「夏は……終わらないっ!」
 それなりの気合いと共に、俺は相手を斬り倒す。
「あ、うん……一応戦いがあるから飛ばすわけにいかないかなって。もう、9月だけど」
「夏はまだまだ…終わらないっ!」
 また1人、斬り倒す。
「別にいいじゃん…どーせ、一年中ヤってるんだから」
 ……なんだろう、ピコの精神がすさみきっているような気がする。
「…っていうか、どこが陸の雄ドルファン軍なんだろうね?見た感じ、兵力3分の1以下の相手に、いいようにやられちゃってるみたいだし」
「良い兵士ってのは、この国にでもいるんだぞ」
「へえ…」
「まあ、要するに……だ」
 1人、2人、と斬り倒してから。
「良い指揮官ってのは、良い兵士に比べてほとんどいない」
「なるほど…」
 ピコは曖昧に頷いて……。
「ところで、いつになく熱心に戦ってるように見えるけど?」
 どういうこと?みたいな視線を俺に向けてきた。
「ピコ……状況わかってる?」
「うん」
 ピコは小さく頷いた。
「さっきからキミが『ドルファン騎士』を殺しまくってるぐらいは」
「うむ、乱戦になると、敵と味方の区別も付かなくなる輩が多くて困る」
「うおおおおおっ、死ねえっ!」
「それも困る」
 なにやら興奮して力みかえった攻撃をかわし、身体が泳いだ相手をさっくりと……ちょっと浅かったか。
「お、おれの…ジョディに…よくも手を出し…」
「女性を所有物扱いするのは良くない」
 生かしておくとやっかいだから……じゃなくて、苦しみを長引かせないのも優しさだからね。
 とす。
 とどめを刺してすぐ、横に飛ぶ……おい。
「4人がかりとは、それでも誇りあるドルファン騎士かっ!?」
「よくもシャラにっ!」「よくも娘をっ!」「よくも義姉にっ!」「よくも母をっ!」
「ちょっと待って!最後の1人どうみても30代後半なんだけど!?その母親って、いくつよ!?」
「女性を年齢で判断するのは良くないぞ、ピコ」
「まあ、下じゃなきゃいいけど」
 なんでまたそんなに荒んでるのやら……というか。
「少しは俺のことも心配してくれよ」
「だって……キミって強いじゃない」
 まあ、そうなんだけどね。
 いざとなれば逃げるし。
 
「ほう…たった1人でここまで…」
 初老の男は感心したように呟くと、デスサイス…大鎌を構えた。
「いや、真面目に戦うのに疲れたから、安全な場所を探してただけなんだけど…」
「……敵陣がもっとも安全ってのもどうなのさ?」
 ピコのツッコミはもちろん、相手には聞こえない。
「……なるほど」
 どこか嬉しそうに、初老の男は頷いた。
「なんか、納得してるよ!?」
「……戦況から、本陣が最も手薄と読んだか。戦のやり方も知らぬ馬鹿揃いと思ったが、どうしてどうして、ドルファン軍にも人はいるようだ…」
「いや、ただの偶然の上に傭兵だからこの……」
 ピコはちょっと首を傾げ。
「この人……目が」
「ん?」
 俺はあらためて、大鎌を構えた男を見つめた……なるほど。
「……失礼だが、もしや目が…」
「ぼんやり…とは」
 そう言って、男は笑った。
「何の問題もありはせぬよ」
 ピコはしばらく男を見つめ……すがるような目つきで俺を見た。
「……こういうの、面倒だから嫌なんだよね?」
「んー」
 俺はちょっと頭をかき……この戦いで殺した騎士の数を思い浮かべた。
「あー、んー、ちょっとばかし、手柄が必要かもな」
 言い訳くさく聞こえたのか、ピコがちょっと笑った。
 そして、俺は剣を構えた……。
 
「……つらい勝利だったな」
「……」
「この戦いに参加したドルファン騎士の3分の1が戦死って……本当ならちょっと歴史に類を見ない大敗戦だよなあ」
「……」
「……ピコ?」
「被害の2割ぐらいは、キミのせいだよね?」
「おいおい、精々100人ってとこだぞ?」
「……」
「200人は…いってないはずだが」
「……」
「俺が仕掛けた訳じゃないし、そもそも戦場を放棄して味方に剣を向けた連中に弁護の余地はないと思うんだが」
「……そのせいで、大混乱に」
 ……そうとも言う。
 
「……え?」
 俺は、思わず聞き返していた。
「ですから、私の伯父です」
「……あー、そうだったか…んー、それは申し訳ないことをした」
「……謝れるんだ、この人」
 俺の肩に腰掛けたまま、ピコが失礼なことを言う。
 そして、ゼールビスは少し笑った。
「これで私も、貴方と同じく、天涯孤独の身となりましたか…」
 ふむ、ここは人生の先輩として一言助言してやらねば。
「まあ、じきに慣れるさ」
「…かと思えば、いきなりひどいことを言う」
「ははは、貴方に気をつかわれるとは、珍しいこともあるものですね」
「……むぅ」
 ふっ、ピコよ。これが男の友情というモノだ。
 俺は、ピコにだけわかる程度にちょっと肩に力を入れ……腰を上げた。
「…すまんが、ちょっと約束があってな」
「女性ですか」
「この国で、俺が時間を割く男はお前だけだぞ、ゼールビス」
「ははは、『この国で』が、余計な一言のように思えますが、光栄だと言っておきましょう」
 ゼールビスと別れて、『風任せに歩き始めた』俺に向かって、ピコがため息をついた。
「友達甲斐がないよね、キミって」
「ん?」
「友情より、女ってさ」
「俺がピコと出会ってから、どのくらい経ったかな?」
「……なに、いきなり?」
「いや、ゼールビスとのつきあいの方が長いんだぞ、っと」
「いや、空白期間が長すぎでしょ」
「ふむ」
 俺は、あごにちょっと手をやって。
「某国の貴族の娘から聞いたありがたい言葉を教えてやろう」
「なによ?」
「『会えない間も恋心を育てる…それが、女という生き物です』と」
「はぁ……それに対して、男は友情を育てると」
「まあ、時として、殺意とか、そういうモノも育てがちだけどな」
 そう言って笑った俺に、ピコはまたまたため息をついた。
「……終わりが見えたね」
「え?」
「『男が昔話を始めたら、ラストが近い』って、誰かが言ってた」
「ほほう、それは興味深い…」
 まあ、それはそれとして。
 そろそろ、この国にはいられなさそうなのは確かだった…。
 
 
つづく。
 
 
 さあ、テーマだ。テーマを探せ。(笑)
 まあ、テーマそのものは、最初から決まってますけどね。
 ……いや、マジで。

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