむ…レッドゲートに向かう方角か」
「そうそう、あの時キミが助けたあの子も……あ」
 ハンナの足が止まった。
「どうした?」
「いや、噂をすれば…」
 と、ハンナが指さすよりも早く、女の子はハンナに……いや、海燕の存在に気がついたのか。
「うみつばめさんっ」
 と、こちらに向かって走り始めた。
「…と」
 これはこのまま突っ込んでくるな…と、少し身構えた海燕の読みとは裏腹に、女の子は海燕の前で急停止した。
「おひさしぶりです、うみつばめさん」
「え?」
 と、これはハンナが上げた声。
「ハンナおねえさん。わたしも、そろそろレディとしてじかくをもたなければいけない、としですもの」
「え、いや、そ、そーかな?」
「そうですわ。いつまでも、こどもみたいにはしりまわっているわけにも…」
 と、ここで女の子……アリスははっと口元を押さえて。
「ごめんなさい、ハンナおねえさんのことをわるくいうつもりでは…」
「……」
「ところで、きょうはハンナおねえさんとうみつばめさんは、どういったわけでいっしょにいるのでしょう…」
 ハンナは何とも言えない……いわゆる、しょっぱい表情を浮かべて。
「ごめん、海燕……ボクが悪かったよ」
「何がだ?」
「いや、ちょっと子供っぽいまねをしたかなって」
 つま先立つほどに背伸びしているアリスの姿から、何を感じたのか……それは、ハンナだけが知っていればいいことである。(笑)
 
「……良く、ここがわかったわね?」
「ソフィアに聞いた」
「……」
「……」
「……そう」
 なんか不自然な沈黙だったような気がしたが、海燕は何も言わなかった。
「ソフィアと知り合いだったのね」
「いや、正確に言うと、ソフィアの知り合いのハンナと知り合いだった」
「……」
「……」
「……そう」
 だから、その不自然な沈黙は何の意味があるのか……と、口にはせず。
「ハンナというのは…」
「知ってるわ」
「そうか…まあ、同じ学校の生徒だしな」
「あの時から、やたら私のことをつけ回して、色々と人に尋ねたり……罪な人ね、貴方も」
「……?」
「わからないなら別にいいわ……それより、何か話があってここに訪ねてきたのでしょう?」
「ああ、そうだ…」
 と、海燕は頷き。
「ライズに頼みがある」
「……話だけは聞くわ。受ける受けないは、その後」
「ちょっと時間がかかる……学生としては、夏期休暇だし問題ないのだろうが」
「……だから、話だけは聞くって言ってるでしょう、続けて」
「ちょっとプロキアまで行ってきてもらいたい」
 ライズの顔色が変わった。
 プロキアと聞いてごく自然に連想するのがヴァルファ……すなわち、自分の父親に対して何らかの話があるとでも判断したのだろう。
「いや、首都じゃなく、イエルグ家の方だ」
「イエルグ家って…」
 プロキアのヘルシオ公に反旗を翻して戦闘状態の…。
「ちょっ、まさか貴方っ!?」
 顔色が変わるなんてレベルではないライズの慌てぶりに、海燕は微笑んで。
「そのまさかだ……シンラギククルフォンのグエンに、会って伝えて欲しいことがある」
 
 
続く。
 
 
 ソフィア、再・降・臨っ!(笑)
 いや、こういうところまで真面目に読んでいる方なら、『ああ、今回のあのシーンはアドリブでぶち込んだんだ…』などと、微笑んでしまうんでしょうね。
 いっそ、このままソフィアをスルーするか……とも考えたんですが、おそらく13か14話あたりでおきるイベントにおいて、どう考えても不都合が生じるというか。
 いや、既に予定外のところで話を切った影響がじわじわと……。(汗)
 
 まあ、ついでにアリスも登場させましたが……原作通りなら、もうアリスは生きてないわけですので、このまま死なずにすむ可能性が高くなりましたね。
 
 今、さらっと危険なこと言ったよ!?
 
