ざしゃあっ!
「くっ…」
 傷つき、膝をつく……だが、傷は浅い。
「ここは、ひとまず逃げようよ。キミ1人頑張ったって、どうにもならないってば」
 ピコが、耳元で声を張り上げる。
 俺は顔を向けて笑みを見せてやった。
「大丈夫だ…」
 そして、俺は剣を握りなおして立ち上がる。
「どこが大丈夫なのさっ!もう、キミの身体はぼろぼろじゃないっ!」
 ぎゃりぃっ。
「そうかもしれん…」
 相手の力を受け流して体勢を崩し、おれはまた1人を斬り倒した。
「ピコ、俺は決めたんだ……この国の…この国に住むみんなの笑顔を守るために戦うことを…」
「そ、それは立派だけど…キミが死んだら…死んじゃったら…」
 また新たな敵が…今度は2人。
「俺は、死にはしない…」
 1人、そしてまた1人斬り倒し……俺はピコに向かって笑った。
「ピコが…お前がそばにいてくれるなら、俺は無敵のヒーローだからな」
 
「……いける…シリアスだよ…これなら…ハリウッドも…」
 俺は、なにやら幸せな夢を見ているらしいピコを起こすのはやめにした。
 今日はクリスマスイブ。
 別にピコをないがしろにするつもりはないが、ピコがいない方が色々と行動の制限を受けずにやりやすいのは事実だから。
「……さて」
 俺は着替えながら、今日の予定を再確認した。
 午前中はハンナと、午後からテディ……後はジーンと、そうだ、約束を交わしたわけじゃないがあの娘やあの女性のことも忘れちゃいけないよな……ふむ、忙しい一日になりそうだ。
 
「……」
 右、そして左に視線を投げ……目が覚めた。
 幸せな夢を見た後は、少し悲しい。
「わかってたよ…わかってたもんね…夢だって」
 ぶつぶつ。
「…ん?なんだろ、これ?」
 小さくカットされた…カード?
 
 『良い夢は見られたかい?』
 
 ピコはちょっと笑って……わざわざ小さなカードに小さくメッセージを書いた誰かさんの姿を想像して、もう一度笑った。
 そして、ピコは何気なく窓に視線を向けた。
「あれ…もう夜?」
 と、いうか……深夜?
 暖炉……ベッド……椅子……衣装棚。
「……へえ、せっかくのクリスマスイブに、私はほったらかしって事?」
 ピコはぐっと両拳を握りしめ、胸の前で交差させた。
 
『見敵、ピコサーチ』
 
「さて……今夜はこれで最後か」
 俺は、酒場に預けていた荷物を受け取って、シーエアー地区へと急いだ。
 ドルファン城では、クリスマスパーティが行われている。
 一応、パーティの招待状を受け取ってはいたが、俺は出席しなかった。
「色々と忙しかったから?」
「そう、色々と忙しかったから」
 たったったったっ……。
 ピコを左肩の上にのせ、俺は荷物を抱えたまま走っていく。
「いや、もうちょっとアクティブなリアクションはないの?」
「俺の心が読めるのか、ピコは?」
「や、そっちじゃなくてね…」
「ピコが俺のそばにいるのは普通じゃないか。何か特別なリアクションが必要なのかそれって?」
 ピコは何故か顔を真っ赤にして、自分の目の前のあたりを両手でめちゃくちゃに攻撃している。
「…どうかしたのか、ピコ?」
「な、なんでもっ…ないっ」
「……?」
「夢、あれは全部夢…夢なんだってば……」
 ぶつぶつと何かを呟いては、ぶんぶんと首を振るピコ。
 やがて、ピコは思い出したように口を開いた。
「……一応聞くけど、どこに向かってるの?」
「ああ、それは…」
 俺が答える前に、ピコがぷいっとそっぽを向いた。
「どーせ、どこかの女の人のとこでしょ」
「まあ、男の子もいるがな」
「ちょ、ちょっと……それって、ダメだよ。健全化推進協議委員として、不倫は……あ、でも未亡人なら……」
 俺は、ピコの勘違いに気がついて笑った。
「ピコ、俺の行き先は、教会近くの孤児院だ」
「え?」
 ぽんぽん、と抱えている荷物を叩き。
「これは、子供達へのクリスマスプレゼント」
「……」
 ピコが、頬をぐいーっと引っ張った。
「あ、全然痛くないや……そっか、私、また夢を見てるんだね」
 ……俺の頬を引っ張って、痛いも痛くないもないだろう。
 さっきまで引っ張っていた俺の頬を優しく撫でながら、ピコが囁く。
「……ホント、キミは夢の中でなら、格好いいのに」
 むう、俺は現実においても十分に格好いいつもりなのだが……まあ、見解の相違というやつだな。
 孤児院が見えてきた。
 俺は、少し速度を上げ……勢いを利用して塀に手をかけて飛び越えた。
「……入り口から入ればいいじゃん」
「不法侵入してこそサンタだ……っ?」
「ど、どうしたの?特に、誰かの気配も感じないけど…」
 重心を落として、油断無く左右に視線を配り始めた俺を心配したのだろう。
「いや……誰かに見られた気がしたんだが…ピコもそういうなら、気のせいだったんだろう…」
 俺はちょっと笑って……荷物を抱えなおした。
「喜んでくれるといいね、子供達」
「ああ、そうだな…」
 死んだ人間が生き返ることはない。
 だが、子供にそれをわからせるのは、ほんの少しばかり早すぎる。
「メリー・クリスマス」
 俺の呟きは、子供達には届かない…。
 
 
かーぎやー
 
 
 締め切り…休みが…腰痛…足の小指の爪がもげた。
 悪い夢を見ているようだ、起こさないでください。(笑)

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