「あ、…んむ…」
女は、声を出すのが恥ずかしいのか、襟をきゅっと噛みしめる。
俺は優しく微笑みながら手を伸ばし、その襟元をはだけ…。
(以下約42行、『俺の名は…健全化推進協議会により、検閲削除)。
「い、いきなり冒頭からなにやってんのさっ!」
「いや、何を持って健全と呼ぶかはさておき、ピコや、その管理人?なんかが、何とかしてくれるって事だろ」
「したよ、いきなりさせられたよっ!」
「それはつまり、俺は何をしてもいいって事に…」
どかぁぁぁーん。
どこぉぉぉーん。
どばぁぁぁーん。
「……さすがの俺も、3連発はちょっときついな…」
「意味深な台詞も禁止だからっ!」
「ふむ、モラルハザードと、拡大解釈の恐怖は、いつの世もついて回ると言うことか」
俺はため息をついて、東の空を眺めた。
「理念や思想は、この世に生まれた瞬間からその純度が失われていく運命にある…」
「そういう発言も禁止の方向でお願いしたい」
俺はピコを見た。
「……今のはピコか?」
「もう1人のメンバー」
「なるほど」
「娘さん、山男にゃ惚れるなよ〜♪」
「……海の男じゃなかったの?」
「俺という存在は、8割が海、2割が山で構成されている」
「9割9分9厘9毛が煩悩、の間違いじゃなく?」
「煩悩を、愛という言葉に入れ替えてくれればそれでも構わない」
「……というわけで、私たちは今カミツレ地区の山を登ってるよ」
呆れたのか、諦めたのか、ピコは俺の言葉をスルーして、状況説明を始めた。
「9月に入ってから、何度も人がクマに襲われるという事件があったんだよね……そこでキミは、正義感に駆られて…」
「まあ、元々クマが住んでいた場所に、人が入り込んだのが原因なんだがな……人は『クマが出た』というが、クマからすれば『人が出た』と言いたいんじゃないか」
ピコはちょっとうつむいて。
「それは…そう…だけど」
「……かわいそうだが、好んで人を襲うクマとなると放ってもおけないだろう」
「うん…」
ざざっ。
「ごあああぁぁーっ!」
「おお、展開が早い…」
「とぼけたこと言ってないで、油断しちゃダメだよっ!」
確かにクマは強い。
生半可な攻撃はすべてはじき返す分厚い皮膚と皮下脂肪、そして人間をはるかに凌駕するパワー。
「とはいえ…」
四つ足から立ち上がり、大きく振りかぶった手を振り下ろす……最初の攻撃パターンは、ほぼ決まっている。
後は、剣の通り道さえ見えてしまえばそれで終わりだった…。
「ごぉああぁぁぁーっ!」
クマの断末魔……それは、怒りよりもどこか悲しくひびいた。
「……ごめんね」
倒れたクマに向かって、ピコが頭を下げる。
俺も、右手に剣を下げたままで、片手で拝み……。
「さて、今夜はクマ鍋だ」
「デリカシー無いよね、キミはっ!」
「美味しくいただく、それもまた愛だぞ」
そう言って、俺は用意していた鉈を使って熊の腹を割き…。
「うぷ…」
「ああ、雑食だからな…ひどいにおいだろ」
「ご、ごめん…私はちょっと…」
ピコがふらふらっと、どこかへ飛んでいく。
俺はなれた手つきで内蔵を出し、まあ、人の通らない山奥だから問題ないだろうと判断して、近くに穴を掘ってそれを埋めた。
てきぱきてきぱき。
「んー、皮はどうするか……」
ナイフで、脂肪層から切り離しながら、俺はちょっと考え……まあ、自分で街の皮革店に持ち込むのではなく、猟師に引き渡すのが筋だろう。
それはさておき、クマの可食部分は結構多い。
「……大丈夫か、ピコ?」
「なんとか…」
「このあたりに…猟師の家というか、拠点みたいな小屋があると思うんだがわかるか?」
「あ、うん…探してみる…ちょっと待ってて」
居合わせた猟師と、連絡のとれたその仲間達と美味しくいただきました。(一部)
「ふむ…」
「ねえ、何で無意味に高いところにあがって遠くを見つめてるの?」
「いや、足りないんだ」
「足りないって…何が?」
ピコが首をひねる。
「いや、健全とか何とか…約40行ほど削除されたから」
俺の肩から、これまた見事にピコがずり落ちた。
「そんなネタ、引っ張らないでっ!」
それならと、俺は、きりっと表情を引き締めて呟いた。
「……これから荒れるな、この国は」
「…真面目ぶっても、手遅れだよ」
「この国の女性のために、一体俺は何をしてやれるだろう…」
「……私にできることは、キミをここから突き落とすことだけなのかも…」
一瞬、『お前にできるのか?』などという台詞が喉のところまでこみ上げたのだが、俺は危ういところで飲み下すことに成功した。
いうまでもなく、ピコはそれができるからだ。
窮鼠猫を噛むという東洋のことわざが示すとおり、あまりピコを追いつめるのは良くない。
……いや、長年連れ添ったパートナーだからな。
こんな時代、ツッコミ役は貴重だ。
「……なんか言った?」
「……」
俺は何も答えず、視線を北へ、そして南へ。
風は、どちらから吹く……か。
続く
楽屋ネタ、良くない。(笑)
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