 などと、慌ててくださる方(特にジーンファンの人とか)がいれば幸いですね。
 まあ、『あのシーン』をアドリブでぶちこんだのは事実ですが、殺伐としてきた話に笑いを盛り込むという事が出来たのでよしと……って、今回話が1ヶ月しか進んでねえじゃん、また予定がずれたじゃねえか……などと、別の意味で悲鳴を上げていたりもするのですが。
 
 さて、余談と言うより、ある意味今回の話の核心なのですが。
 1年目の8月12日、非常招集のイベントについて。
 騎士のみならず、傭兵まで招集されたわけですが……第一次徴募によって集まった傭兵の人数について正確な数は記されていませんが、イリハ会戦、ダナン攻防戦、テラ河の戦い……の3つの戦いを経た時点で、生き残りが百余名という事がわかってます。
 ダナン攻防戦はともかく、壊滅的被害を受けたイリハ会戦などを鑑みつつ、ドルファンという小国の規模も考慮して……最初に集まったのは、300名ちょっとかなと推測したわけですが。
 まあ、仮にこの時(非常招集時)傭兵が200名いたとして、騎士も集まって……ドルファン城の広間は、かなりの人数が集まっていたと推測して問題ないでしょう。
 そこで示される王女の肖像画……あれは、一枚の肖像画を順繰りに見せていったのか、それとも肖像画の写しを用意して、各グループに手渡したのか。
 この部分、高任の創作魂をかなり刺激してくれました。
 何百人からの人間に、一枚の肖像画を……とすると、かなり急いでいるはずなのにその非効率さに眉をひそめざるを得ませんし、肖像画の写しを用意していたとしたら、それは前もって用意していたとしか思えない(活版印刷術云々にしても、原版を作る時間が必要ですね)わけで。
 さて、そう考えると……あのイベントは、一体何が真相だったのか?
 ただ王女が城を抜け出して……などという、単純な大騒ぎでは決してあり得ない。
 ……という風にですね、高任は原作を忠実に読み解いて、お話を作っているつもりなのです。決して無茶な話を書いているわけでは。(笑)
 
 これこそ本当に余談ですが。
 3年目の7月に、第一徴募で集められた傭兵以外は解雇されます。
 で、先ほど述べたように、この時点で傭兵は百余名……この後、戦闘に加わった騎士の3分の1失ったとされるパーシル平野の戦い……と、10月における銀行を襲撃した事件で6人、軍事務局に立てこもって、巨額の金塊と逃亡用の船舶を要求した事件で20人の傭兵が殺されてしまいます。(女子学生に暴行して捕まった傭兵なんかもいますが)
 単純に損耗率が同じだったとすると……首都城塞戦に参加した傭兵は、おそらく40名ちょっと。
 結局、エンディングの時点で残った傭兵は多くて30名というところでしょう……これを考えると、いわゆる傭兵部隊というモノは、最後の戦いにおいて存在しないというか、存在できないことがわかります。
 つまり、主人公というかプレイヤーキャラが傭兵達を指揮して戦いに勝利するというか、戦いの趨勢に影響を及ぼすことが到底不可能で……一騎打ち、もしくはゲリラ的な戦法によって、ある程度の戦果を上げるというのが現実的。
 もしくは、主人公の存在が騎士連中に認められ……るのだろうか?
 まあ、それを言ったら書けない話が多すぎるんですけどね。(笑)
 
 
 と、少し話が逸れましたが。
 海燕が、ティーナと初めて会ったのはいつなんでしょうね、ふふふふ。(笑)
 
1、非常招集のかかった夏の日に、アイスをせがまれたとき。
2、プリシラ王女の誕生日に、身代わりとして現れたあの時。
3、その他。(笑)
 
 ちなみに、高任の好きなレズリーは金髪の持ち主ですよ……と、読み手を戸惑わせることを言ってみたり。(笑)
 
 ま、まさかっ、あの時(7話)カルノーが海燕の前に姿を現さなかったのはっ!?
 
 ……などと、ぶっ飛んだ連想をする方がいてもアレなんですが。
 いや、それはそれで面白そうだよな。
 リ〇ンの騎士のサ〇ァイア姫よろしく、父の敵を討つために性別を偽り……プリシラ王女と恋仲にあったというのも、実はある目的のための強力な同盟を意味しているとか。
 ……だとすると、ラスボスはグスタフか。(笑)
 うお、これはこれでいくらでも書けそうだ。
 
 さて、ピコに関してはどこかで聞いたような設定ですね。(笑)
 とりあえず、今は語る状況にありません……いや、話が出来てないって意味ではないです。
 
 まあ、何というか……前回も書きましたが、書いてて楽しいです。
 ただ、それと同じように……読んでて楽しいなあ、と思ってくださる方がいればいいなあと思うし、またそうなるように力を尽くさないとなあと。
 ちなみに知人曰く、『間が開きすぎてるから、話の中身忘れて戸惑うんだよ、さっさと書きやがれ』とのこと。(笑)

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