「やれやれ…」
 傭兵が銀行を襲ったり、女学生に暴行したり。
 まあ、傭兵宿舎に投石がくわえられたりしたのは、つい先日のことだ。
「殺伐とした世の中になってきたよなあ…」
 首を振りながら俺はしみじみと呟いたのだが。
「……キミの周りの人間関係程じゃないと思うよ」
 などと、ピコがおかしな事を言う。
 よくわからないことは、わからないままにして置いた方がいいことも少なくない。
 だから俺は、気にせず他の記事に目を通した。
「ふむ、トルクの活動に……ほう、プリシラ姫の偽物疑惑…」
「なにそれ?」
「ん?いやなに、国王陛下とエリス王妃との間には、そもそも子供が産まれなかったらしくてな。まあ、エリス王妃はピクシス卿の娘だからして、どこからか得体の知れない赤ん坊を調達してきて、王女として育てられたのが、今のプリシラ王女だとか何とか」
「へえ」
 ピコは、無感動に相づちを打って。
「別に珍しい事じゃないよね」
「まあな」
 と、俺も同意。
「あ、でも……子供ができないのに、この国の王様は王妃一筋なんだね。うんうん、素晴らしいね、どこかの誰かにも是非見習って欲しいよ」
「はっはっはっ。俺は師匠から武術だけじゃなく房中術も学んだからな。生まれてくる子供の性別までコントロールできるんだぞ」
「……」
「いつまで経っても俺の子供ができないからって、他の男から種をもらって、俺に責任を求めるような怖い女性もいたりするからなあ…」
「……初めて聞いた話だけど、そこまで相手を追いつめた、キミに責任があると思うよ」
「認めたくはないモノだな。若さ故の過ちというモノは」
「あぁ、そう……キミ、ずっと昔からそうなんだ」
 ピコがため息混じりに呟いた。
 むう、せっかく対衝撃防御姿勢をとっていたというのに。
 なんだろう、こののれんに腕押しというか、そこはかとない寂しさは。
「そうだ、あの娘に会いに行こう」
 ぶち。
 
「傭兵宿舎に、爆弾が仕掛けられたらしい…」
「この前の投石といい、トルクの仕業だろう…」
 ひそひそ。
 トルク支持者が急激に増加したこの国では、もうこういった会話はおおっぴらに交わされることはない。
「俺はどうも、トルクを支持する連中が好きになれないなあ…」
 こんな風に、外国人傭兵だからという理由だけで、襲いかかってきたりする……そこに、納得でいる理由などあろうはずもない。
「いや、トルク関係ないから。この人達、トルクとか、外国人とか、傭兵とか全く関係無しに、キミに襲いかかってきたはずだから」
「……?」
「本気で心当たりがないって言うなら、キミはとことん大物だよね…」
 ぽい、ぽい、ぽい。
 俺は、襲いかかってきた連中をセリナ運河にたたき込み、顔を上げた。
「そうだ、あの娘に会いに…」
 
「はぁい、キャプテンさん」
「よう、今日の笑顔は素敵じゃないか、何かいいことでもあったのか?」
「あなたに、会えたわ」
「そりゃ光栄だ」
 
「死ねぇっ!」
「また、トルクの連中か…」
 
「ねえ、あの娘が寂しがってたわよ」
「おっと、それはいけないな…」
「ふふ、忙しいのは知ってるけど、時間を作ってあげてね」
「わかった。でもまずは、キミの寂しさを…」
「ぁん…」
 
「天誅っ!」
「意味わかって言ってるのか?」
 
「……」
「どうした、ピコ?」
「あ、いや……そろそろ、キミを刺そうとする女性が現れてもおかしくないよね、と」
「…?」
「不思議そうに首を傾げないっ!」
「いやいや」
 俺は手を振った。
「いいか、ピコ。街を歩けば俺の噂に突き当たる」
「わかってんなら…」
「いや、だからな……俺がこういう男だと承知の相手がほとんどなんだが?」
「……」
 そのあたり、まるで思慮の外にあったのか、ピコが黙り込んだ。
「……」
「……」
「……それは遊びって事で、キミが良く口にする『愛』じゃないよね?」
「いや、これも『愛』だぞ」
 俺がそういうと、ピコが俺をきっと睨み……ぽつりと呟いた。
「ごめん…キミの言うことが、よくわからないよ…」
 
 
            つ・づ・く
 
 
 さて、と。 

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